アンティーク影山の住人

ひろろ

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初めまして!

奇跡なのかも?

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 ふわっ……。


レースのカーテンを揺らす優しい風が心地良く、いつしか眠りの世界に誘われる。


 コクッ。


 つんっ!


「……いっ、痛ーい!」


「まあ、ルシェ様っ!針を刺したのですか?」


 ルシェとトキエは、オールド国城内にある小さな作業室にいる。


「あー、もう!針を指に刺してしまったわ……ああ、痛かった。わたくしったら、居眠りをしてしまったのね……。ふわぁぁ、眠い。

外は良い天気。
この刺繍ししゅうを中断して、気分転換をしましょうよ。
庭園に行きたいわ。ねっ、いいでしょ?トキエさん?」


「ルシェ様、御手をこちらへ」


 トキエは、ルシェの傷ついた指を消毒し、傷用シールを貼りながら、眉を潜める。


「ルシェ様!オールド国に婿入りして下さったカーソル様が、只今、王様の元で我国について、学んでおられますが?

確か、カーソル様が頑張っておいでなので、ルシェ様から、アンティーク品の修繕を手伝いますわっ!と仰っていませんでしたか?」


「ええ、もちろん。手伝いは頑張りますわよ!

人間界にいる妖精から、毎日のようにアンティーク品の修復修繕依頼があって、大変ですもの。

この城の修理課や我国の修理屋さんに、頼ってばかりはいられませんわ!

だけど、こう、チマチマとした事をやっているとね……。なぜか眠くなるのよ」


 トキエは呆れた顔をしたが、ルシェと共に庭に出た。


 ルシェは、薔薇の咲く庭園のベンチに腰掛ける。


「ああ、薔薇の香りがしますわね。
ふぅ。ここに来ると落ち着くわ……。

あ、トキエさん、隣にお掛けになって。
うーん、綺麗な青空……」


(人間界は、今頃は夜ね……。
皆さん、どうしているのかしら?
元店主の体調はどうかしら?)


「あら?そういえば、庄三郎さんは、どこかしら?庭園の草取りをしていないわ」


「はい、庄三郎殿なら、きっと修理課にある運搬部の手伝いに、行っているのでしょう」


 ルシェは、目を丸くしてトキエに問う。


「えっ、運搬部に?庄三郎さんは、庭園管理の仕事ですわよ。何故、運搬の仕事ですの?」


「はい、庭園管理の方々は、毎日毎日、庭園の手入れをしていますから、何もすることが無い空き時間ができるのです。

そんな時は、修復修繕を終えたアンティーク品を配送センターへと、運ぶお手伝いをしてもらっているのです」


「へぇ、そうですの……。
なら……休憩はお終いですわ!さっさと、刺繍を始めましょう。すぐに修繕を終わらせますわよっ!」


 そう言ったルシェの顔は、なぜかやる気に満ちていたのだった。


(は?今、ここへと来たばかりですのに?うん?これは怪しい!

ルシェ様は、何か企んでおいでですね?まったく、結婚をされても落ち着きの無い姫様ですこと……)

…………………

「出来たー!トキエさん、仕上がりましたわよ!ほら、ほら、このドレスの虫食い部分は、見事に再現できていますでしょ?

ふふふ、さあ、私の自由時間ですわね。
それでは、お疲れ様でございました」


 ルシェは、そそくさと裁縫道具を籐籠にしまい、作業室から出ようとしていた。


「ルシェ様、どこかへお出掛けになるおつもりですか?」


 トキエは、ジロリと片眉を上げて聞いた。


「えっ?いえいえ。あの、その、あっ、夫の様子を見に行きますの。では……」


(夫?いつもなら、カーソルさんとお呼びしているのに!ははーん、嘘をついていますね。どうせ、庄三郎殿のところに行くのでしょう?)


「さようでございますか。
お邪魔になりま……せんようにって、もういない!」

……………………

(右見て、左見て、誰もいないわね!
よし、行ってみよう!)


お姫様ドレスから、ツナギ作業着に着替え、帽子を被り、髪をその中にしまったルシェは、変装をしているつもりだ。


人間界では着慣れた姿なのだが、オールド国では王女だから、有り得ない姿で外へと出たことになる。


(えーと、運搬部がある修理課ってこっちにあるはずね?庄三郎さん、いるかしら?)


タッタッタッタッ。


誰にも王女だと気づかれぬように、素早く走る。


 修理課は、オールド城敷地の北側、端にあって、こじんまりとした平家建てのプレハブ作業所といった感じの建物だ。


 中には数名の妖精達がいて、机の上に置いてある物を 繋ぎ合わせる作業に没頭していた。


奥の方にも、数名の姿がチラリと見える。


 ここでは主に、遺跡の中に眠る、粉々になった美術品のカケラをある程度の形にするまでの、修復をしているのだ。


 ある程度とは、例えば、この出土品は、壺のカケラなのか?くらいがわかるまでだ。


随分と中途半端だと思うだろうが、この修復したカケラを元の遺跡に戻し、いずれ発見した人間達の手で大切に、研究、復元されるようにする為だ。


「おい!何か用かい?」


 作業所をのぞいているルシェは、後ろから声を掛けられた。
 

「庄三郎さん!ふふふ」


 久しぶりに会うわけではなくても、城の中で仲間に会えるのは、ルシェにとっては嬉しくて、思いっきり笑顔になる。


「何だ、ルシェだったのか。帽子なんか被っているから、分からなかったぞ。
何しに来たんだ?」

…………………

 ルシェは庄三郎の後を追い、ロブタラ湖手前にある配送センターに向かって、飛んでいる。


移動の時には、妖精姿が効率的だ。


 庄三郎は、箱に入った修復品を担いでいた。


「ねえ庄三郎さん、前に飛んでいる二人も庭園管理の方ですの?」


「ああ、先輩だ!まあ、歳はワシの方が上だがな。ひょろっとしているのがカミさんで、ちょい若めの方がシモさんでな、超腕のいい庭師なんだぞ!
ワシが尊敬してる二人なんだ!」


「まあ、庄三郎さんから、そんな言葉が出るなんて、信じられませんわ!ふふ。

あっ、ここって!この道を曲がるとタムがいるチャージの森ですわね!

元気でいるのかしら?ちょっと、寄ってみませんこと?」


 そんな事を言うルシェに、庄三郎は呆れた顔をして、先を急いだ。


 ほどなくして、配送センターに到着したルシェは、庄三郎から離れ、物珍し気にあちこちと見て回っている。


「大きな建物だし、働いている妖精も大勢いるのね。あ、あそこが修理をされたアンティーク家具置き場ね。

あら、なかなか素敵な家具たちが並んでいますわ。

人間界へと配送されるのを待っているのね。行き先が書いてあるわ。

これからは、人間に大切にされるといいわね……。あっ!これって!」


 ルシェは、古いタンスが集め置かれていた中に、以前、アンティーク影山の住人達と一緒に見つけた桐箪笥きりたんすがあることに気づいたのだ。


「しょっ、庄三郎さーん!」


 ルシェの呼ぶ声に慌てて庄三郎がやって来た。


「これをご覧になって!これ!ほら、このタンス、虹のぎょくが入っていたタンスですわ!修理に出していた物よ!ここに、アンティーク影山行きって書いてありますわっ!」


 ルシェは、これはタンスとの奇跡の再会だと、とても感動している。


「庄三郎さん、行きましょう!
いえ、行くのです!」
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