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次を目指して

これから先

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「そうそう上手よ その調子」

「ん……こんな感じか?」

「うん そうそう」

 隣街から隣街へ、転々としながら着実に目的地へと進んでいる。

 道すがら、聖剣使い一行は休憩を含めて馬車を停めている。

 その時間を利用して、リンはシオンを講師として『魔法の使い方』を学んでいた。

「意識を私に繋げた状態は維持してね まだリンは慣れてないと思うから」

「了解シオン先生」

「素直でよろしい 今魔力を掌に集中させてると思うけど……」

「先生……う~ん師匠も良いでござるが先生呼びも捨てがたいでござるな」

 休憩をしながらだと、次の街へ着くのに時間がかかってしまう。なので次の街は諦めて、野宿の準備をしていた。

 そして割って入ってきたのは、食材集めに行っていたアヤカだった。

「試しにアヤカ先生って呼んでみてほ……」

「コラ邪魔しないの!」

「それより何か食べられるものは見つけたのか?」

「さて今からとってくるでござるかな」

「サボってやがったな」

「うぐっ」

 アヤカの事などお見通しだとばかりに言い当てる。

 そもそも食に関してだらしないアヤカに、食材に期待していたのが間違いだったのかもしれないと、リンは考えを改めていた。

「まあ草でも食べてれば何とか……」

「そうだな 道草食ってる奴はそれで良いかもな」

「師匠にたいしてそれは……」

「アニキ~! 魚釣ってきましたよー!」

「大量だぜ~!」

 レイとチビルは近くにあった川で魚を釣っていた。

「……これはうかうかしていられないでござるな」

 流石は海の上で海賊として暮らしていただけあって、全員分の魚を既に十分に釣っている。

 アヤカは競い相手がいれば別だった。負けず嫌いな性格のおかげでそのつもりはなかったであろうが、やる気をレイが出させてくれた。

「待っているでござるよ皆の衆 拙者が皆の腹を満たせる食材を見つけてくるでござるからな!」

(最初からそうしてくれよ)

「それではリン殿 火付け役頑張るでござるよ」

 そう言い残して、アヤカは森の中へ入っていく。

 気合いの入り方からみて、やっと本気を出したのだろう。それなら期待できそうだとリンは安堵した。

「ハァ……じゃあ続きを始めるわ……」

「アニキ~! どんな感じですか~?」

 帰ってきたがいいが、今度はレイがリンに絡む。

「上手くいかないもんだな」

「オレもそんな得意じゃあないですみません……シオン! ちゃんと教えろよ!」

「教えてたのよ……」

「そういえば料理はレイに任せていいか?」

「もちろん大丈夫ですよ! 任せちゃってくださいね!」

「え!? レイってば料理できるの!?」

「レイのメシは美味かったよなリン?」

「ああ 海賊船の中で料理当番の時食べたが 美味かったぞ」

「デヘ~」

 褒められてご満悦のレイ。驚きを隠せないシオン。

「そんな……信じてたのに」

「失礼なっ……ん? もしかしてシオン料理できねーの?」

「そんなことありません私は料理をする事ができる」

(なんか直訳したみたいな喋り方してる)

 反応から見てまず間違いなく料理ができないのに、隠し通そうとするシオン。

「人間その辺の草でも食べてれば大丈なのよ!」

「それ少し前に聞いたな」

「やめてやれよリン……人間には触れて欲しくない事だってあるんだぜ」

「余計なお世話よ!」

「わ~! シオンが怒った~!」

「逃げろ~!」

 イタズラをした子供が親から逃げるが如く、レイとチビルはその場を離れていった。

「まったくもう! 全然進まないわ!」

「落ち着け」

(う~! 絶対こんな女ヤダなぁ~って思われてるし!)

 シオン バレたくなかった、特にリンには。

 なるべく年上として自分が教えてあげる立場である以上、弱いところを見せたくなかったのだ。

「……苦手なんだな 料理」

「……悪い?」

「いや……ふふっ」

 リンが笑った。仏頂面な事の方が多いリンが笑っていた。

「案外想像できてな 結構だらしないところ」

「何よそれ」

「別に完璧を気取る必要なんてないだろ? 俺は魔法が上手く出来ない シオンは料理が上手にできない それだけさ」

「……励まされた」

「事実を言ってるだけだ」

 存外照れ臭かったのだろう、素直に励ました事を認めようとしなかった。

「こうして俺に教えてるみたいに 必要な時は頼れば良いさ 俺もそれ程上手くないが」

「え? 教えてくれるの?」

「少しぐらいなら たいしたものは作れないし」

 そして再び魔法の練習に戻る。手に意識を集中して火の玉を作ろうとするリンを、シオンは黙って眺めていた。

(……何だか丸くなってきた気がする)

 今でも口の悪さが出てはいるが、本質的には優しくできる子なのだと、シオンは知っている。

 少しずつ距離が縮まったのか、優しさが素直になってきたと感じていた。

(仲間を頼ってくれてれるって事……なのかな?)

 目の前のリンはこの世界の住人ではない。

 帰る場所がある。ならば、いつかこの世界から『戻らなければならない』という事である。

「……帰りたい? 元の世界に」

「どうした? 藪から棒に?」

 突然の質問に当然の疑問が湧くリン。

 ただその質問が真剣なものだというのは、シオンの口ぶりからわかっていた。

「私達の旅はさ……平和を脅かす魔王を倒すだけど……リンの本来の目的は元の世界に帰る事でしょ?」

 賢者の石を集めているのも、他に手がかりが無い為仕方なく、といったのが始まりである。

「だからさ もし魔王を倒す前に元の世界に帰れるなら……リンはどうするのかなって」

「帰るぞ」

「即答!?」

 答えがどちらかは予想できていなかったが、少しは悩むものと思っていたシオンは驚いた。

「当たり前だろ 俺には関係ない戦いだったんだ 関わらないほうが良いに決まってる」

「そうなのね……」

 あまりにも現実的すぎる答えに戸惑ってしまう。

(もしかして私達の事を大事にしてくれてるのかなぁ~って思ってたんだけどなぁ)

「ただまあ……それができたら苦労しないよな」

「え?」

魔王軍アイツらムカつくからな せめて一発魔王をぶっ飛ばしてからでも良いよなって」

 余りリンが言いそうにない答えで、正直すぎる答えで、余りの私利私欲な考えで、思わずシオンは吹き出してしまう。

「アッハッハ! それもそうね! 散々暴れてるんだもの 殴っとかなきゃ気がすまないわね」

「だろ? ついでに魔王軍を解体して帰ったほうがスッキリすると思うんだよ」

 要するに残ってくれるという事だ。とても素直ではない答えである。

 年相応。十六歳にしては顔つきや態度が落ち着いているが、こういった一面を覗かせてくれるおかげで、改めて自分よりも『年下の子』なのだと実感させられた。

「……ねぇリン? ちょっと隣に座っても良い?」

「別に良いが……?」

 そう言って隣に正座して座るシオン。

「……ほい」

「え?」

 リンの頭を持って倒したかと思えば、自らの膝へと寝かせた。

「……もっと頼っていいからさ」

「……シオン?」

「疲れた時は言ってね? いつでも膝ぐらい貸してあげるから」

リンの顔を覗き込み、目を合わせてリンに言う。

「これでも……頼ってるつもりさ」

 急な出来事に驚いていたが、疲れていたのだろう。そのままリンは膝を枕に、小さく寝息を立てて眠ってしまった。

「いつもよりお喋りだったのも眠かったからなのね…… 子供みたい」

 寝顔を眺めて、シオンは自らの想いは間違っていない事を、改めて思い知らされた。
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