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合格の影で

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ダンテはボルグ魔法学校の近くのカフェでコーヒーを飲みながら考え事をしていた。

(もっと教えられることがあったかもしれないな。二ヶ月は短すぎたかもしれないが、それにしても後回しにした理科系の知識がおざなりのまま受験させてしまったのは悔やまれる)

 英断だったはずのことを気にかけても仕方ない。ダンテはもしルカが不合格だったときのために、他校の編入試験の日程を調べていた。

 ――そして試験が終わり、ダンテは再び校門の前に立ってルカを待った。ぞろぞろと受験生が試験終わりの騒がしさとともに帰ってくる中、ルカは一人黙ってとぼとぼと歩いてきた。手を振ると、ルカが駆け寄ってきた。

「お疲れ様、どうだった」
「――正直、よく分かりません、とにかく先生に言われたとおりにやってきました。受かってると良いな……」
「とりあえず、腹が減っただろう、夕飯を食べに行こうじゃないか、おごるよ」
「ありがとうございます」

 二人は近くの肉料理で有名なチェーン店に入り、たらふく飯を食らい、そして電車に乗ってそれぞれの住まいへ帰った。


 ――それから三週間後。二人は合格発表の確認のために再びボルグ魔法学校を訪れた。中庭の掲示板に合格者の受験番号が並んでいて、ルカは自分の番号を探した。

「137……137……。――あった……、あった!」
「おめでとう、ルカ!」
「やったぁあぁあ!」

 会話石という緑色の小さな石ころに向かって、ルカは自分の口で自宅に合格の報告をした。会話石の向こうからは、母と妹が喜ぶ声が聞こえてくる。

 ルカはその後、合格者の入学資料を職員に手渡されて、晴れやかな気持ちになった。

「魔導師への道が開けた、頑張ってきてよかった……」

 帰りの駅のホームで、ダンテはルカに別れを告げた。

「じゃあな、ルカ」
「え、先生、ウチに寄っていかないんですか」
「すまないが、次の生徒の予約があるんだ」
「あ、……そうですか、お仕事ならしょうがないか……」
「そう落ち込むなよ、きみは合格したんだ。私の自慢の教え子として、ぜひ胸を張って欲しい。家に帰ったら、親御さんに目一杯の笑顔を見せてやりなさい」
「……でも、先生」
「だいじょうぶ、いつかまた会えるさ」

 ダンテは汽車に乗り込み、最後にほほえんだ。ルカは全力で手を振り、見送った。去り際の美しい、素敵な家庭教師だった。

 たった二ヶ月で最高学府ボルグ魔法学校に素人を合格させたという実績が知れ渡り、ダンテが巷で話題のカリスマ家庭教師として財をなすのはまた別の話である。

◇◇

 夜の暗闇の中で、城が燃えていた。

「王の首を取ったぞぉおおおおお!!!」

 一人の兵士が雄叫びを上げた。城を攻め込んでいた兵士たちがそれに呼応して雄叫びを上げ、その叫びは連鎖していった。城は完全に陥落していた。

「王の娘はどこだ!?」

 一族を根絶やしにするためには、王の娘も殺さねばならない。兵士たちは徹底的に城の中を調べ尽くした。すると地下の通路へとつながる隠し扉を発見した。王の娘はすでに逃走していたのだ。

「しまった、逃げられた」
「追え! 娘も殺さねば我々の立場が危うい!」

 城の裏側に馬車が止めてあった。そこに二人の男女が駆け込んでくる。一人は白髪のタキシード姿をした男で、女は薄いネグリジェの上に毛布を掛けられていた。青色の長い髪が走るたびに右へ左へ流れていった。

「お嬢様、お乗りください」
「――はぁっ、はぁっ……ちょっと待ってください、父が、まだ中に」

 従者は首を横に振った。もう父君は間に合いません、という意味だった。娘は泣きそうになり、口元に手をやった。

「さ、早く。追っ手が今に我々を殺しに来ます」
「うぅぅ……」

 馬車は王の娘を連れて、隣国であるメーベル王国へと走って行った。国境の警備兵には賄賂を渡してある。亡命だった。
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