上 下
2 / 10
今世

二度目の人生

しおりを挟む


…彼方…。

―おにいさん。

…ん?

―おにいさん、いきたい?

…俺は死んだから、生きられないよ。

―まだしんでないよ。たましいがいきてるから。

…そうなのか。不思議だな。

―ねえ、いきたい?

……生きたいよ。したいこと、まだあるんだ。

―じゃあ、ぼくのからだ、あげる。

…え?

―ぼくのたましいは、びょうきでしんじゃったの。

―からだはまだいきてるから、たましいがあれば、いきられるよ。

―だから、あげる。

…いや、いいよ。君の身体は、君だけのものだ。俺が貰うわけにはいかない。

…でも、ありがとう。気持ちは受け取っておくよ。

―あのね、ぼくも、いきたいの。おにいさんがぼくのからだでいきてくれたら、ぼくもいきていることになるんじゃないかな。だから、うけとって。

―ちがうせかいのぼく。

…違う世界…?

―ちがうせかいでも、たましいがちがっても、いきているひとはおなじなんだ。おにいさんのかなたさんとあえるかもしれないよ。

……彼方…。

―さあ、おきて。かあさんがぼくをまってるんだ。ぼくがしんだら、かあさんはひとりになる。かあさんをひとりにしないで。

………。

―おにいさん、かあさんのこと、おねがいね。かあさんをたいせつにしてくれるなら、すきなひとといっしょにいてもいいよ。

……分かった。君の分まで、君のお母さんを大切にするよ。だから、安心してくれ。

…チャンスをくれて、ありがとう。

―こちらこそ、ありがとう。

―それとね、もうひとつ、おねがいがあるの。

―かあさんには、ぼくのたましいがしんじゃったこと、ないしょにして。かあさんにかなしんでほしくないんだ。うそをついてもいいから、ずっとないしょにしてね。

……出来る限り頑張るよ。失敗したら、ごめん。

―ちゃんとがんばってくれたら、しっぱいしても、ゆるしてあげるよ。

―がんばってね、おにいさん。

―さようなら。

…さようなら。





「……で、き………い……ん……」

…?

優しい女性の声が聞こえる。

「も…あさ…、…なで」

俺はこの声を知っている。

「奏、起きて」

泣きたくなるほど懐かしくて、大好きだった、声。

「…かあさん」

呟きながら、目を開けると、随分前に亡くなったはずの母親が「奏っ!ああ、良かった…!もう大丈夫よ」と涙ぐみながら微笑みかけてくる。

「……」

…俺は彼方との結婚式当日に、控え室で楓に刺し殺された…はずだ。

どうして、母さんがいるんだろう。

これは夢か?それとも、今までのことが全部夢だった?

……夢?

っ、そうだ。俺はさっき、子供と話して、身体を譲り受けた…。

「?…どうしたの?どこか痛い?」

返事をしなかったからか、涙を拭った母さんが、心配そうに呼び掛けてくる。

「かあさん、おれはだいじょうぶだよ。しんぱいしないで」

「えっ?奏、あなた…」

…え?

母さんが驚いてるけど、俺も驚いた。

何だ、この声と発音は。

幼くて高い声、舌足らずな発音。

まるで幼児じゃないか。

流暢に話してたから、六、七歳くらいだと思ってたけど…もしかして、違うのか。

もう一人の俺は、一体何歳なんだろう。

「いつから俺って言うようになったの?」

「…え?」

「四日前まで、ぼくだったじゃない。急にどうしたの?」

…早速失敗した!ごめん!

そうだった。

一人称が俺に変わったのは、小学一年生の時、クラスメートの男子一人にやたら絡まれたことが原因だった。

[男か女か分かんねー顔してる]だの、[自分のこと僕って言うのかよ。じゃあ、僕ちゃんだな]だの、[言葉も女みてぇ]だの、[奏ちゃん、今日も可愛い~]だの、ウザ絡み(ウザい絡み)されたからだ。

一人称を俺にして、口調も男らしく…というか、口が悪いと言えるくらい変えた。

一人称と口調が変わったら、性別を迷われることも、間違われることも、なくなった。

ムカつくけど、ある意味あいつのお陰ではある。感謝はしないけど。

[前の方が良かった]とか、知るか。何落ち込んでんだ、って余計ムカついた記憶がある。

変わる前、母さんに事情を話すと、[そう。イメージチェンジするのね。いいんじゃない?私はどんな奏も好きよ]笑って、頷いてくれた。

今は、そうじゃない。

四日振りに起きた息子が、急に一人称と口調を変えてたら、驚いて当然だ。

だけど今更、戻せない。

見た目は幼児でも、精神は二十八歳なんだ。

可愛らしい言葉遣いなんてしたら、俺は間違いなく、恥ずかしくて死ぬ。

何とか、イメチェンできるよう、誤魔化さないと…。

「てれびで、おとこのひとがかっこよかったから、まねをするんだ」

我ながら苦しい言い訳だ!

母さんの背後にテレビが見えたから、出任せを言ってしまった。

「あら、そうなの。いいんじゃない?私はどんな奏も好きよ」

…あっさり騙されてくれた。

そうだよ、母さん、結構おっとりしてた。今思えば、育ちの良いお嬢様だから、のほほんとしているタイプだったな。

「格好良くなりたいなんて。奏はまだ三歳だけど、やっぱり男の子なのね」

勝手に納得してくれて、助かったけど。

…騙されやすそうだ。俺が気を付けないといけないな。

「……」

というより。

ちょっと待て。

目を疑う光景が飛び込んできて、若干混乱する。

説明してほしい。

その耳と尻尾、何?

母さんにそんな趣味あったっけ?

…いや、本当に、どういうことだ。どっちも動いてるぞ。

……仕方ない。嘘をつくのは申し訳ないけど、病気のせいで、記憶の一部が抜け落ちたことにしよう。


この世界は、六つの王国が同列の立場で集まり、その全ての国を統治する帝国、計七つの国で構成されている。

複数の王国を支配下に置く帝国は、王国よりも強大で、君主(皇帝)の支配力が強い。

帝国の政体は、帝王が絶対的な権力を持つ「絶対君主制」で、王国の政体は、憲法に基づいて国王が権力を行使できる「立憲君主制」。

絶対君主制は「帝王が全ての権力を握り、法律や議会の決定に縛られずに政治を行える国」

立憲君主制は「国王が議会に政治を任せ、自らは憲法が定めた国王としての仕事(外交など)を行う国」


国としての詳細は、それぞれの分野に特化した、王国。

学術都市、学問王国。

医術都市、医療王国。

機械都市、文明王国。

芸術都市、文化王国。

武術都市、武力王国。

娯楽都市、自由王国。

この順番で、王国が円形になるよう隣接し、その中心地で、六つの王国を合わせたよりも大きな地域が、帝国。

英知と栄華、防衛と襲来、最先端技術、全てを極めた、重要な帝都、神楽帝国。


そして最後に。

この世界に住まう全ての人間が、獣人である。


母さんは、三歳の俺でも理解できるように、もっと分かりやすく、長めに説明してくれたけど、簡潔にすると、こういうことだ。

異世界だな。

でも、もう一人の俺が言うには、この世界は並行世界(パラレルワールド)らしい。

魂が違っても、生きている人は同じ。

…もし、前世と同じ行動をしたら、今世も同じになる可能性が高い。

それなら、過去を変えれば、未来も変わるんじゃないか?

俺が普通の子供と同じように生活したら、母さんは死なない。

母さんが死ななければ、後々父さんに引き取られることもない。

父さんに引き取られなければ、お義母さんが死ぬことも、楓が狂うことも、ない。

折角のチャンスだ。人生をやり直して、二度と同じ失敗はしない!

…彼方には会いたいから、何とかしよう。それと、楓には絶対会わないようにしないと。

―二度目の人生が、今、始まる。





異世界の奏くん(三歳)は、本来なら、もう少し辿々しい話し方でしたが、精神世界で話し合ったので、流暢に話せていました。

魂は死んだけど、身体が生きている奏くん。

身体は死んだけど、魂が生きている奏。

需要と供給が一致し、奏は生き返りました。

偶然、いや必然ですが、二人は同時に死んだので、成り代わり(憑依?)が可能でした。

魂交換といった方が正しいですね。

どちらも現世に未練があったので、奇跡が起きました。


前世でウザ絡みしてきた男の子は、奏が初恋でした。

好きな子に意地悪しちゃう系の男子です。


ちなみに、奏は性別を超越した美貌の持ち主です。

超絶美人ですね。

母親似の華奢な体つきで、身長は173cm。色白で、肌がきめ細やかで、触り心地抜群。外見だけなら、顔以外は母に似た部分が多い(母は儚げで可憐な顔立ち)

…美人薄命。


楓は絶世の美男子。神々しい、超絶美形。

顔も体格も父親似で、181cmの細マッチョ。芸術の彫刻みたいな、均整のとれた体型。


奏と楓が歩いてたら、通行人は立ち止まったり、振り向いたり、写真や動画撮ったりします。

奏は声を掛けられる。無表情でも、まだ話しかけやすい。

楓はない。美し過ぎて、恐れ多く、近寄り難い。あと、超人気芸能人より有名な人(神楽家次期当主)なので、みんな声を掛ける勇気がない。畏敬の対象。


彼方は人畜無害そうな綺麗な優男。長身痩躯(痩躯に見えるだけ)

虫も殺したことがなさそうな顔をしてるけど、着痩せするタイプで、脱いだら凄い。細マッチョだけど、実用的な感じ。必要なところに必要な筋肉がある。

身長は183cm。


獣人大好きだけど、彼方と楓(特に楓)の動物に悩みました。

今はやっと決まったので、続きを頑張ります。

…内容も色んなパターンを考えたんですが、ちょっと「え?」という展開の方にしたいと思います。

彼方と楓以外にも、社を出したいです。

…本当は湊も出したかった…!でも、あの子、「武力王国」出身だから。

奏は「武力王国」には絶対行かないんだよ…。武術には興味がないから、行く必要も用事もない。

残念だけど、仕方ない。諦めます。


…ネーミングセンスがないことも諦めます。

題名も、人や動物、国の名前も、考えるの、全部苦手です。

ダサくても仕方がない…。

ちっちゃいことは、気にしなぁ~い☆(某芸人さん風)

あれ。小さいだっけ?小さなだっけ?

うろ覚えで忘れてしまった…。

まあいいや。気にしなぁ~い☆

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

勇者よ、わしの尻より魔王を倒せ………「魔王なんかより陛下の尻だ!」

ミクリ21
BL
変態勇者に陛下は困ります。

モフモフになった魔術師はエリート騎士の愛に困惑中

risashy
BL
魔術師団の落ちこぼれ魔術師、ローランド。 任務中にひょんなことからモフモフに変幻し、人間に戻れなくなってしまう。そんなところを騎士団の有望株アルヴィンに拾われ、命拾いしていた。 快適なペット生活を満喫する中、実はアルヴィンが自分を好きだと知る。 アルヴィンから語られる自分への愛に、ローランドは戸惑うものの——? 24000字程度の短編です。 ※BL(ボーイズラブ)作品です。 この作品は小説家になろうさんでも公開します。

何故か僕が溺愛(すげえ重いが)される話

ヤンデレ勇者
BL
とりあえず主人公が九尾の狐に溺愛される話です

雪狐 氷の王子は番の黒豹騎士に溺愛される

Noah
BL
【祝・書籍化!!!】令和3年5月11日(木) 読者の皆様のおかげです。ありがとうございます!! 黒猫を庇って派手に死んだら、白いふわもこに転生していた。 死を望むほど過酷な奴隷からスタートの異世界生活。 闇オークションで競り落とされてから獣人の国の王族の養子に。 そこから都合良く幸せになれるはずも無く、様々な問題がショタ(のちに美青年)に降り注ぐ。 BLよりもファンタジー色の方が濃くなってしまいましたが、最後に何とかBLできました(?)… 連載は令和2年12月13日(日)に完結致しました。 拙い部分の目立つ作品ですが、楽しんで頂けたなら幸いです。 Noah

マイナー18禁乙女ゲームのヒロインになりました

東 万里央(あずま まりお)
恋愛
十六歳になったその日の朝、私は鏡の前で思い出した。この世界はなんちゃってルネサンス時代を舞台とした、18禁乙女ゲーム「愛欲のボルジア」だと言うことに……。私はそのヒロイン・ルクレツィアに転生していたのだ。 攻略対象のイケメンは五人。ヤンデレ鬼畜兄貴のチェーザレに男の娘のジョバンニ。フェロモン侍従のペドロに影の薄いアルフォンソ。大穴の変人両刀のレオナルド……。ハハッ、ロクなヤツがいやしねえ! こうなれば修道女ルートを目指してやる! そんな感じで涙目で爆走するルクレツィアたんのお話し。

一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!

当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。 しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。 彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。 このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。 しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。 好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。 ※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*) ※他のサイトにも重複投稿しています。

美少年に転生したらヤンデレ婚約者が出来ました

SEKISUI
BL
 ブラック企業に勤めていたOLが寝てそのまま永眠したら美少年に転生していた  見た目は勝ち組  中身は社畜  斜めな思考の持ち主  なのでもう働くのは嫌なので怠惰に生きようと思う  そんな主人公はやばい公爵令息に目を付けられて翻弄される    

異世界に転移したショタは森でスローライフ中

ミクリ21
BL
異世界に転移した小学生のヤマト。 ヤマトに一目惚れした森の主のハーメルンは、ヤマトを溺愛して求愛しての毎日です。 仲良しの二人のほのぼのストーリーです。

処理中です...