上 下
54 / 201
姿見せる三銃士

魔王にて

しおりを挟む
「あ~あもったいない~ せっかく第二ラウンドで決着つけようと思ったのにさ~」

「それは魔王様への文句として受け取って良いですかツヴァイ?」

「文句じゃなくて正直な感想だよ」

「どちらにしても同じです」

 ツヴァイは魔王の間へと向かう途中で、リン達との戦いの不満を口にする。

 ドライもトドメを刺さなかったことに対して気にしていないわけではないが、魔王様の命令であればと自らを納得させていた。

「それに……最初からアナタが全力で挑めば苦もなく勝てていたでしょう」

「それじゃあ楽しくないじゃん」

「戦いに楽しみを覚えないでください そのせいで聖剣使いは土の聖剣『ガイアペイン』を使いこなせるようになり……あまつさえ別形態まで扱えるようにしてしまった」

「あれいいよな~ 全然切れないし身体も硬くて硬くて……」

「なぜ嬉しそうな顔で話すんですかまったく……」

 戦うことしか考えていない人、いや『悪魔』に呆れていると、別の通路からアインが現れた。

「オンヤァ? これはこれはツヴァイ殿にドライ殿 お久しぶりでございまス」

「アインおひさ!」

「アイン……アナタは今までどこにいたのですか」

「守秘義務を行使しまス」

「だってさ?」

「どいつもこいつも……」

 ドライの頭が痛む。物理的ではなく精神的に。

 三銃士とまで呼ばれる二人は、どうしてこうも忠誠心が低いのかと、頭を悩ませる。

「……まあいいでしょう あなた方がいつもこの調子なのは存じてますから それにしても珍しいですね アインも魔王様に呼ばれたのでしょ?」

「ほんとほんと! 天地がひっくり返るかト」

「少しは呼ばれることも想定してください」

「でもなんだろうね? わざわざこの三人を呼ぶなんてさ」

「魔王様の考えです なんであれ我々は従うのみです」

「忠義がお厚いことデ」

「馬鹿にしているのですかアイン?」

「とんでもなイ 魔王様第一の部下としてはアインとても嬉しいでス」

「それが事実ということがとても腹ただしいですね」

「ケンカしないの 糖分足りてる?」

「余計なお世話です」

 頭だけでなく今度は胃も痛み始めてしまう。ドライ。こんな状態であって良いのか本気で不安になってきていた。

「お呼び出しをするのであれば私だけで十分ですのに……」

「それだけ大事なんでしょ 考えるより会ってみたほうが早いって」

 ツヴァイからとんでもなく正論を言われたとこに若干納得したくないドライだが、実際その通りであった。

 理由を聞きたいのであれば、今から直接魔王に内容を聞くしかない。

「ではくれぐれも無礼のないように 久しぶりだからといってツヴァイははしゃぎ過ぎないように」

「はーい」

「アインは普段の失礼な態度を慎むように」

「ハーイ」

 二人の気の抜けた返事に、怒りを覚えているが、我慢してドライは扉を開けた。

 魔王の間への扉が開かれる。玉座へ続く階段の先、その玉座に座っていたのは先ほどまで話していた『魔王サタン』だった。

「久しいな アイン ツヴァイ ドライ」

「ご無沙汰しております 魔王様」

「オッス! ひさしぶり!」

「ドーモ」

「お前たちは……」

「構わん 楽にしていろ」

 ドライは片膝をつき頭を下げるが、残り二人はそのそぶりを見せない。

 その態度にドライは怒りを通り越して呆れてしまっていたが、魔王の寛大な態度にドライは感銘を受ける。

「流石は魔王様 その心はこの魔界よりも広いのでしょう」

「ホ~トホント さすがは魔王サマ」

「お前達に太鼓持ちをさせるために呼んだわけではない 勘違いするな」

「はっ! 申し訳ございません」

「それでなんなのさ? オレたち呼んだのって会いたかったからじゃないんだよね」

「その通りだ」

 ここへの招集は目的あってこそのもの。

 魔王軍の精鋭である『魔王三銃士』を招集した理由。誰もが知らされていなかった。

「お前達は『トールプリズン』を知っているだろう」

「トールプリズン……ですか?」

「あの人間界の奴らが大罪を犯したら入れられるっていウ」

「そうだ そこにある『聖剣』を探し出して欲しい」

「聖剣……ですか?」

「正確にはその付近の『洞窟内』にある聖剣だ」

「ア~アレ……」

「お言葉ですが魔王様 わざわざ我々がその洞窟内の調査をする意味は?」

 洞窟内の調査など他の者にやらせれば良い。魔王三銃士が揃って調査する必要性を感じなかった。

「すでに何人ものを斥候を行かせた だが連絡がつかなくなった」

「だろうーネ」

「何か知っているのかアイン」

「あの洞窟は何千年何万年と昔から存在する古の洞窟 そこに住み着く魔物はそこいらのとは大違いさ」

「何故それを魔王様に……!」

「だって聞かれてないシ」

「良いドライ お前たちに話していなかった我の責任だ」

「魔王様……」

「それに予想はしていたさ……だがこんな事に態々お前達を使うのは少々忍びなくてな」

「何をおっしゃる魔王様」

 ドライは立ち上がる。なんと心やさしき魔王なのかと、もっと我々を頼っても良いのだと。

 その気持ちが抑えられず勢いよく立ち上がったのだ。

「我々は貴方様に感銘を受けここに集まりししもべ 貴方が望むのであればたとえ地の果てからでもその望みを叶えましょう」

「大げさだなドライは」

「だまらっしゃいツヴァイ」

「自分はあくまで同盟関係なだけだから勘違いしないでよネ!」

「さっさと出て行けアイン」

「いちいち構うなドライ そいつはそうやって楽しんだらんだからな」

 三銃士のまとまりのなさに若干呆れつつも魔王はドライを制止する。

 魔王の招集の理由はわかった。が、ドライにはまだ解決していない疑問があった。

「魔王様 我々にその命を与えた理由はわかりました ……ですが何故聖剣使いを見逃してまでここに集めたのですか?」

 それが一番聞きたかった事だ。聖剣使いをあの場で殺すことは容易かっただろう。

 なのに何故見逃したのか、それにたる理由とは思えなかった。

「解らぬかドライ……? 見逃した理由が」

「私は軽視していました 聖剣使い達のことを ですがそれを改めねばならなくなりました」

 それは最初から本気で戦っていた訳では無かったのだが、ツヴァイを一度倒してしまったせいだ。

 今のうちに倒しておかなければ、いずれ強大な敵になってしまうだろう。

「殺さなかった理由それは……いずれ殺す・・・・・ためだ」

「いずれ……殺す?」

 魔王は玉座から立ち上がる。玉座へと続く階段の下には三銃士、それを見下ろすようにして話す。

「我々の軍は確実に人界を追い込めている だがそれでも人間界の勢力は勢いを落とさない」

「私の目から見ても確かに 人界の連中はまだ諦めてはいないようです」

「……それは何故か? それは『希望』があるからだ」

「希望……ですか」

「『希望がある だから何とかなる』 そう錯覚させている存在がいるのだ」

「『聖剣使い』のことぉ?」

「その通りだ ツヴァイ」

 魔王は拳に力を込める。普段感情をあまり見せない魔王が確かに感情を込めて三銃士に語る。

「『絶望』は『希望』と表裏一体 希望が消えた失せた時に人は初めて絶望する」

 魔王の思惑。それは単純な事。

「強くなった聖剣使いを『魔王の手』で殺す 人間の希望を絶望に変えるのために」

 聖剣使いを、魔王が直接殺す事であった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

(完結)お姉様を選んだことを今更後悔しても遅いです!

青空一夏
恋愛
私はブロッサム・ビアス。ビアス候爵家の次女で、私の婚約者はフロイド・ターナー伯爵令息だった。結婚式を一ヶ月後に控え、私は仕上がってきたドレスをお父様達に見せていた。 すると、お母様達は思いがけない言葉を口にする。 「まぁ、素敵! そのドレスはお腹周りをカバーできて良いわね。コーデリアにぴったりよ」 「まだ、コーデリアのお腹は目立たないが、それなら大丈夫だろう」 なぜ、お姉様の名前がでてくるの? なんと、お姉様は私の婚約者の子供を妊娠していると言い出して、フロイドは私に婚約破棄をつきつけたのだった。 ※タグの追加や変更あるかもしれません。 ※因果応報的ざまぁのはず。 ※作者独自の世界のゆるふわ設定。 ※過去作のリメイク版です。過去作品は非公開にしました。 ※表紙は作者作成AIイラスト。ブロッサムのイメージイラストです。

【完結】国を追われた巫女見習いは、隣国の後宮で二重に花開く

gari
キャラ文芸
☆たくさんの応援、ありがとうございました!☆ 植物を慈しむ巫女見習いの凛月には、二つの秘密がある。それは、『植物の心がわかること』『見目が変化すること』。  そんな凛月は、次期巫女を侮辱した罪を着せられ国外追放されてしまう。  心機一転、紹介状を手に向かったのは隣国の都。そこで偶然知り合ったのは、高官の峰風だった。  峰風の取次ぎで紹介先の人物との対面を果たすが、提案されたのは後宮内での二つの仕事。ある時は引きこもり後宮妃(欣怡)として巫女の務めを果たし、またある時は、少年宦官(子墨)として庭園管理の仕事をする、忙しくも楽しい二重生活が始まった。  仕事中に秘密の能力を活かし活躍したことで、子墨は女嫌いの峰風の助手に抜擢される。女であること・巫女であることを隠しつつ助手の仕事に邁進するが、これがきっかけとなり、宮廷内の様々な騒動に巻き込まれていく。  ※ 一話の文字数を1,000~2,000文字程度で区切っているため、話数は多くなっています。    一部、話の繋がりの関係で3,000文字前後の物もあります。

気弱な公爵夫人様、ある日発狂する〜使用人達から虐待された結果邸内を破壊しまくると、何故か公爵に甘やかされる〜

下菊みこと
恋愛
狂犬卿の妻もまた狂犬のようです。 シャルロットは狂犬卿と呼ばれるレオと結婚するが、そんな夫には相手にされていない。使用人たちからはそれが理由で舐められて虐待され、しかし自分一人では何もできないため逃げ出すことすら出来ないシャルロット。シャルロットはついに壊れて発狂する。 小説家になろう様でも投稿しています。

マッチョな料理人が送る、異世界のんびり生活。 〜強面、筋骨隆々、とても強い。 でもとっても優しい男が異世界でのんびり暮らすお話〜

かむら
ファンタジー
【ファンタジー小説大賞にて、ジョブ・スキル賞受賞しました!】  身長190センチ、筋骨隆々、彫りの深い強面という見た目をした男、舘野秀治(たてのしゅうじ)は、ある日、目を覚ますと、見知らぬ土地に降り立っていた。  そこは魔物や魔法が存在している異世界で、元の世界に帰る方法も分からず、行く当ても無い秀治は、偶然出会った者達に勧められ、ある冒険者ギルドで働くことになった。  これはそんな秀治と仲間達による、のんびりほのぼのとした異世界生活のお話。

婚約者から婚約破棄のお話がありました。

もふっとしたクリームパン
恋愛
「……私との婚約を破棄されたいと? 急なお話ですわね」女主人公視点の語り口で話は進みます。*世界観や設定はふわっとしてます。*何番煎じ、よくあるざまぁ話で、書きたいとこだけ書きました。*カクヨム様にも投稿しています。*前編と後編で完結。

ちびっ子ボディのチート令嬢は辺境で幸せを掴む

紫楼
ファンタジー
 酔っ払って寝て起きたらなんか手が小さい。びっくりしてベットから落ちて今の自分の情報と前の自分の記憶が一気に脳内を巡ってそのまま気絶した。  私は放置された16歳の少女リーシャに転生?してた。自分の状況を理解してすぐになぜか王様の命令で辺境にお嫁に行くことになったよ!    辺境はイケメンマッチョパラダイス!!だったので天国でした!  食べ物が美味しくない国だったので好き放題食べたい物作らせて貰える環境を与えられて幸せです。  もふもふ?に出会ったけどなんか違う!?  もふじゃない爺と契約!?とかなんだかなーな仲間もできるよ。  両親のこととかリーシャの真実が明るみに出たり、思わぬ方向に物事が進んだり?    いつかは立派な辺境伯夫人になりたいリーシャの日常のお話。    主人公が結婚するんでR指定は保険です。外見とかストーリー的に身長とか容姿について表現があるので不快になりそうでしたらそっと閉じてください。完全な性表現は書くの苦手なのでほぼ無いとは思いますが。  倫理観論理感の強い人には向かないと思われますので、そっ閉じしてください。    小さい見た目のお転婆さんとか書きたかっただけのお話。ふんわり設定なので軽ーく受け流してください。  描写とか適当シーンも多いので軽く読み流す物としてお楽しみください。  タイトルのついた分は少し台詞回しいじったり誤字脱字の訂正が済みました。  多少表現が変わった程度でストーリーに触る改稿はしてません。  カクヨム様にも載せてます。

貴方へ愛を伝え続けてきましたが、もう限界です。

あおい
恋愛
貴方に愛を伝えてもほぼ無意味だと私は気づきました。婚約相手は学園に入ってから、ずっと沢山の女性と遊んでばかり。それに加えて、私に沢山の暴言を仰った。政略婚約は母を見て大変だと知っていたので、愛のある結婚をしようと努力したつもりでしたが、貴方には届きませんでしたね。もう、諦めますわ。 貴方の為に着飾る事も、髪を伸ばす事も、止めます。私も自由にしたいので貴方も好きにおやりになって。 …あの、今更謝るなんてどういうつもりなんです?

【完結】聖女が性格良いと誰が決めたの?

仲村 嘉高
ファンタジー
子供の頃から、出来の良い姉と可愛い妹ばかりを優遇していた両親。 そしてそれを当たり前だと、主人公を蔑んでいた姉と妹。 「出来の悪い妹で恥ずかしい」 「姉だと知られたくないから、外では声を掛けないで」 そう言ってましたよね? ある日、聖王国に神のお告げがあった。 この世界のどこかに聖女が誕生していたと。 「うちの娘のどちらかに違いない」 喜ぶ両親と姉妹。 しかし教会へ行くと、両親や姉妹の予想と違い、聖女だと選ばれたのは「出来損ない」の次女で……。 因果応報なお話(笑) 今回は、一人称です。

処理中です...