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第6章 その第一王子、本当に必要ですか?

第68話 腹黒流交渉術

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「あ、あなた、いったい何を?……」

 ウェルシェのトンチンカンな反応にオルメリアは戸惑った。
 それは他の夫人達も同じようで、みな一様に困惑している。

「えっ、だって、オーウェン殿下が即位されるまでに何処かへ行かれると仰られたではありませんか」

 ウェルシェが的外れな返事をするので誰もが呆気に取られた。

「きっと、かなり遠方の国へご旅行されるのですね」

 ウェルシェ自身も相当に苦しいと思うほどの完全なる曲解だ。

「他の国へ行って見聞を広められるのはとても素晴らしい事ですわ」

 それでもウェルシェは貫き通す。

 こんな時は多少苦しくても強引に話題を変えて、一気に自分の土俵へと持っていく力技こそ有効。どこかトボけたウェルシェの腹黒交渉術の一つだ。

 おっとりした不思議ちゃんを演出していたのも、この交渉術を成功させるのに大きく寄与している。

「えっ、ええ……そうですね」

 話を振られたジャンヌも対応に困って曖昧に頷いた。案の定、他の者も呆気に取られて目をパチパチしばたたかせている。

「本当に素敵!」

 ここまで来ればもうしめたもの。
 再びウェルシェの手の平の上だ。

「シキン夫人はそうやって見識を深めてこられたのですわね」
「はい?」

 ジャンヌはいまいちウェルシェの意図を掴みかねた。いや、それはオルメリアを始め会場の誰もが同じであろう。

「夫人のお言葉に私とても感銘を受けましたの」
「私の……ですか?」

 それはオルメリアへの諫言だろうかともジャンヌは思ったが、それにしては変だと感じた。

 先程の大胆な曲解からウェルシェがジャンヌの諫言をうやむやにしてしまおうとしている魂胆は見えすえている。

 だからウェルシェがここでその話題を蒸し返すはずはないのだ。

「学園は小さな王国、この国の将来を映す鏡……仰る通りだと思いますわ」

 ウェルシェは両手を軽くパンッと叩いた。

(話を切り変えてきた。このタイミングで何か振ってくる)

 それが一種の合図だとオルメリアは気がついた。

「学園生活は私達貴族子弟にとって試金石なのですわね」
「ええ、学園は王国の縮図です。ならば生徒達は学内での言動で試されているのです」

 だからジャンヌはオーウェンを糾弾したのだ。彼は将来この国を背負って立てる器ではないと。

「まったく仰る通りですわ。つまり、私達は試されていると同時に将来国政に携わる予行練習をしているのですわね」
「そ、それは……」

 だが、ウェルシェはまったく違う見解を持ち出し、ジャンヌは言葉に詰まった。

「小さな王国で失敗しようとも国政には影響しません。まだ未熟な私達ですからきっと間違える事もあるでしょう。ですが、王妃殿下やシキン夫人のように素晴らしい先達が叱咤してくだされば道は正せると思いませんか?」

 つまりウェルシェは今は学んでいる最中で失敗もあるが、まだこれからがあると言いたいのだ。

「その通りね」

(この娘、やってくれる)

 オルメリアは内心で会心の笑みを浮かべてウェルシェに感謝した。
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