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第12章 その本戦、本当に必要ですか?

第130話 剣武祭本戦スタート!

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 ――剣武魔闘祭の二日目。

 草むら、瓦礫、柵、塀などの遮蔽物で囲まれた広場の中央にウェルシェは一人ポツンとたたずんでいた。

 白いシャツの上には赤いジャケットを羽織っている。下はウェルシェには珍しいタイトな黒いズボンを履いていた。

 その広場を囲む観客席には人が埋め尽くされていたが、みな固唾を飲んでウェルシェを見守っている。

 ここは射撃用特設会場。

 今から魔弾の射手クイックショット本戦の第一試合が始まるのだ。

「スーーーッ、ハァーーー……」

 ウェルシェにしては珍しく緊張しているのか、息を深く吸い込んでゆっくり吐き出して全身の力を抜いている。これだけ人がいながらウェルシェの耳には自分の呼吸音だけしか入ってこない。

 まるでウェルシェ一人だけの世界のよう――

開始10秒前オンユアマーク、9……8……7……』

 突如、会場にカウントダウンのアナウンスが響く。

『……4……3……』

 カウントが進む中、ウェルシェは両手に持つ指揮棒タクトの形状をした魔杖を僅かに握り直す。

『……1……ピーッ!』
 ガコンッ!

 開始の合図と同時に『敵』エネミーと記された人型の標的がウェルシェの右前方にある草むらから迫り出した――瞬間、右の魔杖タクトを素早く振った。

 ヒュンッ!
 バシッ!

 風を切る音と共に銀色の魔弾バレットが撃ち出され、敵標的を見事に捉えた。

 ガコンッ!
  ガコンッ!

 だが、すぐに中心のウェルシェを囲むように次々と敵の人型標的エネミーターゲットが影から飛び出す。

 人型標的が出てから引っ込むまでの時間は五秒。

 標的を認識し、『敵』か『味方』か判別して、素早く正確に魔弾を射出するには魔術構築の速さが求められる。

 だが、ウェルシェは両手の魔杖を駆使して出現した敵標的を難なくクリアしていく。

 ガコンッ!
  ガコンッ!

 前に後ろに左に右に……突然その姿を現す標的に向けてウェルシェは両手の魔杖を振るう。

 なびく銀色の髪は太陽の光を浴びて輝き、足取りは軽やかで、細く長い腕が宙を泳ぐ。まるで舞い踊っているかのようで……

 その姿はまさに『妖精姫』だった。

 観客はみな息をするのも忘れて魅入ってしまっている。

 ガコンッ!
  ガコンッ!
   ガコンッ!

 ウェルシェの右側に二つ、左手側に一つ計三つの標的が出現した。が、右側の一つは標識に『味方アレイ』と記されている――魔弾を当ててはいけないフェイクだ。

 ここまでリズミカルに標的を出した中で味方標的アレイターゲットを敵標的に混ぜてくるとは意地が悪い。

 誰もがウェルシェのミスを予想した。

 ところが――

 バシッ!
  バシッ!
「次!」

 回転しながら左右の魔杖から魔弾バレットを射出して敵標的のみを撃ち抜くと、ウェルシェは迷わず次の標的を要求した。

 それからもウェルシェは舞うように魔弾を撃ち続け――

最後の敵標的ラストエネミー!」
『オ、オールクリア! ウェルシェ・グロラッハ、パーフェクト!』

 ――ついにノーミスで競技を終えた。

 競技の音も止み、会場がシーンと静まり返る。

「ふぅー」

 皆が固唾かたずを飲んで見守る中、ウェルシェは緊張で張り詰めていた息を吐き出して身体をから力を抜いた。
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