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第9章 その乙女ゲーム、本当に必要ですか?
第104話 慰撫と努力
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「サイモン・ケセミカ様は己の才を過信し勉学を疎かにして成績を落としただけなのに、学業が全てじゃないとか彼女に言われて救われたとかアホじゃないの?」
ケセミカ宮中伯の嫡男サイモンは現オーウェン側近の頭脳と目されている。だが、この程度の甘い言葉を信じて成績を落とすサイモンの能力と見識の低さが窺えるというものだ。
「まあ、学園の成績が能力を推し量る全てではないのは間違っていませんがね」
レーキは擁護するような発言をするが、彼自身も決してそれを信じてはいない。
「クライン・キーノン様は卑怯な手段で模擬戦に勝利する級友と衝突してクラスで孤立していたところを彼女に愚直な性格が素敵とおだてられてころっと堕ちたんですってね……バッカじゃないの?」
「彼の正義感が強く愚直な性格であるのは確かです」
騎士道も大事だろうが、卑怯と罵っても実戦ではそんな言い訳は通用しない。負けた原因を相手に求め、自己研鑽を怠るようなクラインの実力は大したものではないだろう。
だいたい、婚約者のキャロルを蔑ろにして浮気していた男が騎士道を騙るなど片腹痛い。
「イーリヤ様の義弟君、コニール・ニルゲ様は幼い容姿を侮られて不貞腐れていたところを慰められ立ち直ったそうだけど……中身もガキじゃない」
「貴族社会では外見で侮られる事例がよくあるのは事実です」
体面を重んじる貴族が周囲から軽蔑され矜持を傷つけられるのは辛いだろう。だが、慰められて簡単に立ち直るのは彼の矜持の低さと見通しの甘さが現れている。
ウェルシェが彼なら他者を出し抜くのに軽視される容姿をむしろ最大限に利用しただろう。
「慰められても問題は何も解決してないでしょうに」
「彼らは努力をしない為の口実が欲しかっただけなんです」
「救いようがないわね」
「勉めずして学業が成るはずもなし、努力せずに強くなれるはずもありません」
努力をしたからと言って結果が伴うわけではないが、努力をしなければゼロの可能性はゼロのままだ。
「努力が成果に必ずしも繋がるわけじゃないわ。それでも努力した事実は確かに自分の中で血肉になっているものよ」
「まこと至言にございます」
努力は実らなければ意味が無いわけではない。必ず自分の中で息づき何かしらの糧になっているのだとウェルシェは信じているし、今の自分を形成していると確信している。
「それに、何もせずに口を開けていれば餌をもらえるのはヒナのうちだけ」
大人の庇護を失い巣立つ時にいったい彼らはどうするのか?
「自分の翼で羽ばたく努力をしないものは、いずれ大地に墜ちるしかないのよ」
自分達だけが被害を受けるのならそれでもいい。
だが、オーウェン達は将来この国を背負うのだ。
彼らが多くの者達を道連れにして墜落する未来図にウェルシェは暗澹たる思いに沈んだ。
「せめてオーウェン殿下が改心してくれれば良いのだけど」
その願いも虚しくなるオーウェンの振る舞いにウェルシェは頭痛がするような気がした。
ケセミカ宮中伯の嫡男サイモンは現オーウェン側近の頭脳と目されている。だが、この程度の甘い言葉を信じて成績を落とすサイモンの能力と見識の低さが窺えるというものだ。
「まあ、学園の成績が能力を推し量る全てではないのは間違っていませんがね」
レーキは擁護するような発言をするが、彼自身も決してそれを信じてはいない。
「クライン・キーノン様は卑怯な手段で模擬戦に勝利する級友と衝突してクラスで孤立していたところを彼女に愚直な性格が素敵とおだてられてころっと堕ちたんですってね……バッカじゃないの?」
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だいたい、婚約者のキャロルを蔑ろにして浮気していた男が騎士道を騙るなど片腹痛い。
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「慰められても問題は何も解決してないでしょうに」
「彼らは努力をしない為の口実が欲しかっただけなんです」
「救いようがないわね」
「勉めずして学業が成るはずもなし、努力せずに強くなれるはずもありません」
努力をしたからと言って結果が伴うわけではないが、努力をしなければゼロの可能性はゼロのままだ。
「努力が成果に必ずしも繋がるわけじゃないわ。それでも努力した事実は確かに自分の中で血肉になっているものよ」
「まこと至言にございます」
努力は実らなければ意味が無いわけではない。必ず自分の中で息づき何かしらの糧になっているのだとウェルシェは信じているし、今の自分を形成していると確信している。
「それに、何もせずに口を開けていれば餌をもらえるのはヒナのうちだけ」
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「自分の翼で羽ばたく努力をしないものは、いずれ大地に墜ちるしかないのよ」
自分達だけが被害を受けるのならそれでもいい。
だが、オーウェン達は将来この国を背負うのだ。
彼らが多くの者達を道連れにして墜落する未来図にウェルシェは暗澹たる思いに沈んだ。
「せめてオーウェン殿下が改心してくれれば良いのだけど」
その願いも虚しくなるオーウェンの振る舞いにウェルシェは頭痛がするような気がした。
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