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第6章 その第一王子、本当に必要ですか?

第73話 王妃の決断

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「どちらも申し分ない条件でした」

 イーリヤにするかウェルシェにするか会議でも紛糾した婚約者選びであった。

「だけど、決め手になったのは2人の身上調査の結果なの」

 物静かな深窓の令嬢のようなウェルシェは王妃としては心許ない。誰もが同じ感想を抱き、満場一致で幼少期より才気煥発なイーリヤが選ばれたのだ。

「それは……身上調査の者達もたばかられたのですね」
「ええ、そのようね」

 それなりに人物眼の持ち主であったはずだが、それでもウェルシェの猫被りを看破できなかったらしい。

「自分の目で直接確かめるべきでした」

 ハァ、とオルメリアの口からため息が漏れた。

「単純に能力だけ見ればイーリヤさんの方が上だと思いますが、彼女はあまりに真っ直ぐ過ぎるのでしょう」
「本当に……ウェルシェの方が王妃向きね」

 ジャンヌにオルメリアは相槌を打つ。

「それに、自分の能力を擬態で包み込んで隠し相手を手の平の上で転がせるウェルシェなら、きっとオーウェンとの相性は悪くなかったでしょう」

 オーウェンとウェルシェ、エーリックとイーリヤの組み合わせの方が波乱も無かっただろうとオルメリアには悔やまれてならない。

 もっとも、この話をウェルシェが聞けば、嫌な顔をして「冗談ではない!」と叫んでいそうだ。

 ウェルシェからすれば王妃など面倒事は御免被るのだ。それに天使のようなエーリックが好みのウェルシェにとって俺様系とんでも王子など絶対に嫌であろう。

「今さら言っても詮無き事ね」
「王妃殿下は今後どうされるおつもりなのですか?」

 オルメリアの思惑は色々と裏目に出てしまった。ジャンヌはこの局面をやり手のオルメリアがどのように挽回するのか気になった。

「特別どうもしないわ」

 しかし、オルメリアは目を細め薄く笑い、肩をすくめた。

「先程の席で言った通りよ。母としてオーウェンをきつく叱るだけ……ただ……」
「ただ?」
「あなたも言っていたでしょう。学園は小さな王国だって」
「はい、組織の運営のありかたは同じであるかと」
「私も同意します……だから、卒業までにあの子の学園での振る舞いが王として相応しいもので、イーリヤとの関係を修復できたのなら問題はないでしょう」

 オルメリアとジャンヌの会話にエレオノーラは不穏なものを感じた。

「もしできなかったら?」

 だからエレオノーラは聞かずにはいられなかった。

「私はオーウェンの母であると同時に国母でもあるのです。我が子と言えど容赦はできません」

 オルメリアの顔から表情が抜け落ちた。

 それは彼女の感情が無くなったのではなく、母親としての情を押し殺したのだろうとジャンヌは思った。

 王妃としての責務に母として生きられない一抹の寂しさをオルメリアは抱いている。同じ母親としてジャンヌはそれを理解できる。だからこそ次にオルメリアが何を口にするのかも既に察していた。

「オーウェンの王位継承権を剥奪し、エーリックを立太子するよう陛下に進言します」
「……」

 オルメリアの苦しい決断をジャンヌは目を閉じて黙って拝聴し――

「――ッ!?」

 なぜかエレオノーラは声にならない悲鳴を上げたのだった……
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