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第五章 過去との再会
閑話3 三人は彼の部屋で
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これは、春陽が雪愛に自身の過去をすべて話した後。
残り僅かとなった夏休み中のことだ。
春陽はバイトが休みの今日、悠介の家にお邪魔していた。
いつものように夕食をご馳走になり、今は悠介の部屋にいる。楓花も一緒だ。
夕食のとき、春陽は悠介の家族全員から風邪の心配をされた。どうやら悠介からすべて聞いているらしい。春陽はもう完全に治ったことを伝えると、皆からよかったと安心された。そして困ったことがあったらもっと頼りなさい、と優しい説教をされてしまった。そんな彼らの反応に春陽はむず痒さのようなものを覚え、思わず苦笑してしまう。
春陽は心からありがとうございます、とお礼を言った。
さらに、悠介の父から、啓蔵の海の家を手伝ったことのお礼まで言われてしまった。バイト代をもらっているからと春陽は恐縮したが、どうもお礼は言葉だけではなかったみたいだ。
「たくさん作ったから遠慮なんてしないでいっぱい食べてね」
悠介の母が春陽に言う。
その日の食事は豪華で、若者向けにお肉料理が多く、どうやら悠介の両親から春陽へのお礼と元気がでるようにということのようだった。無理強いは決してしないが、いつも以上に勧められてしまい、春陽は本気でお腹いっぱいになった。ちょっと食べ過ぎてしまっただろうか、と一抹の不安が過るが、皆笑顔で、春陽がいっぱい食べてくれたと嬉しそうにしており、春陽は少し恥ずかしく思いながらも安堵の息を吐いた。
さらには、食後に、春陽の好みに合わせて甘すぎないよう配慮したのか、フルーツタルトのデザート付きだった。
この家は本当にいつ来ても温かい。
食事中、春陽も笑みが絶えなかった。
どれも本当に美味しく、春陽はありがたくデザート付きの豪華な夕食を心ゆくまでいただいた。
そして今。
春陽、悠介、楓花の三人はジュース片手にお喋りをしていた。
その内容は――――。
「えっ、それじゃあハル兄、本当に雪愛姉と付き合い始めたの!?」
海の家での話だった。
雪愛達が自分の行った一日前に来ていたことをすでに聞いていた楓花が話を聞きたがったのだ。
実は、楓花はずっと悠介に話を聞かせてと強請っていたのだが、悠介は一人で楓花の相手をするのが面倒で、春陽が来るこの日にと楓花を待たせていた。
一番しつこく聞いてきたのが雪愛の水着姿というのはどうなんだ、と春陽も悠介も思ったが深くはツッコまない。これも楓花の個性だと思うことにする。
写真を撮っていないのかと煩かったので、皆で撮ってアプリで共有していた写真を見せたところ、雪愛の水着姿に、はぁはぁと息を荒げだした楓花に、春陽も悠介もドン引きしていた。
悠介は兄として、楓花はいったいどこに進んでいるのかと不安になった。
楓花としては、単に雪愛が自分の理想的な女性で、そのスタイルも憧れのように思っているだけなのだが、それにしては表現の仕方が致命的だった。
そんな楓花だが、夜、花火をしたときの写真で敏感に春陽と雪愛の距離感に気づいたのだ。
そこから春陽と雪愛のことについての追求が始まり、先ほどの楓花の言葉となった。
「ああ」
春陽が小さく微笑みながら少し恥ずかしそうに肯定する。
「ぎゃぁぁあああ!!!おめでとーー!!ハル兄!」
大声で叫んで春陽を祝う。楓花は本当に嬉しかったのだ。バーベキューのときから、そして温泉で雪愛の話を聞いて余計に、二人が付き合えたらどんなにいいかと思っていたのだから。
雪愛の気持ちは明らかだったから、後は春陽次第だと思っていたが、まさかこんなに早く二人が付き合うようになるとは。
「楓花うっせー!」
「お兄は黙ってて!こんなおめでたい話してるのに!」
悠介が煩い楓花を窘めるが、即座に言い返されてしまう。楓花のテンションは爆上がりだ。勢いが違う。
「ぐっ」
「悠介、諦めろ」
こうなった楓花は止められないことを経験上知っている。
「……へいへい」
それは悠介もだった。
「それでそれで?どっちから告白したの?やっぱりハル兄?それとも雪愛姉?」
目をキラキラさせて楓花は尋ねる。
「俺からだよ」
「おおっ!ハル兄すごいじゃん!」
それからも楓花の好奇心は衰えることを知らず、春陽はタジタジになっていた。
春陽はこういう話をすることに慣れていないのだ。
相手が楓花だから対応しているが、もし親しくもない相手、たとえばただのクラスメイトとかだったら春陽は無言を貫いていたか、即切って捨てていただろう。
そんな春陽を見て、悠介は笑っていた。
どれくらい時間が経っただろうか。
ようやく聞きたいことを全部聞けて満足したのか、楓花の高かったテンションが落ち着いてきた。春陽は少しぐったりしている。
「けど、二学期からハル兄大変だね。あの雪愛姉の彼氏だなんて、男子達から恨まれそう」
落ち着いた声で楓花がしみじみと言う。
「確かにな。楓花の言う通り、お前らもし付き合ってることがバレたらきっとすごいことになるぞ?」
茶化すように言っているが、悠介も気になっていたことだった。周りが変な風に騒がなければいいと切に願っているが、きっとそういう訳にもいかないだろう。
「まあ、相手が俺だし、それはな。大っぴらにするつもりは別にないんだけど。それにそんなこと、告白する前からわかってたことだ。気にしてたらそもそも告白なんてしてねえよ」
「カッコいいこと言うじゃん、ハル兄!」
「くくっ、まあそりゃそうだわな」
そんな話をしていると楓花が標的を悠介に変えた。
「お兄もいい加減告白するかさぁ、少なくとももっとアピールした方がいいんじゃない?」
「はぁ!?いきなり何言いやがる。俺は別に、そんな相手……」
「もうそういうのはいいんだってば。ずっと前からお兄の好きな人なんてわかってるから。あんなに素敵な人なんだもん。好きになっちゃうのもわかるけど、……お兄も大変な人好きになったよね~」
楓花はニヤニヤとした笑みを浮かべているが、心の中では悠介のことを応援していた。
「好き好き繰り返すんじゃねえ。聞きたいことは全部聞いたんだろ?もうお前いいから、自分の部屋戻れよ」
いきなり自分の話、それも恋バナになり、意表を突かれたのもあるのだろう。
悠介が本気で怒りそうな雰囲気だ。妹とそんな話をしたい兄はそうそういない。
楓花はさすが兄妹、といったところだろうか。悠介の表情などからヤバいと即座に判断した。
「はーい。それじゃあまたねハル兄!後のお兄をよろしく!」
楓花はそう言って、さっさと悠介の部屋から出て行った。
嵐が去った悠介の部屋。
「なんて言うか、……楓花すごいな」
春陽は他に言葉が見つからなかったようだ。
「マジでなんなんだよ、あいつ……」
悠介はがっくりと項垂れている。
その様子に春陽は苦笑いだ。
二人はジュースを飲み、一息吐いた。
「けど、実際どうなんだ?」
春陽が悠介に聞く。
悠介はちらりと春陽に視線を向けた。春陽の表情から、どうも揶揄っている訳ではなく、本気で気にかけているようだとわかる。まあ春陽がこういう話題で揶揄ってくるとは元々思っていないが。
「……どうもこうもねえよ。こっちはまだまだガキだからな。相手にされないことがわかってるのに無理にどうこうするつもりはねえ」
「そうか……」
春陽としても悠介のことは応援したいのだ。
それでも悠介の言い分もわかって、何も言えなくなってしまう。そんなの関係ない、気持ちの問題だろ、などと無責任なことは絶対言いたくない。
「ま、こっちのことなんか気にすんな。自分なりに考えてはいるし、まだまだ諦めるつもりなんてないから」
「わかった」
「それよりも、だ。お前らがうまくいったことは楓花じゃないけど本当にめでたいんだから。俺もあのときはマジで嬉しかったしよ。……んで、突然姉ちゃんに会っちまってお前の方は大丈夫なのか?」
悠介が自分の話を強制的に終わらせ、真面目な様子になると、おそらく今日ずっと聞きたかったことを聞いた。
きっと姉との再会は春陽の心に大きな負担となったはずだから。
「ああ。大丈夫だ。もしかしたらまた今度、もう一回話すかもしれないけどな」
「マジかよ!?なんでそんなことになったんだ?」
悠介が驚くのも無理はなかった。春陽の事情を少しでも知っていれば、もう一度話そうなんて普通考えないと思ってしまう。けれど春陽はそれに直接答えず、
「……なあ、悠介。俺な、雪愛に昔のこと全部話したよ」
雪愛に自身の過去を話したことを伝えた。
「っ!?……そうか。やっぱ、姉ちゃんと会ったから、だよな?」
春陽の告白に悠介は目を大きくした。
そして心配げな顔で言葉を続ける。
話したはいいが、雪愛の反応が気になったのだ。雪愛なら受け止めてくれたと信じたい。けれど、春陽の過去はそんな生易しいものではないことを悠介は知っている。きっと自分に話してくれた内容はすべてではないだろう。それでも悠介には衝撃的な内容ばかりだった。それを『全部』だ。雪愛はいったいどう思ったのか。重すぎる、と思ったりしなかっただろうか。
「まあ、きっかけはな。美優とのこと、すごい心配してくれてて、……雪愛は全部受け止めてくれた。泣かせちまったけどな」
「そうか。……うん、よかったじゃねえか。白月はお前のことそれだけ本気なんだろ」
春陽の言葉に悠介は安堵する。
春陽が全部と言うからには本当に全部話したに違いない。
半端な気持ちでは聞いていられなかったはずだ。
春陽がすべてを話せて、そして雪愛がすべてを受け止めた。
春陽にそんな人ができたことが悠介は嬉しかった。
「……お前にも心配かけたな。悪かった」
春陽は口元に笑みを浮かべただけで、悠介が言った言葉には敢えて言葉を返さなかった。
雪愛が本気で自分のことを想ってくれている、それは雪愛からすごく感じたことだが、悠介にそんなことを言うのは照れ臭かったのだ。
だから悠介に心配をかけたことを謝った。
「くくっ、んなこと気にすんな」
だが、悠介はお見通しのようで、笑いを堪えようとするが、漏れてしまうのだった。
春陽にとって、雪愛との出会いは間違いなく大きなものだろう。
だが、悠介との出会いもまた、春陽にとって大きなものに違いない。
最近になって春陽はそれを自覚している。
それに、和樹達などは、二人のことを中学からの親友同士だと普通に思っている。
おそらくそれが最もこの二人を表すのに適した言葉だろう。
悠介に伝えることなどないが、春陽は悠介に感謝していた。
そして、この友が、幸せになれますようにと願っていた。
残り僅かとなった夏休み中のことだ。
春陽はバイトが休みの今日、悠介の家にお邪魔していた。
いつものように夕食をご馳走になり、今は悠介の部屋にいる。楓花も一緒だ。
夕食のとき、春陽は悠介の家族全員から風邪の心配をされた。どうやら悠介からすべて聞いているらしい。春陽はもう完全に治ったことを伝えると、皆からよかったと安心された。そして困ったことがあったらもっと頼りなさい、と優しい説教をされてしまった。そんな彼らの反応に春陽はむず痒さのようなものを覚え、思わず苦笑してしまう。
春陽は心からありがとうございます、とお礼を言った。
さらに、悠介の父から、啓蔵の海の家を手伝ったことのお礼まで言われてしまった。バイト代をもらっているからと春陽は恐縮したが、どうもお礼は言葉だけではなかったみたいだ。
「たくさん作ったから遠慮なんてしないでいっぱい食べてね」
悠介の母が春陽に言う。
その日の食事は豪華で、若者向けにお肉料理が多く、どうやら悠介の両親から春陽へのお礼と元気がでるようにということのようだった。無理強いは決してしないが、いつも以上に勧められてしまい、春陽は本気でお腹いっぱいになった。ちょっと食べ過ぎてしまっただろうか、と一抹の不安が過るが、皆笑顔で、春陽がいっぱい食べてくれたと嬉しそうにしており、春陽は少し恥ずかしく思いながらも安堵の息を吐いた。
さらには、食後に、春陽の好みに合わせて甘すぎないよう配慮したのか、フルーツタルトのデザート付きだった。
この家は本当にいつ来ても温かい。
食事中、春陽も笑みが絶えなかった。
どれも本当に美味しく、春陽はありがたくデザート付きの豪華な夕食を心ゆくまでいただいた。
そして今。
春陽、悠介、楓花の三人はジュース片手にお喋りをしていた。
その内容は――――。
「えっ、それじゃあハル兄、本当に雪愛姉と付き合い始めたの!?」
海の家での話だった。
雪愛達が自分の行った一日前に来ていたことをすでに聞いていた楓花が話を聞きたがったのだ。
実は、楓花はずっと悠介に話を聞かせてと強請っていたのだが、悠介は一人で楓花の相手をするのが面倒で、春陽が来るこの日にと楓花を待たせていた。
一番しつこく聞いてきたのが雪愛の水着姿というのはどうなんだ、と春陽も悠介も思ったが深くはツッコまない。これも楓花の個性だと思うことにする。
写真を撮っていないのかと煩かったので、皆で撮ってアプリで共有していた写真を見せたところ、雪愛の水着姿に、はぁはぁと息を荒げだした楓花に、春陽も悠介もドン引きしていた。
悠介は兄として、楓花はいったいどこに進んでいるのかと不安になった。
楓花としては、単に雪愛が自分の理想的な女性で、そのスタイルも憧れのように思っているだけなのだが、それにしては表現の仕方が致命的だった。
そんな楓花だが、夜、花火をしたときの写真で敏感に春陽と雪愛の距離感に気づいたのだ。
そこから春陽と雪愛のことについての追求が始まり、先ほどの楓花の言葉となった。
「ああ」
春陽が小さく微笑みながら少し恥ずかしそうに肯定する。
「ぎゃぁぁあああ!!!おめでとーー!!ハル兄!」
大声で叫んで春陽を祝う。楓花は本当に嬉しかったのだ。バーベキューのときから、そして温泉で雪愛の話を聞いて余計に、二人が付き合えたらどんなにいいかと思っていたのだから。
雪愛の気持ちは明らかだったから、後は春陽次第だと思っていたが、まさかこんなに早く二人が付き合うようになるとは。
「楓花うっせー!」
「お兄は黙ってて!こんなおめでたい話してるのに!」
悠介が煩い楓花を窘めるが、即座に言い返されてしまう。楓花のテンションは爆上がりだ。勢いが違う。
「ぐっ」
「悠介、諦めろ」
こうなった楓花は止められないことを経験上知っている。
「……へいへい」
それは悠介もだった。
「それでそれで?どっちから告白したの?やっぱりハル兄?それとも雪愛姉?」
目をキラキラさせて楓花は尋ねる。
「俺からだよ」
「おおっ!ハル兄すごいじゃん!」
それからも楓花の好奇心は衰えることを知らず、春陽はタジタジになっていた。
春陽はこういう話をすることに慣れていないのだ。
相手が楓花だから対応しているが、もし親しくもない相手、たとえばただのクラスメイトとかだったら春陽は無言を貫いていたか、即切って捨てていただろう。
そんな春陽を見て、悠介は笑っていた。
どれくらい時間が経っただろうか。
ようやく聞きたいことを全部聞けて満足したのか、楓花の高かったテンションが落ち着いてきた。春陽は少しぐったりしている。
「けど、二学期からハル兄大変だね。あの雪愛姉の彼氏だなんて、男子達から恨まれそう」
落ち着いた声で楓花がしみじみと言う。
「確かにな。楓花の言う通り、お前らもし付き合ってることがバレたらきっとすごいことになるぞ?」
茶化すように言っているが、悠介も気になっていたことだった。周りが変な風に騒がなければいいと切に願っているが、きっとそういう訳にもいかないだろう。
「まあ、相手が俺だし、それはな。大っぴらにするつもりは別にないんだけど。それにそんなこと、告白する前からわかってたことだ。気にしてたらそもそも告白なんてしてねえよ」
「カッコいいこと言うじゃん、ハル兄!」
「くくっ、まあそりゃそうだわな」
そんな話をしていると楓花が標的を悠介に変えた。
「お兄もいい加減告白するかさぁ、少なくとももっとアピールした方がいいんじゃない?」
「はぁ!?いきなり何言いやがる。俺は別に、そんな相手……」
「もうそういうのはいいんだってば。ずっと前からお兄の好きな人なんてわかってるから。あんなに素敵な人なんだもん。好きになっちゃうのもわかるけど、……お兄も大変な人好きになったよね~」
楓花はニヤニヤとした笑みを浮かべているが、心の中では悠介のことを応援していた。
「好き好き繰り返すんじゃねえ。聞きたいことは全部聞いたんだろ?もうお前いいから、自分の部屋戻れよ」
いきなり自分の話、それも恋バナになり、意表を突かれたのもあるのだろう。
悠介が本気で怒りそうな雰囲気だ。妹とそんな話をしたい兄はそうそういない。
楓花はさすが兄妹、といったところだろうか。悠介の表情などからヤバいと即座に判断した。
「はーい。それじゃあまたねハル兄!後のお兄をよろしく!」
楓花はそう言って、さっさと悠介の部屋から出て行った。
嵐が去った悠介の部屋。
「なんて言うか、……楓花すごいな」
春陽は他に言葉が見つからなかったようだ。
「マジでなんなんだよ、あいつ……」
悠介はがっくりと項垂れている。
その様子に春陽は苦笑いだ。
二人はジュースを飲み、一息吐いた。
「けど、実際どうなんだ?」
春陽が悠介に聞く。
悠介はちらりと春陽に視線を向けた。春陽の表情から、どうも揶揄っている訳ではなく、本気で気にかけているようだとわかる。まあ春陽がこういう話題で揶揄ってくるとは元々思っていないが。
「……どうもこうもねえよ。こっちはまだまだガキだからな。相手にされないことがわかってるのに無理にどうこうするつもりはねえ」
「そうか……」
春陽としても悠介のことは応援したいのだ。
それでも悠介の言い分もわかって、何も言えなくなってしまう。そんなの関係ない、気持ちの問題だろ、などと無責任なことは絶対言いたくない。
「ま、こっちのことなんか気にすんな。自分なりに考えてはいるし、まだまだ諦めるつもりなんてないから」
「わかった」
「それよりも、だ。お前らがうまくいったことは楓花じゃないけど本当にめでたいんだから。俺もあのときはマジで嬉しかったしよ。……んで、突然姉ちゃんに会っちまってお前の方は大丈夫なのか?」
悠介が自分の話を強制的に終わらせ、真面目な様子になると、おそらく今日ずっと聞きたかったことを聞いた。
きっと姉との再会は春陽の心に大きな負担となったはずだから。
「ああ。大丈夫だ。もしかしたらまた今度、もう一回話すかもしれないけどな」
「マジかよ!?なんでそんなことになったんだ?」
悠介が驚くのも無理はなかった。春陽の事情を少しでも知っていれば、もう一度話そうなんて普通考えないと思ってしまう。けれど春陽はそれに直接答えず、
「……なあ、悠介。俺な、雪愛に昔のこと全部話したよ」
雪愛に自身の過去を話したことを伝えた。
「っ!?……そうか。やっぱ、姉ちゃんと会ったから、だよな?」
春陽の告白に悠介は目を大きくした。
そして心配げな顔で言葉を続ける。
話したはいいが、雪愛の反応が気になったのだ。雪愛なら受け止めてくれたと信じたい。けれど、春陽の過去はそんな生易しいものではないことを悠介は知っている。きっと自分に話してくれた内容はすべてではないだろう。それでも悠介には衝撃的な内容ばかりだった。それを『全部』だ。雪愛はいったいどう思ったのか。重すぎる、と思ったりしなかっただろうか。
「まあ、きっかけはな。美優とのこと、すごい心配してくれてて、……雪愛は全部受け止めてくれた。泣かせちまったけどな」
「そうか。……うん、よかったじゃねえか。白月はお前のことそれだけ本気なんだろ」
春陽の言葉に悠介は安堵する。
春陽が全部と言うからには本当に全部話したに違いない。
半端な気持ちでは聞いていられなかったはずだ。
春陽がすべてを話せて、そして雪愛がすべてを受け止めた。
春陽にそんな人ができたことが悠介は嬉しかった。
「……お前にも心配かけたな。悪かった」
春陽は口元に笑みを浮かべただけで、悠介が言った言葉には敢えて言葉を返さなかった。
雪愛が本気で自分のことを想ってくれている、それは雪愛からすごく感じたことだが、悠介にそんなことを言うのは照れ臭かったのだ。
だから悠介に心配をかけたことを謝った。
「くくっ、んなこと気にすんな」
だが、悠介はお見通しのようで、笑いを堪えようとするが、漏れてしまうのだった。
春陽にとって、雪愛との出会いは間違いなく大きなものだろう。
だが、悠介との出会いもまた、春陽にとって大きなものに違いない。
最近になって春陽はそれを自覚している。
それに、和樹達などは、二人のことを中学からの親友同士だと普通に思っている。
おそらくそれが最もこの二人を表すのに適した言葉だろう。
悠介に伝えることなどないが、春陽は悠介に感謝していた。
そして、この友が、幸せになれますようにと願っていた。
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