アンティーク影山の住人

ひろろ

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初めまして!

恋をしてくれませんか?

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 パタパタ、パタパタ……。


 元店主が羽根ハタキで、ルシェが仮住まいにしていた人形をパタパタしている。


ルシェは、この人形の中にいるのだ。


「ほぉら、ルシェ、気持ちいいだろう?」


〈……〉


 ルシェは、考え事をしている様子。


(私がカーソルさんに、プランツ国の状況を教えてあげたのだけど、いきなり帰ってしまうなんて!もう少し、会話のキャッチボールがあってもよかったと思いますわ!)


……パタパタ。


「うーん!妖精と会話が出来ないのは、つまらないなー!
砂糖入りレモンティーを飲めばいいのだが……医者から糖分の取り過ぎを注意されたからなぁ。

一方的に話すのは、非常につまらんよ!
皆んな、人型になってくれないか?」


元店主は不満顔だ。


 そんな事を言われても、妖精達はパタパタの順番待ちだから、テーブルの中にいる庄三郎をはじめ、それぞれが骨董品の中から出てこない。


因みに、現在、狸の置物は近所の居酒屋に貸し出し中なのだ。


「お義父さん、妖精が人型になるには、何とかの種が必要なんですって!
それは、うちの売り上げがないと手に入らないそうです。
だから、そんなに無駄遣いをさせられませんよ。うち、暇ですから」


「なら商売を頑張ればいいじゃないか?
美紗子さん、骨董品を売る努力をしなさい!」


「は?お義父さんが集めたものは、売るのが難しいんですから、無理です!」


「いやいや、美紗子さんの腕なら大丈夫だろう?ほら、狸も売れそうだしな。
だから、この開店当初からあるトーテムポールだって、売ることができるはずだ!」


「お義父さん!そんなもの好きは、いません!」


 この会話を聞いたモロブは、カチンときて、自分が売り込みをしよう!と決意したのだった。

…………………

 店が開き暫くして、麻木がやって来た。
 

「いらっしゃいませー!」


 高校生くらいのウェイターが出迎えると、麻木はキョロキョロとした。


「タム君、ルシェさんは?」


「あー。ルシェちゃんは、オールド国に帰りました。あのね、ちょっと戻って来ただけだったんだって。
もし麻木さんが来たら、これからもアンティーク影山をよろしくお願いしますわ!と伝えてと言ってました。

さあ、麻木さん、どうぞこちらへ」


「えー!もう、いないの?何だ、ガッカリだ」


麻木は、肩を落として席へと着いた。


「麻木さん、いらっしゃいませ!
何をお飲みになりますか?」


水を出して、セロルが聞いた。


 麻木は、セロルの顔とスレンダーな身体を上から下へと見てから言う。


「ああ、今日はコーヒーで。

ねえ、セロルさん、今度さ、女装してみてよ。絶対に綺麗だと思うから!
そしたら、お客さんが増えると思うけど?」


麻木の話しを聞いていた美紗子は、ハッとした。


(えっ?お客さんが増える?
なるほど、眼からうろこだわ!その手があったのね!
カレーさん……。美形だし、いいかも)


「麻木さん、無茶を言わないで下さい」


当然、セロルは速攻お断りしたのだった。

……………………

 月明かりの静寂の中、ルシェは城へと到着した。


 門番から知らせを受けた、ノナカが出迎える。


「ルシェ様、お帰りなさいませ。
カーソル様は、見つかりましたか?」


「ええ、見つかりましたわ。ノナカさん、心配をして起きていてくれていたのね?

カーソルさんは、プランツ国へ帰ったので、安心して休んで下さい。
本当にお疲れ様でしたわね」


 ルシェは人型になり、自室へと入ると、トキエがやって来た。


「まあ、トキエさんも起きていたの。
カーソルさんは、無事に帰りましたわ。
だから、安心して下さい。ありがとう」


「さようでございますか。それは、ようございました。では、お休み下さい。
失礼致します」


 トキエが去ったあと、ルシェはベットに座り、カーソルの事を考えている。


(記憶の無いカーソルさんは、私の事をどう思ったかしら?

私に好意を持ってくれた!という実感は無いわ。

もしも、今、私が許婚いいなずけの相手と知ったとしても、結婚を承知するかもしれない……。

でも、それって"諦め“で、なのかもしれませんわ……。

あっ、記憶を無くす前はどうだったの?

私に好意を持ってくれていた、と思っていいわよね?どうなの?)


 ベットの上で、体育座りをしていたルシェは、額を両膝にくっつけ項垂うなだれた。


(ああ、もう、気分が滅入るわ……)


 そんな事を思っていると、ドアをノックする音が聞こえてきた。


「何だ、トキエさんでしたの。
どうなさったの?」


「ご就寝中に失礼いたします。
人間界より、お手紙が届きましたので、急ぎお持ち致しました」


 ルシェは、トキエから封書を受け取り中を見る。


「うん?セロルから?何事ですの?……えっ?」

………………

 オールド国の朝。


「ルシェ様、お気をつけて行ってらっしゃいませ」


 トキエに見送られ人間界へと向かう。


今、ルシェの着ている服は、オールド国の妖精服で、黄緑色のノースリーブ膝丈ワンピースだ。


 これは、男女兼用で誰もが通常、着ているものなのだが、妖精は、身体が小さいせいもあってか、皆、かなり若見えするのだった。


 ルシェなどは、少女に見えてしまうのだ。


まあ、庄三郎くらいまで老けてしまうと、さすがに若造とは思われない!と付け足しておく。


 ルシェは、朝日が眩しいアンモナイト丘を飛んで降りて行き、ロブタラ湖上空を飛行している。


(あの手紙は、カーソルさんからの伝言だったのよね。人間界で待ち合わせをしようって。

もしかして、記憶が戻ったのかしら?
そうだとしたら、少し複雑気分ですわ。
一から私を好きになってくれたら、本物の愛で結ばれる……って、思っていたのですが……。

……でも、やっぱり、私を早く思い出してほしいわ!)

………………

カチャ、カチャ。


 日が暮れて、美紗子と元店主がいないアンティーク影山では、妖精たちがおしゃべりをしている。


「ねえ、カーソルさん、もう諦めれば?
ずっと中途半端にくっついたまんまだよ。辞めちゃえばいいのに」


「……」


 タムが話しかけても、カーソルは必死に、知恵の輪パズルをつなげようとしていた。


「カーソルさん、そのパズルがはまらなくても、ある程度の事を覚えているから、無理に思い出さなくても……。
ねっ、庄三郎さん?」


「あ?ああ、そうだぞ。セロルの言う通りだ。忘れたことは、時間がかかるかもしれないが、ある日、ポンと思い出すもんだ。そんなパズルは、やめておけ」


「いえ、忘れてはいけない事を忘れているみたいで……。凄く気になります」


カチャ、カチャ。


「ついでにルシェさんの事も気になります……。
実は、私にはオールド国に許婚がいるのです。
それなのに、ルシェさんの事が、とても気になって仕方がないのです……」


 カーソルは、揺れ動く男心に戸惑っている様子だった。


「うん?いい菜漬け?それ美味しいの?ルシェちゃんが、も……ふんがっ!」


「タム!黙りなさい!」


 そう言って、モロブがタムの口を塞いだ。

 
 タムを除く、アンティーク影山の面々は、許婚というのがルシェのことだと気づいているが、敢えて誰も教えない。


 実は、カーソルとルシェが門前通りで会っていた頃、皆で雑談をしていたのだ。


『縁があるなら、放っておいても、くっつくもんさ。お節介は無用だ!
教えてやらない方が、ドラマチックだろう?』


 庄三郎の言葉に乗せられ、モロブとセロル、意味が分からなかったタムは、何も言わなかった。

…………………

 等間隔に、白いぼんぼりの様な街灯が並ぶ門前通り。


「カーソルさん!お待たせしましたわ」


 ルシェは、黄緑色のツナギ作業服を着て現れた。


 もしかしたら、この姿を見て自分を思い出してくれるかと思ったのだ。


 一方、カーソルは、いつもの私服に今度はトートーバックを持っていた。


 カーソルは、ルシェの蛍光色のツナギ姿に目が釘付けだ。


「こんばんは……えっ?その格好は、これから任務に行くんですか?」


「任務?いえ、行きませんわよ。私、このツナギが楽なんです。
それより、私に何か御用でしょうか?」


 本当は、喜んで来たくせに、嬉しさを隠し、澄ました顔をして聞いた。


「わざわざ、来てもらってすみません。
私と一緒に、プランツ国に行ってもらえませんか?」


「えっ?それって?」
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