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より強くなるために

様子見

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 リン達が道場に帰って修行を始める前の事。

「あっ! リンじゃない どうしたの?」

 リン達が訪れたのはカザネの城にある馬小屋である。

 そこには、リンの仲間であるシオンが笑顔で迎える。

「アンタに会いに来た」

「フェ!? あのそれはええぇ……とそれはつまり私の事を想って来てくれたって事……?」

「そうらしい・・・ぞ」

「……らしい?」

「どうもどうも! 先日はどうも失礼をしたでござるな!」

 そう言ってひょっこり顔を出したのはアヤカだった。

「ああ……アナタ」

 先ほどまでとは一転して、そのシオンの嬉々とした表情から嫌なものを見るジト目へと変わる。

 一言足りなかったせいで余計な誤解を生んだ事に、リンは気づいてはいない。

「何でござるかそのあからさまな嫌な顔?」

「いえごめんなさい そんなつもりは無いのだけれど身体が受け付けなくて」

(余計ダメなんじゃ……?)

 それを口には出せなかったリン。

 顔を見せに来たアヤカに、不満そうに腕を組んでシオンは睨んでいる。

「まあいいでござる 少しやり過ぎてしまったと拙者深く反省しているのでござるよ」

「……本当に?」

「こう見えても」

 一応自覚はあるようだった。

「……まあいいわよ 気にして無いから 私が戦いに同意して私の方が弱かった……それだけのことよ」

 自分の弱さを自覚し、腹をたてるのは自分自身。

 シオンはその悔しさで、組んでいた腕に力を入れる。

「ホントアナタってば強いんだから 困っちゃうわよね」

「イヤ~! それについてはそれほどでもあるでござるかな!」

「自身は足りてるけど謙虚さはかけてるみたいね……」

 大きな溜息をつくシオンとは対称に、アヤカはカラカラ笑う。

「今シオンが世話をしてるこの馬は もしかしてあの時のか?」

「うん ここに来るまでにお世話になった子達 ここに来れたのはこの子達のおかげだからリンもお礼を言っておいたら?」

「そうか それは助かったな」

 リンは馬を撫でようと頭に手を伸ばす。

「あっ! 噛み癖があるから気をつけてね?」

「あと二秒早く言え」

 遅かった。

「あ~あ ちょっと見せて 怪我してない? 大丈夫?」

 そう言ってリンの手をシオンは握ったが、ふと我にかえる。

(ハッ!? 思わずリンの手を握っちゃった……)

 急に恥ずかしくなるが、ついついマジマジと眺め、ペタペタと触る。

(ヤッパリ男の子よねリンも……歳下だけどちゃんと男の手っていうか)

「おい」

(ちゃんとガッチリしてるものなのね~私の手よりも大きくて……)

「おい」

(手を繋いで町を歩いて……あのお店いいね~って他愛ないこと話しちゃったりしてみて)

「シオン」

「え?何……ピャッ!?」

 顔を近づけて覗き込まれたシオンはやっと自分の世界から引き戻される。

 ずっと手を握られていた事に、疑問を持たない筈はなかった。

「どうしたシオン? 何か気づいた事でもあったのか?」

「いや別にそういうわけじゃなくて気づいたというより気に入っただけで決してやましい気持ちで触ってたとかそういう事じゃなくて」

「そう……か?」

 当然よくわからないリンは何も言えなかった。

「ムッフッフ~? これはこれは」

「ナッナニヨ?」

「別に~でござるよ~?」

「もう! 言いたいことあるな言いなさいよ!」

「知りたいなら拙者を倒してみるでござる」

「イイわよ! やってやろうじゃない!」

「なんだ 仲良いじゃないか」

「そうでござろう?」

「どこがよ!?」

 シオンは穴があったら入りたかった。

「それじゃあなシオン しばらく顔は出せない」

「……うん 頑張ってね 修行」

「ああ」

 そうして馬小屋を後にするが、リンはふと立ち止まって振り返る。

「……」

「ん? どうしたの?」

「いや……シオンの顔を見たら安心した」

「へ?」

「あまり無茶するなよ」

 そしてリンは修行の為にアヤカの家に戻る。

「~~~!!!??? なんなのよアイツ!」

 おそらく今の言葉に他意はないのだろうが、シオンの心を振り回すのには十分な爆弾発言だった。

(これはまた……からかいがありそうでござるな)

 顔を赤らめて、困惑と恥じらいの表情はアヤカの嗜虐心を煽らせた。

「ところでシオン殿 シオン殿から見てリンの戦い方はどう思うでござるか?」

「何よ? 藪から棒に」

 突然の質問にシオンは困惑する。

 質問は『リンの戦い方』である。まだあまり一緒に戦った事はないが、戦い慣れしたシオンから見て、リンを一言で言うと『危なっかしい』であった。

「……リンの攻め方は結構雑だと思う 考え無しにって訳じゃないけどあまり自分を『顧みない』って感じかな」

「守りについては?」

「そうね……あんまり『気にしてない』んじゃないかな? 土の賢者の石の力で多少のダメージ覚悟で突っ込んでるって思う」

「成る程……」

「それで? この質問は役にたったの?」

「それは勿論 聞けて良かったでござるよー」

 手をヒラヒラとさせながら、その場を離れていくアヤカ。

 あとはこの情報と自分の目で見たリンとを照らし合わせて方向性を決めるだけだった。

「さてと 先ずは前回同様実戦形式で始めるでござるなか?」

 そして帰り着いたリンとアヤカは、道場で様子見も兼ねた実戦形式の戦いを提案する。

 ちょっとした準備運動の後に木刀を持たせられ、どこでもいいからアヤカに一発当てれば勝ちというルールで始められた。

 リンは真面目にそのルールに則っり攻めてみのだが、一発も当てることが出来ない。


 リンに対してアヤカはあえて手を出さない。リンの動きを見極める為だ。

(やはり動きに無駄がある……それに動きが単調で読みやすい)

 大体の動きがわかると、今度はアヤカが攻めに入る。

 勿論リンが反応できるであろう速度と動き、力加減で叩き込む。

(ふむむ? 攻めに反して守りはそこそこマシでござるな)

 加減をしているとはいえ、リンはアヤカの動きにしっかりと対応できている。

(重みを加えてみるでござるかな)

「くっ!」

 重みが先程よりも増したことで態勢を崩れてしまう。

「決まりでござるな」

 その隙を逃さずアヤカの蹴りがリンの身体を吹き飛ばし壁に叩きつけられる。

「……せめて木刀ソレで一本欲しかったんだかな」

「怪我しないために仕方がないでござろ」

「今のでも十分怪我すると思うぞ」

 ヨロヨロと立ち上がりアヤカと再び向き合うが、アヤカに止められた。

「一度休憩するでござる」

「少し早くないか?」

「休憩ついでにリン殿の『型』が決まったでござるからな その話しもするでござるよ」

 充分な情報を得た。

 リンの修行の方針をアヤカは決めたのだ。
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