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友達(協力者)『聖』

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大輝は隠し事が苦手だ。

話を聞いてもらいたいのもあるだろうけど、隠し事をしたら、後ろめたい気持ちになる、と言っていた。

大事なことも、他愛ないことも、家族に言わないことも、俺には色々話してくれる。

他の人間だったら聞き流すような、心底どうでもいいことでも、大輝が話すことなら、どんな内容も俺には意味がある。

かといって、大輝の全てを知りたいとは思わない。

親しい相手でも、言いたくないことも、知られたくないことも、あるだろう。

それを暴くのは本意ではない。大輝から話してくれる時を待つだけだ。

とはいえ、大輝は分かりやすいので、俺に悩み事を隠していることも、その内容も、知っていた。

(そんなに悩まなくても、大輝はすぐに友達ができるよ)

大学生になったら、沢山友達ができて、飲み会や合コンに行って、彼女もできるよ、きっと。

だから…今くらい、大輝の心と時間を独り占めしたって、いいじゃないか。

…いつか、大輝は俺以外の人間を選ぶ。

その時、笑顔で祝福できるように、今はただ、幸せな時間を過ごしたい。

そう、思っていた。



[不思議だ]

呟かれた言葉は唐突で、一瞬、誰に何を言っているのか、分からなかった。

後ろを向くと、白に近い銀髪と赤目の少年がいた。

(アルビノの儚げな美少年…。A組の石田アルト、だったか)

大輝が気にしていたから、名前とクラスを覚えた。


[おぉ…。珍しいなぁ。綺麗な色だね、聖…つか美少年!顔面偏差値高っ]

[確かに。綺麗だね]

(けど…赤い目は、少し不気味だと感じてしまう)

本能的に厭う色。

アルビノというより、真っ赤な瞳が印象に残っていた。


[不思議って何が?]

人好きのする笑みを浮かべている石田に問い返す。

[どうでもいい相手と、無理に付き合いを続けていることが。…岡本くんの為と推測しているんだけど、どうかな?]

(こいつ…)

面倒だな。

目的は何だ?

[君には関係ないだろ]

今の時代、いつ、どこで、何があるか分からない。

俺は全身全霊で大輝を守るつもりだが、場所によっては、すぐに行けないかもしれない。

非常事態、もしくは俺の死後、大輝を気にかけて、支えてくれる誰かが必要だ。

その為に、人情の厚い、義理を立てる人間に、恩を売り、助け、役に立った。

彼らは、大輝が困っていたら、迷いなく手を差し伸べてくれるだろう。

俺の大切な親友だから、と。

信用できる人間を見極め、親しくなるのは正直面倒だったが、労力に見合う、保険を掛けた。

―俺はいざという時の為に親しくしている人間以外、交流するつもりはない。

ただでさえ、アルバイトで大輝と過ごせる時間が減ったのに…無駄なことはしたくない。

[私では役に立てないかな?]

[…君にメリットはある?]

俺の考えを理解した上で、利用してくれ、と言ってくる石田を訝しく思う。

[あるよ。私は人間観察が好きなんだ。君の協力をする代わりに、私は君を観察する。望みはそれだけだよ]

(変わり者か。俺を観察して、何が面白いのか分からないが…観察されるだけで協力者が得られるなら、楽だな)

[分かった]

[良かった。交渉成立だ。よろしく。…握手は苦手かい?]

[他人に触るのも触られるのも嫌いだ。汚いとまでは思わないけど(親でも嫌だ。…大輝は、大丈夫。寧ろ…触れたいとすら思う。好きな人だからかもしれない)]

[軽い潔癖症なのかな。大変だね]

[(潔癖症とは、少し違う。どうしても我慢できないほどじゃない。今は我慢する必要がないから我慢しないだけで、不快だが、握手くらいできる)]

敢えて否定はしない。

訂正しないままでいると、相手が都合の良いように解釈してくれる。

俺が嘘を吐いたわけではない。相手が勘違いしただけだ。

[潔癖症ではないけど、訂正はしないんだ。…うん、面白い]

[勘違いと思い込みは時と場合によって都合が良いよね]

人の良さそうな笑顔で、腹黒いことを言う石田。

(気さくな人柄で、優しくて、頭脳明晰で、天然ぼけ…と聞いていたが、それだけじゃないな)

[意外と、いい性格をしているんだな。石田]

[ありがとう。―石田ではなく、アルと呼んでくれるかな?親しい人には愛称で呼ばれたい]

[まだ親しくないだろ。…大輝の為にならない人間なら、必要ない]

[排他的だね。こんなに露骨な人も珍しいよ。面白いけれど]

[相手は選んでいる。―石田と呼ばれるのは嫌いなのか?]

[嫌いではないよ。でも、石田くんや石田さんは他にもいるだろう?]

[アルト。大輝と仲良くなれたら、愛称で呼ぶ。それでいいか]

[うん。では、私もその時聖と呼ばせてもらってもいいかな?]

[ああ]


二人は仲良くなった。

アルトの人当たりの良い、柔和な雰囲気を、大輝は好ましく思ったようだ。

[アルって、包容力あるな~。俺に兄ちゃんがいたら、こんな感じだったのかな?…姉ちゃんと似てたら、パシリ×2になってた…]

[大輝にはお姉さんがいるんだね。性格は似ていないみたいだけど]

[ん。顔も似てないよ。姉ちゃん美人だし]

[そうなんだ]

[アルは近所の優しいお兄さんか、従兄の優しいお兄さん!]

[ふふ。ありがとう。―大輝のお兄さんになったら、毎日楽しそうだね]

[アルなら、めっちゃ甘えると思うよ。―アル兄ちゃん!]

[大輝のお話、今日も聞かせてくれる?]

[うん!…何で子供扱いなの?]

[何となく、かな]

[…アルの俺のイメージ…幼児…?高校生なのに…]

[ノリノリだったね、大輝]

[聖、なんつー目で見てるんだよ!ついノリに流されちゃっただけだからね?!幼児返りしてないよ、俺!]

[可愛かったよ]

[ちょっ、アル!]

[大輝が可愛いのは当然だ]

[相変わらずだね、聖]

[え、なにこれ、まさかの羞恥プレイなんですけど]

目が据わっていたのは、大輝と仲良く話すアルに嫉妬していただけだ。

良い子の返事をする大輝は可愛かった。


アルは不思議な男だ。

博愛と排他、正反対の考えを、取り入れている。

恐らく、本来は博愛主義だが、他者に歪められて、排他的にもなったのだろう。

自然体でいるアルの歪さを分かるのは、同じく歪な人間だけだ。

逆も然り。

俺とアルは、考え方や生き方は違うが、歪な人間という共通点はある。

だから…心惹かれる相手も同じだった。


気付いたのは、偶然だ。

赤い目に、優しさ以外の感情が垣間見えた。

愛しさと切なさ…恋情。

(アルは大輝に好意を寄せている)

けれど、それは一瞬で消えた。

見間違いだったのかと思うくらい、大輝を見つめる瞳に、友愛以上の感情は含まれない。

でも。

(見間違いじゃない)

…ただの見間違いなら、こんな気持ちにはならない。

(紛れもない恋愛感情だ)

そうでなければ…打算抜きでも仲良くなりたい相手を…友人を排除したい、なんて思わない。


[アルは大輝とどうなりたい?]

[それは…どういう意味かな?]

[無駄な問答は嫌いだ。…どういう意味か、言ってやろうか?]

[遠慮しておくよ。…参ったな、気付いたのか]

[普通の友人関係になりたいと思ったから、気付いた。…皮肉だな。どうでもいい相手のままなら、気付かなかった]

[隠しているからね。心の奥底に。…いや、記憶に閉じ込めているのかもしれない]

[アルは大輝とどうなりたいんだ]

[付かず離れずな友人に。私は大輝と恋人になりたいわけではないんだ。いつか、親友になれたら嬉しいと思っているよ]

[何故?…俺とアルは、とても似ている。だから…、分かるんだ。アルの本質も貪欲だろう。欲しい何かがあるなら、手段を選ばない。違うか]

[そうだね。私たちは、とても似ている。…聖がいたから、諦めたんだよ]

[……]

[私は聖より先に大輝と会っている]

[!]

[大輝は忘れているよ。それに…ふふ。私の性別も勘違いしていたから、ずっと思い出せないだろうね]

[……]

[小さな大輝は、凄く優しかったけれど…私を女の子だと間違えていたからだと知った時は、ガッカリしたよ。…大輝にじゃなくて、脈が少しもないことにね]

[知らない人でも、人には親切にしないといけない。女の子には、特に優しく!]

[そう。岡本家の教えだ]

[アル…。悪いけど、俺は今、余裕がない。―障害は排除すればいい。俺が邪魔なら、全力で抹殺するべきだ。どうして諦める?]

[…家が近いという理由だけで選んだ高校で、大輝と偶然再会して、浮かれたよ。―淡い初恋を、燃えるような恋にしようと思った。だけど…大輝には聖がいた。大輝は聖しか目に入らない。大輝の心は、聖のものだ。そして、聖もまた、同じ気持ちで…いや、大輝以上だった]

[……]

[私は大輝に恋してる。でも、愛してはいない。…今ならまだ、諦められるんだ]

[…そうか]

[うん。…そこが私と聖は決定的に違うね。きっと、私は大輝以外の人も愛せるけれど、聖は大輝しか愛せない]

[ああ。俺が愛しているのは、大輝だけだ。これまでも、これからも、他には誰も愛さない]

[そんな聖だから、諦めがつく。…今の私にとって、聖は大切な友人だ。大輝は幼い恋心を抱いたこともあるけど、数多くいる友人の一人。…それでいいんだよ]

(…仲良くなると、欲しくなるから、か)

[聖が大輝のことを思い続けている限り、私は聖の友人として大輝のそばにいる。…聖が大輝を傷付けたら、本気で奪うよ。どんな手を使っても]

[俺は、大輝だけは絶対に傷付けない]

[分かっているよ。…聖の狂気染みた愛情は、心配だけどね]

(俺の愛情は、異常だからな。…気が狂うほど、大輝を愛している)

大輝を見る目は抉りたい。

大輝の声を聞く耳を削ぎたい。

大輝の匂いを嗅ぐ鼻は潰したい。

大輝を触る手や大輝に近付く足は切り落としたい。

(大輝には、俺のことだけを、見て、感じて、考えてほしい。大輝を部屋に閉じ込めて、俺のものにしたい)

大輝への思いを自覚してから、俺は日に日におかしくなった。

大輝を心から愛しているのに、異常なことを考えてしまう自分に、苦悩したこともあったが、今は狂気すら俺の愛情だと思っている。

けど。

[アルは大輝の結婚式に行けるか?]

[結婚式?]

[大輝と女の結婚式]

[…大輝は婚約でもしているのかい?]

[いや。いつか来る日の想定]

[そう…。私は行けるよ。笑顔で祝福できる]

[俺もだ]

[え?]

[相手の女を八つ裂きにしたいと思いはするけど、笑顔で祝福できる]

[…本当に?]

[ああ。選んだ相手が男なら、そいつを社会的にも精神的にも抹殺するが、女なら諦める]

[どうして?]

[俺と大輝では、子供ができない。…大輝は子供好きだから、自分の子供が欲しいはず。女と結婚して、確実に子供ができるわけではないけど、絶対に無理な俺より、可能性がある女を選んだ方がいい。―それに、俺は大輝や大半の人間が考える、『普通』を大輝に与えられない]

[『普通』か。普通が幸せとは限らないよ、聖。幸せかどうかを決めるのは本人だ]

[大輝は幸せそうだ。…少なくとも、普通ではなくなることを望んでいない]

[…否定はしないよ]

[他の人間なら出来ることを、自分に出来ないから諦めろとは言えない。…大輝を愛しているからこそ、諦めるんだ]

[驚いた。意外と鈍いんだね]

[は?]

[…無粋なことは言いたくないけど、聖は大輝をよく知るべきだ。これは大輝にも言えるね。…近すぎて、気付かないのかな]

[アルは、俺より大輝を知っているのか…?]

[聖も、大輝も、お互いに気付いていないことがあるよ]

(大輝のことで気付いていない何か…)

[…大輝は女性と幸せになれるかもしれない。平凡で、幸せな家庭を築けるだろう。でも…。大輝を一番幸せにできるのは、聖だけだと思うよ]


大輝は、俺とアルを『仲良しな友達』だと思っている。

アルは、俺を『大切な友人』だと言う。

俺は、アルを『切磋琢磨できるライバル』と大輝に言ったが、実際は、『友達で、協力者で、場合によっては恋のライバル』だ。

―俺たちは友情を育んでいる。が、どこか歪な関係だ。

アルに愛する人ができるまで、それは続くんだろう。

もし、アルが愛する人を見付けたら…俺たちは、本当の友達になれる。

その日が来ることを、俺は望んでいた。

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