ある日、突然 花嫁に!!

ひろろ

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 カレンダホテルの噴水広場で、彼女を待つ新井。


 ランチの時間に近いのだが、暮れのオフィス周辺は、静まり返り、歩道を歩く人が少ない。


 噴水広場にいる人は、いつもよりは少ないが、待ち合わせをしていると思われる人が数名いた。



 男性が3名、女性が4名ほどいるが、ここにいる男性も自分と同じで、今からプロポーズをするのではないかと、勝手に仲間にしている新井なのだった。

(男達よ、気合いを入れて、頑張ろうぜ!)


「新井さん、こんにちは。

 随分と早く来たんですね?お待たせして、すみません」


 新井の彼女、青木 静香がやって来た。

 彼女は小柄で、可愛らしくて、おとなしそうな女性に見えた。

 肩まで伸びた ゆるいウエーブ髪の両サイドを後ろに束ねて、バレッタで留めている。
 

「いや、今さっき来たところだよ。

 休みに入って早々、呼び出してごめん。

 ここのレストランの今月限定ランチメニューが、すっごく美味しくてお得だと、先輩から聞いたから、終了前に君と来たかったんだ。

 じゃあ、行こうか」


「はい、楽しみです」


 2人は、ホテルの中へ入って行った。


 よし!入った!

 それを噴水広場にある木に隠れ見ているのは、丸山 柚花なのだった。

 
 現在、ホテルに来ているお客様が少ないので、不審者にならずに済んでいるのである。

…………………

 柚花が“星の里レストラン”を覗いてみたら、仕込みの3チームと新井さん達以外のお客様は、いなかった。


 レストランには、事情を話してあり、少し協力をお願いしてあるが、他のお客様がいない方が迷惑をかけなくて済むので、都合がいいのだ。


 柚花は、3チームに指令を出すために、携帯電話を握りしめている。


 新井さんと静香さんのテーブルに今月限定ランチが運ばれてきた。

「えー、すごーい、オムライスと ひと口ステーキ、サラダにスープ、食べきれるかしら?」

 静香さんが驚いていると、新井さんが言う。

「これに、デザートとコーヒーまで付くんだよ。
凄いでしょう?」


 あ、新井さん、緊張はしていないみたいだ。

 実に自然体でいいですね。


 倉田チーム、軽米チーム、野村チームも今月限定ランチを食べていて、普通にカップルの食事という光景になっているように見えた。


「倉田さん、ひと口ステーキが美味しかったね。

いつも社員食堂だから、たまには、お店で食べるのもいいなぁ。

 それにしても、2人で食事なんて、何年ぶりなんだろうな?」


 支配人が言うと、以前を思い出すように倉田チーフが答える。


「そうね……私の結婚をお祝いしてくれた時だったから、かなり前になるわね。

 それなのに、私は離婚しちゃった……ごめんね。

 あっ、このアイスクリームにかけてある苺ソースが、美味しい!

 食べてみて!ねっ?美味しいでしょう?」


「うん、本当だ。美味しいな。

 かなり、お腹がいっぱいになったな」

 そう言いながら、支配人は昔を懐かしんでいた。

(結婚祝いという事で、2人で食事をした時……本当は、結婚を辞めてくれと言うつもりだったんだよな……。

 まあ、友人関係を壊したくなかったから、言わなかったけど……)


 おお、倉田チーフと支配人、なんだかいいムードで話しているなぁ。


 で、軽米チームは、どうかな?

 うん、うん、こっちもいい感じに演じているねぇ……って、軽米さん、おい、食べ過ぎでしょっ!

 前沢さんのステーキまで、食べるな!

 動けなくなるよ!こらっ、軽米!

 
 それで、野村チームはどうかな?
 
 ふーん、仲良く話しているわね!

 お花屋さんは、誰とでも親しくなれるんだね!

 一体、何を話しているのやら?

 あっ、野村さんが笑った。

 と、智也さんも笑っている!

 何よ、誰にでも優しいのねっ!


「丸山さん、そろそろ、1組、外に出しましょうか?」

 
 いつの間にか、外崎さんが隣に来て、中の様子を見ながら言ったのだ。


「そうね……じゃあ、くら……」


 言いかけたところで、外崎が電話を掛けた。


「野村さん、レジにお願いします」


 えっ?外崎さん、勝手な事をするな!と注意をしたかったけれど、智也さんと野村さんが仲良しなのを見るのが嫌だったから、これでいいと思ったのだった。

……………………

 智也が会計を済ませ、店から出ようとしたところで、外崎が新井さんの彼女に聞こえるように、大きな声で言う。


「本日、こちらでお食事の方、先着4組様に年末フェアーに御招待します。

 カレンダホテル商品券など貰えるチャンスです。

 どうぞ、ご参加下さい」


 そう言った外崎が野村に参加券を渡した。

 
 それから、続けて柚花が言う。

「会場にご案内致します。こちらへどうぞ」


 新井さん、彼女は気がつきましたよね?

 さあ、あなたの番ですよ。

 彼女を誘って下さい。


「静香ちゃん、年末フェアーだってよ。

 何か貰えるみたいだね。

 先着順みたいだから、このデザートを早く食べよう。コーヒーも飲んで……」


 新井さんが手筈通り誘ったのだった。


 軽米チームと倉田チームも会計を済ませ、誘導されて、ブライダルサロンへ集合していた。


 遅れて、新井さんカップルが合流したのだった。


 ふぅ。ようやくスタート地点に立ったところだ。

………………

「本日は、カレンダホテルにお越し下さいまして、誠にありがとうございます。

 年末に、日頃の感謝を込めまして、宝探しゲームを開催致します。

 賞品もございます。是非、ご参加下さい」

 
「はい、参加します」

 支配人が即答すると、続けて、西崎 智也と前沢 和希も同意したのだった。


「静香ちゃん、参加しようね」

 新井が同意を求めると、静香が頷いた。


 よしっ!

 柚花は、左手で小さくガッツポーズをした。

 次、緑川さん、行け!


「それでは、皆様、宝探しの説明を致します。

 こちらの小さな箱をご覧下さい。

 まずは、この お部屋に隠してありますので、カップルで力を合わせて、探して下さい。

 見つけましたら、中をご覧下さい。

 その中に指令が入っていますから、指示に従って下さい。

 ホテルの中をあちこち移動しますので、我々、スタッフが近くにいるように致します。ご安心下さい」

 緑川さん、長台詞ご苦労さま。


 次、外崎さんの番だ。


「では、これより宝探しゲーム開始でーす」

 リーン、リーン……

 外崎は、ハンドベルを振った。

 4組のカップルは、めいめい箱を探し始めたのだった。


 カップルの皆さん、活躍して下さいね!
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