裏銀河のレティシア

SHINJIRO_G

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Chapetr1

034 レティシアと読書の秋、未遂

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 秋は何をするにも良い季節だと言われている。
 他の星や街よりも季節のメリハリが少ない星都でもやっぱりそうだと思う。秋は冷えたビールも温かいラム入りコーヒーもどちらも美味しいのだ。

 さて、友人達が「○○の秋」と銘打って、好き放題しているので私もそれに倣おうかと思う。
「そうね。文学美少女の秋にしようかな」
 この街の自由大学の敷地には大きな図書館がある。それがちょうど目の前にあるのだから、単純でわかりやすいよね。
 図書館というものは良いものだ。
 移民船がこの星に来たときには実物の本なんて無かったはずなのだ。言っちゃうと悪いが、紙の本なんて船団にとっては余分な荷物にしかならないのは分かると思う。だけど300年でここまで集めてしまった。
 とまあでも、コレには理由がある。数百年前に既に権利が切れた書籍の電子データを片っ端から実体化していったらしいのだ。
 今よりももっと星が貧乏だったのに、公共施設を華美にしたがる時代があったんだって。
 だから。重厚な表紙をしながら実はMANGA。とかいうのも意外と多い。

 鞄から出した伊達めがねを掛けて、雰囲気を作ってみる。こういう時のために、変装グッズはいくつか持ち歩いている。当然、私の裸眼の視力は計測不能レベルだ。
 私が読むのは主に外国文学の古典だ。長い時間読まれ続けていて、よその国でも長い間読まれている作品に、外れなんて考えられないからね。あと、事典とか図鑑とかそういうのも好き。
 手始めに返却棚を確認する。図書館の「通」はまず返却棚を見るものらしい。誰かが言ってた。
 でも実は、私は今本を読みたい気分じゃない。形から入ってしまったけど。

 手近な書架に近づいて眺めていると、連番の数字が入れ替わっているところを見つけてしまった。
「良し」
 特に何も考えずに、番号順に本を入れ替えた。ほんの少しの達成感。
 何となく書架の本の並びを確認する。
「あ、またあった」
 きちんと整理されていると思っていた書架だったけど、意外と並べミスが多かった。
 達成感を得るたびに、よくわからない苛立ちも貯まっていく。
「どうしてこんな簡単なことができないの!」
 ギルのこともマリー達のことも、どうしてモヤモヤしてるかわからないけど。聞けばいいじゃないか。簡単なことだ。
「それが聞ければ、苦労しないって!」
「あの……館内ではお静かに」
 定番の注意までされてしまった。
「スイマセン」
 手に持っていた、番号をそろえる最中のタイトルもよく覚えていない本を借りて、図書館から逃げ出した。

 逃げ出した先は学校の食堂だ。いつでもやっているし、カフェとしても優秀だ。この時間は学生も少ないので、モヤモヤするにはいい場所じゃないだろうか。
「聞くのは簡単、聞くのは簡単……」
 端末のメール画面を開き、短文を入力。あて先はマリーとソフィア。文面はこうだ。
『あんたたち付き合ってるの?』
 あくまでも「軽い質問」っぽく。あとは送信するだけ……。
「レティシア、何をしているんだい?」
「うわっ」
 この、優しい声は。
「ギル……バート君」
 ちょ、画面消さなきゃ!ええっとどれだ、ボタンは。
「あ、しまった!送信してもうた!」
「……忙しそうだね、また今度にするよ」
「あ、違うの、待って!ってあ~どうしよ」
 もともと送信をしようとしていたメールだ。だから送ったとしても問題ないはずなんだけど。いや、ダメだろあの内容!
「友達に変なメール送っちゃった……」
「うん……」
「で、ちょっと最近自分の気持ちを整理していて、ちょっと会う自信なくて、でもイヤになったとかではなくて、ごめん、落ち着いたらまた連絡する!」
 言い訳だけして、ギルの前から立ち去る。
 が、入り口で二人に捕まった。
「レティシア、このメール何?」
「最近見ないと思ったら、また自分からおかしくなって!」
「だ、だって……」
 何かないか?言い訳でも加勢でも……。
「ギ、ギル助けて!」
 視界の隅で未だテーブルで立ち尽くすギルに縋りつく。
「自分はギルバート君と逢引きかぁ?」
「違うの、いや、違わないよギル!これはですね」
「落ち着きなさい、レティシア。別に怒ってないから」
「レティシアは何か悩んでるんだって?僕らで聞いてあげるから、いったん座って」
 近くのテーブル席に座らされる。
「みんな……笑顔ってそんな顔じゃないよ?ねぇ」
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