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第0章 そのザマァ、本当に必要ですか?

第8話 王子の決意

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「エーリック様は私をお嫌いになられたのですか!?」

 ウェルシェは両手で顔を覆うとさめざめと泣いた。これにはエーリックも大いに慌てた。

「そ、そんなわけないよ! 僕がウェルシェを嫌いになるはずがないじゃないか!」
「本当ですの?」
「ああ、誓って」
「では、どうして婚約を解消するなど酷い事を仰るのです?」
「それは……君がグロラッハ侯爵の大事な一人娘だからさ」

 この婚約は王家から出なければならないエーリックと、娘のみで後継がいないグロラッハ侯爵の利害が一致した政略性の強いものである。

 だが、エーリックが王位を継ぐとなるとグロラッハ家の当主とは成れなくなる。

 それに、一人娘を王家に差し出せばグロラッハ家は跡継ぎを失くしてしまうのだ。当然、グロラッハ侯爵は、エーリックとウェルシェの婚約を認めはしないだろう。

「だから、僕が国王となるならば君との結婚は難しくなる」

 エーリックはウェルシェと結ばれたい。
 だが、王族の血がそれを許さないのだ。

(それもこれも全ては兄上が悪い!)

 胸の内で再びオーウェンに呪詛と強い殺意が湧き上がる。

「なんだそんな事でしたの」

 エーリックの説明にウェルシェはホッとしたように胸を撫で下ろした。

「それなら問題ありませんわ」
「えっ、ホント!?」

 エーリックの苦悩をウェルシェは事もなげにばっさり斬り捨て、驚きのあまりエーリックは不作法にもガタッと音を立てて椅子から立ち上がった。

 その時、彼はテーブルを勢いよく両手で突いてしまった。その拍子にお茶が溢れてクロスに染みが出来て侍女カミラの眉が僅かに吊り上がった。

 だが、エーリックはそれに気づく余裕がない。

「本当ですわ」
「だけど、君には兄弟はいないじゃないか。家督の問題はどうするんだ?」
「お父様がお気に入りのとても優秀な再従姉弟はとこがおります。彼を養子として迎えれば良いのですわ」

 聞けば元々その再従姉弟を後継にするつもりであったらしい。

 エーリックとの婚約と陞爵の話がなければ今頃はウェルシェに義弟が出来ていたのだとか。

「何だ……僕の杞憂だったのか」

 エーリックは脱力して椅子に崩れ落ち、その様子にウェルシェがくすくすと笑う。

「それよりも私はエーリック様に誰ぞ好きな方でもできたのかと不安になりましたわ」
「あり得ないよ!」
「本当ですの? アイリス様にも言い寄られていたと聞いておりますが」
「それこそまさかさ。僕はウェルシェ一筋なんだよ」
「うふふふ、冗談です」

 悪戯っぽく笑って信じておりますと告げられたエーリックは、可愛い婚約者に手玉に取られているなと苦笑いした。

「ですが、少し不安もあるのです」
「不安?」
「私のような者に果たして王妃が務まるかどうか……」

 王になるエーリックに嫁ぐならば当然ウェルシェは将来の王妃である。

 王妃には重責が課せられるし、何より宮中では権謀術数を武器に戦わねばならない。

 ウェルシェは優しくおっとりした娘である。この人の好い婚約者が策略を巡らせ腹黒い貴族達と権力争いが出来るとはとても思えない。

「安心して。僕が必ず君を守るから」
「エーリック様……嬉しい」

 エーリックの宣言にウェルシェは喜び頬を染める。

(ウェルシェは僕が守らなきゃ!)

 婚約者の可愛い姿にエーリックはそう強く決意したのだった。
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