7 / 9
剛毛を笑うものは剛毛に泣く
しおりを挟むいつものお茶会の日の帰り道。フェザーはマロカの王を見送るために外に出ていた。普段は応接室から見送るため、こういうことは今回が初めてだ。第6とはいえ王子であるから警備の数もそれなりにいる。だが彼らが警戒しているのは、いるかいないかわからない暗殺者ではなく彼らのそばにいるマロカの民たちであった。何せパッと見、ゴリラの集団だ。一斉に襲われたらたまったものではないからだ。
しかしフェザーはそんなことを気にせずに彼らを見送ろうとしていた。マロカの王に向かい合わせになり手を差し出す。場所は違うが、彼らのいつもの別れのあいさつであった。マロカの王の大きすぎる手は、片手でフェザーの手を包めてしまう。それをいつも見ているキャングルはいつか王子の手が潰されないか毎度冷や冷やしているのであった。
いつもならばここで握手を交わして別れるのであるが、今回は様子が違った。
「ウ”、ウ”ホォォォォォ」
地を這うような低い声。どう聞いても威嚇しているようにしか感じ取れない。そしてそれはマロカの王だけではない。他のマロカの民も同様だ。
フェザーは目を見開き、他の者たちはマロカに対して警戒を露わにする。キャングルは主を守るため急いでフェザーの前に立ちはだかった。
「ウ”フオッフオッフオオオオ!!!!」
マロカの民の1人が雄叫びをあげたかと思えば、そばにあった大木に手をかけボキボキボキと折っていく。その怪力っぷりに騎士たちは青くなる。
だがマロカの民はその折った大木を、距離の離れた別の大木に向かって投げつけた。葉でよく茂った木にそれは直撃し、そして1人の男が木から落下した。その男の手には弓が握られている。この場にいる者すべてが理解した。その男が暗殺者であることを。
騎士たちの半数がその暗殺者のもとへと駆け寄っていく。そして幾人の騎士とキャングルがフェザーを逃がすために王子のそばに寄る。だがその騎士の1人をマロカの王が殴って吹き飛ばした。その行動にキャングルがマロカの王に向かって斬りつけようとするが、すぐにフェザーが「やめよ!」制す。キャングルは命による条件反射で動きを止めた。
フェザーは気づいたのだ。先ほどマロカの王が殴った騎士の手にナイフが握られていたことを。先ほどの騎士も暗殺を行う1人であることを。
自身を庇ってくれたことに気づいたフェザーは、騎士を殴った後もそばに立ち塞がってくれるマロカの王に感謝した。しかしそれを口にする前に殴られてボロボロになった騎士が懐から出した物に驚愕する。小瓶に入った明るい橙色の液体。その液体の正体をフェザーは知っている。それをマロカの王に向かって投げつけたのだ。
マロカの王は投げつけられたそれを手で上から下に払い落とそうとした。咄嗟にフェザーは飛びかかるようにしてその手を抱える。そしてマロカの王の手が直撃するはずであった液体をフェザーの肩が受け止めた。小瓶はフェザーの肩に触れたかと思えば破裂した。フェザーの肩を中心として飛び散った液体。それは肌を溶かす劇薬であった。
「あ”、がっ・・・・・・、ぁ」
熱さと痛みに、フェザーは何も見えなくなった。意識が遠のいていく。
「王子!」
キャングルの叫びに答える余裕などなかった。
体中から力が抜け、特に液体が直撃した右肩などは感覚がなくなっている。
だがフェザーは意識を失っても、マロカの王の手は離さなかった。
0
お気に入りに追加
34
あなたにおすすめの小説
魔界最強に転生した社畜は、イケメン王子に奪い合われることになりました
タタミ
BL
ブラック企業に務める社畜・佐藤流嘉。
クリスマスも残業確定の非リア人生は、トラックの激突により突然終了する。
死後目覚めると、目の前で見目麗しい天使が微笑んでいた。
「ここは天国ではなく魔界です」
天使に会えたと喜んだのもつかの間、そこは天国などではなく魔法が当たり前にある世界・魔界だと知らされる。そして流嘉は、魔界に君臨する最強の支配者『至上様』に転生していたのだった。
「至上様、私に接吻を」
「あっ。ああ、接吻か……って、接吻!?なんだそれ、まさかキスですか!?」
何が起こっているのかわからないうちに、流嘉の前に現れたのは美しい4人の王子。この4王子にキスをして、結婚相手を選ばなければならないと言われて──!?
期待外れの後妻だったはずですが、なぜか溺愛されています
ぽんちゃん
BL
病弱な義弟がいじめられている現場を目撃したフラヴィオは、カッとなって手を出していた。
謹慎することになったが、なぜかそれから調子が悪くなり、ベッドの住人に……。
五年ほどで体調が回復したものの、その間にとんでもない噂を流されていた。
剣の腕を磨いていた異母弟ミゲルが、学園の剣術大会で優勝。
加えて筋肉隆々のマッチョになっていたことにより、フラヴィオはさらに屈強な大男だと勘違いされていたのだ。
そしてフラヴィオが殴った相手は、ミゲルが一度も勝てたことのない相手。
次期騎士団長として注目を浴びているため、そんな強者を倒したフラヴィオは、手に負えない野蛮な男だと思われていた。
一方、偽りの噂を耳にした強面公爵の母親。
妻に強さを求める息子にぴったりの相手だと、後妻にならないかと持ちかけていた。
我が子に爵位を継いで欲しいフラヴィオの義母は快諾し、冷遇確定の地へと前妻の子を送り出す。
こうして青春を謳歌することもできず、引きこもりになっていたフラヴィオは、国民から恐れられている戦場の鬼神の後妻として嫁ぐことになるのだが――。
同性婚が当たり前の世界。
女性も登場しますが、恋愛には発展しません。
陰キャ系腐男子はキラキラ王子様とイケメン幼馴染に溺愛されています!
はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。
まったり書いていきます。
2024.05.14
閲覧ありがとうございます。
午後4時に更新します。
よろしくお願いします。
栞、お気に入り嬉しいです。
いつもありがとうございます。
2024.05.29
閲覧ありがとうございます。
m(_ _)m
明日のおまけで完結します。
反応ありがとうございます。
とても嬉しいです。
明後日より新作が始まります。
良かったら覗いてみてください。
(^O^)
腐男子ですが、お気に入りのBL小説に転移してしまいました
くるむ
BL
芹沢真紀(せりざわまさき)は、大の読書好き(ただし読むのはBLのみ)。
特にお気に入りなのは、『男なのに彼氏が出来ました』だ。
毎日毎日それを舐めるように読み、そして必ず寝る前には自分もその小説の中に入り込み妄想を繰り広げるのが日課だった。
そんなある日、朝目覚めたら世界は一変していて……。
無自覚な腐男子が、小説内一番のイケてる男子に溺愛されるお話し♡
大好きなBLゲームの世界に転生したので、最推しの隣に居座り続けます。 〜名も無き君への献身〜
7ズ
BL
異世界BLゲーム『救済のマリアージュ』。通称:Qマリには、普通のBLゲームには無い闇堕ちルートと言うものが存在していた。
攻略対象の為に手を汚す事さえ厭わない主人公闇堕ちルートは、闇の腐女子の心を掴み、大ヒットした。
そして、そのゲームにハートを打ち抜かれた光の腐女子の中にも闇堕ちルートに最推しを持つ者が居た。
しかし、大規模なファンコミュニティであっても彼女の推しについて好意的に話す者は居ない。
彼女の推しは、攻略対象の養父。ろくでなしで飲んだくれ。表ルートでは事故で命を落とし、闇堕ちルートで主人公によって殺されてしまう。
どのルートでも死の運命が確約されている名も無きキャラクターへ異常な執着と愛情をたった一人で注いでいる孤独な彼女。
ある日、眠りから目覚めたら、彼女はQマリの世界へ幼い少年の姿で転生してしまった。
異常な執着と愛情を現実へと持ち出した彼女は、最推しである養父の設定に秘められた真実を知る事となった。
果たして彼女は、死の運命から彼を救い出す事が出来るのか──?
ーーーーーーーーーーーー
狂気的なまでに一途な男(in腐女子)×名無しの訳あり飲兵衛
推しを擁護したくて何が悪い!
人生1919回血迷った人
BL
所謂王道学園と呼ばれる東雲学園で風紀委員副委員長として活動している彩凪知晴には学園内に推しがいる。
その推しである鈴谷凛は我儘でぶりっ子な性格の悪いお坊ちゃんだという噂が流れており、実際の性格はともかく学園中の嫌われ者だ。
理不尽な悪意を受ける凛を知晴は陰ながら支えたいと思っており、バレないように後をつけたり知らない所で凛への悪意を排除していたりしてした。
そんな中、学園の人気者たちに何故か好かれる転校生が転入してきて学園は荒れに荒れる。ある日、転校生に嫉妬した生徒会長親衛隊員である生徒が転校生を呼び出して──────────。
「凛に危害を加えるやつは許さない。」
※王道学園モノですがBLかと言われるとL要素が少なすぎます。BLよりも王道学園の設定が好きなだけの腐った奴による小説です。
※簡潔にこの話を書くと嫌われからの総愛され系親衛隊隊長のことが推しとして大好きなクールビューティで寡黙な主人公が制裁現場を上手く推しを擁護して解決する話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる