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第10章 その陰謀、本当に必要ですか?

第112話 腹黒魔術は命がけ

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「くちゅん!」

 エーリックを茫然と見送っていたウェルシェは、小さな可愛いくしゃみをしてブルッと身体を震わせた。

「どうぞ、お茶でもお召し上がって冷えた体を暖めてください」

 四阿ガゼボのテーブルにカミラは熱いお茶を用意する。

「ありがとう」

 湯気の立つティーカップを両手で持つと、氷のように冷たくなった手に熱が伝わってきた。

 ウェルシェはふーっふーっ息を吹き掛けてから熱いお茶を一口含んで嚥下えんげした。熱が食道を通って冷えた身体の芯にじんわりと広がっていくのが分かる。

「呆気に取られて危うく凍死するところだったわ」
「まったく何をやっているんですか」
「ちょっと油断しただけよ!」

 呆れ声のカミラを睨んでウェルシェは口を尖らせた。

「お嬢様もよくやりますよね」

 カミラは空になったティーカップに新たなお茶を注ぐ。

「ふふ、迫真の演技だったでしょ」

 二杯目のお茶に口を付けていたウェルシェは自慢げにカミラを見上げた。

「青ざめた表情を作る為に魔術で循環血液の温度を下げるなん……一歩間違えば死にますよ?」

 先ほどエーリックに怯えて見せたのはもちろん演技である。よりリアリティを持たせようと体温を低くしたのである。

「フツーこんな事に命かけませんよね?」

 ウェルシェは炎熱魔術と氷結魔術を複合、応用し体温を自在にコントロールできるのだ。これには0.1度単位の緻密な温度管理が必須で、ウェルシェの繊細な魔力コントロールあっての魔術である。

 学園の生徒ではウェルシェ以外にはまず使いこなせない彼女のオリジナル腹黒魔術の一つなのだ。
(注意:低体温症でお亡くなりになる可能性もあるので良い子は真似をしてはいけません)

「毎度毎度、よく体を張れるものだと呆れるやら感心するやら」
「これもケヴィン様を罠にかけるのに必要なのよ」

 セギュル家の監視がつけられている事実をウェルシェは隠蔽いんぺいしていた。

「ここで重要なポイントは私が誰かに狙われている、だけどその正体が分からないってところよ」

 それは、ウェルシェは自身を囮にしてケヴィンを誘き出し、彼に決定的な犯行を行わせて二度と再起できないようにする為である。

「セギュル家の手の者がお嬢様を監視しているのが王妃様の耳に入れば、その段階でセギュル家は叱責を受けるのは必定ですからね」
「だけどそれではケヴィン様を排斥できるほどではないわ」

 ただのストーキングではケヴィンに止めを刺せない。

 ウェルシェはケヴィンに決定的な過ちを犯してもらおうとしていた。
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