ガラスの欠片が繋ぐ世界

のえぴん

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7 虹色の光に祝福されて

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 私はファルネスに連れられて、街の中心にある「光の泉」へとやってきた。泉の周りにはガラスの装飾が美しく配置され、まるで昼間でも輝きを放っているようだ。ここに来る前に、ギルドの契約書や街に住むための書類を一通り書かされ、少し疲れが出てきているが、この美しい光景に息をのんだ。

「琉衣、大丈夫か?」と、ファルネスが心配そうに聞いてくる。

「大丈夫……と答えれば、嘘になるかも」と私は苦笑いを浮かべた。「さっきの書類、思った以上に精神的にきつかったから」

「ふむ、琉衣は書くことが苦手のようだな」と、ファルネスが笑みを浮かべる。「しかし、君がここで街の住民として認められたことを示す大切な書類だったのだ。それよりも、ここが今夜の祭りでメインとなる会場だ」

「ええ、本当に綺麗な場所ですね」

 私は周囲のガラスの装飾を見渡して、思わず感嘆の声を漏らした。

「素晴らしいだろう」とファルネスがうなずき、装飾を指さした。「この街では、ガラスは光を宿す神聖なものとされている。こうして一つひとつに光が当たるよう工夫されていて、夜になると虹色に輝くのだ」

「虹色に……?」私は目を輝かせる。「まるでイルミネーションみたいになるんですね」

「うむ、まさにそうだ。夜が訪れると、この街全体が幻想的な光で満たされる。今夜の祭りも、きっと君にとって特別なものとなるだろう」

 そう話すファルネスの声には、確かな自信と、祭りに対する誇りが感じられた。彼が私を装飾品を取り付けている人たちのところへ案内し、「紹介しよう」と、皆に声をかけた。

「皆さん、ご苦労さまです」

「あっ、イルヴァランさん。こんにちは!」と、一人の男性が元気よく返事をする。「今年も素晴らしい装飾で、街全体が虹色に輝くのが楽しみですね」

「その努力の成果を見せてくれるのは、君たちのおかげだよ」とファルネスが柔らかく返す。皆が顔を上げ、ファルネスに挨拶しつつ、視線を私に移した。

「ところでそちらのお嬢さんは……?」と、作業をしていた女性が興味津々に尋ねる。

「紹介しよう。この街、初のガラスと光を司る御神体――真城様だ」

 その瞬間、場がしんと静まり返った。全員が一斉に作業の手を止めて私を見つめ、驚きと尊敬の入り混じった視線を向けてくる。

「イルヴァランさんが嘘をつくわけないし……」と、誰かがささやいた。

「まさか、本当に御神体なのか?」

「御神体だなんて……何かの冗談じゃないのか?」

 彼らのざわめきに、私は顔が熱くなるのを感じて、思わずファルネスに助けを求めるように目を向けた。すると彼が私に優しい目を向けて頷いた。

「さあ、琉衣。ここにいる皆さんに簡単な挨拶をしてくれ」

「え、ええ!?私が!?」

「御神体としてここに立つ以上、まずは君自身の言葉を聞かせるのが礼儀というものだ。皆も安心したいだろう?」

 ファルネスの言葉に、私はなんとか覚悟を決めた。深呼吸をして、声を出す。

「は、はじめまして……私は、このガラスと光を司るクリストフィアの御神体、琉衣 真城といいます。今はまだ未熟ですが……皆さんと一緒に、この街を彩る手伝いをさせていただければ、と思います」

 すると、周りの人たちが一斉に歓声を上げ、拍手が巻き起こった。「御神体様!」や「女神様!」と声をかける人々がいて、私はさらに顔が赤くなった。

「おい、あの人……兵舎にいた記憶喪失のお嬢さんじゃないか?」と、後ろの方で小さな声が聞こえた。

「ああ、まさか、こういうことになろうとは……」と、別の兵士が顔を見合わせて驚いている様子だ。

 ファルネスが再び皆に向かって声をかける。

「皆さん、琉衣様はまだ地上に降りられたばかりで、何もわからない状態です。しかし、こうして自ら祭りの準備に参加してくださることを光栄に思いましょう。祭りの最後には、このクリストフィアの街に、素晴らしいお告げをいただけることでしょう」

 その言葉に、再び皆が喜びの声を上げる。ファルネスが穏やかな声で、祭りの意義について語るのを聞いていると、私も次第に「御神体」としての役割に少しずつ向き合う気持ちが湧いてきた。この街で人々の期待に応えるため、私もこの祭りに全力で参加しよう――そんな思いが心の奥で芽生えた。
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