ある日、突然 花嫁に!!

ひろろ

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番外編2

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 友人の智也に、直近の俺の行動を思い出すように言われ、ハッとする。


(あっ、まさか!)


 そんな俺の表情を、智也は見逃さなかった。


「思い当たる事があるんだな?」


当然、俺は、智也に問い詰められたのだった。

…………………

 ピンポーン!


(どきっ!)


 きっと、アヤだ。


 和希は、恐る恐るドアノブに触れる。


(俺、怒りまくったし……。あーあ)


カチャッ、キィ。


「あっ、あのさ、アヤ……」


「和希さん、ごめんなさい!
疑ってしまって、本当にごめんなさい!」


 アヤが入ってくるなり、謝ってきた。


(あわわ、先を越された!)


「あ、ああ、取り敢えず、中に入って……。はぁ」


(さあ、仕切り直して……)
 

「あのさ、アヤ、アヤちゃん。

思い出したんだけど……。

この前コンビニで、知り合いに偶然、会っちゃって、車の中でほんの少しなんだけど、世間話をしたんだよね。少しだけ。

髪の毛って、もしかしたら、その時のかなー?ってさ……」


「は?その知り合いって、女性なの?」


アヤの目が、冷ややかになった気がした。


「う、うん……。でも、何も無いし!
本当に世間話をしただけなんだ。

信じて!信じてくれる?」


(うわっ!アヤが目を細めて、俺を見ている!
そうだよね、怒っているよね?

そりゃあそうだよな、あんなに怒りまくった俺だもんな。

殴られても、文句は言いません!)


(何ですって!他の女と車内で?世間話?

する必要ある?外で話せばいいことでしょ?)


「そうですか……。世間話……ね。

では、ひとつ教えて下さい。

世間話は、外でもできるはずです。
なぜ、車の中で?」


(話し方が変わった!かなり怒ってる……。

それに、外でって……やっぱ、そう思うよな。
信じてくれるか分からないが、正直に言うしかない!)


「駐車場の日陰で立ち話をしようとしたら、目の前に車が止まってさ。

ジロジロ見てくるし、他は日差しが眩しくて……で、車に移動した……。
納得してくれた?」


「……」


(私は、いい女。私は、いい女。
広ーい心の持ち主なのよ!

信じよう!信じてあげるしかないじゃない……信じるんだ!

あー!でも、その前に聞くべきことがある)


「……もう一つ教えて。

その知り合いって人と、仲が良いの?
会社関係の人?」


「えっ!いや、違う。
俺の中学時代の先輩の知り合いで……。
先輩の近況を教えてもらっていたんだ。

ほんの数分のことだったし、ましてや、浮気とかの対象でもないし、髪の長さもよく覚えていなくて、ピンと来なかったんだ。

俺の逆ギレでした。
ごめん、ごめんなさい!」


(はあ?先輩の知り合い?
何か、納得できないですが!

また、嫉妬深い女!って、言われたら嫌だし、納得するしかないのかな)


「分かりました……。
今回は、あなたを信じましょう」


アヤは、そう言ってはくれたが、明日の仕事を理由に、素早く帰ってしまったのだった。


 非常にマズい状況だ。


 この、先輩の知り合いというのは事実だけど、実は、俺の元カノでした。


……などと、口が裂けても言えないし、言わない、言ってはいけないな。

……………………

 その翌日。

 ここは、カレンダホテルのブライダルスタッフルーム。


「これより、本日2番目の 玉井家、石坂家の婚礼式 ミーティングを始めます。

担当責任者は、私、軽米です。

どうぞよろしくお願いします。

新郎新婦担当は、野村さん。

挙式担当は、緑川さん。

披露宴担当は、西崎さんです。

本日は、12時より挙式スタート予定。

新婦 石坂織奈しきな様は、ただ今、お支度中です。

新郎の玉井和則様は、先程、いらしてブライズルームに入りました。

野村さん、何も問題は無いですね?」


「はい、軽米さん、順調にお支度をしています」


 軽米は、ニコッとして頷き、話を続ける。


「挙式が12時開始で、披露宴開始が、13時半です。

いつも通り、会場までの誘導を迅速にお願いします。

そして、ご承知の通り、今回は、先の披露宴と被り時間があります。

ミスが無い様に、配膳スタッフにも徹底をお願いします」


「はい!」

と、返事をする皆は、いつもながら、チームワークが素晴らしい!と各々が思う瞬間なのだった。


「あっ、そうそう。このカップルについて、ちょっと珍しい出逢いをされていることをお伝えしておきます。

お2人は、車同士の衝突事故の当事者で、同じ病院に運ばれました。

そして、新婦より怪我が軽かった新郎が先に退院して、それから毎日のように見舞って恋に発展し、結婚ということになったそうです。

ただ最初は、どちらが悪かったかで、少し揉めたらしいので、ご両親同士が微妙な空気になっているらしいです……」


「あ、そういう事ね……。
じゃあ、披露宴の時、ご両家の両親が、少しでも近づけるよう、お互いのお酌を勧めてみるわね」


「はい、西崎さん、よろしくお願いします」


 軽米は、仕事中 西崎さんと呼ぶようにしている。


でも時折、ごちゃ混ぜになり、丸山さん、柚花さんと呼んでしまうこともあるのだった。

………………

 その後、皆の協力で婚礼式が無事に済み、軽米は休憩をしていた。


「軽米さん、ご両親同士が打ち解けたみたいで、良かったわね。

新郎新婦も、嬉しそうだったし、いい婚礼式だったわ。

確か、二次会は、ここのレストランでするのよね?

午後からの婚礼式なら、移動時間がないホテルレストランを二次会会場にチョイスするのは、いい案だと思うわ」


「はい、レストランの方も、特典を付けてくれたので、なかなかお得になりました」


 そう言うと、軽米は携帯を取り出し、メッセージを見た。


『昨日は、ごめん。仕事が終わる頃、会いたい』


はあぁ。


「溜息ついてどうしたの?」


「あ、和希さんが会いに来るって、連絡をしてきたんです」


「軽米さんの ご機嫌をとりに来るのね。

もう、水に流してあげなさいよ。

お詫びに、何かご馳走してもらえば?」


「はい、そうしたいところなんですけど、無駄遣いが出来ないんですよね。

そうだ、うどん屋さんで……」


「あ、そうか。なら、海老天を追加してもらいなさい!それで、もう仲直りするのこと!」


「はい、そうします!」


(仕方がないな。じゃあ、和希さんは、かけうどん。
私は、海老天と玉子とおにぎりを追加!
それで、許してあげましょう)

…………………

 カレンダホテルのエントランスから出て来て、友人らしい女性を、見送っている人がいた。


 白っぽいワンピースを着た彼女が、腕を下ろし動きを止める。


普通なら向きを変え、再びエントランスに入るだろう。


 それなのに、こちらをジッと見ながら玄関ポーチを歩いてくる。


「えっ、何?」


 俺は、思わず声が出てしまった。


「……でしょ?」


「え?」


「前沢君でしょ?
あ、やっぱり、そうだ!」


 ライトに照らされて、顔がようやくハッキリとした。


「わっ、えー!石坂先輩!なんで?
どうして、ここにいるんですか?
何してるんですか?」


 俺は、驚いた。


近々、会いに行きたいと考えていた相手が、目の前に現れたからだ。


「何って?
今日は、あたしの結婚式だったんだ。

30過ぎて、やっと結婚できたよぉ。

あ、教えてなくて、ごめん。

ちょっと、連絡しづらくなっちゃたじゃん?」


 石坂は、少し申し訳なさそうに言った。


「石坂先輩、結婚おめでとうございます。ホント良かったですね!

それと、世良さんとの事、先輩に報告もしなくて、すみませんでした。

俺、恩人に言いづらくて……」


「えーやだー、まだ恩人だ!なんて言ってる。

あれは、前沢君が高校受験の日の事だし。昔のことじゃん。

駅に向かう途中、自転車がパンクして、丁度、あたしが通りかかったから、自転車を貸しただけでしょ!大袈裟だよ!」


「いいえ、俺にとって高校受験は、一生の問題だったんだから!

先輩は、自分が遅刻するのも構わず、俺を助けてくれて、お陰で無事、受験もできたし。

俺には、本当に恩人なんですから!

なのに、先輩が紹介してくれた世良さんと、直ぐに別れてしまって、すみませんでした」


 石坂は、首を左右に振り、もう気にしなくていい、と言ってくれたのだった。


「そうだ、この前、世良さんに偶然会って、先輩が事故に遭ったと聞いて、物凄く驚きましたよ!

重症だったらしいですね。
でも、元気になって良かった……。

それに、結婚するって聞いたから、近々、連絡をするつもりでいたんですよ」


「あっ、聞いたんだ。
そう、事故って大変だったの。

で、その相手が結婚相手になったんだ。
変な縁でしょ?

へえ、世良さんに偶然会ったんだ?
ねえ、やっぱり あなた達、縁があるんじゃない?

彼女なら、今、二次会に来てるよ。
会いたいなら、連れてこようか?」


 和希は、思いっきり首を左右に振る。


(や、やめてくれ!それは、ヤバ過ぎる)


「はあ、凄い拒絶だなぁ。

わかってる、連れてなんて来ないから!

でも、ホテルの中に入るんでしょ?
会っちゃうかもしれないよ?

まあ、偶然に会ったなら、やっぱ縁があるって事かもね?ふふっ。

じゃあ、あたし、戻るから!」


「あっ、先輩!」


俺は、ホテルの中へ戻ろうとする石坂先輩を引き止めた。


「俺も、結婚したい人がいるんです!
今度、紹介してもいいですか?」


「もちろんだよ!じゃあ、またね」


「はい、お幸せに!」


 和希は、胸につかえていた物が、スーっと消えた気がした……


……のは、一瞬で終わり、元カノ 世良との遭遇は、避けなければならない、と青ざめた。


(アヤとロビーで待ち合わせだけど、そんな無謀な事は、俺はしないぞ!

俺、危なかったんだ!鉢合わせの危機だったんだ!

アヤに、この人が髪の毛の持ち主です、なんて言えないよ!

石坂先輩が教えてくれなかったら、どうなっていたのか?

とにかく、ここから離れよう)

…………………

「和希さん、お待たせしました。

どうして、待ち合わせ場所が、車になったの?」


「え?あ?財布の中身が寂しくて、ちょっと下ろしに、行ってたんだ。

きょ、今日は、何が食べたい?
あっ、待って、当てるからね。

えーと、今日のアヤは……。
わかった!天ぷらうどん!だね?

しかも、海老天……。違う?」


「そうなの!
どうして、わかったの?

和希さんは、私のことをいつも考えているってことかな?」


「その通りです。

アヤ、この度は変な誤解をさせて、ごめんなさい。

こんな時ですが、そろそろ結婚式の日取りを決めろと、親が言ってきたので、進めたいのですが?」


「はい、進めましょう。
私が企画をする?それとも、誰かにお願いする?」


「どうしようか?智也のところに行って、柚花さんに、相談してみようか?」


「うん、そうだね。
でも、今はうどんが先!

今度は、和希さんの食べたいのを当てるね。

えーと、かけうどん?」


「ええ、何で分かったのぉ?

でもさ、何かプラスしてくれたら、嬉しいな」


(アヤ、今日は色々と面倒だから、黙っているけど、今度、俺の恩人である石坂先輩を紹介するからね)


 そう思いながら、石坂に会った事を言わなかった。


 後でバレて、しどろもどろの言い訳をする事になる、とは思いもしない和希なのだ。


 何だかんだ言いながら、2人は、マイホームと結婚の準備を始めた。

…………………

「えっ?婚礼式のプロデュース?

はい、もちろん喜んで引き受けるわ!

カレンダホテル、西崎柚花にお任せ下さい!」


         
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