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いらっしゃいませ
呪いの手紙? ☆
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義父から“アンティーク影山”を任された美紗子が、一人きりで店に来ている。
ツルツル素材の白ブラウス、濃紺フレアースカートに黒パンプス、黒いエプロン姿の彼女が骨董品店の掃除を終え、次にレジスターを点検していた。
そこで彼女は、ある手紙を発見したのだ。
「ええと、私宛に?えっ?何だろう」
『美紗子さん、この手紙を読んでいるということは、俺はこの世に居ないのだろう』
「はぁ?いますよっ、お義父さん!生きています。元気になりました……あっ、えっと、続きを読まないと」
などと思わず突っ込みを入れて更に読む。
『今、胸が苦しいから、簡単に書く。
ここは不思議な店だ。
分からないことは、皆んなに聞いてくれ。
ただひとつ、必ず守ってほしい事がある。
店主になった美紗子さんは、ここでの体験を誰にも話してはいけないよ。
息子にも、孫の風子にも、誰にも秘密だ。
まだ不思議な体験をしていなくても、既にこの手紙を読んでいるから、秘密を知った事と同じだ』
(は?不思議?体験って何?)
『もしも、この手紙を書いた俺が万が一、生存していて、手紙を読んだ美紗子さんの気が変わって、この店を継ぐのをやめたら、俺はもちろん、美紗子さんにも呪いがかかるだろう。
秘密を知ったからには、しっかりと店主をやってほしい。
美紗子さん、引き受けてくれて本当にありがとう。
この店をよろしく頼みます。』
「……って、はあ?何これ、意味不明!
お義父さんは、私に呪いの手紙を書いたの?もしくは、脅迫状?酷過ぎる!
脅迫状を書いてまで、こんな店に後継が必要なの?信じられないっ!
……うん?皆んなって誰よ?」
(あー!お義父さんに、はめられた気がする!店を引き受けたことを激しく後悔します)
………………………
ギギィ。
古い造りの窓を開けて、新米店主の美紗子は、喫茶室の掃除に取り掛かる。
「私は調理師免許があるけど、ここは簡単な飲み物しか出さないところだから楽でいい。
それにしても、喫茶室の方は、素敵な空間よね……」
辺りを見回して呟き、掃除機のスイッチをオンにする。
(常連さんって、いるのかしら?
ここって、満席になったりするのかな?
それで、骨董品を買いに来たお客さんがいたら、私、一人で大丈夫なのかしら?)
美紗子は、あれこれ不安を抱えながら、入口に“商い中”の札をぶら下げたのだった。
……………………
翌日。
自動ドアが開いて、白いTシャツにデニムのフレアースカートに白いスニーカー、黒いエプロンをした四十代前半くらいの女性が中から出てきて、辺りをキョロキョロ見回す。
道の向かい側の店も お隣の店もシャッターが閉まっているし、昼過ぎでも外には人の気配がない。
はぁぁ。
女性は ひとつ溜息をこぼし、再び店の中へと戻って行った。
(昨日からお客さんが来ない!今日も朝からお客さんが一人も来ていない!
お義父さん、私には商売の才能はありません!無理です!絶対に無理ですから!
いや、私のせいじゃない。
そもそも外に人が歩いていないせいだもの。
こんな所で、商売なんて成り立たないでしょっ!辞めた方がいいんじゃないかしら?)
美紗子は、棚に座らせてある人形の前に立ち、じっと瞳を見つめる。
〈えっ?何か御用ですか?そんなに見つめられたら、恥ずかしいわ〉
「お人形のニンちゃん、暇だね。お義父さんも毎日、暇していたでしょう?
ここで、商売は無理だと思うよ。
ニンちゃんもそう思うでしょう?」
〈は?ニンちゃんって…… 私のこと?センスのないあだ名だわ。
私は、ルシェですわ!まあ、あなたには私の声は届いていないから、仕方がないわね〉
暇人の美紗子は、狸の置物の前にある売り物の椅子に座って、置物のお腹を撫でながら話しかける。
「ふふ懐かしい狸ね。こんな置物、昔はよく見ていたわ!えっと、あなたはタヌ爺って呼んであげる!
このお腹、随分とメタボだよ!あはは。
私も最近、ポッコリお腹になってきちゃってさ、エプロンでも隠しきれなくなってきたのよね。お互い、困るよね?」
〈た、たぬじい、だと?ワシは、庄三郎だ!
メタボって、初めて聞く言葉だな。何だ?
それにしても、この嫁、言いたい事を言ってやがる!〉
コツン。
その時、自動ドアのガラスを偵察スズメが突いた。
〈あっ、外に人がいるって合図だ!
お嫁さん、お客さんを呼び込まないと!
こんな時は、店主がいつも声を掛けて店内にお客さんを連れてきていたんだよ〉
振り子時計の男の子が教えたが、美紗子に声は届かない。
「えっ?雀がドアにぶつかった?
随分とおっちょこちょいの雀ね!ふふふ」
美紗子は、スズメの行為に意味があったことを知らず、厨房へと向かう。
〈あら、行ってしまったわね。仕方がない、お客さんを迎える準備をしましょう。
タム、BGMの外放送と店内放送のスイッチを入れて!
私は、窓際のテーブルの真上にある照明をつけるわ〉
ルシェが指示を出すと、振り子時計から羽根が付いた男の子が現れ、飛んで壁にある二つのダイアルスイッチを回す。
その男の子は、2リットルペットボトルくらいの背丈で、淡い黄緑色ノースリーブの膝丈ワンピースのような服を身に纏っていて、用が済むと すぐに振り子時計の中へと消えていった。
一方、足を投げ出して座っている人形からは、栗色長髪の少女が現れ、飛んでテーブルの真上にある、照明のスイッチを入れ、再び人形の中に消えていったのだった。
その消えた少女は、男の子と似たような羽根が付いていて、同じような服を着ていたが、男の子より背が高く、年上だという事は明らかだった。
店内と外には、クラシックの曲が流れている。
厨房でシュガーポットの中を見ていた美紗子は、突然、流れ始めた音に驚愕した。
「えっ、何で!曲が流れている!どうして?
どうして勝手についたの?やだ、怖い!
……あ、そっかタイマーで、ついたってことかしら?
でも、昨日は無音だったけど……。あっ!」
美紗子は、チキン肌になっている腕を摩りながら思い出した。
「あの手紙に書いてあった、不思議なことって、心霊現象とか?やだ、不気味……」
ツルツル素材の白ブラウス、濃紺フレアースカートに黒パンプス、黒いエプロン姿の彼女が骨董品店の掃除を終え、次にレジスターを点検していた。
そこで彼女は、ある手紙を発見したのだ。
「ええと、私宛に?えっ?何だろう」
『美紗子さん、この手紙を読んでいるということは、俺はこの世に居ないのだろう』
「はぁ?いますよっ、お義父さん!生きています。元気になりました……あっ、えっと、続きを読まないと」
などと思わず突っ込みを入れて更に読む。
『今、胸が苦しいから、簡単に書く。
ここは不思議な店だ。
分からないことは、皆んなに聞いてくれ。
ただひとつ、必ず守ってほしい事がある。
店主になった美紗子さんは、ここでの体験を誰にも話してはいけないよ。
息子にも、孫の風子にも、誰にも秘密だ。
まだ不思議な体験をしていなくても、既にこの手紙を読んでいるから、秘密を知った事と同じだ』
(は?不思議?体験って何?)
『もしも、この手紙を書いた俺が万が一、生存していて、手紙を読んだ美紗子さんの気が変わって、この店を継ぐのをやめたら、俺はもちろん、美紗子さんにも呪いがかかるだろう。
秘密を知ったからには、しっかりと店主をやってほしい。
美紗子さん、引き受けてくれて本当にありがとう。
この店をよろしく頼みます。』
「……って、はあ?何これ、意味不明!
お義父さんは、私に呪いの手紙を書いたの?もしくは、脅迫状?酷過ぎる!
脅迫状を書いてまで、こんな店に後継が必要なの?信じられないっ!
……うん?皆んなって誰よ?」
(あー!お義父さんに、はめられた気がする!店を引き受けたことを激しく後悔します)
………………………
ギギィ。
古い造りの窓を開けて、新米店主の美紗子は、喫茶室の掃除に取り掛かる。
「私は調理師免許があるけど、ここは簡単な飲み物しか出さないところだから楽でいい。
それにしても、喫茶室の方は、素敵な空間よね……」
辺りを見回して呟き、掃除機のスイッチをオンにする。
(常連さんって、いるのかしら?
ここって、満席になったりするのかな?
それで、骨董品を買いに来たお客さんがいたら、私、一人で大丈夫なのかしら?)
美紗子は、あれこれ不安を抱えながら、入口に“商い中”の札をぶら下げたのだった。
……………………
翌日。
自動ドアが開いて、白いTシャツにデニムのフレアースカートに白いスニーカー、黒いエプロンをした四十代前半くらいの女性が中から出てきて、辺りをキョロキョロ見回す。
道の向かい側の店も お隣の店もシャッターが閉まっているし、昼過ぎでも外には人の気配がない。
はぁぁ。
女性は ひとつ溜息をこぼし、再び店の中へと戻って行った。
(昨日からお客さんが来ない!今日も朝からお客さんが一人も来ていない!
お義父さん、私には商売の才能はありません!無理です!絶対に無理ですから!
いや、私のせいじゃない。
そもそも外に人が歩いていないせいだもの。
こんな所で、商売なんて成り立たないでしょっ!辞めた方がいいんじゃないかしら?)
美紗子は、棚に座らせてある人形の前に立ち、じっと瞳を見つめる。
〈えっ?何か御用ですか?そんなに見つめられたら、恥ずかしいわ〉
「お人形のニンちゃん、暇だね。お義父さんも毎日、暇していたでしょう?
ここで、商売は無理だと思うよ。
ニンちゃんもそう思うでしょう?」
〈は?ニンちゃんって…… 私のこと?センスのないあだ名だわ。
私は、ルシェですわ!まあ、あなたには私の声は届いていないから、仕方がないわね〉
暇人の美紗子は、狸の置物の前にある売り物の椅子に座って、置物のお腹を撫でながら話しかける。
「ふふ懐かしい狸ね。こんな置物、昔はよく見ていたわ!えっと、あなたはタヌ爺って呼んであげる!
このお腹、随分とメタボだよ!あはは。
私も最近、ポッコリお腹になってきちゃってさ、エプロンでも隠しきれなくなってきたのよね。お互い、困るよね?」
〈た、たぬじい、だと?ワシは、庄三郎だ!
メタボって、初めて聞く言葉だな。何だ?
それにしても、この嫁、言いたい事を言ってやがる!〉
コツン。
その時、自動ドアのガラスを偵察スズメが突いた。
〈あっ、外に人がいるって合図だ!
お嫁さん、お客さんを呼び込まないと!
こんな時は、店主がいつも声を掛けて店内にお客さんを連れてきていたんだよ〉
振り子時計の男の子が教えたが、美紗子に声は届かない。
「えっ?雀がドアにぶつかった?
随分とおっちょこちょいの雀ね!ふふふ」
美紗子は、スズメの行為に意味があったことを知らず、厨房へと向かう。
〈あら、行ってしまったわね。仕方がない、お客さんを迎える準備をしましょう。
タム、BGMの外放送と店内放送のスイッチを入れて!
私は、窓際のテーブルの真上にある照明をつけるわ〉
ルシェが指示を出すと、振り子時計から羽根が付いた男の子が現れ、飛んで壁にある二つのダイアルスイッチを回す。
その男の子は、2リットルペットボトルくらいの背丈で、淡い黄緑色ノースリーブの膝丈ワンピースのような服を身に纏っていて、用が済むと すぐに振り子時計の中へと消えていった。
一方、足を投げ出して座っている人形からは、栗色長髪の少女が現れ、飛んでテーブルの真上にある、照明のスイッチを入れ、再び人形の中に消えていったのだった。
その消えた少女は、男の子と似たような羽根が付いていて、同じような服を着ていたが、男の子より背が高く、年上だという事は明らかだった。
店内と外には、クラシックの曲が流れている。
厨房でシュガーポットの中を見ていた美紗子は、突然、流れ始めた音に驚愕した。
「えっ、何で!曲が流れている!どうして?
どうして勝手についたの?やだ、怖い!
……あ、そっかタイマーで、ついたってことかしら?
でも、昨日は無音だったけど……。あっ!」
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