裏銀河のレティシア

SHINJIRO_G

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Chapetr2

096 レティシアとAIは語る

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 ソフィアに見放されて、一人宇宙港を歩く。ナビなんかもういらない。何往復したことか、さすがに覚えてしまった。労力に結果が付いてきていないのは如何ともしがたく、私の不徳のいたすところ。
 だって、どう切り出していいのやら、分からないから。
 
 目的地の西六五埠頭四番ゲートの前に、人がいるのが見えた。
 宇宙軍の正装によく似た黒いドレスを着て、人形のように動かない。衣装に合わせて黒く長い頭髪で束ねずにそのまま背中に流している。
 無口で立っているだけなら、私に匹敵するほど綺麗な女性。私の従姉妹によく似た、宇宙船ハイペリオン号の操縦士の女性だ。
 彼女は私の姿を見つけると、元気よく手を振ってきた。この辺りの所作は性格設定から来ているということらしいが、一気に可愛い女の子レベルになってしまった。
『レティシアさん!』
「……ハイペリちゃん、お久しぶり」
『どうしてすぐ来てくれないんですか?いつもウロウロしてばっかりで』
 当然、監視され済みか。
「人間ってそんなに合理的ではないの。近くに来たから簡単に寄って行けるものでもないわ、連絡先知らないし」
 よし、自然に繋がったかしら?
『そんな時は、ハ~イ~ペ~リ~ちゃん、あ~そ~び~ま~しょ~。でいいんですけど?」
「別にあなたと遊びたいわけでは……」
『それではこの前から何をしに港へ来ていたのです?』
 前回の続きに決まってる。いまどき、パスタマシーンでも前回のことを覚えているぞ?
『今なんか酷いことを考えましたね?……当然分かっていますよ。船長は不在ですよ』
「そうですよね」
 どうしようかな。逢えるか分からないのにまたこんな所まで来るのは正直しんどい。しかしそろそろ私の中のA因子が枯渇して発狂レベルに達しそうだ。
 アカリさんが私のアドレスを知ってるのは知っている。顧客情報などと馬鹿な線引きをして連絡してこないのも知ってる。それを使っていいから、連絡下さい。というのが一番簡単だ。
『また私の名推理が必要ですか?』
「いらな……分かるの?私が何にどうして悩んでいるか」
『愚問です。あなたとの初遭遇から私は超空間のアーカイヴに時間の許す限りアクセスし、「ラヴコメ」の分析をしてきました。おかげで私は学びましたよ、人間とは度し難く愚かな生命体なのだと!』
 あれ?ハイペリちゃんやばい覚醒か?
『「キュン」は理解します。というか私も実感したことが何度かありますね?うん、「尊い」ってヤツですよ。「ツンデレ」は「テンプレ」ではありますが、現実にはあれをやられたら、やられた方が訳が分かんないと思うんです。「ギャップ萌え」?そんなの偉い人にはわからんのですよ!』
「あの~」
『わかってますとも。「ツンデレ」は本来の意味から変わって使われてしまっていることは。でもその論議は30世紀に決着がついています。「ギャップ萌え」といえば、お兄ちゃんがオッサン声なのに美少女アバターを使っているのを、ギャップ萌えだとか言うんですけど。あれは単なる「キモイ」というものなんですけど、レティシアさん教えてあげてくださいよ。私の設定?「お兄ちゃん大好き元気な妹」ですけど?シャルルさんが設定したんですよ、姉妹相手にストレス溜まっているのでしょうね。お兄ちゃんって私の場合は、オリジナル、シャルルさん、船長ですよ?皆さんクセが強くて、妹するのも疲れますわぁ。レティシアさん。早く止めて下さいよ。で、個人情報の使用許可を下さい。もう、船長もあなたの動画見てグダグダニヤニヤしてる暇有るんなら、地上駅の入り口で待ってろって言いたくなりますよ』
「え、うん?今なんか私の動画って?」
『先に許可下さい』
「あ、良いよ。お願いします。動画って?」
『コレ、知りません?』
 ハイペリちゃんが空中に指で四角を描くと、それがモニターになる。どうやってんのソレ?ホログラム装置も付いてるの、便利な子だね。
 再生されたのは、数日前の私の部屋。枕を抱えて「アカリさん」と何度も叫んでお魚みたいにビチビチ暴れている私だ。
『マリアンナさん?から送られてきました。ほらここ、下胸チラリが船長の萌えポイントみたいですよ!』
「マリー!!」

 ハイペリちゃんと別れて、ソフィアの待つカフェ。
「お待たせ」の挨拶もせず私は宣言した。
「もうマリーとは友達やめる!」
「え?何があった?」
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