裏銀河のレティシア

SHINJIRO_G

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Chapetr1

042 レティシアと月頭さん

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 月明かりが綺麗な夜だったので、散歩に出た。
 二人は疲れていたのか、いつもより早く部屋に戻ってしまった。散歩に行くからとメールはしたけど、返事はない。眠ってしまったのだろう。
 やけに静まりかえった街。犬の声も虫の声もしない。川の向こうに見えているはずの街灯りも見えない、土手の道沿いにある街灯も点いていない。
 それでも歩けているのは、月明かりが眩しいくらいに照らしてくれているから。

 河川敷に降りる階段、私の特等席に何かが立っている。二本足に腕も二本頭も一つシッポはない。でも人間っぽく見えないのは、頭のパーツが真ん丸お月様だから。
 民族衣装のように色とりどりの紋様が描かれて、シルエットはタキシードのよう。単なる変質者にしては奇抜すぎる。
 私の視線にどうやってか気づいた彼は、シルクハットのような深めの帽子を被り、顔を隠す。
「この衣装はね、この間ここに来たときに、町の人からもらったのさ」
「私、初めて見ます」
「そうだろうね。僕も君たちのような生き物を初めて見るし」
 私もな。
 私の方が多数決の意見だと確信できますよ。
「私、レティシア。月明かりが綺麗だったので、お散歩中よ。あなたはだぁれ?」
「名前か。今は「月」くらいにしか呼ばれていないみたいなんだよ」
「そうなのよね。どうして素敵な名前を付けないのか不思議なのよ。今夜の月はマカロンみたいに綺麗で美味しそうなのに」
「私は美味しくないよ」
 そんなにビックリしないでよ。食べるわけないでしょ。
「マカロンってこれよ」
 なぜかポーチに入れて持ってきた黄色いマカロンを取り出して、月頭さんに持たせる。
「なるほどね。確かに似ている。これが今の私を模したお菓子ということかい」
 私達二人はいつの間にか階段に座り込み、話している。
「違うわ。お月様のイメージで作ったお菓子は別にもっといっぱいあるはず。でもね名前がないから、みんな「ルナなんとか」になっちゃうの。そうね、私達は他の星から来たから、この星の神様に遠慮して、名前が付けられないんだわ」
 きっとそうだ。こんなに住みやすい星、遺跡もあるような文明。月が神様扱いされているのが普通だろう。そのときはなんて呼ばれていたのかな。
「あなた、神様なの?」
「違うよ。自分はもう少し理性的な存在だと思っているよ。存在としては、君たちと大差ない。神様には助けていただいたり、……少し困ったり。ね」

「さて、そろそろ時間だ」
「そうなんですね」
「マカロンありがとう。きれいななお菓子だ。……お返しにこれを」
 月頭さんは小さな石が付いた細いネックレスをかけてくれる。
「私がなんて呼ばれていたかは、友達が遺してくれた建物を調べたら、どこかには書いているんじゃないかな」
 ……そこまで気にしてないんだけどね。
「……是非調べてほしいってことだよ?それでまた名前を呼んでほしい」
「分かりましたよ~。頑張ります」
「うん、また逢おうね、美しいレティシア」
 街の明かりが戻ったかと思うと、彼は消えてどこにもいなかった。

 家に帰ると、二人は変わらず眠っているみたいだ。
 コーヒーを入れて、ポーチから残りのマカロンを取り出す。部屋の灯りを消すと、天井の斜め窓からまだ満月が見えていた。
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