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第四章 常夜の魔女と新緑の少女

四の伍.

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 ――ガララ!

 その時、施療院の扉が乱暴に開けられ大きな悲鳴をあげ、三人の会話が妨げられた。

「診療中だぞ、表で何を騒いでやがる!」

 そして、じゅうぶん大人の男性が通れる扉を潜るようにして、熊のように大きな影がぬっと出てきたのだ。

「きゃっ、斉周先生くま!?」
「「ぷっ!」」

 思わず翠蓮が本音を漏らしたが、出てきた男が本物の熊のような大男で蘭華と刀夜が釣られて吹き出してしまった。

 本当に斉周は熊のような外見なのだ。医者と言うより動物の毛皮を被った山賊と言われた方が納得しそうなのである。

「誰が熊だ、この軽浮姑娘おてんばむすめめ!」
「きゃあ!」

 斉周は拳を振り上げ怒り、翠蓮が頭を抱えてきゃあきゃあと逃げる。が、翠蓮はどこか楽しげに笑っている。翠蓮は斉周が見掛けによらず優しい男だと知っており、本当に殴らるつもりはないと分かっているのだ。

「やーん、蘭華さん助けてぇ」

 翠蓮が蘭華の背に隠れると、代わりに蘭華が頭を下げた。

「ごめんなさい斉周先生」
「おう、なんだ蘭華の嬢ちゃんじゃねぇか」

 しかし、斉周は翠蓮の事などもう忘れて、むんずと蘭華の腕を掴んだ。

「ちょうど良いとこに来たぜ」
「えっ、斉周先生!?」
「患者がいっぱいなんだ手伝ってくれ」
「ちょっ、引っ張らなくても最初からそのつもりですから!」

 あっと言う間に蘭華は施療院の中へと引きずり込まれてしまった。

「あの医者、相変わらずだねぇ」
「本当に患者の事しか頭に無い奴だ」

 やれやれと百合と芍薬が呆れながら後に続いて入って行く。

「ああ、俺も此処ここに用があったんだったな」

 被害者の聞き取り調査に来訪した刀夜も続いて施療院の中へと消えた。

 翠蓮だけが一人ぽつんと残された。

「あっ、それじゃ私も……」
「お主は施療院に用事はなかろう?」

 翠蓮はそそくさと蘭華の後を追おうとしたが、その行手にぬっと赤い竜馬が立ち塞がる。

「翠蓮はわらわと買い物へ行くのじゃ」
「ぼ、牡丹!?」

 そして、襟首を咥え持ち上げられ、翠蓮が短い悲鳴を上げた。

「私だけ除け者ぉ~~~~~」

 ぶらんぶらんと揺られながら翠蓮は連行されてしまったのだった。
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