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番外編
匠海の物語 上 ★
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街灯の明かりが、稲の存在をぼんやりと映し出し、田園のあちこちから重低音の声が聞こえてくる。
「ヴォー、ヴォー、ヴォー……」
「何の声ですか?ここ、1人で来てたら少し怖いですね」
不気味な声にビビり気味な折原 匠海が聞いた。
「ははは、ああ、この声は ウシガエルです。怖がる事はないですよ」
市の観光課男性職員 中年の末永が、笑いながら教えた。
「末永さん、折原さんは都会に住んでいる方だから、ウシガエルなんて知りませんよ。
大きなカエルなんですよ。
ちょっと不気味な声ですもの、怖がって当然です!
あ、懐中電灯で足元を照らして歩いて下さい。あぜ道は狭いですから、田んぼに落ちないで下さいね」
案内をしてくれている同じく観光課女性職員の吉本が言った。
歳の頃は、26 、27歳といったところだろう。
2人とも、観光課の揃いの上着を着ている。
「あっ、はい……わ、小さな虫が飛んで来ます!」
匠海は、懐中電灯に向かって飛んでくる虫を追い払いながら歩いて行く。
「さあ、この辺でいいだろう。
懐中電灯を消して、下の方にある田んぼを見て下さい」
末永の言葉に従がい、懐中電灯を消してみた。
すると、暗闇の中に ゆらりゆらりと黄緑色の明かりが飛び交っているのが見えた。
しぃんと静かで、時折 吹く微風に そよめく稲の葉擦れ音と光のショーが実に幻想的だった。
「わあ、綺麗だ……」
匠海は、感動して思わず呟いた。
(これがホタルなのか……。
見せたいな……)
誰に見せたいかもわからず、ただ漠然と、瞬時にそう思ったのだった。
(本当に綺麗だ、お客様にも見てもらえたら、どんなにいいか……。
ホタル観賞を旅行の目玉にしてみるのも悪くないかも。
しかし、団体で ここをぞろぞろと歩くのは難しいだろう)
「ねっ、折原さん。ホタルの光は、最高に綺麗でしょう?」
「はい、末永さん、とっても美しいですね。ホタルを沢山の方に見ていただきたいと思いました。
うん?あっ、痒い。
わあ、あちこち痒いです!
あれ、蚊に刺されたかも!」
「あー、じゃあ、末永さん、戻りましょうよ!
折原さんが、蚊の餌食になってしまいますから!
折原さん、こういう所には 蚊がいるんですよね。後で、薬を塗りましょうね」
匠海は、来年の団体旅行向けの新しい企画を考えるために、ホタルの生息地として有名な場所へとやって来たのだった。
「それでは、旅館に戻りましょう。
車に乗って下さい」
ここへ来る時も、この市役所の車に乗せてきてもらったのだ。
末永の運転する車の助手席に匠海が乗り、後部座席に吉本が乗り、3人は匠海の泊まる宿へと向かう。
ここは、匠海の住む都市から片道、車で約2時間ほどの場所だ。
「折原さん、どうですか?さっきの所は、素敵な場所だったでしょう?」
末永が問い掛けた。
「はい、感動しました!ですが……。
ホタルが見れたら素晴らしいと思いますが、来年も必ず見られるのかという心配があります。
それに、お客様が蚊に刺されるのを嫌がるかもしれないので、今の所は難しいでしょうね……」
残念そうに匠海が言ったのだった。
「でしたら、星空里山観光園で“ホタルの夕べ”というイベントがございます。
そちらなら、整備された所で飼育されたホタルが見られます。
折原さんのご都合がよければ、明日の夜、ご案内しましょうか?」
後ろの席から、吉本が言った。
「あっ、吉本さん、それがいいです!
是非、案内して下さい。
団体旅行ですから、より安全な方がいいですから!自然のホタルじゃなくても全然かまいませんから!
よろしくお願いします」
今回は、夜の視察がメインとなる為、余裕をもって予定を立ててある。
帰りは、明後日にしておいて良かったと匠海は思ったのだった。
「ありゃあ、すみません。私は明日は都合が悪くて、一緒に行けないです。
申し訳ありません」と末永が謝った。
「あっ、末永さん、私がご案内しますから!お任せ下さい!」
自身満々に吉本が言ったから、末永は頷き、匠海に話す。
「責任者の私が案内をできませんが、どうか我が市の観光地を旅行先にして頂きたいと思います。
どうぞよろしくお願いします」
「はい、ご期待に添えるといいのですが、社に持ち帰っての判断となりますから……。
とにかく、明日、見学をさせて頂きますね。よろしくお願いします」
と匠海は返事をしたのだった。
………………
翌日の夜、匠海の泊まっている宿へ吉本が迎えに来た。
「こんばんは。今日は、 仕事が終わっているので、私の自家用車と私服で来てしまいました。よろしくお願いします」
吉本は、ペコリと頭を下げた。
吉本は、ショートカットのヘアスタイルに、長袖の水色の綿ブラウス、黒のチノパンを履いていて、昨夜よりも外見がボーイッシュな感じの女性に見えた。
「こちらこそ、よろしくお願いします。
……何だか、吉本さん……昨夜と感じが違う気がしますが、何故でしょう?」
匠海は、首を傾げて聞いた。
「えっ?折原さん、凄い!私の変化に気づいてくれたんですね!
さっき、髪を少しだけ切ってきたんです!昨日、初めて会ったばかりなのに、わかってくれたなんて!
なんだか感動しちゃいます」
「そっか、そっか、髪を切ったのかぁ。
わかってスッキリしました!
でも、そんなに長くなかったのに、どうして切ったんですか?」
ショートボブで、鬱陶しい感じが無かったのに、更に短くしてきたから、不思議に思い、聞いてしまったのだ。
「えっ……あー、まあ、何となく気分転換です。約束までの時間があったので、その隙に美容院に行っちゃいました。
あれ?似合わないですか?」
と吉本が聞いてきた。
「えっ?似合いますよ!
えーと、カッコよくなりましたね!
ボーイッシュでいいですよ」
「えー、男っぽいですか?
やっぱり切りすぎちゃったか……」
「大丈夫です。ごめんなさい、僕の言い方が間違いでした!とっても素敵です、良く似合っていますよ」
「あはっ、すみません。お気遣いありがとうございます。そう言ってもらえると嬉しいです。では、行きましょう」
(ちょっと気になっていた男性に彼女が出来たって、今日 聞いたから気分を変える為に切ったんですよ。
そんな事は、言えませんけどね!
でも、今、私は 不思議とスッキリと穏やかな気持ちでいます)
……………………
星空里山観光園に着いた2人。
「こちらには、人工の小川が流れております。
川の中には、砂も石も水草もあって、ホタルの幼虫が食べるカワニナという巻貝もいます」
「あっ、ホタルだ!あっちにも、こっちにも!わっ、綺麗ですね。
とても高い位置にネットが張ってあるんですね。
これなら、自然の中にいるも同然です。
なかなかいいですね。うんうん」
匠海は、感動し笑顔になっていた。
「それでも、外なので多少は蚊がいますから、虫除けスプレーとかで防御をしていただけると、良いかもしれません。
気に入って頂けて良かったです」
吉本は匠海の表情を見て、ホッとして言った。
ブルブルブルブル……。
その時、携帯に着信がきた。
「すみません、電話に出てもよろしいでしょうか?」
匠海が吉本に確認を取り、電話に出た。
「……そうか、おめでとう。
うん、うん。智也、丸山さんを大切にしろよ……じゃあな」
電話を切った匠海は、すぐには振り向かなかった。
(彼女が、僕の親友と結婚することになった。
それは、とても喜ばしい事だ。
2人には、幸せになってもらいたいと心から願っている。それでも……)
「匠海……俺、柚花と結婚をするんだ……」
智也の言葉を聞いた瞬間。
胸の中をスッと風がすり抜けて行く気がした……。
そんな事を考えている匠海の後ろ姿を吉本は見つめている。
(話し声が聞こえちゃったから、だいたいの内容は想像できるし、電話を切った後の、この間が全てを物語っている気がする……。折原さん、大丈夫ですか?)
「はぁ」
匠海は、ひとつ息を吐くと、笑顔で振り返って言う。
「吉本さん、すみませんでした。
……えっと、僕は、ここが気に入りました。
来年は、是非 ここを旅企画に推薦したいと思います!
そのためには、色々とご協力をお願いすることになると思います」
「はい、喜んで!気に入って頂けて、こちらは、とても嬉しいです!
ああ、良かった。ホッとしました。
あのぉ、お腹が空きませんか?
うちの末永から、折原さんにご馳走をするように言われておりますから、ここのレストランに行きませんか?
レストランの視察も兼ねて下さい」
「そうですね、レストランに行きましょう。こんな素敵な場所を紹介してもらった御礼に、僕にご馳走をさせて下さい。
案内をお願いします」
2人は、並んで歩いている。
「結構、カップルばかりとすれ違いますね。ホタル観賞は、ロマンチックですからね。団体様には不向きだったかな?」
匠海がそんな事を言い出したから、吉本は慌てた。
「えっ!そんな事を言わないで下さい!
誰でも美しいものに心を奪われるはずですから、団体様にも見ていただきたいです!ついでに、我が市の他の観光地にも行ってほしいですから!
うちの市に旅行に来て下さい!
お願いします!」
少々、ムキになって吉本が言った。
「あ、変な事 言ってすみません。僕は、社に戻ってから、こちらの旅企画を通すつもりです。
実現させるように頑張りますからね」
「折原さん、私は全面協力をしますから、どうかよろしくお願い致します。
こちらにいらっしゃる時には、連絡をして下さい。
今、私の電話番号を教えますね」
…………………
視察から戻り、アパートに帰って来た匠海は、溜まった郵便物を取った時に 携帯電話が鳴っていることに気づいた。
「あ……高橋さん……。ご無沙汰です。
うーん、ちょっと都合が悪いかな。
あのぉ……僕らは、交際をしているわけではないし、これ以上 会うのは控えたいと思いますが……。
せっかく誘ってくれたのに、すみません。はい、はい、そういう事ではないです。
丸山さんの事?彼女は関係ないですよ。
僕らが、宙ぶらりんの状態で会い続けるのは、良くないと思ったんです。
失礼な事を言って すみません。
はい、では、さようなら」
匠海は、電話を切った後に罪悪感を感じた。
何とか現状から脱却をしようとして、若菜と交際をしてみようかと思った事もあったからだ。
(高橋さんとは、どうしても性格が合わないと思う。
だから、このまま ずるずると行くと互いに不幸になる気がしたんだ。
きっと、高橋さんの為にも これで良かったと思う……ことにする)
「自分勝手で本当にごめんなさい」
匠海は、そう呟き 置いた郵便物を見た。
「えっ?この手紙……えっ?」
「ヴォー、ヴォー、ヴォー……」
「何の声ですか?ここ、1人で来てたら少し怖いですね」
不気味な声にビビり気味な折原 匠海が聞いた。
「ははは、ああ、この声は ウシガエルです。怖がる事はないですよ」
市の観光課男性職員 中年の末永が、笑いながら教えた。
「末永さん、折原さんは都会に住んでいる方だから、ウシガエルなんて知りませんよ。
大きなカエルなんですよ。
ちょっと不気味な声ですもの、怖がって当然です!
あ、懐中電灯で足元を照らして歩いて下さい。あぜ道は狭いですから、田んぼに落ちないで下さいね」
案内をしてくれている同じく観光課女性職員の吉本が言った。
歳の頃は、26 、27歳といったところだろう。
2人とも、観光課の揃いの上着を着ている。
「あっ、はい……わ、小さな虫が飛んで来ます!」
匠海は、懐中電灯に向かって飛んでくる虫を追い払いながら歩いて行く。
「さあ、この辺でいいだろう。
懐中電灯を消して、下の方にある田んぼを見て下さい」
末永の言葉に従がい、懐中電灯を消してみた。
すると、暗闇の中に ゆらりゆらりと黄緑色の明かりが飛び交っているのが見えた。
しぃんと静かで、時折 吹く微風に そよめく稲の葉擦れ音と光のショーが実に幻想的だった。
「わあ、綺麗だ……」
匠海は、感動して思わず呟いた。
(これがホタルなのか……。
見せたいな……)
誰に見せたいかもわからず、ただ漠然と、瞬時にそう思ったのだった。
(本当に綺麗だ、お客様にも見てもらえたら、どんなにいいか……。
ホタル観賞を旅行の目玉にしてみるのも悪くないかも。
しかし、団体で ここをぞろぞろと歩くのは難しいだろう)
「ねっ、折原さん。ホタルの光は、最高に綺麗でしょう?」
「はい、末永さん、とっても美しいですね。ホタルを沢山の方に見ていただきたいと思いました。
うん?あっ、痒い。
わあ、あちこち痒いです!
あれ、蚊に刺されたかも!」
「あー、じゃあ、末永さん、戻りましょうよ!
折原さんが、蚊の餌食になってしまいますから!
折原さん、こういう所には 蚊がいるんですよね。後で、薬を塗りましょうね」
匠海は、来年の団体旅行向けの新しい企画を考えるために、ホタルの生息地として有名な場所へとやって来たのだった。
「それでは、旅館に戻りましょう。
車に乗って下さい」
ここへ来る時も、この市役所の車に乗せてきてもらったのだ。
末永の運転する車の助手席に匠海が乗り、後部座席に吉本が乗り、3人は匠海の泊まる宿へと向かう。
ここは、匠海の住む都市から片道、車で約2時間ほどの場所だ。
「折原さん、どうですか?さっきの所は、素敵な場所だったでしょう?」
末永が問い掛けた。
「はい、感動しました!ですが……。
ホタルが見れたら素晴らしいと思いますが、来年も必ず見られるのかという心配があります。
それに、お客様が蚊に刺されるのを嫌がるかもしれないので、今の所は難しいでしょうね……」
残念そうに匠海が言ったのだった。
「でしたら、星空里山観光園で“ホタルの夕べ”というイベントがございます。
そちらなら、整備された所で飼育されたホタルが見られます。
折原さんのご都合がよければ、明日の夜、ご案内しましょうか?」
後ろの席から、吉本が言った。
「あっ、吉本さん、それがいいです!
是非、案内して下さい。
団体旅行ですから、より安全な方がいいですから!自然のホタルじゃなくても全然かまいませんから!
よろしくお願いします」
今回は、夜の視察がメインとなる為、余裕をもって予定を立ててある。
帰りは、明後日にしておいて良かったと匠海は思ったのだった。
「ありゃあ、すみません。私は明日は都合が悪くて、一緒に行けないです。
申し訳ありません」と末永が謝った。
「あっ、末永さん、私がご案内しますから!お任せ下さい!」
自身満々に吉本が言ったから、末永は頷き、匠海に話す。
「責任者の私が案内をできませんが、どうか我が市の観光地を旅行先にして頂きたいと思います。
どうぞよろしくお願いします」
「はい、ご期待に添えるといいのですが、社に持ち帰っての判断となりますから……。
とにかく、明日、見学をさせて頂きますね。よろしくお願いします」
と匠海は返事をしたのだった。
………………
翌日の夜、匠海の泊まっている宿へ吉本が迎えに来た。
「こんばんは。今日は、 仕事が終わっているので、私の自家用車と私服で来てしまいました。よろしくお願いします」
吉本は、ペコリと頭を下げた。
吉本は、ショートカットのヘアスタイルに、長袖の水色の綿ブラウス、黒のチノパンを履いていて、昨夜よりも外見がボーイッシュな感じの女性に見えた。
「こちらこそ、よろしくお願いします。
……何だか、吉本さん……昨夜と感じが違う気がしますが、何故でしょう?」
匠海は、首を傾げて聞いた。
「えっ?折原さん、凄い!私の変化に気づいてくれたんですね!
さっき、髪を少しだけ切ってきたんです!昨日、初めて会ったばかりなのに、わかってくれたなんて!
なんだか感動しちゃいます」
「そっか、そっか、髪を切ったのかぁ。
わかってスッキリしました!
でも、そんなに長くなかったのに、どうして切ったんですか?」
ショートボブで、鬱陶しい感じが無かったのに、更に短くしてきたから、不思議に思い、聞いてしまったのだ。
「えっ……あー、まあ、何となく気分転換です。約束までの時間があったので、その隙に美容院に行っちゃいました。
あれ?似合わないですか?」
と吉本が聞いてきた。
「えっ?似合いますよ!
えーと、カッコよくなりましたね!
ボーイッシュでいいですよ」
「えー、男っぽいですか?
やっぱり切りすぎちゃったか……」
「大丈夫です。ごめんなさい、僕の言い方が間違いでした!とっても素敵です、良く似合っていますよ」
「あはっ、すみません。お気遣いありがとうございます。そう言ってもらえると嬉しいです。では、行きましょう」
(ちょっと気になっていた男性に彼女が出来たって、今日 聞いたから気分を変える為に切ったんですよ。
そんな事は、言えませんけどね!
でも、今、私は 不思議とスッキリと穏やかな気持ちでいます)
……………………
星空里山観光園に着いた2人。
「こちらには、人工の小川が流れております。
川の中には、砂も石も水草もあって、ホタルの幼虫が食べるカワニナという巻貝もいます」
「あっ、ホタルだ!あっちにも、こっちにも!わっ、綺麗ですね。
とても高い位置にネットが張ってあるんですね。
これなら、自然の中にいるも同然です。
なかなかいいですね。うんうん」
匠海は、感動し笑顔になっていた。
「それでも、外なので多少は蚊がいますから、虫除けスプレーとかで防御をしていただけると、良いかもしれません。
気に入って頂けて良かったです」
吉本は匠海の表情を見て、ホッとして言った。
ブルブルブルブル……。
その時、携帯に着信がきた。
「すみません、電話に出てもよろしいでしょうか?」
匠海が吉本に確認を取り、電話に出た。
「……そうか、おめでとう。
うん、うん。智也、丸山さんを大切にしろよ……じゃあな」
電話を切った匠海は、すぐには振り向かなかった。
(彼女が、僕の親友と結婚することになった。
それは、とても喜ばしい事だ。
2人には、幸せになってもらいたいと心から願っている。それでも……)
「匠海……俺、柚花と結婚をするんだ……」
智也の言葉を聞いた瞬間。
胸の中をスッと風がすり抜けて行く気がした……。
そんな事を考えている匠海の後ろ姿を吉本は見つめている。
(話し声が聞こえちゃったから、だいたいの内容は想像できるし、電話を切った後の、この間が全てを物語っている気がする……。折原さん、大丈夫ですか?)
「はぁ」
匠海は、ひとつ息を吐くと、笑顔で振り返って言う。
「吉本さん、すみませんでした。
……えっと、僕は、ここが気に入りました。
来年は、是非 ここを旅企画に推薦したいと思います!
そのためには、色々とご協力をお願いすることになると思います」
「はい、喜んで!気に入って頂けて、こちらは、とても嬉しいです!
ああ、良かった。ホッとしました。
あのぉ、お腹が空きませんか?
うちの末永から、折原さんにご馳走をするように言われておりますから、ここのレストランに行きませんか?
レストランの視察も兼ねて下さい」
「そうですね、レストランに行きましょう。こんな素敵な場所を紹介してもらった御礼に、僕にご馳走をさせて下さい。
案内をお願いします」
2人は、並んで歩いている。
「結構、カップルばかりとすれ違いますね。ホタル観賞は、ロマンチックですからね。団体様には不向きだったかな?」
匠海がそんな事を言い出したから、吉本は慌てた。
「えっ!そんな事を言わないで下さい!
誰でも美しいものに心を奪われるはずですから、団体様にも見ていただきたいです!ついでに、我が市の他の観光地にも行ってほしいですから!
うちの市に旅行に来て下さい!
お願いします!」
少々、ムキになって吉本が言った。
「あ、変な事 言ってすみません。僕は、社に戻ってから、こちらの旅企画を通すつもりです。
実現させるように頑張りますからね」
「折原さん、私は全面協力をしますから、どうかよろしくお願い致します。
こちらにいらっしゃる時には、連絡をして下さい。
今、私の電話番号を教えますね」
…………………
視察から戻り、アパートに帰って来た匠海は、溜まった郵便物を取った時に 携帯電話が鳴っていることに気づいた。
「あ……高橋さん……。ご無沙汰です。
うーん、ちょっと都合が悪いかな。
あのぉ……僕らは、交際をしているわけではないし、これ以上 会うのは控えたいと思いますが……。
せっかく誘ってくれたのに、すみません。はい、はい、そういう事ではないです。
丸山さんの事?彼女は関係ないですよ。
僕らが、宙ぶらりんの状態で会い続けるのは、良くないと思ったんです。
失礼な事を言って すみません。
はい、では、さようなら」
匠海は、電話を切った後に罪悪感を感じた。
何とか現状から脱却をしようとして、若菜と交際をしてみようかと思った事もあったからだ。
(高橋さんとは、どうしても性格が合わないと思う。
だから、このまま ずるずると行くと互いに不幸になる気がしたんだ。
きっと、高橋さんの為にも これで良かったと思う……ことにする)
「自分勝手で本当にごめんなさい」
匠海は、そう呟き 置いた郵便物を見た。
「えっ?この手紙……えっ?」
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