37 / 104
Chapetr1
037 レティシアと芸術の秋、未遂
しおりを挟む
秋は何をするにも良い季節だと言われている。
他の星や街よりも季節のメリハリが少ない星都でもやっぱりそうだと思う。秋は冷えたビールも温かいラム入りコーヒーもどちらも美味しいのだ。
「困ったわ」
そりゃ悩むでしょう。私自身が芸術なんだから。鏡で自分を見てウットリしていたら、ちょっと怖い人だろう。私の場合、ああ仕方ないねとか思われるかもしれないけど。……突っ込み役がいないのでこの辺りでやめないとね。
芸術というのは何も美しい物を見るだけではない。日常のあらゆる物の中に美は存在し、それを楽しむことこそが芸術鑑賞というものだ。
私の考える、美とは正反対のもの。それはヒトデだ。
彼らの中に少しでも美を見いだせたのなら、私たちは友達になれるだろう。……ごめん友達はイヤだ。
「そうだ、海へ行こう!」
ぱぱっと着替えて、お出かけする。
海までは歩いて2時間ほど。だから普通の人は歩かない。便利なバスがあるのだから。
その便利なコミュニティバスに何度も追い抜かれて、街のお店のテイクアウトをほおばりながら、海に着いた。
真夏に比べると風もやや強くて、波も立っている。海水浴にはもう寒いんだろう、遊びに来ている人はあんまりいない。今日はここで気の済むまでヒトデと語り合うのだ。
「ヒトデ~出ておいで~」
波打ち際に立ち、目を凝らして海の底を見る。
「ヒトデ殿~」「ヒトデさ~ん」
奴らが人語を解するはずもない。これは単なる、そう、勢い付けだ。
波で砂が巻き上げられて、そもそも底なんて見えない。
イメージでは、ヒトデは海の底。砂地で、貝なんかが茹でられたみたいに口を開けていて、海草がひらひら。そんなところにポテッと落ちているんだ。
「今日は無理だな……」
ん?もう一つイメージが浮かんできた。岩場の水たまり。そうだ、引き潮で逃げ遅れたヒトデとかヒトデが、避難しているんだ。奴らは水中、私は外。息を止めたり無理をしないで観察することができる。理想じゃないですか。
私は先に見える岩場へ向かった。
「ヒトデ~出ておいで~」
岩場は危険。角が取れて丸くなった岩は滑るし、角が鋭くとがって包丁みたいになっている岩は切れるんだから。どこから水が出てくるかわからないエリアもある。
「ヒトデ殿~」「ヒトデさ~ん」
秋の昼下がり。夏のイメージで出てきたけど、ヒトデ探し程度では体も温まらない。
「冷えてきたな……」
口に出してしまうとほぼ負けだ。ヒトデ一色だった脳内に暖かい食べ物の映像が侵食してくる。
「魚……干物で日本酒か、フライでビールか……ムニエルでワインもいい……」
気が付けば、海から離れて街に向かって歩いていた。
結局は目についた屋台で、小エビの素揚げでビール。
「お姉さん、ODENとかもあるけどいいのかい?」
「今日はね、魚料理ではしごすんの。ここは栄光のスタート地点よ!」
「おお、なんか知らんが、ほどほどにな」
冷たいビールで体も冷えた。向こうに見えるお店で、つみれ汁とかないかしら?
他の星や街よりも季節のメリハリが少ない星都でもやっぱりそうだと思う。秋は冷えたビールも温かいラム入りコーヒーもどちらも美味しいのだ。
「困ったわ」
そりゃ悩むでしょう。私自身が芸術なんだから。鏡で自分を見てウットリしていたら、ちょっと怖い人だろう。私の場合、ああ仕方ないねとか思われるかもしれないけど。……突っ込み役がいないのでこの辺りでやめないとね。
芸術というのは何も美しい物を見るだけではない。日常のあらゆる物の中に美は存在し、それを楽しむことこそが芸術鑑賞というものだ。
私の考える、美とは正反対のもの。それはヒトデだ。
彼らの中に少しでも美を見いだせたのなら、私たちは友達になれるだろう。……ごめん友達はイヤだ。
「そうだ、海へ行こう!」
ぱぱっと着替えて、お出かけする。
海までは歩いて2時間ほど。だから普通の人は歩かない。便利なバスがあるのだから。
その便利なコミュニティバスに何度も追い抜かれて、街のお店のテイクアウトをほおばりながら、海に着いた。
真夏に比べると風もやや強くて、波も立っている。海水浴にはもう寒いんだろう、遊びに来ている人はあんまりいない。今日はここで気の済むまでヒトデと語り合うのだ。
「ヒトデ~出ておいで~」
波打ち際に立ち、目を凝らして海の底を見る。
「ヒトデ殿~」「ヒトデさ~ん」
奴らが人語を解するはずもない。これは単なる、そう、勢い付けだ。
波で砂が巻き上げられて、そもそも底なんて見えない。
イメージでは、ヒトデは海の底。砂地で、貝なんかが茹でられたみたいに口を開けていて、海草がひらひら。そんなところにポテッと落ちているんだ。
「今日は無理だな……」
ん?もう一つイメージが浮かんできた。岩場の水たまり。そうだ、引き潮で逃げ遅れたヒトデとかヒトデが、避難しているんだ。奴らは水中、私は外。息を止めたり無理をしないで観察することができる。理想じゃないですか。
私は先に見える岩場へ向かった。
「ヒトデ~出ておいで~」
岩場は危険。角が取れて丸くなった岩は滑るし、角が鋭くとがって包丁みたいになっている岩は切れるんだから。どこから水が出てくるかわからないエリアもある。
「ヒトデ殿~」「ヒトデさ~ん」
秋の昼下がり。夏のイメージで出てきたけど、ヒトデ探し程度では体も温まらない。
「冷えてきたな……」
口に出してしまうとほぼ負けだ。ヒトデ一色だった脳内に暖かい食べ物の映像が侵食してくる。
「魚……干物で日本酒か、フライでビールか……ムニエルでワインもいい……」
気が付けば、海から離れて街に向かって歩いていた。
結局は目についた屋台で、小エビの素揚げでビール。
「お姉さん、ODENとかもあるけどいいのかい?」
「今日はね、魚料理ではしごすんの。ここは栄光のスタート地点よ!」
「おお、なんか知らんが、ほどほどにな」
冷たいビールで体も冷えた。向こうに見えるお店で、つみれ汁とかないかしら?
0
お気に入りに追加
3
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい
白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。
私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。
「あの人、私が
スケートリンクでバイトしてたら大惨事を目撃した件
フルーツパフェ
大衆娯楽
比較的気温の高い今年もようやく冬らしい気候になりました。
寒くなって本格的になるのがスケートリンク場。
プロもアマチュアも関係なしに氷上を滑る女の子達ですが、なぜかスカートを履いた女の子が多い?
そんな格好していたら転んだ時に大変・・・・・・ほら、言わんこっちゃない!
スケートリンクでアルバイトをする男性の些細な日常コメディです。
小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話
矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」
「あら、いいのかしら」
夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……?
微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。
※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。
※小説家になろうでも同内容で投稿しています。
※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。
令嬢の名門女学校で、パンツを初めて履くことになりました
フルーツパフェ
大衆娯楽
とある事件を受けて、財閥のご令嬢が数多く通う女学校で校則が改訂された。
曰く、全校生徒はパンツを履くこと。
生徒の安全を確保するための善意で制定されたこの校則だが、学校側の意図に反して事態は思わぬ方向に?
史実上の事件を元に描かれた近代歴史小説。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる