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第六章 剣仙の皇子と窮奇の行方

六の肆.

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「これは……この辺の地図でございますか?」

 それは月門の邑周辺の絹に記した地図――帛地図はくちずだった。

「この印はいったい?」

 だが、その地図には奇妙な事に幾つも『×』印が記されており、夏琴は意味が分からず刀夜に疑問の目を向けた。

「妖虎が出現した場所だ」
「あちらこちらバラバラですね」

 これが何の証明になるのか?――夏琴は刀夜の意図を掴みかねた。

「分からないか?」
「申し訳ございません」

 襲撃現場が一箇所であれば下手人の居場所を特定できるだろうが、これでは何も分からない。やはりどう考えても夏琴には主人の思惑に及ばない。

「人は基本的に居を構えるものだ」

 例外はあるが一般的に人間は生活基盤となる拠点を求める傾向がある。

「凶賊が寝床を移さない限り、そこから移動できる距離は限定される」
「なるほど?」

 それはなんとなく夏琴にも分かる。例外はあるものの、人は安心して寝起き出来る場所を求めるものだ。

 だが、その事が妖虎の犯人と蘭華の潔白とどう関係するのかいまいち測りかね、夏琴は頷きながらも首を捻る。

「つまり、犯行は必ずその拠点を中心とした同心円上に集まる筈だ」
「あっ!?」

 そこまで説明を受けた夏琴は改めて帛地図に目を落とした。言われてみればバツ印は同一円内に集約している。

「確かに印は円内に集まっているように見えますな!」
「だろ?」

 感嘆する夏琴ににやっと刀夜が不敵に笑う。

「そして、その中心はまちを挟んで常夜の森の反対側にある」
しかり然り」
「犯人の拠点もその辺りだろう」

 刀夜が同心円の中心を指差し、夏琴はこくこくと頷いた。

「これが常夜の森に住む蘭華の犯行ではないとの証明だ」
「お見事です!」

 夏琴は刀夜の見事な推理に手を打った。

「もともと蘭華を疑ってはいなかったがこれで確証は取れた……が」

 腕を組んだ刀夜の顔が曇る。

「それでも蘭華についてはまだ疑念が残る」
「疑念ですか?」
「彼女をどう見る?」

 その問いに夏琴は首を捻った。いったん刀夜は何を聞きたいのか、と。

「瞳の事だ」
「瞳……ですか?」

 刀夜も他人の事は言えないが、夏琴は女性の容姿に頓着しない。恐らく蘭華の瞳の色を気にも止めていなかったのだろう。

「紅だった」
「紅い瞳?……」

 一瞬、夏琴はその言葉の意味を理解できず考え込んだが、直ぐに顔を強張こわばらせた。

「まさか紅三家の姫君ですか!?」
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