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第三章 常夜の魔女と月門の邑
三の壱.
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日輪の国は『常夜の森』と呼ばれる大森林に囲まれている。森の中央部を大きく繰り抜いた輪っかの中に国があると連想するのが近い。
その日輪の国を中心に森が切り拓かれ四方へ大道が真っ直ぐと伸び、東は大海、西は陽の国、北は月の国、南は星の国へと続いている。
これら拓かれた地は常夜の森から妖魔が出て来ぬよう、導士達が境界に結界を張っていた。
ちょうど月の国方面の森から結界を渡って美しい姑娘と三体の獣が連れ立って出てきた。
闇夜から陽の世界に出ると、湿りを帯びた森の青い匂いから少し埃っぽい砂と土の白茶色の匂いへ変化して蘭華は僅かに眉を顰めた。
「森から出るのも久しぶりね」
蘭華は手庇して、久しぶりに浴びる強い陽光から紅い瞳を守った。
鬱蒼と茂る森は陽の光が届き難い。ましてや、蘭華が住んでいるのは常夜の森。その名の通り普通の森に比べて闇が深い。だから、森から出れば目が眩むのも致し方がないだろう。
「本当に月門へ行くのかえ?」
蘭華に心配そうに声を掛けたのは横を歩く炎の如く鮮やかな赤い馬。いや、馬と同じ四足歩行ではあるが、顔は竜のようで別の生き物であるのは明白だ。
竜馬と思しき彼女も蘭華の使い魔の霊獣である。
「ええ、患者がいると聞いた以上は治療に行かないと」
刀夜の話では妖虎に襲われ怪我人が出たらしい。だから、蘭華は居ても立っても居られず邑へと赴くことを決めた。
牡丹と呼ばれた赤き竜馬はふぅっと呆れたように息を吐く。
「相手は蘭華に濡れ衣を着せるような輩であるに真面目と言うかお人好しと言うか」
「ごめんね牡丹、これも性分だから」
蘭華は牡丹の背に担いだ薬箱をちらりと見て彼女の首筋を撫でた。
「今回は治療へ行くだけで荷物も少ないし、牡丹は残っていても良かったのよ?」
「軽く見えても蘭華には大荷物じゃ」
それにと牡丹は蘭華にじゃれる百合と芍薬をちらりと見て溜め息を漏らした。
「この粗忽者のこ奴らだけでは心配じゃ。妾が付いていかねば蘭華が難儀しよう?」
「ありがとう牡丹」
「それにせっかくじゃ、邑で色々と買い付けもしておくが良かろう」
基本的に蘭華はは森の恵みで生活をしているが、米や塩などどうしても人里でしか手に入らない物も多い。
「頼りにしてるわ」
「妾は有能であろう?」
「本当に」
冗談めかす牡丹に蘭華も釣られて笑う。
「僕だって頑張るよ」
「百合では大して役に立つまい」
蘭華の頭の上で胸を張って主張する羽兎の百合に、無理無理と白猫の芍薬が揶揄うように笑った。
「我が封印を解けば今までの倍は運べるぞ」
「芍薬が本性を晒したら邑は大騒ぎよ」
「お主らが張り切ると碌な事にならんから大人しくしおくのじゃ」
芍薬は自信満々であったが蘭華は苦笑いし、牡丹も呆れ声で応じた。
「むー、芍薬のせいでバカにされたじゃないかぁ」
「なにぃ、百合の癖に生意気な」
「これ、蘭華を挟んで暴れるでない」
「ふふふ、本当に仲良しね」
蘭華の周囲で戯れるように喧嘩する百合と芍薬、それを諌めるお姉さん格の牡丹の関係に蘭華は和む。
本性を隠しているが芍薬は力ある霊獣だ。本気になれば羽兎の百合などひとたまりも無い。それでも三人が対等の関係で接している事が蘭華は嬉しかった。
その日輪の国を中心に森が切り拓かれ四方へ大道が真っ直ぐと伸び、東は大海、西は陽の国、北は月の国、南は星の国へと続いている。
これら拓かれた地は常夜の森から妖魔が出て来ぬよう、導士達が境界に結界を張っていた。
ちょうど月の国方面の森から結界を渡って美しい姑娘と三体の獣が連れ立って出てきた。
闇夜から陽の世界に出ると、湿りを帯びた森の青い匂いから少し埃っぽい砂と土の白茶色の匂いへ変化して蘭華は僅かに眉を顰めた。
「森から出るのも久しぶりね」
蘭華は手庇して、久しぶりに浴びる強い陽光から紅い瞳を守った。
鬱蒼と茂る森は陽の光が届き難い。ましてや、蘭華が住んでいるのは常夜の森。その名の通り普通の森に比べて闇が深い。だから、森から出れば目が眩むのも致し方がないだろう。
「本当に月門へ行くのかえ?」
蘭華に心配そうに声を掛けたのは横を歩く炎の如く鮮やかな赤い馬。いや、馬と同じ四足歩行ではあるが、顔は竜のようで別の生き物であるのは明白だ。
竜馬と思しき彼女も蘭華の使い魔の霊獣である。
「ええ、患者がいると聞いた以上は治療に行かないと」
刀夜の話では妖虎に襲われ怪我人が出たらしい。だから、蘭華は居ても立っても居られず邑へと赴くことを決めた。
牡丹と呼ばれた赤き竜馬はふぅっと呆れたように息を吐く。
「相手は蘭華に濡れ衣を着せるような輩であるに真面目と言うかお人好しと言うか」
「ごめんね牡丹、これも性分だから」
蘭華は牡丹の背に担いだ薬箱をちらりと見て彼女の首筋を撫でた。
「今回は治療へ行くだけで荷物も少ないし、牡丹は残っていても良かったのよ?」
「軽く見えても蘭華には大荷物じゃ」
それにと牡丹は蘭華にじゃれる百合と芍薬をちらりと見て溜め息を漏らした。
「この粗忽者のこ奴らだけでは心配じゃ。妾が付いていかねば蘭華が難儀しよう?」
「ありがとう牡丹」
「それにせっかくじゃ、邑で色々と買い付けもしておくが良かろう」
基本的に蘭華はは森の恵みで生活をしているが、米や塩などどうしても人里でしか手に入らない物も多い。
「頼りにしてるわ」
「妾は有能であろう?」
「本当に」
冗談めかす牡丹に蘭華も釣られて笑う。
「僕だって頑張るよ」
「百合では大して役に立つまい」
蘭華の頭の上で胸を張って主張する羽兎の百合に、無理無理と白猫の芍薬が揶揄うように笑った。
「我が封印を解けば今までの倍は運べるぞ」
「芍薬が本性を晒したら邑は大騒ぎよ」
「お主らが張り切ると碌な事にならんから大人しくしおくのじゃ」
芍薬は自信満々であったが蘭華は苦笑いし、牡丹も呆れ声で応じた。
「むー、芍薬のせいでバカにされたじゃないかぁ」
「なにぃ、百合の癖に生意気な」
「これ、蘭華を挟んで暴れるでない」
「ふふふ、本当に仲良しね」
蘭華の周囲で戯れるように喧嘩する百合と芍薬、それを諌めるお姉さん格の牡丹の関係に蘭華は和む。
本性を隠しているが芍薬は力ある霊獣だ。本気になれば羽兎の百合などひとたまりも無い。それでも三人が対等の関係で接している事が蘭華は嬉しかった。
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