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第7章 その裁定、本当に必要ですか?
第84話 往生際の悪い王子
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――カシャン!
「裁定のみ申し渡しても納得できないでしょうから理由を先に説明しましょう」
オルメリアは手にした王笏の底部で床を打った。
もうこれ以上聞く事は無いとの意思表示である。
「オーウェン、お前は多くの失態を犯しています」
「わ、私に何の落ち度があると仰るのですか?」
オーウェンからすれば自分以外の者こそ間違いを犯しており、自分はそれを正そうとしただけである。だから、オルメリアからの非難は彼にとって心外そのものであった。
「第一にエーリックが説明したように、今回の婚約話は私が提案したものです。そこにエレオノーラやエーリックの意思は介在していません」
「で、ですがケヴィンは……」
「よってエーリックがグロラッハ嬢に圧力をかけたとの言い分は全て事実無根です」
オーウェンはごにょごにょと言い繕おうとしたが、オルメリアはまったく取り合わない。
「第二にケヴィン・セギュルの狼藉をお前が一方的に擁護した件。これに関してはウェルシェ・グロラッハより直接抗議を受けました」
「そ、そんなはずは!?」
「私が直に彼女から聞いたと申しているのです」
ピシャリと断言されてオーウェンはグッと口を噤んだ。
「また、ケヴィン・セギュルの王家への叛意とも取れる発言を擁護もしましたね。こちらも本人からだけではなく、多数の証言を得ています」
「ケヴィンの発言は王族へではなくエーリックの暴虐への苦言であり諫言です!」
「王族ではなくエーリックの、ですか……つまりお前はエーリックを王族とは認めないと?」
オルメリアの声が絶対零度にも届きそうなほど冷え冷えとした。母の感情が消え去った声にオーウェンの背筋が凍った。
「い、いえ、今のは言葉のあやで、決して私はそのような事は……」
「黙りなさい!」
――ガシャンッ!!
オルメリアは再び王笏で強く床を打ちオーウェンの反論を封じた。
「エレオノーラはお前の即位に波風を立てぬように気を使い表に出ず、エーリックもそれに倣ってお前を立ててきました」
本当は2人とも王太后や王太子になりたくないだけなのだが、オルメリアはあえて美談として持ち上げた。
「それなのに恩を仇で返す真似をするとは恥を知りなさい!」
「そ、それは……」
「エーリックの婚約も元はお前の立太子を後押しする為のもの」
もっとも、今のエーリックは後継問題などどうでもよく、ただウェルシェと結婚するのを楽しみにしている夢見る少年なのだが。
「今後一切エーリックとウェルシェの婚約に口出しするのを禁じます。そこに理由の如何は問いません」
この宣言によりエーリックとウェルシェの婚姻へのちょっかいは王家への叛意となると公式に認定された。
もはやオーウェンと言えど覆す事は敵わない。
「お、お待ちください!」
このままではケヴィンの恋は絶望的となる。
「まだ十分な審議は尽くされていません。諫言耳に逆らうものなれど、上に立つ者が下の者の意見に耳を傾けなくなれば国の礎を揺るがす遠因となりましょう」
オーウェンは慌ててこの決定を取り下げてもらおうと異議を申し出た。
「裁定のみ申し渡しても納得できないでしょうから理由を先に説明しましょう」
オルメリアは手にした王笏の底部で床を打った。
もうこれ以上聞く事は無いとの意思表示である。
「オーウェン、お前は多くの失態を犯しています」
「わ、私に何の落ち度があると仰るのですか?」
オーウェンからすれば自分以外の者こそ間違いを犯しており、自分はそれを正そうとしただけである。だから、オルメリアからの非難は彼にとって心外そのものであった。
「第一にエーリックが説明したように、今回の婚約話は私が提案したものです。そこにエレオノーラやエーリックの意思は介在していません」
「で、ですがケヴィンは……」
「よってエーリックがグロラッハ嬢に圧力をかけたとの言い分は全て事実無根です」
オーウェンはごにょごにょと言い繕おうとしたが、オルメリアはまったく取り合わない。
「第二にケヴィン・セギュルの狼藉をお前が一方的に擁護した件。これに関してはウェルシェ・グロラッハより直接抗議を受けました」
「そ、そんなはずは!?」
「私が直に彼女から聞いたと申しているのです」
ピシャリと断言されてオーウェンはグッと口を噤んだ。
「また、ケヴィン・セギュルの王家への叛意とも取れる発言を擁護もしましたね。こちらも本人からだけではなく、多数の証言を得ています」
「ケヴィンの発言は王族へではなくエーリックの暴虐への苦言であり諫言です!」
「王族ではなくエーリックの、ですか……つまりお前はエーリックを王族とは認めないと?」
オルメリアの声が絶対零度にも届きそうなほど冷え冷えとした。母の感情が消え去った声にオーウェンの背筋が凍った。
「い、いえ、今のは言葉のあやで、決して私はそのような事は……」
「黙りなさい!」
――ガシャンッ!!
オルメリアは再び王笏で強く床を打ちオーウェンの反論を封じた。
「エレオノーラはお前の即位に波風を立てぬように気を使い表に出ず、エーリックもそれに倣ってお前を立ててきました」
本当は2人とも王太后や王太子になりたくないだけなのだが、オルメリアはあえて美談として持ち上げた。
「それなのに恩を仇で返す真似をするとは恥を知りなさい!」
「そ、それは……」
「エーリックの婚約も元はお前の立太子を後押しする為のもの」
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「今後一切エーリックとウェルシェの婚約に口出しするのを禁じます。そこに理由の如何は問いません」
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もはやオーウェンと言えど覆す事は敵わない。
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オーウェンは慌ててこの決定を取り下げてもらおうと異議を申し出た。
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