冥界の仕事人

ひろろ

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第四章: 新人仕事人

新たな出会い ☆

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  今、あおい達は病院のガーデンバルコニーのベンチにいる。


次の予定者まで時間がある為、オストリッチの帽子と服を衣料樹にお願いしようと、三途の川の脱衣場だつえばに、行こうとしている3人なのだった。


「服を出してもらうには、ダツエ婆様に許可をもらうから、行先は、“脱衣場の緑札専用囲い前”、男性用の囲い前にしよう」


 蓮が言うと、オストリッチは急いでメモをする。


 メモ帳を首からさげているオストリッチを見て、蓮が言う。


「オストリッチ君、メモ帳を貸して」


蓮が上着のポケットからボールペンを取り出し、絵を描き始めた。


 「それ、何の絵ですか?」


 オストリッチが不思議そうに聞いた。


「えっ、分からない?帽子の絵だよ。

オストリッチ君が、思い浮かべた服を、衣料樹が出してくれるから。

ここに書いてある帽子を、覚えるんだよ。

それとこれが、ベストだ。

ちゃんとに、ポケットを付けて!
このメモ帳を入れる所だからね。
忘れるなよ」


 あおいも、蓮が書いた絵を覗き見た。


 ぶっ、笑ったらダメだ!


あれが、帽子?目玉焼きかと思った。
あれが、ベスト?蝶々かと思った。


あの絵を見たリッチ君が、どんなのを想像するのかな?


ちょっと、楽しみだな……。


「さてと、移動するか!
 あおいちゃん、私を抱きしめて、連れて行ってみて!」


「えっ!蓮さんを私が?抱きしめるんですか?」


 お姉ちゃんは、ちゃんとに行けるかどうかを、きっと試されるんだな。


「オストリッチ君は、先に行っていて」
 

 蓮に言われ、オストリッチは先に姿を消した。


 腕を腰に回して、ぎゅっとして、はあ、恥ずかしい!


うん?どこに行くんだっけ?


 えっと、三途の川の だつえばで、緑札の 所だよね?よし、行こう」


すっ……


 ストン……バシャン、バシャン!


「わあー!あおいちゃん!何やってるんだ!」


 2人は、脱衣場の緑札用の浅瀬の川の中に落ちた、いや、着地してしまったのだ。


「蓮さん、本当にごめんなさい」


 あおいちゃんは、場所を覚えられないのか……。


 これは、何か対策を考えないと……。


「コラッ、そこの女と男!
何やってんだい!
さっさと、囲いに入りな!

男は、こっち!女は、あっちだよっ」


 聞き慣れた声がした。


「ダツエ婆さまー!あおいでーす」


 あおいと蓮は、バシャバシャと音を立て、川の中から急いで出た。


「おや、娘じゃないかー!
おっ、蓮もいるのか!
川の中で、何しているんだい!
暇なのかい?暇なら、手伝いなっ!」


「ダツエ婆様、先にオストリッチが来たはずですが、会いましたか?」


 先にいるはずの、オストリッチの姿が見えないので、蓮が聞いたのだ。


「オストリッチ?あぁん?あー、ダチョウのことかい?

 鳥なら、トミエと衣料樹の所に行ったぞ」


 蓮は、ホッとしたのだった。


 それから、ダツエ婆に説明し、許可をもらい、あおいを抱きしめ、衣料樹の所へと移動した。


 シュッ


 蓮さん、びしょ濡れでもカッコいい!


 ギュッと抱きしめられて、幸せを感じます。


  ストン


「 ! 」

 
 そこには、驚く2人の女性がいた。


 あおいと蓮は、衣料樹のすぐ手前のスタッフ専用通路に到着したのだ。


「えー!あおいさん?あおいさんなの?」


 蓮にしがみついたまま、聞いた事のある声だと気づいた。


 すると蓮が、急いで抱きついている あおいを退ける。


 この声って……。

 タマキさんの声?


「えっ?あっ、タマキ先輩!わっ、タマミさんも!

 どうしたんですか?
 あっ、衣装の調達ですか?

 どんなのにするんですか?」
 

 あおいは、会えてとても嬉しかった。


「あおいさんこそ、どうしたの?
  びしょ濡れじゃないの!

 今、ダチョウさんが先に衣料樹様の所にいるから、待っていたんだけど……。

いいわ、あなたも先に、服を出してもらいなさい。

そちらの方も、お先にどうぞ」


 蓮は、急に言われてドギマギとする。


 タマキもタマミも凄い美人だったからだ。


「いえ、すぐに乾くので大丈夫です。
我々は連れを待っているだけですから!

ご親切にありがとうございます。

私は、調査員をしている蓮と申します。
あおいさんの上司です」

 
「私は、第3の門で働いております、タマキと申します。

 よろしくお願い申し上げます」


 続けて、タマミも挨拶をした。


 蓮さんというのね、カッコいいわー!


 タマキは、毎日の様にイケメンスタッフを見ているが、どちらかと言えば、なよっと系ばかりで、見飽きていたところだった。


 この人、私の好み どストライクなんだけど。


でも、あおいさんと抱き合っていたのよね。


あおいさんに恋人がいたなんて、ショックだわね!


 一方、オストリッチは、スタッフルームの前にある衣料樹の所に、トミエと一緒にいた。

 
 あおい達は、スタッフルーム手前のスタッフ専用通路で待っていて、オストリッチの姿は、ここからは見えないのだった。


 オストリッチは、衣料樹から服を出してもらうのは、初めてなので、トミエに呪文を唱えてもらった。


「……鳥ぃ、帽子はそれでいいのかい?
 帽子と言うより、鍋の蓋みたいだぞ?」


「えっ、そうですか?

 でも、絵の通りに想像したので、大丈夫だと思います。

と、と、とみ、とみ……」


「トミエだよっ!」


「す、すみません。

 トミエさん、ありがとうございました」


「うん、それじゃあ、仕事に戻るからさ」

 
 トミエは、戻りがけに あおい達に軽く手を振って行ったのだった。


 それから、オストリッチが登場する。


「えっ!」


 そこにいた誰もが、驚いた。


「オストリッチ君、その帽子は酷いよ。

 私は、そんな絵は描いていないはずだけど?

それは、鍋の蓋にしか見えないよ!」


 えー!リッチ君の想像も酷いけど、蓮さんの絵も酷かったよ。


まあ、本人には言えないけど。


 蓮は、待っているタマキ達に衣料樹に行ってもらい、再度、服を依頼することにした。


程なくして、タマキとタマミが通路へ戻って来たが、


「 ! 」


 皆がその美しさに息を飲む。


「うわぁ、綺麗ですねー!
タマキ先輩が乙姫、タマミさんが舞妓さんですよね。

いいなー!」

 
 あおいは、そう言いながら、楽しんで仕事をしている2人を羨ましく思った。


「それじゃあ、私たち帰りますね」

 
とタマキが言う。

 
 そのままの姿で、スタッフ専用の電車で帰ろうとしているつもりだ。


「その姿で、歩くのは大変でしょうから、私がお2人をお送りします。

 お1人ずつですが、宜しいですか?」


「送る?どうやってですか?」


タマミが聞いたので、蓮が失礼しますと言いながら、タマミを抱きしめた。


「きゃっ、何?」


「こうして、瞬間移動します。行きます」


 タマミと蓮は、姿を消した。


「ちょっと、あおいさん、タマミさんは、大丈夫なの?

蓮さんって、大丈夫な人でしょうね?」


「はい、大丈夫です。とっても優しい(?)方ですから」


 話していたら、すぐに蓮が戻ってきた。 


「タマキさん、抱きしめますよ」


「えっ、えっ、はいっ」


 いや、この感じ、凄く久しぶりだわ!
 蓮さんの腕は、なんてたくましいのかしら!


そんな事を考えている間に、第3の門の前に着いてしまった。


 そこには、先に着いていたタマミがいた。


「あ、蓮さん、先程は御礼も言えずにすみませんでした。

余りにも早く着いたもので、びっくりしていました。

あのぉ、また、お会いできますか?」


 何ぉー!何を言い出しているの、タマミさん?抜け駆けなんて、酷いじゃない!

 
「蓮さんの時間ができた時にでも、こちらに遊びにいらして下さい。

 コスプレパーティーしましょう!」


負けずにタマキも蓮を誘う。


 正直、蓮はコスプレ……は、ちょっと……と思っているので、


「あはは、それでは、また。
さようなら!」


 と、言って戻ってしまったのだった。


「タマミさん、蓮さんはカッコイイね!」


「はい、とっても!
久しぶりにトキメキました!」


「えー、私が先に目をつけたんですからね」


「でも、タマキさん、蓮さんと あおいさんは、抱き合っていましたよね?」


「うん、でも、さっき、私たちも抱き合っていた事になるでしょう?

あおいさんも、移動させてもらっただけなんじゃないのかしら?」


「なるほど、きっとそうですね」


 タマキとタマミの考えは、核心をついていた。

 ………………

 その後、何度も衣料樹にお願いをして、やっと蓮が納得する帽子になった。


 オストリッチは疲れ果て、頭の産毛が抜ける思いだった。


 あおいは、オストリッチの姿をまじまじと見て、ふと思う。


「リッチ君、もしかして、大きくなったんじゃない?

 何となく、首かな?長くなった気がするんだけど?」


「そう言われたら、以前よりも大人っぽくなったような気がするね」


 蓮まで言うので、オストリッチは、嬉しくて、疲れも忘れスキップをする。


ダツエ婆に、新しい姿を見せに行ったのだ。


内面は、まだまだ子どものオストリッチなのだった。
…………………

 仕事が終わった夕方、オストリッチは、新しい姿を後輩鳥に見せようと洋館へと行ってみた。


 針葉樹の隙間から、覗き見ると、プールの中にいた。


いつも水の中にいる……変わった子だなぁ。


「えー、うぉっほん、後輩さん、こんばんは」


 後輩鳥が気が付いて、ビショビショに石タイルを濡らしながら、オストリッチの方に寄ってきた。


「どお?新しい制服なんだ!

 僕のデザインなんだから!」


「わあ、素敵ですね。お似合いです」


 ぐっふふ、その言葉を聞きたかった!


「あの、先輩、私からもご報告です。
私の名前がついに決まりました!」


「へえ、良かったね!それでなんていうの?」


「はい、私はストークです」


「ストークかぁ、覚えられるかな?

いや、覚えるぞ!ストークね!

では、これからよろしくね!

 ストークさん」


 オストリッチは、深々と、挨拶をする。


 後輩ができて、心から嬉しいオストリッチなのであった。

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