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最終章 あなたのお嫁さんになりたいです!

第170話 腹黒令嬢、キレる

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「ふざけんな……」

 地の底から呻くような声を発しウェルシェはキッとケヴィンを睨みつけるように見上げた。

「な、何を言って……」

 予想外の反応にケヴィンは戸惑う。

「ふざけんな、ふざけんな、ふざけんなぁ!」

 涙で濡れた翠緑すいりょくの瞳に強い怒りと憎悪の光が宿り、ウェルシェの激しい負の感情に当てられケヴィンはたじろいだ。

「だって、これで永遠に私達は一緒に……」
「誰がお前なんかとッ!」

 ふらりと立ち上がったウェルシェから膨大な魔力が溢れ出す。

「ウェルシェ嬢!」
「ウェルシェ様!」
「姫さん!」

 やっと我に返ったレーキ、スレイン、セルランが駆け寄ろうとした。しかし、ウェルシェとエーリックを中心に激しい魔力が激流となっていて近づくことができない。

 それは間近で魔力をぶつけられているケヴィンも同じ。両腕を前に掲げて魔力の奔流ほんりゅうから身を守っているが、強風に煽られて前に進めない。

「わ、私はただウェルシェ、君と添え遂げたくて……」
「私が添い遂げるのはあんたじゃないッ!」

 猫かぶりも淑女の仮面もウェルシェの本心を覆い隠す全ての擬態が吹き飛んでいた。これほど感情を露わにするウェルシェは珍しい。

「私が添い遂げるのはエーリック様よ!」

 ウェルシェはキレたのだ。

エーリック様ただ一人!」

 それは、ウェルシェ本人さえ気づいていない心の奥底に眠っていた感情の発露。

 愛する者を傷つけられたウェルシェの激情が可視化するはずのない魔力を赤く染めた。

 その赤い魔力は穢れなき白銀の髪や穏やかな翠緑の瞳まで赤く染め上げ、まるでウェルシェが身体全体で己の怒りを体現しているかのよう……

「ヒィッ!!」

 思わずケヴィンは情け無い悲鳴を上げた。
 それほど今のウェルシェは恐ろしかった。

「よくもエーリック様にッ!!」

 ケヴィンへ向けて突き出したウェルシェの手から赤い魔力の塊が迸る。

 もはや、それは魔術ではない。
 純粋な魔力による暴力だった。

 そして、それはウェルシェの想いそのもの……

 禍々しい赤で染め上がった巨大な魔力に襲われ、ケヴィンは咄嗟とっさに両腕で身を庇った。

「ぐわァァァッ!!」

 しかし、その両腕は圧倒的な力の前にあらぬ方向へひしゃげ、ケヴィンは後方の教室内へと盛大に吹っ飛んだ。

――ダンッ!!!
「ぐべしッ!」

 壁に激突する大きな音とケヴィンの情けない断末魔が教室に響く。

 そして、そのままケヴィンは床へずるずると落ちて――起き上がってくる事はなかった……
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