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龍王と狐の来訪者
45話目 Once you party with us
しおりを挟むいつからか裏の世界は近年完全に『ブレックファスト』という巨大な犯罪シンジケートによって掌握されていた。武力によってではなくどこからか調達した莫大な資金を用いて権力者たちとの強いコネと凡ゆる情報を網羅することで巨大な利益を生み出したのだ。
そして最終的には有力な裏組織の面々を利権に取り込むことで実権を握ることに成功した。
もはやどんな仕事をするにもこの組織を仲介しなければならないほどに。
かつて伝説と謳われた空蝉雑技集団とて例外ではない。組織が依頼を受諾した証として"血の切符"という魔法が発行され、依頼主と請負人との間に違約不可能の縛りが結ばれる(空蝉たちの独自の縛りとはまた別に)この血の切符が定めた絶対のルールを破った最悪の場合には組織による血の制裁が待っている。
『おい桐壺。依頼失敗の理由が依頼人の方に危害を加えたからってのはどういうわけだ?しかも危うく殺しかけている。
お前が殺すべきは嗅ぎ回っていた記者の方だろ。何を考えてやがる』
『……なんだよ……あいつ生きてたのか。縛りがあるとはいえ殺し損ねるなんて、ちょっとショック』
『ほんとになにしてんだよ!?』
『別に。依頼主が気に食わなかったんだ。仕方ないだろ。
そいや私がこっちに入ってどれくらい経つ?』
『丁度一ヶ月だ。気に入らないのは分かる。だが殺しを頼む奴に聖人君子はいない。そんなことは当たり前だろう』
『当たり前だとしても私は私が納得しない殺しはしない。今回の奴みたいに貧民街にヤクをばら撒いて女子供を薬漬けにして挙句の果てに拷問して殺すクソ野郎だったら尚更だ』
『……今のは聞かなかったことにしてやる。俺が当主に口利きしてやるから出ろ』
故に。請負人は依頼を故意に反故にすることは出来なくなっているが、空蝉 桐壺は分かった上で自身のエゴを優先した。かつての先代桐壺も似たような事をしでかしていた事を空蝉 篝火は思いかえしていた
「少し羨ましいな……」
空蝉 篝火はとある部屋の一室で愛弟子の空蝉 桐壺の治療を一通り終え、草臥れたかのように椅子に腰掛ける
「さて、明日はどうするかね」
残された時間はそう多くはない。篝火は少しだけ辛そうに独りごちた。
篝火は一流の殺し屋だ。当然ながら今回が失敗した場合の次も考えていた。だが、その前提として空蝉 桐壺がいる場合での話となる
しかしこうなってしまっては泣き言を言っている暇はない。手紙を一枚桐壺に向けてしたためる。万が一の為に。仕事が失敗し、最悪ここに戻ってこられなかった時のために
「行ってくるよ……」
篝火がガチャリとドアを閉めるのと同時に見計ったかのように桐壺は目を開いた
「……」
「ドウシテソンナニ悲シソウナ顔ヲシテイルノ?」
空気に溶けるような声で何者かに問いかけられ、僅かに驚嘆して部屋を見渡すが自分の気配しかない。だが先ほどの声は幻聴というには余りにもハッキリと聞こえすぎた。
「……誰ですか」
「此処ダヨ」
その疑問に答えたのは自身の黒い右手だ。手の甲が三日月に裂けるように口が出現した
「初メマシテ。私ハ"魂"ト"契約"ヲ司ル始祖ガ一体。アナム、ト呼バレテイルヨ」
そう言って怪物は妖しく笑った
ーーー†††ーーー
遂に教会より『赤』の名を冠する事を許されました。これで憧れの白雪姫先輩の背に少しは追いつけただろうか。
頑張ったわね、と褒められたい、凄いわね、と撫でられたい。あわよくば魔導学院の時のようにお姉様とお呼びしたい。そんな甘い夢に浸りながらほくそ笑んでたのはいつの事やら。
いつまで経っても、魔導師総会には顔を出さず、愛しい雪先輩の姿をお見かけしない
どういう事かと黒水筆頭魔導師に詰問しても「いつもこんなんだよ」と、なしのつぶて、雪先輩はどこ!どこにいるんですかぁぁぁ!!
自分はその鬱憤を打つけるように、自身の作り出した魔導具『玉手箱』を手に魔物のデータ採取の毎日だった
「魔物グールの群れ、えー数は20....4...8..大体130体かな」
「対象『グール』で入力っと。玉手箱起動!」
《おはようございます、我が主人。今日も清々しい朝ですね。さあ馬車犬のごとく働きましょう》
「もう夜だよ。っていうか馬車犬ってなに。
この魔導具もしかして今、誇り高きライカンを犬畜生と同列にした?」
其処彼処にグールがいる。どうやら取り囲まれているようだ。既に逃げ場は何処にもいない。
《そんなことよりまず目の前の危機的状況をどうにかするのが先なんじゃないですか?》
「……そんなこと?」
《痛い痛い痛い。痛いです。玉はデリケートなんです。もっと優しく取り扱ってください。魔導具侵害で、訴えますからね!嘘です。本当にごめんなさい。
対象を認識しました。4番の火銃へと状態変更が望ましいと思われます。5分弱で殲滅可能。起動認証》
「……承認。んじゃま、行きますか」
自分の宣言とともに黒い長筒。通称『玉手箱』が二丁の近距離火銃へと姿を変える。火銃には撃鉄の代わりに時計の様な物が取り付けられており、その針がカチッカチッと回り始める。それを確認してから火銃を構えてグールに向かっていく
「Ban! Ban! Ban!」
引き金を引くと、銃口が火を吹く。その度にグールの頭蓋に風通しの良さそうな大穴が開通していく
「火銃前より良い感じだね。射程が少し伸びてて、狙ったところに当てられる」
グールという魔物は人肉を好む。しかし複雑な動きはせず単純明快。力も弱いから単一では大した脅威にはなりえないが、魔力抵抗力の低い人間がグールに噛まれたり、その血肉を僅かにでも体に取り入れてしまった場合、簡単にグールに変貌してしまい数を増やしていくことから決して侮ることは出来ない相手だ
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「とはいっても」
「所詮はグール」
一定の実力さえあればグールは多少数がいても苦もなく倒せるわけで、あれだけいたグールも4分が過ぎる頃には残り数体になっていた
「126.127.128.129!そして、あんたで最後」
「時間は4分55秒、まあ良い見立てかな」
《状況終了。お疲れ様でした》
5分経つと同時に玉手箱の姿が火銃から黒筒に戻る。黒筒をガンッ!と足元に置いて一息ついた瞬間、突如現れた131体目のグールに首元に噛み付かれた
「まだ一体残ってた。自分の魔力感知では130体だったはずだったけど、感知に引っかからないなんて、何したんです?」
自分が問いかけてもグールは呻くばかりで返事はない。当たり前だ。そもそもグールになった者に自我は存在しないのだから。だが、グールになる以前の魔法やスキルを使える特殊な個体が稀に出現する
自分の魔力抵抗力は普通より少しだけ強い程度で、同じ魔導師である雪先輩とは天と地ほどに分け隔てられているが、微量ならグール化するより早く身体が抑え込むだろう。しかし首元の場合は傷の大きさによっては致命傷だ
「でも残念だったね。自分の体は火だよ」
噛み付いたグールは瞬く間に火達磨になり、そして直ぐに地面で転がりながら灰になって風に溶けていった
「最後はちょっとビックリ。やっぱりグール相手に近付くのは少しリスクがあったな。帰ったら今日の戦闘データも玉手箱に入力しておくか」
殲滅したのを見計ったかのようにprrr.と連絡型携帯水晶に通信が入ってきた。相手の名前は────
「せせせ先輩からだ!はわわ、なんだろう、どうしよう」
慌てふためいてると携帯が止まる。取り損ねてしまったようだった。やってしまった
がっくりと項垂れていると、携帯から無機質な音の後に伝言が流れ始める
「至急、送られたこの座標まで来て力を貸してください」
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