上 下
114 / 171
第10章 その陰謀、本当に必要ですか?

第114話 専属侍女の杞憂

しおりを挟む
 ぶっ殺す!と物騒に息巻くカミラは冗談抜きで愛する主人ウェルシェの為なら処刑されると分かっていても本気で貴族殺しをやるだろう。

「落ち着いて。私はカミラにそんな真似をさせたりしないから」

 激昂するカミラをドウドウとウェルシェはなだめた。

「だからケヴィン様を罠にハメるんでしょ」

 ケヴィンはもはや存在するだけで害なのだ。ウェルシェとしてはもう後腐れがないようケヴィンを完全に貴族社会から抹殺したい。

「それは理解できるのですが……」

 カミラの顔が曇る。

「私はお嬢様に危ないマネはして欲しくありません」
「だけど既にセギュル夫人は私の撒いた餌に食いついたんでしょ?」
「はい、お嬢様の目論見通り剣武魔闘祭で仕掛けるつもりのようです」
「なら、もう手遅れよ」

 もはや賽は投げられた。
 今さら後には退けない。

「それに、エーリック様まで巻き込んじゃったし」

 隠れて護衛を付けていても不自然でないよう、正体不明の何者かに狙われている事実が必要だった。そこで、エーリックにそれとなくストーキングされていると伝えたのだ。

「心配しないで、私なら大丈夫よ」
「ですが……」

 どうにもカミラは胸騒ぎがしてならない。

「お嬢様、ケヴィン・セギュルにはお気をつけください」
「大丈夫よ。私の護身術や魔術の腕は知ってるでしょ?」

 魔術の腕は学園でもトップクラス。ぽやんとして見えるウェルシェだが、護身術もグロラッハ家の精鋭達から学んでいる。そんじょそこらのチンピラには負けない。

 スーパー令嬢イーリヤの影に隠れているが、学園でウェルシェを負かせる生徒は数えるほどしかいないのだ。

「ですが、お嬢様は実戦の経験がありません」

 だが、どれだけ訓練を積もうとも本番では自分の力を発揮できないなんて事はザラである。

「訓練と実戦は違います」

 どんなに訓練や試合で成績優秀でも実戦で実力の半分も出せずに消えていった者など数知れない。

「あの落ちこぼれのケヴィン様に私が負けるわけないないじゃない」
「お嬢様のお力は重々承知しております」

 ウェルシェの楽観がどうにもカミラには不安でならない。なぜなら彼女は優秀が故に常識から外れた者達の理屈に合わない行動を理解できない。

 だから、嫌な予感が払拭できないカミラは主人に忠告しなければならないのだ。

「ですが、ストーカー野郎は追い詰められると何を仕出かすか予想がつきません」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

今更気付いてももう遅い。

ユウキ
恋愛
ある晴れた日、卒業の季節に集まる面々は、一様に暗く。 今更真相に気付いても、後悔してももう遅い。何もかも、取り戻せないのです。

私がいなくなった部屋を見て、あなた様はその心に何を思われるのでしょうね…?

新野乃花(大舟)
恋愛
貴族であるファーラ伯爵との婚約を結んでいたセイラ。しかし伯爵はセイラの事をほったらかしにして、幼馴染であるレリアの方にばかり愛情をかけていた。それは溺愛と呼んでもいいほどのもので、そんな行動の果てにファーラ伯爵は婚約破棄まで持ち出してしまう。しかしそれと時を同じくして、セイラはその姿を伯爵の前からこつぜんと消してしまう。弱気なセイラが自分に逆らう事など絶対に無いと思い上がっていた伯爵は、誰もいなくなってしまったセイラの部屋を見て…。 ※カクヨム、小説家になろうにも投稿しています!

幼馴染、幼馴染、そんなに彼女のことが大切ですか。――いいでしょう、ならば、婚約破棄をしましょう。~病弱な幼馴染の彼女は、実は……~

銀灰
恋愛
テリシアの婚約者セシルは、病弱だという幼馴染にばかりかまけていた。 自身で稼ぐこともせず、幼馴染を庇護するため、テシリアに金を無心する毎日を送るセシル。 そんな関係に限界を感じ、テリシアはセシルに婚約破棄を突き付けた。 テリシアに見捨てられたセシルは、てっきりその幼馴染と添い遂げると思われたが――。 その幼馴染は、道化のようなとんでもない秘密を抱えていた!? はたして、物語の結末は――?

【完結】捨てられ正妃は思い出す。

なか
恋愛
「お前に食指が動くことはない、後はしみったれた余生でも過ごしてくれ」    そんな言葉を最後に婚約者のランドルフ・ファルムンド王子はデイジー・ルドウィンを捨ててしまう。  人生の全てをかけて愛してくれていた彼女をあっさりと。  正妃教育のため幼き頃より人生を捧げて生きていた彼女に味方はおらず、学園ではいじめられ、再び愛した男性にも「遊びだった」と同じように捨てられてしまう。  人生に楽しみも、生きる気力も失った彼女は自分の意志で…自死を選んだ。  再び意識を取り戻すと見知った光景と聞き覚えのある言葉の数々。  デイジーは確信をした、これは二度目の人生なのだと。  確信したと同時に再びあの酷い日々を過ごす事になる事に絶望した、そんなデイジーを変えたのは他でもなく、前世での彼女自身の願いであった。 ––次の人生は後悔もない、幸福な日々を––  他でもない、自分自身の願いを叶えるために彼女は二度目の人生を立ち上がる。  前のような弱気な生き方を捨てて、怒りに滾って奮い立つ彼女はこのくそったれな人生を生きていく事を決めた。  彼女に起きた心境の変化、それによって起こる小さな波紋はやがて波となり…この王国でさえ変える大きな波となる。  

婚約破棄されたら魔法が解けました

かな
恋愛
「クロエ・ベネット。お前との婚約は破棄する。」 それは学園の卒業パーティーでの出来事だった。……やっぱり、ダメだったんだ。周りがザワザワと騒ぎ出す中、ただ1人『クロエ・ベネット』だけは冷静に事実を受け止めていた。乙女ゲームの世界に転生してから10年。国外追放を回避する為に、そして后妃となる為に努力し続けて来たその時間が無駄になった瞬間だった。そんな彼女に追い打ちをかけるかのように、王太子であるエドワード・ホワイトは聖女を新たな婚約者とすることを発表した。その後はトントン拍子にことが運び、冤罪をかけられ、ゲームのシナリオ通り国外追放になった。そして、魔物に襲われて死ぬ。……そんな運命を辿るはずだった。 「こんなことなら、転生なんてしたくなかった。元の世界に戻りたい……」 あろうことか、最後の願いとしてそう思った瞬間に、全身が光り出したのだ。そして気がつくと、なんと前世の姿に戻っていた!しかもそれを第二王子であるアルベルトに見られていて……。 「……まさかこんなことになるなんてね。……それでどうする?あの2人復讐でもしちゃう?今の君なら、それができるよ。」 死を覚悟した絶望から転生特典を得た主人公の大逆転溺愛ラブストーリー! ※最初の5話は毎日18時に投稿、それ以降は毎週土曜日の18時に投稿する予定です

私に姉など居ませんが?

山葵
恋愛
「ごめんよ、クリス。僕は君よりお姉さんの方が好きになってしまったんだ。だから婚約を解消して欲しい」 「婚約破棄という事で宜しいですか?では、構いませんよ」 「ありがとう」 私は婚約者スティーブと結婚破棄した。 書類にサインをし、慰謝料も請求した。 「ところでスティーブ様、私には姉はおりませんが、一体誰と婚約をするのですか?」

私の恋が消えた春

豆狸
恋愛
「愛しているのは、今も昔も君だけだ……」 ──え? 風が運んできた夫の声が耳朶を打ち、私は凍りつきました。 彼の前にいるのは私ではありません。 なろう様でも公開中です。

記憶がないので離縁します。今更謝られても困りますからね。

せいめ
恋愛
 メイドにいじめられ、頭をぶつけた私は、前世の記憶を思い出す。前世では兄2人と取っ組み合いの喧嘩をするくらい気の強かった私が、メイドにいじめられているなんて…。どれ、やり返してやるか!まずは邸の使用人を教育しよう。その後は、顔も知らない旦那様と離婚して、平民として自由に生きていこう。  頭をぶつけて現世記憶を失ったけど、前世の記憶で逞しく生きて行く、侯爵夫人のお話。   ご都合主義です。誤字脱字お許しください。

処理中です...