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第5章 そのお茶会、本当に必要ですか?

第52話 婚約の条件

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 ところが、これに対してニルゲ公爵とイーリヤは難色を示した。

 ニルゲ公爵家はマルトニア王国で国王に次ぐ力を有しており、良識あるニルゲ公爵としては王妃を輩出して更に権力が集中するのを嫌ったのである。

 あまりに強い力は国を乱しかねないし、周囲からのねたそねみがニルゲ公爵家にとってマイナスにしかならないとの政治的な判断だった。

 ニルゲ公爵の気持ちはオルメリアにも分からないでもない。

 問題はイーリヤである。彼女は何故か最初からオーウェンとの婚約話には乗り気ではなかったのだ。

 お陰でこの婚約を成立させるのにオルメリアはだいぶん苦労させられたのである。

 最終的には色々な条件を結ばされて婚約を漕ぎ着けた。

 だが、おかしな事に条件の内容は違反事項とその時の婚約解消に関するものだけ。とてもニルゲ公爵家に富や権勢を産むものではなかった。

 当時は婚約を結ぶのに必死だったし、ニルゲ公爵も富と権力を欲してはいなかったので、オルメリアはあまり気に留めてはいなかったのだが……

 しかし、この条件のせいでオーウェンとイーリヤの婚約は破綻しそうになっていた。

(まさかオーウェンが浮気するなんて)

 学園でオーウェンが男爵令嬢を囲っているとオルメリアの耳にも入ってきている。それ自体も問題ではあるが、それ以上にまずいのは浮気がイーリヤの提示した婚約解消の条項に触れる事だ。

 既にニルゲ公爵からは再三の婚約解消要請がきている。
 なんとか宥めすかして婚約を維持しているのが現状だ。

(イーリヤはこうなると分かっていたのかしら?)

 婚約にあたりやたらと浮気の条項が組み込まれていたと今にして思うと不思議でならない。

 まあ、そこら辺は常識の範囲内だろうと、その時は特に気にも留めていなかったのだが……

 このままではオーウェンとイーリヤの婚約は破局を迎える。

(だけどオーウェンはいくら説得してもイーリヤが悪いの一点張りなのよね)

 当然、オーウェンの行状を嗜めたのだが、イーリヤがその男爵令嬢を虐げたのが悪いと聞く耳を持たないのだ。

(あの子オーウェンは自分の置かれている立場を理解しているのかしら?)

 イーリヤとの婚約が解消されればニルゲ公爵を敵に回してオーウェンの立太子は難しくなる。

(暗愚の様相が見える者を国主にするわけには……)

 オルメリアは1人の母として息子を愛してはいたが、それ以上に国母としての意識が強い女性だ。とても今のオーウェンを国王に据える気にはなれない。

(せめて近侍として選んだ子弟達が臣下としてあの子を支えてくれれば救いはあるけど)

 学園で最も優秀なレーキ・ノモやシキン家の嫡男など優秀な面々を登用してオーウェンの側につけたのはオルメリアである。

 オーウェン自身に国王としての能力が乏しくとも彼らが盛り立ててくれれば救いはあるはず。

「それでもオーウェンが愚かな振る舞いを改めないなら……」

 王位継承権の剥奪もやむなしかとオルメリアは自分の暗い想像にため息を漏らしたのだった……
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