ある日、突然 花嫁に!!

ひろろ

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番外編

和希の物語 1

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 結婚を前提に交際をスタートさせた男女は、どんな時に結婚に踏み切る決意をするのだろう。

 ここに預金通帳と睨めっこをしている者がいる。


(目標金額まで、あと少し……達成したら……)


 彼は、前沢 和希 もうすぐ29歳、彼女有りの独身会社員だ。

 その彼の携帯に、智也から電話が入った。

 
「えっ、今から?20時、匠海の所に集合だな、了解!」

 …………………


 折原 匠海の部屋は、アパート2階の角、1LDKに独立した風呂とトイレがあって、リビングの中にダイニングキッチンも入っているが、10帖ほどの広さがある。

 一人暮らしには広いが、そもそも新婚生活を送るために用意した部屋で、 単に引っ越しが面倒だから、そのまま住んでいるのであった。


「和希、入れよ!久しぶりだな」

 ドアを開けた匠海が、和希に言った。


「お邪魔します!おっ、智也、もう来てたのか!」


 先日、智也からプロポーズ成功の知らせを受けてから初めて会う。

 おめでとうの言葉を言ってやりたいが、匠海の前では何気に気が引けてしまう。

 智也のことだから、喜びのあまり、当然、匠海にも成功したと連絡をしたに違いない。

 匠海は丸山さんに対して、恋愛感情をもっていないような事を言ってはいたが、自分の想いに蓋をしていたように見えた。

 もしかしたら、今、複雑な思いでいるのかもしれない……。

 だから、俺は あえて何も言わないことにしよう。

 そんな事を思ってると、智也が声を掛けてきた。

「あのさぁ、俺、匠海と和希に相談したい事があって!

 いよいよアパート暮らしをしようと思うんだけど、ネットの物件情報を一緒に見て、俺にアドバイスをしてほしいんだ。

2人ともよろしく頼むね」


「へえ、智也が一人暮らしを始めるのか……あっ、もしかして同棲か?」

 和希は、自分が言った言葉にハッとして、匠海の方をちらっと見た。

丸山さんを思い出させる事を言ってしまい、即座に反省をする。

 匠海は、平気な顔をしていた……。

 一方、同棲かと尋ねられた智也は、素直に返事をする。

「うん、一人暮らしをしていて、そこに彼女が住んでくれたらいいな。

だから、そんな物件を探してもらいたい」


「そっか、智也が初めて実家を出るのか!
跡取り息子のお前が家を出るって、よく許してもらえたなぁ。ま、良かったじゃん」

 そう言って匠海は微笑んだ。

「ああ、親には、結婚したい人がいるって言った。いずれ、二世帯住宅にして家に戻るから、暫く2人だけで住ませてほしいって約束をしたんだ」

 その言葉を聞いて、匠海と和希は同時に顔を曇らせた。


「えっ、その事を丸山さんは、知っているのか?同居をすることを知ってんのか?

 お前、丸山さんを不幸にするなよ!」


「そんな事を匠海に言われなくても、大丈夫だよ!勿論、幸せにする!」


 少しムッとして智也が言ったから、不穏な空気を感じ取り和希は慌てた。


「あっ、そうだ!智也、プロポーズ成功、おめでとー!良かったな」


「あっ、ありがとう、和希……」



 強張こわばりかけていた智也の表情が緩んだ。


 だが、匠海は言う。

「2人が住む家なんだから、物件は2人で相談して決めろよ」


「それはそうなんだけど、ネットに出てた良さげな所をプリントアウトしたら、候補が沢山になり過ぎたんだよ。

もうちょっと絞って、柚花と不動産屋に行こうと思ってさ。これ、見て」

 智也から厚みのある印刷物を受け取った和希は驚く。

「うわっ、何でもかんでも印刷したんだな!
どれどれ、見せて」


「僕も、いい所見つけてやるよ!見せて」


 匠海も物件情報を見はじめた。


「ここはダメだよ」

 早速、和希がダメ出しをすると、匠海も言う。


「この辺は、店が無いから不便だぞ。却下だな!」


 匠海は、ダメ出しをしながら続けて話す。


「智也……いずれ2人で住むつもりでいるなら、間取りだけじゃなくて、周囲の環境の事も大事なんだよ。

それと、防音されているかとかも気にした方がいい。トラブル防止をしないとね」


 それから和希も 同調して、アドバイスをする。


「そうだよ。生活をしていくのに便利なのか、安全面の事も考えないといけない。

それと、いつから住む予定か知らないけど、家賃の安い時期、高い時期があって、同じ部屋でも契約月で賃料が高くなるんだから、気をつけろよ」


「えっ、そうなのか!へー、知らなかった!
和希の家は大金持ちなのに、お前って随分と庶民的なんだな。

びっくりした!なあ、匠海?」


「あー、契約時期で家賃が違う事は、知っているけど……。

 まあ、庶民的だということは認めるね。

和希の家は確かに金持ちで、“鍋でっしゃろ”のオーナーだし、あの付近は前沢家の土地だし!

和希は僕たちより、よっぽどお坊ちゃん育ちだものな」


 和希は、匠海や智也に“お坊ちゃん育ち”と言われ、カチンときて反論する。


「はああ?金持ちは親であって、俺は、工場勤務のサラリーマンだ!

自炊をして、地道にコツコツと貯金をする 結構、地味な男なんだぞ!

だから、坊ちゃん育ちなんて言うな!」


「ごめん、ごめん、怒るなよ!
地味な男なんて、自分で言っちゃって、笑える」

 智也が言うと、匠海も笑いを堪えながら聞く。


「それで、軽米さんは大地主 前沢家のことを知ってるの?」


「いや、特に話していないから、知らないと思う。

俺、長男だけど姉夫婦が実家近くに住んでいるから、俺は跡を継がないつもりでいる。

まあ、近いうちにはっきりとさせてくるよ」


(アヤには、俺が長男だということは教えてあるけれど、格式を重んじる息が詰まるような家の事までは、言えないでいる。

言ったら、きっと敬遠されてしまうだろう……はぁ、気が重いな)


「うん?和希、ごめん。もう、お坊ちゃん育ちって言わないから、機嫌を直してくれよ。

ふざけ過ぎたよ、ごめんね。匠海も謝れ」


「あっ、悪い。ごめんな。家の事を言って悪かった、ごめん。

そうだ、智也がプリンを買ってきたから皆んなで、仲良く食べようよ。ねっ?」


「プリンって……女子じゃあるまいし、でも、実は俺、好きだよ」


「ははは、そうだろう?たまには食べたいと思って買ってきた!」


「うん、僕も好きなんだよな」


 3人は、仲良くプリンを食べながら、物件探しを開始するのだった。


 和希は、いつしか自分と軽米の住む家を意識し、ワクワクしながら物件情報を見ている。


 3人それぞれが、自分の未来を想像しながら物件情報をニヤついて見ているのだった。


 ただ、この先に、どんな未来が待っているのかは、誰にも分からないことである。
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