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第10章 その陰謀、本当に必要ですか?

第117話 困惑する側近(スパイ)

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「殿下はいったいどうしちまったんだ?」

 エーリックの私室を後にしたセルランは唖然として呟いた。

「いつもと違って堂々しすぎだし、何よりちょっと冴えすぎじゃねぇか!?」

 いつもぽやっとしてた我が主はどこへ行った?

 セルランはキツネにつままれた気分だ。

「言葉を慎めセルラン」

 敬愛する主に対する同僚の失言に、ムッとしてスレインがとがめた。

「エル様はもとより優秀なお方だ」
「いや、殿下がそれなりにデキるのは俺も知ってるが……」
「それに寛大で篤実も付け加えろ」

 この夢見がちロマンチスト主従が、とセルランは内心で毒づく。

 どうにもエーリックとスレインはぽやぽやしているとセルランは気が気じゃない。普通なら王位継承権第二位の座にいるエーリックはいつ謀略で潰されてもおかしくないのだ。

(この国の王家の内情はあり得ないくらい清廉なんだよなぁ)

 エーリックもエレオノーラも王位に興味がなく、それを知っているオルメリアは彼らを擁護している。オーウェンにしても正義感が強く謀略など好まない。

 そんな王家の絶妙なパワーバランスがエーリックを生かしているとセルランは理解していた。

(だっけど、富と権力を欲する貴族どもがどう動くか分かんねぇ)

 だが、セギュル夫人の例があるように、貴族達の思惑はそれぞれだ。シキン伯爵家が例外で、王家への忠誠より自分達の利権や保身を優先する者の方が多い。

(だから、王妃殿下は俺をエーリック殿下につけたわけだけど)

 実は、セルランはオルメリアによって派遣されたエーリックの腹心兼護衛であった。

 もっとも、エーリック本人のみならずエレオノーラにもスレインにも知らされていない事実であるのだが。

「殿下が情に厚い方なのは俺も知ってるさ」
「うむ、エル様は得難い主人だ」

 スレインの相槌にセルランの気持ちは複雑だ。

(この男も有能ではあるんだが……)

 セルランは苦笑いが漏れ出た。

(殿下絡みだと途端にポンコツになるからなぁ)

 主人の事となると周りが見えなくなるスレインには、もう少し現実を直視して欲しいとセルランは切に願う。

 そんなセルランであったが、今日のエーリックはいつになく頼もしかったと不思議に感じた。

「スレインの言う事はもっともだが、それだけに殿下は智をひけらかす御仁ではないだろう?」
「なんだセルランの疑問はそんな事か」

 だが、忠臣の同僚は軽く返した。

「なんだよ、スレインには分かるっていうのか?」

 むすっと聞き返したセルランに、スレインは無論だと自信満々に頷いた。
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