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第一章 常夜の魔女と森の家

一の弐.

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「僕、邑の奴らキライ。いっつも蘭華をイジメるんだもん」

 百合がプンスカ怒る。

「仕方がないわ。この国は爵位と神賜術かみのたまものが重視されているのだから」

 それを蘭華は撫でながらなだめた。

 この国――日輪の国には二十等爵の身分制度がある。

 庶民は生まれると一位の公士こうしと呼ばれる最底辺の爵位を与えられるのが慣例だ。ただ、例外はあって、生来授かる神賜術が有益だと認められるとより高い爵位を授かる。

 神賜術とは生まれた時に身につけている個々が一つだけ所有する固有の超能力だ。神よりの恩寵と考えられており、日輪の国では特殊能力を神聖視するおもむきがある。

「私は神賜術を授からなかったから……無爵位者への当たりが強くなるのも無理はないの」

 ところが、神賜術を蘭華は生まれた時に授からなかった。その為、爵位授与も行われず、彼女は無爵位者――賎民(商人、罪人、浮民など)扱いされていた。

「蘭華は強力な方術が使えるのに~」

 蘭華は生まれつき強大な魔力を秘めており、修行して導士として大成したした。そうでなければ妖魔あやかしが跋扈する常夜の森で暮らせる筈もない。

「まあ、理由は何にせよ森に入って来た方々には早々にお帰りいただきましょう」

 常夜の森へ足を踏み入れれば数刻と待たずに妖魔あやかしの餌食となるだろう。今は救助を優先しなければならない。

 蘭華はがらりと開けた戸を潜り外へと踏み出した。外は天を覆い尽くす木々に太陽は遮られ昼間の筈なのに昏い。

 周囲の草叢が風もないのに時折ガサガサと騒めく。あちらこちらに妖魔あやかしどもが潜んでいるのだろう。


 (夭い姑娘が平気でこんな場所に住めば、不気味がるのも無理ないわね)


 陽光の届かぬ妖魔が息づく闇の世界――まさに常夜の森と呼ぶに相応しい。


 ふいに何処からともなく白い猫が現れ、蘭華の足元にトコトコと歩み寄って来た。

「蘭華、気を付けろ」
芍薬しゃくやく

 蘭華の下裳スカートを前脚でよじ登るように掴む姿は完全に猫にしか見えない。だが、人語を操るこの白猫も羽兎の百合と同じく蘭華の使い魔である。

「強い気配が近づいている」
「しかも二人も~」

 怪しげな者達が近づいてくる緊迫する場面――なのだろうが、可愛い白猫にと白い兎にじゃれつかれ蘭華は思わず笑みが溢れる。

 笑われた芍薬はむっとした。

「おい蘭華、笑い事ではないぞ!」
「ふふっ、ごめんなさい芍薬」

 芍薬にたしなめられても蘭華の相好は崩れっぱなしだ。彼女にそれほど緊張感はない。 

「でも、あなたがいれば安心でしょう?」
「当然だ。我が人間如きに遅れを取るものか」

 後ろ足で立ちあがった芍薬は胸を張ってふんぞり返る。

「任せよ。どんな奴も我が一捻りにしてやる」
「ふふふ、頼もしいわ」
「僕も僕も~絶対蘭華を守るよ~」
「ええ、百合も頼りにしてるわ」

 小さく可愛い使い魔達に蘭華の心はほんわり和んだ。
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