上 下
2 / 26

第2話 紡ぐ物語①「書院紡子の物語」

しおりを挟む
 私は本が好き。

 食事の時も、通勤の最中も、休憩時間も、お風呂に入っても、眠っている時だって本を読めたら素敵だと思う。

 お洒落にお金を使うくらいなら本をたくさん買いたいし、人と語らう時間があるなら本に耽っていたい。

 それくらい私は本が大好き。

 夢を追うよりファンタジー小説で夢のような冒険に思いを馳せたい。
 誰かと恋をするよりも恋愛小説を読む方がずっと胸がキュンとする。

 泥棒も殺し屋も全ての犯罪者はミステリー小説を読めば良いのよ。
 純文学を読めば、感動も喜びも人生の豊かささえも与えてくれる。

 私は読書が死さえも克服できるって本気で信じてるもの。

 だから、私は本がとっても大好き。

 そんな私の天職は何だろう?

 小説家?

 小説を執筆していたら読む時間が無くなってしまう。私は物語を生み出したいんじゃないの。物語に没頭したいのよ。

 編集者?

 確かにそれなら本をたくさん読めるわね。だけど、部署によってジャンルは限定されてしまうんじゃないかしら?

 私のような活字中毒の天職……それはやっぱり司書。

 本に囲まれて仕事をする幸せ。
 好みの本をいつも選べる喜び。

 もちろん司書の業務も多岐に渡るので読書だけしていれば良いわけじゃない。業務は周囲が思っている以上に大変よ?

 それでも他の仕事より本に触れる機会は圧倒的に多いし、本の匂いに囲まれた世界はやっぱり最高。

 それに、推薦図書を選定する為と称して好きな本を読めるし、図書館内は静かで誰にも読書を邪魔されないもの。

 それにしても学生時代やたらと読書を邪魔してくる男性たちは何だったんだろう?

 私はただ静かに本を読んでいたいだけなのに、『何読んでるの?』って声を掛けてきて答えてあげているのに本とは関係ない話題を振ってきて、最後は『本ばかりじゃなくて遊びに行こう』だとか『本では得られない楽しいことを教えてやる』だとか頭のおかしなことを宣う。

 鬱陶しいことこの上なし。読書以上に楽しいことなんてあるわけない。

 ただ、視力が落ちて眼鏡を掛けるようになってから男性からの妨害が激減したので、今ではもはや外出時の眼鏡は必須アイテム。

 数少ない友人からはコンタクトにしないのは勿体ないって言われたけど何故かしら?

 まあ、どちらにせよ図書館には読書を妨害する男性は少数派なので今となってはどちらでも良いけど。まったく高校や大学はあんな男どもを量産しているのかしら?

 司書ってやっぱり最高の環境よね……だけど……そんな天職を手にした私にも悩みはある。

 それは私の異能アビリティ

 私は感情移入した物語の中に現実として入り込んでしまう能力を持っている。これのせいで戦争ものやサスペンスものは下手をすると命懸け。

 実際、死にかけたことが何度かあるし。そんなわけで私はなるべく物語に感情移入しないよう日頃から気を配っている。

「はぁ……」

 手にした本の表紙に目を落としながら私はため息を漏らす。

「異能なんて無ければ読書三昧できるのに」

 異能なんて世界から消えてしまえば良いのに。そう願っても世界は変わらない。

 だから今日も私は殺せぬ世界の代わりに表情を殺すのだ……物語に感情移入しないように……
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

笛智荘の仲間たち

ジャン・幸田
キャラ文芸
 田舎から都会に出てきた美優が不動産屋に紹介されてやってきたのは、通称「日本の九竜城」と呼ばれる怪しい雰囲気が漂うアパート笛智荘(ふえちそう)だった。そんな変なアパートに住む住民もまた不思議な人たちばかりだった。おかしな住民による非日常的な日常が今始まる!

こずえと梢

気奇一星
キャラ文芸
時は1900年代後期。まだ、全国をレディースたちが駆けていた頃。 いつもと同じ時間に起き、同じ時間に学校に行き、同じ時間に帰宅して、同じ時間に寝る。そんな日々を退屈に感じていた、高校生のこずえ。 『大阪 龍斬院』に所属して、喧嘩に明け暮れている、レディースで17歳の梢。 ある日、オートバイに乗っていた梢がこずえに衝突して、事故を起こしてしまう。 幸いにも軽傷で済んだ二人は、病院で目を覚ます。だが、妙なことに、お互いの中身が入れ替わっていた。 ※レディース・・・女性の暴走族 ※この物語はフィクションです。

喫茶店オルゴールの不可思議レシピ

一花カナウ
キャラ文芸
喫茶店オルゴールを舞台にしたちょっぴり不思議なお話をお届けいたします。

時守家の秘密

景綱
キャラ文芸
時守家には代々伝わる秘密があるらしい。 その秘密を知ることができるのは後継者ただひとり。 必ずしも親から子へ引き継がれるわけではない。能力ある者に引き継がれていく。 その引き継がれていく秘密とは、いったいなんなのか。 『時歪(ときひずみ)の時計』というものにどうやら時守家の秘密が隠されているらしいが……。 そこには物の怪の影もあるとかないとか。 謎多き時守家の行く末はいかに。 引き継ぐ者の名は、時守彰俊。霊感の強い者。 毒舌付喪神と二重人格の座敷童子猫も。 *エブリスタで書いたいくつかの短編を改稿して連作短編としたものです。 (座敷童子猫が登場するのですが、このキャラをエブリスタで投稿した時と変えています。基本的な内容は変わりありませんが結構加筆修正していますのでよろしくお願いします) お楽しみください。

あやかしの茶会は月下の庭で

Blauregen
キャラ文芸
「欠けた月をそう長く見つめるのは飽きないかい?」 部活で帰宅が遅くなった日、ミステリアスなクラスメート、香山景にそう話しかけられた柚月。それ以来、なぜか彼女の目には人ならざるものが見えるようになってしまう。 それまで平穏な日々を過ごしていたが、次第に非現実的な世界へと巻き込まれていく柚月。彼女には、本人さえ覚えていない、悲しい秘密があった。 十年前に兄を亡くした柚月と、妖の先祖返り景が紡ぐ、消えない絆の物語。 ※某コンテスト応募中のため、一時的に非公開にしています。

怪盗ヴェールは同級生の美少年探偵の追跡を惑わす

八木愛里
キャラ文芸
 運動神経がちょっと良い高校生、秋山葵の裏の顔は、怪盗ヴェールだった。老若男女に化けられる特技を活かして、いとこの長島澪のサポートを受けて高価な絵を盗む。  IQ200の頭脳で探偵を自称する桐生健太は、宿敵の相手。怪盗ヴェールが現れるところに、必ず健太の姿がある。怪盗ヴェールは警察の罠を華麗にかわして、絵を盗む。

コドク 〜ミドウとクロ〜

藤井ことなり
キャラ文芸
 刑事課黒田班に配属されて数ヶ月経ったある日、マキこと牧里子巡査は[ミドウ案件]という言葉を知る。  それはTMS探偵事務所のミドウこと、西御堂あずらが関係する事件のことだった。  ミドウはマキの上司であるクロこと黒田誠悟とは元同僚で上司と部下の関係。  警察を辞め探偵になったミドウは事件を掘り起こして、あとは警察に任せるという厄介な人物となっていた。  事件で関わってしまったマキは、その後お目付け役としてミドウと行動を共にする[ミドウ番]となってしまい、黒田班として刑事でありながらミドウのパートナーとして事件に関わっていく。

宵闇町・文字屋奇譚

桜衣いちか
キャラ文芸
【文字、売ります】──古びた半紙が引き寄せるのは、やおよろずの相談事。 ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈ ──その出会い、合縁奇縁(あいえんきえん)── 小動物(モフモフ)大好きな女性・秋野千代。 亡くなった祖母の書道教室を営むかたわら、売れっ子漫画家を目指すが、現実は鳴かず飛ばず。 稲荷神社に出かけた矢先。 供え物を盗み食いする狐耳少年+一匹を発見し、追いかけた千代が足を踏み入れたのは──あやかしと獣人の町・宵闇町(よいやみちょう)だった。 元の世界に帰るため。 日々の食い扶持を得るため。 千代と文字屋の凸凹コンビが、黒と紫色の世界を奔走する。 ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈ キャラ原案/△○□×(みわしいば) Picrewの「少年少女好き?2」で作成 https://picrew.me/share?cd=5lbBpGgS6x

処理中です...