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実戦訓練の一部始終

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 茜色の輝きがステージの一部を照らした。そして光に遅れてステージが崩落する轟音が響いた。

「――なんだ!」
「おいっ、建物が崩れるぞ!」
「退散しろ!」

 やはりこれをやると霊力の制御が効かなくなる。ダンに剣を振り回せと言われ、その通りにしたところ、周囲が木っ端みじんになるまで巨大な斬撃が飛んで、天井が俺の上に落ちてきた。防具は生き埋めになったときの衝撃を和らげた。

「……あぁ、身動きとれねぇ」

 俺はもう一度聖剣の回路を、今度は繊細に優しく組み替えた。聖剣の周囲を埋め尽くしていた瓦礫が吹き出した霊気で霧散し、穴が開いた。俺はそこから身をよじらせて外へ出た。

「どうなったんだ……」

 俺が退治した敵兵は瓦礫の上にはいなかった。たぶん霊力の暴走をまともに受けて戦闘不能になったのだろう。しかしこれでは訓練にならないな。

「とりあえず、仲間と合流しよう。一人だとちょっとどうにもならない」

 俺は建物の崩壊していない部分を徘徊して、ようやく一人の光組の生徒を発見した。薄着の制服のまま訓練に参加する聖剣使いの二人組だった。

「おい、今の音聞いたか?」
「あぁ、あれは俺がやったんだ」
「はぁっ? 何したんだよ」
「霊気で吹っ飛ばした」
「ステージ破壊するレベルで霊力を解放したって事か!? じゃあ、もうガス欠か」
「え? 聖剣ってガス欠するのか?」
「するよ? ……でも、元気よく光ってるな。大丈夫なのか」
「初めて見る光り方だ……、お前、異光組の新人だろう、この聖剣の特徴は分かるか?」
「いや、ちょっとした術式と、最低限の霊力コントロールしか分からない」
「そうか、まぁ、コントロールできるんだったらいいさ。またあんな爆発起こされたらたまったもんじゃないが、それなら大丈夫」
「三人一組で敵を効率的にたたく。協力してくれ」
「ああ、了解だ」

 光組の男たちは光の聖剣に祈りを捧げ始めた。不思議な言語で語りかけている。すると聖剣から光りのニンフが沸いて出てきた。実態のないニンフたちは壁をすり抜けてどこかへ行ってしまった。

「何をしているんだ」
「索敵さ」
「ニンフにそんな使い道が……」
「いずれ誰でもできるようになる。それより、……そっちはどうだ」
「おう、敵集団を見つけたぞ」
「何人だ」
「二十前後だな。裏から回る。いくぞ」

 ところどころ崩落の影響を受け、壁材の散った白い廊下を、手練れ二人の後ろに付いて走る。戦場では異光組の人間でも光組の人間に戦力として数えてもらえるのだなと思うと、経験不足とはいえ、どうにかして役に立ちたいと思った。

「よしっ、気づかれていない」
「俺が打つ!」

 俺の左前を走っていた男が聖剣の術式を起動させた。【レイ・ウェーブ】 と呼ばれる実戦向きの、低コストで放てる斬撃の一種が縦波のようにうねりながら敵の背後に直撃した。

「ぐぁああっ!」
「くそっ、後ろとられた!」
「少人数で勝てると思ってんのか、馬鹿めっ」

 お返しとばかりに光の銃弾が大量の銃声とともにこちらに向かってきた。すると先ほどのニンフがどこからか戻ってきて、バリアのようなものを張り、すべて防いだ。

「凄い! 防具いらずだ!」
「おい、異光の新人。出番だ、俺たちが相手の攻撃を抑えているうちに、やれ!」
「……わ、分かった。やってみる」

 二人が展開したバリアの背後から、俺は霊力を丁寧に調節した【サンセット・ドライブ】の術式を発動し、敵陣に放った。深い赤の三日月型をした霊気の塊が敵の集団が張ったバリアを破壊してそのまま直撃した。

「ぐはっっ!」
「バリアが一発で潰された!」
「ダメだ、異光の人間がいやがる。引くぞ!」

 敗残兵数名が戦闘不能になって倒れた仲間を置いて撤退していく。俺の前でバリアを張っていた二人が振り返って驚いたような顔をする。

「やるなお前! 名前を聞いておこう」
「セラフィムだ」
「お前の霊気は破壊力抜群だなぁ。さすが異光組、憎いね」
「いや、そんな大したことないよ」
「一回の攻撃に霊力を贅沢に使っているのに、まったく光りが衰えない。俺が見た異光のなかでも格別の霊力量だ」
「そうかな」
「編入してきて鼻持ちならない奴らだと思っていたけど、三年から横入りするだけの能力があるんだなぁ」

 そこで突然連絡が入った。

《――戦闘終了。Aチームの制圧勝利。帰還します》

「今日はやけに早く終わったな」
「たぶん、あのステージの崩落が原因だな。あれに敵兵の主力陣が巻き込まれたんだ」
「はっはっは! こういう建築物のステージならではの技だな! でかした新人!」

 俺は思わぬ活躍をしていたらしい。しかし今回はたまたまだろう。あのステージ破壊工作に巻き込まれたのは敵だけではあるまい。巻き込まれた仲間には申し訳がない。もっとうまくやれるようにならないとな……

 投影魔法が解け、連続で二回戦に参戦するかどうか選択する権利が与えられた俺は、チャレンジャーの気持ちで参戦の意向をプログラムに伝えた。そして俺はぶっ倒れるまで訓練を続けた。
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