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揺れる想い
お花屋さん
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彼は、西崎 智也 28歳、10代の頃には芸能プロダクションからのスカウトを受けるほどのイケメンで、現在も花屋にしておくのは、勿体ない容姿をしている。
そんな彼の恋愛事情は、当然ながら、学生の頃は超モテモテであった。
まあ、それなりに交際を経験してきた。
しかし、社会人になってからは、その外見から恋人がいるのだろうと思われ、女性とはあまり縁がなく過ごしてきた。
3年ほど前、匠海には春菜とは違う彼女がいたので、寂しそうな彼の為に菊乃を紹介したのだった。
2人は、なりゆきで付き合うことになったのだ。
だが、互いに性格が合わず、交際1年近く経つ頃は自然消滅に近い状態となり、その頃、彼女は海外赴任が決まり、別れも告げずに去って行ったのだった。
その彼女とあの日、偶然、再会して柚花達をホテルへと送った後、改めて菊乃と会ったのだ。
……………………
「智也、ほんと久しぶりね。
元気そうで良かった。もう、社長になったの?」
「まさか、まだ、父はバリバリ現役だよ」
智也が答えたがそれで会話が終わる。
「じゃあ、時期社長として会社で頑張っているのね」
菊乃に言われ、また、答える。
「俺は、最近、現場で働いているんだ」
また、会話が終わる。
智也は会話に広がりを持たせてくれないので、菊乃は疲れてしまうのである。
仕方がないから、また聞く。
「えっ?現場?」
「そうだよ。花を生けていて、お花屋さんって、よく呼ばれているんだ」
彼は、得意先で“花屋 ガーデン プロデュース”の西崎と名乗ることが多いのだが、実は、株式会社ガーデン プロデュースが正式名称なのだ。
花の仕事もしているし、分かりやすいから、花に関わるスタッフ達は、自分達のことを花屋と言っているのである。
そうなのだが……。
柚花から 暫くお花屋さんと呼ばれ続けていた時には、さすがに気分は良くなかった。
彼は、自分を個人として、認識してほしいと思ったようだ。
少々、話しが脱線したので、元に戻そう。
菊乃は、智也に言う。
「智也に会いたかったのは……。
実は、私 結婚するの。それで、智也に取引先のホテルを紹介してもらえたら、格安にしてもらえるかしら?
なんて、思って……元彼に頼んで図々しいけど、私達、そんなにお金をかけられなくて……」
智也は、驚いて言葉を無くした。
(俺に結婚式場を紹介しろと言うのか?
結婚するって、俺が元彼だって……?俺たちの関係が宙ぶらりんで、彼女を作るのを躊躇っていたのは、俺だけか!
菊乃、お前、酷すぎないか?
何だか、腹が立ってきた!)
「ああ、いいよ。カレンダホテルに柚花がいるから!」
ぶっきらぼうに智也は答えた。
「えっ?ユズカ?誰?彼女なの?へぇ、彼女がいるのね。イケメンだものね。
でも、良かった。私だけ幸せだと悪いと思っていたの。カレンダホテルに行けばいいのね?
話しをしておいてほしいの。お願いします」
「えっ?彼女……?あ、恋人になった……こともあるし……ああ、そうか……」
智也は、何やら独り言を言っている。
「えっ?何言っているの?
その人、恋人なんでしょう?違うの?」
菊乃は、せっかちな傾向があって、少し苛立って聞いたのだった。
「ああ、いいよ。彼女に頼んでおく」
「ありがとう!じゃあ、彼女によろしくお願いしますと伝えてね。良かった」
……………………
それから数日後、カレンダホテルに菊乃と婚約者がやって来たのだった。
合理的な婚礼式を望んでいたので、希望通りに手配をし、満足していただけたようだ。
菊乃が帰り際に御礼の言葉と共に言う。
「私が言うのは変だけど、あの人 智也は、口数が少ないけど、とても優しい人なの。
どうか仲良く過ごして下さい。
では、また、打ち合わせに来ます」
「あっ、はい、仲良く付き合います。
次回のお越しをお待ちしております。
ありがとうございました」
柚花は、そう言って、菊乃カップルを見送った。
そんなに言うほど、無口ではないけど……。
食事中は、あまり話さないかもしれないけどね。
あなたに言われなくても、智也さんが優しい人だと知っています。
たっ君との披露宴の時は、ピンチを救ってくれたり、何かと私を助けてくれているんですから!
それにしても、彼氏いえ元彼に式場を紹介させるなんて、凄い女性だわ!
なかなか、出来ない事でしょう。
紹介する智也さんも凄いわ……。
懐が広いって言うのかな?
でも、“彼女に頼んでおく”なんて、言ってしまったのは、男のプライドだったのでしょうね。
わかります、その気持ちは、凄くわかります!
まあ、事実、智也さんに偽恋人を頼んだものね。
微力ながら、とことん協力をさせて頂きます。
頂きますが……。
「はーあ」
ブライダルサロンのテーブルに突っ伏して、柚花は ため息をつく。
私は、去年から、偽花嫁や偽妻、今年は偽恋人をしている。
虚しい……。
本当の恋がしたいよ。
……………………
その夜、家に帰った柚花の元へ智也からメッセージが来たのだ。
今度、御礼がしたいとのことだ。
以前、建前を言って損をしたから、今度はストレートに素直に返事をする。
『どんな御礼でしょうか?楽しみにしています』
携帯電話の送信を押す。
「はい、行ってこーい」
図々しいかもしれないけど、素直になるわ!
決めた!今年の目標は、素直な女になる!
小銭貯金をしながら、ときめきは忘れずにいようと思う。
だから、智也さん、返信下さい。
待っています!
そんな彼の恋愛事情は、当然ながら、学生の頃は超モテモテであった。
まあ、それなりに交際を経験してきた。
しかし、社会人になってからは、その外見から恋人がいるのだろうと思われ、女性とはあまり縁がなく過ごしてきた。
3年ほど前、匠海には春菜とは違う彼女がいたので、寂しそうな彼の為に菊乃を紹介したのだった。
2人は、なりゆきで付き合うことになったのだ。
だが、互いに性格が合わず、交際1年近く経つ頃は自然消滅に近い状態となり、その頃、彼女は海外赴任が決まり、別れも告げずに去って行ったのだった。
その彼女とあの日、偶然、再会して柚花達をホテルへと送った後、改めて菊乃と会ったのだ。
……………………
「智也、ほんと久しぶりね。
元気そうで良かった。もう、社長になったの?」
「まさか、まだ、父はバリバリ現役だよ」
智也が答えたがそれで会話が終わる。
「じゃあ、時期社長として会社で頑張っているのね」
菊乃に言われ、また、答える。
「俺は、最近、現場で働いているんだ」
また、会話が終わる。
智也は会話に広がりを持たせてくれないので、菊乃は疲れてしまうのである。
仕方がないから、また聞く。
「えっ?現場?」
「そうだよ。花を生けていて、お花屋さんって、よく呼ばれているんだ」
彼は、得意先で“花屋 ガーデン プロデュース”の西崎と名乗ることが多いのだが、実は、株式会社ガーデン プロデュースが正式名称なのだ。
花の仕事もしているし、分かりやすいから、花に関わるスタッフ達は、自分達のことを花屋と言っているのである。
そうなのだが……。
柚花から 暫くお花屋さんと呼ばれ続けていた時には、さすがに気分は良くなかった。
彼は、自分を個人として、認識してほしいと思ったようだ。
少々、話しが脱線したので、元に戻そう。
菊乃は、智也に言う。
「智也に会いたかったのは……。
実は、私 結婚するの。それで、智也に取引先のホテルを紹介してもらえたら、格安にしてもらえるかしら?
なんて、思って……元彼に頼んで図々しいけど、私達、そんなにお金をかけられなくて……」
智也は、驚いて言葉を無くした。
(俺に結婚式場を紹介しろと言うのか?
結婚するって、俺が元彼だって……?俺たちの関係が宙ぶらりんで、彼女を作るのを躊躇っていたのは、俺だけか!
菊乃、お前、酷すぎないか?
何だか、腹が立ってきた!)
「ああ、いいよ。カレンダホテルに柚花がいるから!」
ぶっきらぼうに智也は答えた。
「えっ?ユズカ?誰?彼女なの?へぇ、彼女がいるのね。イケメンだものね。
でも、良かった。私だけ幸せだと悪いと思っていたの。カレンダホテルに行けばいいのね?
話しをしておいてほしいの。お願いします」
「えっ?彼女……?あ、恋人になった……こともあるし……ああ、そうか……」
智也は、何やら独り言を言っている。
「えっ?何言っているの?
その人、恋人なんでしょう?違うの?」
菊乃は、せっかちな傾向があって、少し苛立って聞いたのだった。
「ああ、いいよ。彼女に頼んでおく」
「ありがとう!じゃあ、彼女によろしくお願いしますと伝えてね。良かった」
……………………
それから数日後、カレンダホテルに菊乃と婚約者がやって来たのだった。
合理的な婚礼式を望んでいたので、希望通りに手配をし、満足していただけたようだ。
菊乃が帰り際に御礼の言葉と共に言う。
「私が言うのは変だけど、あの人 智也は、口数が少ないけど、とても優しい人なの。
どうか仲良く過ごして下さい。
では、また、打ち合わせに来ます」
「あっ、はい、仲良く付き合います。
次回のお越しをお待ちしております。
ありがとうございました」
柚花は、そう言って、菊乃カップルを見送った。
そんなに言うほど、無口ではないけど……。
食事中は、あまり話さないかもしれないけどね。
あなたに言われなくても、智也さんが優しい人だと知っています。
たっ君との披露宴の時は、ピンチを救ってくれたり、何かと私を助けてくれているんですから!
それにしても、彼氏いえ元彼に式場を紹介させるなんて、凄い女性だわ!
なかなか、出来ない事でしょう。
紹介する智也さんも凄いわ……。
懐が広いって言うのかな?
でも、“彼女に頼んでおく”なんて、言ってしまったのは、男のプライドだったのでしょうね。
わかります、その気持ちは、凄くわかります!
まあ、事実、智也さんに偽恋人を頼んだものね。
微力ながら、とことん協力をさせて頂きます。
頂きますが……。
「はーあ」
ブライダルサロンのテーブルに突っ伏して、柚花は ため息をつく。
私は、去年から、偽花嫁や偽妻、今年は偽恋人をしている。
虚しい……。
本当の恋がしたいよ。
……………………
その夜、家に帰った柚花の元へ智也からメッセージが来たのだ。
今度、御礼がしたいとのことだ。
以前、建前を言って損をしたから、今度はストレートに素直に返事をする。
『どんな御礼でしょうか?楽しみにしています』
携帯電話の送信を押す。
「はい、行ってこーい」
図々しいかもしれないけど、素直になるわ!
決めた!今年の目標は、素直な女になる!
小銭貯金をしながら、ときめきは忘れずにいようと思う。
だから、智也さん、返信下さい。
待っています!
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