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自覚と絶望と決意『聖』
しおりを挟む…あの日のことは、よく覚えている。
頬を染め、もじもじとする大輝は、最高に愛らしくて。
[…初恋の人だから]
発した言葉は、俺を絶望に突き落とした。
大輝への恋心を自覚したのは、中学一年生の夏休みだった。
親の付き添いなしで、二人だけでプールに行く。
[保護者がいない状況で、電車乗ったり、プール行くのは初めてだ]
はしゃぐ大輝は可愛くて、微笑ましい。
同時に、俺とは違うな、とも思う。
俺が反抗する前から放任主義だった親は、[面倒事さえ起こさなければ、好きにしたらいい]と常に放置していた。
だから、両親の都合で必要な場所に連れていくことはあっても、たとえ俺が行きたい場所でも、付き添いをすることは一切なかった。
両親の望むことは、俺が望まなくても強制され、俺の望むことは、問題を起こさず、一人で好きにしろ。
顔色一つ変えず、当然だと言わんばかりの態度で、俺も当たり前のことだと思っていた。
比較する対象がなければ、親だけが子供の常識になる。
無理矢理何かをさせられることはあるけれど、好きなことは何でもできる。放置されるが、邪魔はされない。
不自由か自由か、必要か不必要か…。
判断が難しかったが、[自分の言いなりになる都合の良い人間であれば、どこで何をしようと、全く意に介さない存在。二人にとって、俺はその程度なんだ]と気付いた時、親への関心はなくなった。まあ、元々薄かったが。
「(美咲さんを含む)保護者がいない状況で、自分だけ(今は俺も一緒だが)で何かをする」ことは、大事に育てられた大輝にとって、特別で刺激的らしい。
昨日まではそわそわしていたけど、朝から興奮して口数が多くなっている。
そわそわがわくわくに変わったみたいだ。
大輝と仲良くなり、必然的に家族の人とも関わるようになると、何処かに行く時は、俺も連れて行ってくれた。
詳しくは言ってない(言わないし、言えない)が、少し特殊な家庭環境だと思われている。
息子の友達を気の毒に思った美樹さんは、家族が団欒する中に俺を入れてくれた。
岡本家は、優しくて、温かい場所だ。
…だけど、壊れやすいものを扱うように、必要以上に気遣われていた。
有難い、でも、申し訳ない。
それが本音だった。贅沢な悩みだと思う。
俺の環境を知っても、以前と変わらず接してくれるのは、大輝だけだ。
そして、俺が欲しかったものを与えてくれた。
同情でも、憐憫(れんびん)でも、共感でもない。
愛情が欲しかった。ほんの少しでいい。
少しだけでも、愛されてみたかった。
渇望していたものは、いつしか与えられていた。
空虚な心が無意識に求めていた愛が、親愛という形で満たされ、初めて慈しむ気持ちを知った。
人は愛されて、愛することを知る。
愛されたことのない人間が、愛することを知るはずもない。
優しくしてくれた。褒めてくれた。励ましてくれた。抱き締めてくれた。…好きだと言ってくれた。
大輝が俺に惜しみ無い好意を、親愛を与えてくれる度に、冷え切っていた心が、徐々に温かくなっていった。
心が満ち足りて、幸せだ。
けど…最近は、悩んでいる。
大輝が俺以外の人間と話したり、俺以外の人間に笑いかけたり…大輝が誰かに関わると、もやもやする。
もやもやして、その誰かを酷い目に遭わせてやりたくなる。
何故こんなことを考えてしまうのか、分からない。
分からないことは滅多にないから、悩んでいる。
―原因不明のもやもやは、答えが分かると同時に、俺を更に悩ませることになった。
始めは、波のプール(青い波打ち際に波が打ち寄せる、海のようなプール)で、ゆっくり過ごし、スライダーや飛び込みを思う存分楽しむと、俺たちは飲食が出来るスペースで休憩することにした。
[…ぁ…]
練乳たっぷりな苺のかき氷を美味しそうに食べていた大輝が、ある一点を見つめ出した。
[どうした?]
[……]
[…大輝]
[あっ、え、何?]
[知り合いでもいた?]
[…う、うん…知り合い、かな…ってか、覚えてるの、俺だけかもしれないけど…]
[…そうなんだ]
[ん…。うわ、やっぱり、りな先生だ…]
[りな先生?(知らない女だな…。見覚えがない。誰だ?)]
[俺が通ってた保育園の先生なんだよ]
[よく覚えてたね]
[だ、だって…]
[うん?]
[りな先生は、俺の…初恋の人だから]
一瞬、全ての音が、消えた。
今、大輝は、何て言った?
りなせんせいは、おれの…はつこいのひとだから…。
初恋?
大輝の?
あの女が?
……。
あの女は、大輝の…初恋の人…。
[む、昔の話だからな!初恋あるあるというか…身近な年上の人にさ、憧れと好意がごっちゃになった恋心抱くやつ!]
大輝は照れたのか、早口で、初恋について語っている。
…知らない。
こんな顔をする大輝なんて、知らない。
こんな…恥じらいながら幸せそうに笑う、今まで見てきた中で、一番可愛い大輝の顔を、俺は知らない…。
…もやもや、する。
いや、そんな軽いものじゃない。
…焼かれている。
胸の中で激しく燃える炎で、心が焼かれている。
あの女を見るな。―俺を見ろ。
あの女のことを考えるな。―俺のことだけを考えろ。
そんな顔をするな…。―俺以外を思って、そんな…可愛い顔を、するなよ…。
吐き気がした。
自分の心の醜悪さに。
醜い独占欲。
…醜い、嫉妬。
(ああ…そうか…)
俺は大輝に恋をしている。…気が付かなかっただけで、ずっと前から。
[? 聖、どうした?]
[何が?]
[えっと…なんか、元気ない、気がして]
心配そうに、俺の顔を見る大輝。
(…綺麗だ)
顔の美醜ではなく、心が。
綺麗な心だから、瞳も綺麗なんだろう…。
醜い内心を見透かされそうで、美しい目を手で塞ぐ。
[聖?]
[今、俺の顔を見てほしくない…]
[…そっか]
俺の手に、自分の手を重ねて、大輝は小さく笑った。
[聖、手ぇ冷たいね]
[大輝の手は温かい]
[なぁ、知ってる?手が冷たい人は、心が温かいんだって]
[…根拠は?]
[さあ。俺も、学校で話してるの、ちらっと聞いただけだから、よく知らない]
[そう…]
[でも、それ聞いた時、聖のこと頭に浮かんで…当たってると思ったよ]
[…俺、心温かくないよ。優しくないし]
[そうかな?…少なくとも、俺には優しいじゃん]
[大輝だからね]
[あはは。ありがとう]
[…好きだよ]
[ん?]
[好きだよ、大輝]
[俺も好きだよ。聖、大好き]
[…うん]
[もー、いきなり何だよー!て、照れる!うわ、恥ずっ。…ちょ、ちょっと待った!手を外そうとしないで!今はやめて!]
[顔が見たい]
[マイペース!]
[顔を見せろ]
[横暴!―おやめになって!聖様!]
[よいではないか、よいではないか]
[棒読み!聖、ノリ良くなったよね、ほんと!びっくりだよ!]
[大輝、顔見せて]
[うぅ~…。あっ!]
[…やっぱり、可愛い]
[そ…、そんなマジマジ見られると、大輝照れちゃう]
[照れ隠しでおちゃらけるところも、可愛らしいよ]
[……]
本当に照れたようで、黙って俯く大輝の顔は真っ赤になっている。
(愛しい)
だけど、足りない。
目の前にいる人間が俺じゃなくても、大輝はこの顔をするだろう。
例えば、女子に告白されたら。
(…違う)
違う。違うんだ。
俺が見たい表情は、俺が聞きたい言葉は、これじゃない。
俺は…大輝の特別な好きが欲しい。
簡単に言えてしまうような、好きでは足りない。
(大輝が欲しい)
心も、身体も、全部。
大輝の全てが欲しい。
―奪ってしまえ。
悪魔が囁く。
―奪ってしまえばいい。
(奪って、どうなる?…俺は大輝を悲しませたくない)
―与えればいい。
(悲しみを愛情に掏り替えて、誤魔化すのか?…利己的だな)
―終わり良ければすべて良し。大輝が幸せになったら、独り善がりじゃない。
(…愛しているんだ、心から)
―だから、誰かに奪われる前に、奪え。
(…だから、傷付けたくない)
(俺は…大輝だけは、絶対に傷付けない)
―そしていつか、誰かを愛する大輝を、指をくわえて見ているのか?馬鹿馬鹿しい。
(それで、大輝が幸せになれるなら…自分の心を押し殺すくらい、容易だ)
―心を押し殺すこと自体は容易い。ずっとしてきたことだ。…やっと自由になれたのに、また我慢するんだな、本心を。
(…所詮、人生なんて、そんなものだろ。…俺は大輝の笑顔が一番好きなんだ。曇らせたくない。…大輝と一緒にいたい。その為なら、恋心を押し殺す)
悪魔の囁きは、聞こえなくなった。
二重人格ではないが、心の中にある、醜い部分である自分と、向き合った。
望みはシンプルで。
(大輝と一緒にいたい)
(大輝を傷付けず、大輝の笑顔を曇らせず、大輝が幸せになれるよう…)
(俺の恋心は押し殺す)
することもまた、シンプルだった。
どうやら、大輝の好みは、悪くないみたいだから…りな先生とやらには、どこか問題があると思えない。全体的に平均的―流石に、今日知った相手の趣味や現在の収入は知らないが。大輝が好きになるくらいだから、内面は良いに決まっている―変な女に捕まることはなさそうだ。
…仮に騙されても、大輝に気付かれないよう、自然な形で排除すれば問題ない。
障害は徹底的に叩き潰す。
害があるなら、容赦する必要もない。
大輝は俺が守る。
心身も、将来も、幸せも…全力で守ってみせる。
どんな時も、誰が敵でも、味方でいる。
気兼ねなく、甘えたり、頼ったりできる、存在になる。
…その為にも、俺は完璧な人間になろう。努力は惜しまない。
鈍っていた思考がクリアになり、こちらを見つめる大輝と目が合った。
俺が考え込んでいる間、静かに待っていてくれたようだ。
[考え事、終わった?]
[ああ。待たせてごめん]
[謝らなくていいよ。―でも、珍しいね。聖が考え込むなんて]
[問題は解決したから大丈夫]
[早っ。…頭良いと、悩み事の解決も早いんだなぁ。俺が悩んだら、グダグダ・グルグル考えて、結局解決できずに、聖に相談しそう…。うわ、有り得る]
[いつでも相談に乗るよ]
[えへへ、ありがと。…俺に言いたくないことなら、無理して言わなくてもいいけどさ…俺も聖の相談乗るから。役に立てないかもしれないけど、俺に出来ることは、何でもするよ]
[ありがとう]
最後に、流れるプール(ドーナツ型のプールで、ゆらゆらと、ぐるぐる流れるもの)でのんびり涼み、今日は帰ることにした。夏休みは始まったばかりで、場所も近く、必要なお金も安いから、何度でも来れる。
流れるプールには、ただ浮かんでいる人、浮き輪に掴まっている人、幼い子供連れの親子、老若男女がいた。
[…これ、楽しい?]
[ビミョー…]
ゆっくり遊びたい人や泳ぐのが苦手な人には良いかもしれないが、泳ぎが得意で体力の余っている俺と大輝には物足りないプールだ。
[スライダーと飛び込み、大輝はどっちに行きたい?]
[どっちも!]
[ママ~!]
大輝の声と幼い子供の声が被った。
[んー?]
何となく気になったのか、大輝が声のした方を向いた。
[…あっ…]
驚いた表情で固まる大輝。
ちょうど人がいて、俺には見えない。
[大輝、どうした?]
[…ああ…ちょっと驚いただけ。りな先生、結婚して、子供がいるみたい。旦那さんと一緒にいる]
[…残念?]
[ん…いや、びっくりしたけど、残念とは違うかな…。幸せそうだし、良かったな、って]
[良かった…?]
[うん。…結局さ、好きは好きでも、ショック受けるほど、本気の好きじゃなかったんだよ。そりゃ、あの時は大好きで、大きくなったら結婚してほしい、とか思ってたけど…昔と今の俺は違うから]
[そういうもの?]
[そういうもの。俺はね]
本気の好き、か…。
俺は本気で好きだよ、大輝。
[あー、俺も結婚したい。可愛い奥さんと可愛い子供。いいよなぁ…。男の子だったら、キャッチボールしたい。女の子だったら、一回くらい好きって言われたいな…]
夢見るような顔で呟かれた言葉に、衝撃を受ける。
(大輝が…結婚…子供…)
いつか、好きな人ができて、そして愛する人になる…。
その先を考えていなかった。
俺や大輝には、まだ遠い出来事だと思っていたから。
でも、好きな人と両思いになれば付き合うし、大人になって相手がいれば結婚するし、結婚したら子供ができることもある。
どうして、こんなに簡単なことを思い付かなかったのだろう。
…いや、愚問だな。
気付きたくなかったからだ。
大輝にとって、俺が一番の存在でなくなることは、まだ耐えられる。
だけど、大輝と離れることは、耐えられない。
…たとえ一番じゃなくても、傍にいられるなら、良いんだ。
何よりも辛いのは、離れ離れになること。
大輝と一緒に生きられない未来なんか必要ない。
そんな、無意味で無価値なものは、いらない。
(大輝…痛いよ)
心が痛い。
押し殺した心が、とても痛い。
だから、分かる。
(この気持ちは、大輝を困らせてしまう)
世の中には、知らない方が良いこともある。
きっと、これは、知らない方が良い。
―恋を自覚して、絶望と痛みが生まれた。
喜びや幸せを与えてくれた大輝によって、新たな苦しみが生まれるとは思わなかった…。今後、日に日に募る恋心に苦しめられることを、この時の俺は知らない。
大輝に好きな女ができて、過ごす時間が減ることを覚悟していたが、そんな日がくることはなく、高校生になった。
[可愛い][優しい][憧れる]これらを口にすることはあったが、好きになることはなかったようだ。
大輝は決して女好きではなく、年頃の男子らしく、それなりに女子に興味があった。ただ、興味が好意になることはなかった為、何も変わらない日常を過ごせた。
アルという(色んな意味で)イレギュラーな存在は増えたが、高校生になっても穏やかな生活を送れた。
そのせいで、失念していた。
変化は突然訪れるものだということを。
高校三年生になると、早速進路についてのプリントを提出した。
第一希望は、地元が近く、県内で一番良い大学。
第二希望も第三希望も書かなかった。
受験は余裕で合格する。
筆記も面接も内申も申し分ないから。
推薦でも受かる。
自惚れではなく、事実だ。
放課後、担任に呼び出された。
[神谷なら、もっと上の大学を狙える。寮がある大学もある。県外だが、条件は良い]
説得されたが、答えは決まっている。
丁重にお断りした。
唯でさえ、違う大学に行く大輝とは会える回数が減るのに、県外に行ったら、もっと会えなくなる。
冗談じゃない。
そんなことになったら、気が狂う。今でも危ないのに。
…きっぱり断ったが、進路指導の教師にも説得されるようになった。
しつこい。
温厚なアルが珍しく嫌がるほど、教師たちはしつこい。
進学率の問題もあるんだろうが…煩わしいな。
新学期が始まって、一週間後、大輝の態度に違和感を覚えた。
あからさまではなく、徐々に、けれど確実に、俺から距離を置こうとしている。
元々幼なじみや親友という関係で済ますには、俺と大輝の距離は近過ぎた。
それを茶化されることもあったし、[べたべたして、気持ち悪い]と言われることもあった。
…後者を言った奴は、男女共に後悔させてやったが。
まあ、それはどうでもいい。
大輝が俺と距離を置こうとしていることに焦燥した。
(…俺の気持ちを知ったのか?)
親愛ではなく、恋情を向けられていることに気付いて、疎ましくなったのだろうか。
いや…それなら、明確に避けられるはず。
素直な大輝は隠し事が苦手だ。
気まずい相手と距離を置くという、遠回しなことはできない。
(緩やかとはいえ、大輝の態度が明らかに変化した…理由は分からない)
そういえば、アルに言われた。
大輝のことで気付いていない何かがある、と。
大輝を一番幸せにできるのは、俺だけだと思う、とも。
(…未だに、何を気付いていないのかは、謎だ)
…大輝のことは、誰よりも理解していると思っていた。
けど…。
(分からなくなった)
もしくは、理解している『つもり』だったのかもしれない。
(…大輝…)
どうせ離れてしまうなら…。
(壊してしまおうか)
現状維持―幼なじみ兼親友の関係―では、大輝を繋ぎ止めることができない。
(…早計に結論を出すべきじゃない。まだ、大丈夫)
とはいえ、時間は有限だ。
慎重且つ速やかに判断しなければ。
思い悩む俺に、大輝があることを告げた。
その言葉で、吹っ切れた。
[大輝のことが一番好き]
それが好きな人の条件なら、俺以上に適した人間はいない。
だって、そうだろう?
大輝の為なら、何でも出来る。命も惜しくない。全てを捧げる覚悟がある。
俺より、大輝を愛している人間が、どこにいる?
いるなら連れて来いよ。
じっくり話し合おう。
…大半は、醜態を晒して、逃げ出すだろうが。
(大輝…世界で一番好きだよ。いつか、姿や心が変わっても、ずっと好きだ)
何があっても、この気持ちは変わらない。
(愛してる、大輝)
幸せにすると誓う。
だから、
(俺の隣で生きてくれ)
まず、好意を示すことにした。
…大輝は手強かった。
熱っぽく見つめても、
[風邪引いてる?大丈夫?]
好意と欲情を隠さず触れても、
[くすぐったい~]
抱き締めて[好きだ]と囁いても、
[俺も好きだ]
何をしても、伝わらない…。
鈍い。
そんなところも可愛いけれど。
可愛いけど…鈍過ぎる。
恋心を押し殺すことはやめて、あからさまに好意を伝えているにも関わらず、少しも分かってもらえない。
…意識されていないことは明白だった。
当然ではある。
いきなり同性を恋愛対象として意識するのは難しい。異性愛者であるなら、尚の事。
(どんな反応をするか見たいのに。…意識すらされないなんて、話にならない)
―その後も、アプローチを続けたが、悉く(ことごとく)失敗した。
(俺のアプローチに問題があるのか、鈍感過ぎる大輝に問題があるのか…)
悶々としていたら、オススメの定食屋さんがあるから、聖も行かない?と大輝に誘われた。
二つ返事で頷いた。俺が大輝の誘いを断る訳がない。
[いらっしゃいませ。あ、大輝]
[純!聖連れてきたよ!]
[こんにちは]
(見覚えがある…。以前、口論してた人間か)
[こんにちは。会えて嬉しい。君のこと、大輝から聞いてた。カッコよくて、優しくて、色々凄い、最高の親友だって]
[純ー!シャラップ!]
[しゃらっぷ…?]
[黙れって意味]
[ん?分かった。黙るね。…ご注文は?]
[黙ってない…。暴露されないなら、いいや。俺、唐揚げ定食]
[俺も同じものを]
[唐揚げ定食お二つ。ありがとうございます。…大輝、いつもより、嬉しそう。一緒だから?]
[じゅ~ん~?ちょっと話そっか?]
[? いいよ]
大輝が男の腕を引っ張って、奥に行った。
少しすると、若干げんなりした顔で戻ってきた。
[まさか、羞恥心がないなんて…。慶くんも大変だな…]
[大丈夫?]
[うん]
[彼と仲良いんだね]
[まあね。―話しやすくて、こう、波長が合うっていうか…なんか落ち着くんだよ]
[へぇ…]
(波長が合うんだ。へぇ…そう)
醜い嫉妬が頭をもたげる。
[ま、聖が一番だけど]
…どす黒い気持ちが一瞬で消えた。
大輝の言動で一喜一憂する様は情けないが、自分ではどうしようもない。
(俺はちょろいな…。大輝限定だが)
純は、大輝の友人として、理想の人間だった。
正しくは、俺の理想だ。
(純がいるなら、安心だ)
たとえ俺が傍にいられなくても…俺がいなくても、大丈夫だろう。
(大輝…)
大輝が好きだ。
好きで好きで堪らない。
狂気染みた愛情を抱くほどに。
…本当に愛しているなら、この気持ちは伝えず、死ぬまで隠し通すべきだと、分かっている。
知ってしまったら、嫌でも返事をしないといけなくなる。
大輝は苦悩し、悲しむと思う。
一方通行な思いは、愛する人の幼なじみ兼親友を奪うことになる…。
(だから…俺は恋心を押し殺すことにしたんだ。大輝を傷付けないように、そして、悲しませないように)
捨てることは到底できないから、押し殺すことにした。
(でも、結局…抑えきれなくなった)
俺は…やはり、間違っているのだろうか。
…そうだとしても、手遅れだ。
(無理なんだ。もう、これ以上…偽ることはできない)
…気持ちを伝えても、伝えなくても、どのみち別離は避けられない。
(それなら、はっきり伝えよう)
―来週の卒業式。
在り来り(ありきたり)だけど、イベント好きな大輝に告白するには相応しい日だ。
(大輝…。俺をどう思ってもいい。それで大輝の苦しみが軽減されるなら、嫌われても憎まれても、いいよ。でも…。どうか、これまでの日々だけは否定しないでくれ。俺たちの思い出…俺が幸せを感じられた、唯一の時間。大輝には…、大輝にだけは、否定されたくない)
(愛している。これまでも、これからも、大輝だけを)
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