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才能のきざし
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「――はぁ、魔法ってむずかしいなぁ、でも、すごいよ」
ルカは自室で寝っ転がり、いただいた杖を眺めてうっとりしていた。自宅で詠唱するのはダンテ先生に禁止されているからできないけれど、妄想はどんどん膨らんでいった。
「魔力適性のなかった僕が、まさか魔法が使えるようになるなんて、夢みたいだ。杖の先から水がたくさん出てくるなんて言ったら、母さんはどう思うかな」
魔導師図鑑という本を買っていた。その中には、たくさんの過去の魔導師たちがそれぞれに合った装備をして、かっこよくたち振る舞っていた。イラストに魔法がかけられていて、ページをめくると動く。実際の映像がそのまま見られる。
「でも、もう夜遅いや、寝よっと」
ルカは丸眼鏡を外し、テーブルの上にのせて、電気を消した。
――次の日、ダンテはアパートの中でテレビを見ていた。するとニュースで、とある地方都市の森林公園が謎の異常気象に見舞われたと報道された。突然の霧雨、一部土壌が水だらけに。
「……そりゃそうだ」
あれはEランクの実用魔法の威力ではなかった。ダンテはルカの実技指導の場所を変えなければと思った。
そして次の週から、ダンテとルカは電車で二駅となりの街まで行って、誰もいない森の中で魔法の訓練をやることになった。
「おお、やるじゃないか、もうコントロールが効くようになっている」
「ダンテ先生……すみません、じつはこっそり家の裏庭で練習してました。僕、どうしても魔導師科に合格したくって、それで……」
「そうか。いやいや、熱心なことだ、謝らなくていいぞ」
ダンテはヒヤリとした。彼の家が洪水にならなくてよかった。奇跡的だ。
「それじゃ、次は火魔法だな。念のため、あの滝に向かって詠唱しようか」
「分かりました、……じゃあ早速、火の小鳥たちが空を遊ぶ――Der Feuervogel」
杖の先端から、まるでマジシャンのように無数の鳥たちが飛び出していき、それらは火のように赤く輝いて、杖の指す方へ羽ばたいていった。滝からは火と水の合わさる音がたくさんした。
《ジューッ、ジューッ――ジュー……》
豪快な魔法だった。そして案の定、ルカはぴんぴんして、自分にどうだったかと聞いてくる。手放しで褒めてやりたいが、教育方針を変えるわけにはいかない。
「ま、なかなかのものだな。火魔法は得意かもしれない」
「そうなんですか? 僕、自分ではよく分からないですけど」
「ちゃんと魔力が抑制されて、火の鳥が形を保っていた。立派なものだ」
ルカは調子に乗って、土魔法でガーディアンをたくさん作り出した(森に土は豊富にあった)。風魔法でつむじ風も起こして見せた。誰もいない森は、ルカの訓練には最適の環境だった。
(……すべての魔法が、ほとんど同レベルで繰り出せている。なんということだ。魔力量だけでなく、魔法の柔軟性においても、これまで私が受け持った生徒の中でも群を抜いている。あまりに非凡だ……)
「る、ルカ、大丈夫か、疲れていやしないか」
「え? 大丈夫ですよ」
きょとんとしたその表情に、ダンテはあきれた。
「じゃあ、次は雷属性だ、特殊属性に含まれるものだから、出来ればかなりのアピールになるぞ、やってみよう!」
「今日はなんだか、先生が楽しそうに見えます」
「そうか?」
ダンテは教師としてではなく、もはや一人の魔法学研究者として、ルカに興味を持っていた。彼はどこまで出来るんだろう、底知れない魔力と、卓越した属性センス。これがつい最近まで魔法が使えない人間だったなんて、信じられない。本当は魔法の高等教育を施されたスーパーエリートです、といってもらった方がよほど信憑性があるくらいだ。
……そしてルカは言われるがまま、ダンテのおすすめする魔法をことごとく詠唱し、その発動に成功した。ルカに苦手な魔法はなかった。そしてルカは疲れなかった。一度コントロールになれてしまうと、あとはただ詠唱と、軽くて短い杖を支えていればよかった。魔法発動のときの衝撃は苦ではなくなっていた。
「念動力の手――Psychokinese」
遠くの岩が、見えない大きな手によって握りつぶされた。ダンテは思わず拍手した。ブラボー、きみは天才だ、と言いかけて、すんでの所で我慢した。
「この調子で、これからも、頑張っていこう、試験は一ヶ月後、すぐそこだ!」
「はい!」
痩せた眼鏡の天才魔法使いは、無垢な笑みを浮かべて、努力を続けた。この頃からダンテは魔法実技をほどほどに、勉学の面で合格点に届くように教え込んでいく。ダンテはルカの希望通り、メーベル王国の最高学府、ボルグ魔法学校の編入志願を認めた。
――そして一ヶ月後、ルカは試験当日の朝を迎えた。
ルカは自室で寝っ転がり、いただいた杖を眺めてうっとりしていた。自宅で詠唱するのはダンテ先生に禁止されているからできないけれど、妄想はどんどん膨らんでいった。
「魔力適性のなかった僕が、まさか魔法が使えるようになるなんて、夢みたいだ。杖の先から水がたくさん出てくるなんて言ったら、母さんはどう思うかな」
魔導師図鑑という本を買っていた。その中には、たくさんの過去の魔導師たちがそれぞれに合った装備をして、かっこよくたち振る舞っていた。イラストに魔法がかけられていて、ページをめくると動く。実際の映像がそのまま見られる。
「でも、もう夜遅いや、寝よっと」
ルカは丸眼鏡を外し、テーブルの上にのせて、電気を消した。
――次の日、ダンテはアパートの中でテレビを見ていた。するとニュースで、とある地方都市の森林公園が謎の異常気象に見舞われたと報道された。突然の霧雨、一部土壌が水だらけに。
「……そりゃそうだ」
あれはEランクの実用魔法の威力ではなかった。ダンテはルカの実技指導の場所を変えなければと思った。
そして次の週から、ダンテとルカは電車で二駅となりの街まで行って、誰もいない森の中で魔法の訓練をやることになった。
「おお、やるじゃないか、もうコントロールが効くようになっている」
「ダンテ先生……すみません、じつはこっそり家の裏庭で練習してました。僕、どうしても魔導師科に合格したくって、それで……」
「そうか。いやいや、熱心なことだ、謝らなくていいぞ」
ダンテはヒヤリとした。彼の家が洪水にならなくてよかった。奇跡的だ。
「それじゃ、次は火魔法だな。念のため、あの滝に向かって詠唱しようか」
「分かりました、……じゃあ早速、火の小鳥たちが空を遊ぶ――Der Feuervogel」
杖の先端から、まるでマジシャンのように無数の鳥たちが飛び出していき、それらは火のように赤く輝いて、杖の指す方へ羽ばたいていった。滝からは火と水の合わさる音がたくさんした。
《ジューッ、ジューッ――ジュー……》
豪快な魔法だった。そして案の定、ルカはぴんぴんして、自分にどうだったかと聞いてくる。手放しで褒めてやりたいが、教育方針を変えるわけにはいかない。
「ま、なかなかのものだな。火魔法は得意かもしれない」
「そうなんですか? 僕、自分ではよく分からないですけど」
「ちゃんと魔力が抑制されて、火の鳥が形を保っていた。立派なものだ」
ルカは調子に乗って、土魔法でガーディアンをたくさん作り出した(森に土は豊富にあった)。風魔法でつむじ風も起こして見せた。誰もいない森は、ルカの訓練には最適の環境だった。
(……すべての魔法が、ほとんど同レベルで繰り出せている。なんということだ。魔力量だけでなく、魔法の柔軟性においても、これまで私が受け持った生徒の中でも群を抜いている。あまりに非凡だ……)
「る、ルカ、大丈夫か、疲れていやしないか」
「え? 大丈夫ですよ」
きょとんとしたその表情に、ダンテはあきれた。
「じゃあ、次は雷属性だ、特殊属性に含まれるものだから、出来ればかなりのアピールになるぞ、やってみよう!」
「今日はなんだか、先生が楽しそうに見えます」
「そうか?」
ダンテは教師としてではなく、もはや一人の魔法学研究者として、ルカに興味を持っていた。彼はどこまで出来るんだろう、底知れない魔力と、卓越した属性センス。これがつい最近まで魔法が使えない人間だったなんて、信じられない。本当は魔法の高等教育を施されたスーパーエリートです、といってもらった方がよほど信憑性があるくらいだ。
……そしてルカは言われるがまま、ダンテのおすすめする魔法をことごとく詠唱し、その発動に成功した。ルカに苦手な魔法はなかった。そしてルカは疲れなかった。一度コントロールになれてしまうと、あとはただ詠唱と、軽くて短い杖を支えていればよかった。魔法発動のときの衝撃は苦ではなくなっていた。
「念動力の手――Psychokinese」
遠くの岩が、見えない大きな手によって握りつぶされた。ダンテは思わず拍手した。ブラボー、きみは天才だ、と言いかけて、すんでの所で我慢した。
「この調子で、これからも、頑張っていこう、試験は一ヶ月後、すぐそこだ!」
「はい!」
痩せた眼鏡の天才魔法使いは、無垢な笑みを浮かべて、努力を続けた。この頃からダンテは魔法実技をほどほどに、勉学の面で合格点に届くように教え込んでいく。ダンテはルカの希望通り、メーベル王国の最高学府、ボルグ魔法学校の編入志願を認めた。
――そして一ヶ月後、ルカは試験当日の朝を迎えた。
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