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秘めたる想い

覚えてる

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「それじゃあここからは自由時間って事で……自由だからって町の人達に迷惑はかけないように」

「シオンセンセー! 変なやつらに絡まれたときはどうすればいいですかー?」

「絡まれるようなことしないでください」

「オレがふっかける前提かよ!?」

 次の目的地である『ライトゲート』へ到着するまではまだ距離がある。

 前回は野宿であったが、今回は日が暮れる前に町へとたどり着くことが出来た。

「絶対オレよりも雷迅の方がケンカふっかけるって!」

「なんでオレに飛び火すんだよ!?」

「アナタが前科持ちだからよ」

 前に立ち寄ったギルド街では雷迅が暴れたからという理由で、街への出入りが出来ないこともあった。

「失礼なやつらだな……オレはまだ暴れてねえだろうが」

まだ・・じゃあ駄目なの! 絶対に暴れちゃあ駄目なんだから!」

「へいへーい」

「まあそんなカリカリせずにゆっくり休みましょうや あと少しでお目当ての『ライトゲート』に着くんだ 英気を養うなら今日ぐらいだぜ?」

「ムロウ殿の言うとおり この町は活気に満ちているでござるし たまにはのんびりするのも良いでござろう」

 町は人通りが多く、それに比例して出店も多い。

 アヤカの言うように、何も考えずお祭り気分で楽しむのも良いだろう。

「じゃあ私が宿探してくるから皆は先に見て周ってて」

「いや……今回は俺が探す シオンは町でも見ててくれ」

「いいの?」

「いつも任せてるしな それにここはギルド街じゃあないみたいだし」

 いつもであればシオンが宿を探している間にリンは『ギルド』へと向かい、情報を聴きに行っているのだが、ここは『ギルド街』では無い。

 そうなると聞き込みする場所を一から探すしかない。リンは宿を探すついでに、聞き込みで情報を集めようと考えていた。

「そう言う事なら私も行くわよ? 特に見たいものがあるわけでもないし……」

「ハーイ! だったらオレも行きますよアニキ! なんだったら二人だけのほうがいいです!」

「悪いな 今日はチビルに来てもらう」

「……へ? オレ様か?」

 突然のご指名に驚くチビル。まったく予想をしていなかったからだ。

「なんか凄く怨まれてる気がする……」

「気にするな」

 レイの怨念が別れる最後まで、チビルに向けて飛ばされる。

「それにしてもなんでオレ様なんだよ? 別に付き添いならレイとかシオンもいるし……なんだったらアヤカだっているだろう?」

「まあ宿探しついでにゆっくり話せればと思ってな こうして二人だけってのも久しぶりだろう?」

 聖剣を集める為に旅立つ事を決めたあの日、チビルは太陽都市『サンサイド』にいる『バトラー』から案内役に任命された。

「そうだなぁ……元々はオレ様達だけだったもんな」

「今じゃあ仲間が増えた 色物揃いだがまあ悪い奴等じゃあない」

「おいおい? 自分は違うみたいに言うなよな?」

 思い返せば沢山の事があった。全てが常識とは違う異世界で、もしもリン一人だけの旅だったとしたら、どこかで止まってしまっていたであろう。

「聞きたいのは今度行く『ライトゲート』のことだ 雷迅が言うにはどうやらそこは『魔族』に対しての風当たりがよくないそうだ」

「ああ……聞いたことはあるよ」

「今まで気にしてなかったがお前も魔族だろう? 魔族は皆魔王に従うわけじゃあないんだな」

「オレ様は『人界魔族』っていって奴ら魔王軍は『魔界魔族』なんだよ 生まれが違うのさ」

「その違いを知りたいんだ 争いごとを避けるのならお前と雷迅には悪いが待機してもらうことになるが……なるべくならそんなことさせたくない」

 ライトゲートにいる間だけ、一旦離れて貰う事が一番面倒事に巻き込まれる事にならずにすむのであろう。

 だとしてもリンはそれをしたくなかった。何故なら今まで一緒に旅をしていた『仲間』に対して、偏見だけで問答無用に入れないなど言うのは納得できいからだ。

「いいぜ教えてやるよ まあそんな難しい話でもねえよ」

 宿屋を探しつつ、その道中に語ってくれる。

「昔も昔大昔さ 元々は魔界って存在は無くて神様のいる『神界』と人間も魔族もひっくるめて『下界』で暮らしてたんだ」

 人間に比べて血の気が多く、攻撃的で人間を襲う事も多かった『魔族』にたいして、非力であった人間は、ただ身を隠す事しか出来なかった。

「それを見かねた神様は下界の人間達に『魔法』を与えた 神々の力の一部を人間にも使えるようにしたのさ」

 だが、それは地獄の始まりであった。

「力を持った人間が今度は逆に魔族を蹂躙し始めた……か?」

「正解 神に選ばれた人間が魔族を倒し始めたのを皮切りに 率先して魔族狩りを始めたのさ」

 力を与えられた人間がどうなるかのか。

 答えは皆が皆『正しさ』に目覚めるとは限らないである。

 たとえ悪用せずとも、行き過ぎた力に溺れて、正義の名の下に自らの手で裁きを下せるようになれば、正義という名の『暴力』に手を染めてしまうかもしれない。

「先に手を出したのは魔族だったとはいえ 哀れんだ神界の使いである『天使』の一部が魔族にも魔法を与えたんだ」

 そして勝手な行動をとった天使達は『堕天』し、下界に落とされた堕天使達は魔族の一員となり人間に牙を向く。

「魔族を上回った人間が魔族を殺し……更に力をつけた魔族が人間を殺すのいたちごっこ 何の意味も無いことを悟った神々は『魔界』を創ったのさ」

 これが『魔界』の始まりだったと言われている。

 争いが争いを生み、とうとう分かり合う事無く引き離され、未だにその名残として人間と魔族の諍いは絶えず残ってしまった。

「そんでオレ様達『人界』魔族の先祖は魔族の仲では変わり者でな 争いごとを拒んだ種族だったわけよ 元々細々と生きてきてたし頭が良かったから人間に色々教えてたりしてたらしいぜ? だから人間側に残ってても生き残ってこれたって訳よ」

 凄いだろといった顔で説明するチビル。だがそれでも疑問は残る。

「だったらなんでライトゲートは下界魔族も差別するんだ? 説明しても駄目なものなのか?」

「言われても違いなんてわかんないだろうしなぁ……そもそも『ライトゲート』の連中はどういう集まり何だと思う?」

 その口ぶりからにヒントはもう出ている。人間と魔族との確執には理由がある。

 人間と魔族の殺し合い。その発端となったのは何なのか。

「『一番最初に魔法を扱えるようになった人間の子孫』……ってところか?」

「そういうこと 魔族に最初に対抗できる光の魔法を扱い始めたのが『ライトゲート』の連中なのさ だから『光至上主義の魔族悪』って感じの考えが今でも色濃く残ってるのさ」

 リンが思っていた以上に深刻な溝。これではライトゲートに連れて行くのは危険なのではと考える。

「まあそんなことだし無理に入る必要なんて無いって! 雷迅はともかくオレ様非戦闘員だし連れてく必用なんて無いからよ!」

「それもそうだな」

「おいぃ!? そこは否定するところだろう!?」

 あっさり認められてしまい、自分の存在価値を否定された気分になるチビル。

「覚えてるか? わざわざ俺が船の海賊を一掃してたっていうのに簡単に人質にされて足を引っ張ったこと?」

「なんだと!? それだったらあの怪物になったエドの弱点を見つけたのはオレ様なんだからな!」

「そうだ 俺にこの世界の事を教えてくれたのも……治癒魔法で戦いの怪我を治してくれたのもお前だ」

「……え?」

「卑屈になるな 人には向き不向きがあるんだ お前は戦闘に向かなかっただけさ」

 一度たりとも、リンはチビルを役に立たないと思ったことは無い。

「誰が言ったか……互いに支えあうのが『仲間』だそうだ?」

 嘘などない正直な気持ち。リンにとってチビルも『頼れる仲間』なのである。

「……お前変わったな」

「そうか?」

「いっつもピリピリしてて 誰も構うなって感じだったのに……実を言うと オレ様コイツとは上手くいく気がしないって思ってんたんだぜ?」

「奇遇だな 俺も最初はこんな得体の知れない奴と旅なんてって思ってたからな」

 最初はどうなるのか不安しかなかった旅も、ふたを開けてみれば案外上手くいったものだった。

 いつまでこうして話を出来るかわからない。だからそれまでに、思い出話に花を咲かせるの悪くないと思うリンであった。

 そして、ふと思い出す。

「……ところでお前の本名ってなんだっけ?」

「『チルト・ビットルート』だよ! 忘れてんじゃあねぇ!」

 最初に聞いて以来、まったく出てこなかった名前であった。
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