ゲイの俺が、同性愛という概念がない世界に勇者として召還されました

うましか

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クウガ 恥ずかしくて仕方ない

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 母さん、どうしよう。事件です。
 絶対正当な方法で入ってねぇだろ、あのバカガキ共。

 俺は思わずめまいを感じて隣にいるシャンケにもたれかかってしまった。

「ど、どうしたっぺか?」
「悪ぃ、急にめまいが」

 そして顔を起こして先ほどの声がする方を見れば、既にやつらはいなくなっていた。
 ・・・・・・どうしよう。探すべきなのか。探さないといけないの? 土地勘がない俺が!?
 無理だって。さすがに無理だって。ってかここに何であいつらがいるの。バカなの、ねぇ、バカなの?
 いや、落ち着け俺。もしかしたら幻聴かもしれないだろ。むしろその可能性の方が高いんじゃね。そうだよ、落ち着けよ。大丈夫だ、これは現実逃避じゃない。客観的に考えて行き着いた答えだ。

「めちゃくちゃ深刻そうな顔しとっぺが」
「気のせいだ。大丈夫だ。俺は今日も生きている」
「やっべ。その顔、女装して可愛いのにめっちゃ凛々しいっぺ」
「ありがとう。だけどそれ決して褒め言葉じゃねぇからな」

 街に出るんだ。そのときに確認しよう。
 ・・・・・・この時間帯、ステンいるんだよな。この格好じゃ会えないけどな。

 さて、さっさと街に向かおう。
 お願いだから、お願いだから幻聴であってくれ。
 両手で拝みながら、神に祈る他なかった。



 しかし神は常に非情で残酷な生き物であることを、俺は忘れていた。



 俺の耳に、爆発音が聞こえた気がした。
 そしてそれを感じたのは俺だけではなかった。シャンケも、そして周囲にいる人々も同様だったようだ。辺りがざわつき始めた。

 俺は周囲を見渡す。次に軽く上を見た。悲しいかな。俺より高い人いっぱいいるから真っ直ぐ前を見るだけじゃ、何が起きているのか把握しきれないんだ。
 でも、ふと上を見上げたから気づいた。

 宙に浮かぶ、小さな影を。
 いや、違う。あれは。

「親方! 空から男の子が!!」
「お、親方ってオラのことっぺか!? 何故に親方!?」

 思わず飛び出てしまった言葉に、シャンケがツッコミを入れる。
 しかしそんなことを気にしている場合ではなかった。

 どの建物よりも高い位置へと飛んでいる子供の姿。
 正しくは、落下している子供の姿。

「ヒィィィィィイイイイイイイ!」

 シャンケもその姿に気づいたらしく悲鳴をあげる。
 俺はシャンケの背中を強く叩いた。

「風魔法! 上に、速く!!」

 俺の言葉に、シャンケがハッとして右手をかざす。
 同時に落ちている子供の姿がまた急上昇をした。

「落下地点急ぐぞ」

 俺が走り出し、シャンケもうなずいて走り出した。
 だあああああ、くっそ。スカートのヒラヒラ邪魔くせぇ!!


+++


 数分後。
 俺とシャンケは、全速力による呼吸の乱れでせきこんでいた。

 そして俺の腕の中には、先ほどまで空中遊泳していた子供がいる。
 ええ、ええ! キャッチしましたとも! 落ちそうになるたびにシャンケが風魔法使ってなんとか持ちこたえてくれましたからね!

「ご、ごめ、ごめんなさ」

 涙目になって謝る子供。俺はこの子を知っている。
 ギダンとよくいる魔法の得意な子、ギュレットだ。
 上昇下降を繰り返していたから、顔は真っ青だ。そして体は震えている。
 俺の腕の中が、バイブレーションである。

 呼吸をなんとか落ち着かせて、俺はギュレットに尋ねる。

「なんで、あんな高く飛んだ?」

 その問いにギュレットはビクッと体を跳ねる。
 そしてオロオロと視線をさ迷わせていたが、ゆっくりと説明を始めた。

 その説明を要約すると。
・街に入りたいけど、勝手に入ることはできない。
・だから門番に王都の壁の向こうから女性の悲鳴が聞こえたと嘘の報告を門番にする。
・悲鳴が聞こえた場所に案内するからと、ギュレットと友人2人が門番と一緒に王都の中に進入。
・ギュレットを囮にして友人2人は門番の目を盗んで逃走。
・そしてギュレットも隙を見て門番から離れようとしたが失敗。
・咄嗟に風魔法(詠唱魔法使用)を使う。
・そして気づけば空の中。

 友人2人って、もしかしなくともギダンとティムだよな。
 ああ、やっぱりあれは俺の幻聴じゃなかった。どうしよう。

「随分と無茶するっぺなぁ」

 シャンケも呆れていた。ショボンとするギュレット。

も、お兄ちゃんも、ごめんなさい」

 そしてポツリとつぶやいた。
 その言葉に俺はハッとする。

 まずい。俺は今、俺じゃなかった。
 いや、俺なんだけど女装してる俺だった。

 深い息を吐いて俺はギュレットを地面に立たせた。
 そしてにっこりと笑ってギュレットを見下ろした。

「うふふ、僕に怪我がなくて良かったわ」

 女の子声を意識して口を開く。
 シャンケが「誰だお前」って顔をしていたが無視だ無視。こっちはバレたくねぇんだよ。
 笑おうと思えばこちとら笑えるんだよ。高校受験で面接受けてんだよ、こちとらよ。猫被るくらい屁でもねぇわ。

「でもあまり危険なことしちゃダメよ」

 そう微笑んでギュレットの額をコツンと小突いてやる。気持ち悪い? そんなん俺が1番わかってるわ。
 ギュレットは顔を真っ赤にして額を押さえて首を縦に動かした。
 ふとシャンケが俺のそばに来てこそりと声をかけた。

「おい、オメー女装して何かに目覚めちまったっぺか?」
「んなわけねぇだろ。こっちはバレて、いろんなもん失いたくないんだよ」
「そんな演技している時点で、何かが失っているとは思わねっぺか?」

 俺は無言でシャンケの足を踏みつける。声にならない悲鳴をあげてシャンケは足を押さえて痛みに堪えた。

「お、お兄ちゃん。どうしたの?」
「大丈夫よ。このお兄ちゃん、持病の水虫持ちで時たま足が無性に痒くなるの」

 ギュレットを少し遠ざけてシャンケのそばに座り込む。
 そしてシャンケにだけ聞こえる声で口を開いた。

「おい、俺が男が好きだってこと忘れるなよ」

 俺の言葉にシャンケの顔色が悪くなる。

「余計なこと言うのなら、犯して性的に食うからな」

 そう続けて言えば、コクコクとシャンケはうなずくのだった。




 とりあえずギュレットを連れて、街へ行くのが優先だ。
 ギダンとティムも王都にいるんだろうが、それを探すには広すぎる。門番である騎士たちも探しているだろうし、そっちはその人たちに任せよう。

「ギダンとティム、だいじょうぶかな」
「きっと大丈夫よ。だからギ・・・・・・キミは私たちと一緒に街へ行きましょうね」

 あっぶね。名乗られてないのに、ギュレットって呼びそうになったわ。
 ギュレットの手を繋ぎながら、にこにこと微笑んだ。あー、明日は表情筋が筋肉痛だわ。
 俺の隣ではシャンケが連れ立つ。

「なあ、もしかしてこの子が」

 シャンケが言いたいことはわかっている。俺はギュレットにバレないように小さくうなずいた。

「ギュレットだ。魔法が得意だっていったやつ」
「確かに。詠唱付きとはいえ、この年齢であれだけの高さまで自分の体を飛ばすとなると相当な魔力量を持たないと無理っぺ」

 シャンケはちらりとギュレットの顔を見、「でも」と何か言い掛けたが口を閉ざしてしまった。
 どうしたのかと思ったが、真面目そうなシャンケの顔つきであったため、その先を促すことはしなかった。


 王都と街の境目にある門へと着くと、門番だと思われる騎士の男がギュレットを見るなり怒鳴りながら近づいてくる。
 ギュレットが怯えて俺の背中へと隠れた。すると騎士の男が俺とシャンケをにらみつける。

「失礼。その子はあなた方の知り合いですか?」
「いえ、違います。先ほどたまたま出会いまして、街出身というので一緒に連れてきました」
「ではその子とは無関係ということですね?」

 男の問いにシャンケが説明すると、男はギロリとにらみつける。
 引き渡せってか。そりゃ入っちゃいけないところに忍び込んでいるんだ。王都は陛下がいる城もあるし、貴族たちも住んでいる。そう簡単に入っていい場所ではないんだ。
 でも「はい、どうぞ」って渡すわけにもいかないよな。実際知り合いだし。女装しているから見知らぬ関係だけれど。

 シャンケが男と対応している隙に、俺はギュレットと目線を合わせるために屈んだ。
 ギュレットは泣かないよう、必死に唇を噛みしめていた。目には涙の膜が張っていて、今にもこぼれそうになるのを堪えている。

「泣いてないんだ?」
「なくな、って。男がないたらダメだから。なくげんきがあるなら、ちがうことにパワーつかえっていわれたから」

『お前な、ギャーギャー泣く元気あるなら違うことにそのパワーを使え』

 俺がかつてギュレットに言った言葉だ。覚えてたんだな。

「王都にきたのも、そのひとに、あうためなの。ありがとう、って、ちゃんと、いえてないから。ギダンも、ティムもおなじ。ぼく、そのひとに、ありがとうっていわれたのに、ぼくは、ありがとうって、いえなかったから」

 だから王都に来ちゃったのか。
 引っ込み思案っぽいギュレットが王都に侵入するなんて、と思ったけども。
 バカだなあ。助けられたのは俺の方だってのに。お前の炎魔法がなかったら、俺は魔物に殺されてたかもしれないのに。

 助けられておいて、何もしないわけにはいかないよな。

「偉い、偉い」

 俺はそう言ってギュレットの頭を撫でた。
 そして口を開く。

「でも、今はむしろ泣いたほうがいいと思うわ」
「ふぇえ?」
「いい? 無駄に泣くからダメなのよ。子供の涙はときに武器になるの。だから今は思いっきりーーーー」

 そこで俺は息を吸い、言葉を続けた。




「泣け」




 俺の言葉に、ギュレットの体が跳ねた。そして涙の膜の嵩が増え、目からこぼれ落ちる。あれだけ泣くのを我慢していたギュレットが大声をあげて泣き出した。
 突然の大号泣にシャンケや門番の男だけでなく、そばを通っていた人たちもギョッとする。

「ああ、泣かないで。ごめんね、怖かったのよね。安心していいのよ」

 俺は慌てずにギュレットの肩を押して、男のそばへと近づいた。

「何かこの子がしちゃったようですが、どうか許していただけませんか? まだ子供ですし、こんなにも反省しているんですから」
「しかし、この子たちは嘘をついて王都に侵入したのです。それは歴とした罪です」
「そうです。悪いことをしたってわかっているから泣いているんです。ですから子供ということで今回は見逃していただけないでしょうか?」

 女の子声を意識して言う。今の俺の可愛さを全面に押し出す。
 恥ずかしいなんて言ってられるか。使えるものは使うべきだ。

 しかしそれでも相手は渋る。当然だ。

 俺はギュレットから離れて、男に近づいた。

「あの、どうしてもダメですか?」

 そして男の手を取った。男の顔を見上げ、小首を傾げる。
 うん。自分でやっててあれだが、気持ち悪いな。

 俺を見て、男は口ごもった。有効な手ではあるらしい。


 でも、目的は色仕掛けそれではない。


「私たちを通しなさい」


 男にしか聞こえないよう、声をかける。
 使使。ギュレットにいったことをしただけだ。
 男の体が跳ねた。

「仕方ないですね。今回は特別ですよ」

 そして男がため息を吐いた。
 シャンケの方を向くと、唖然とした表情で俺を見ていた。だがすぐに真剣な表情になる。


 う、上手くいって良かったあああああ。
 背筋めっちゃ汗かいてんだけど。冷や汗だらだらなんだけど。
 うおおおお、心臓がめちゃくちゃ動いてる。
 心の中で「無意識に命令を聞け」って唱えてたけど、どうやら上手いこと能力のイメージに繋がってくれたようだ。


 男に促され門を抜けて街へと出て行った。
 俺、シャンケ、ギュレットは同時にため息をつく。

「あああ、良かった。上手くいったああああ」
「心臓縮むかと思ったっぺ・・・・・・」
「うええええ、よかったー。うちに、かえれるぅぅぅうう」

 ギュレットは未だ泣いていたので、門を出たところで気づかれないように泣き止ませる。これも「泣くな」と言えば、スッと涙が引っ込んでいく。

 あまり多用すべきではないかもしれない。
 催眠とか洗脳に近いぞ、この能力。
 ちゃんと能力のこと把握しないと、自分の首を絞めることになるかもしれない。

 俺が持ってるものなんて、これしかないんだし。

「じゃあ僕、二度とこんな無茶しちゃダメよ」

 俺がそう言えば、ギュレットは大きくうなずき俺の顔をジッと見つめる。

「お姉ちゃんって、ぼくのしっているひとに、にてるかもしれない」

 そしてギュレットの言葉に俺の体が硬直した。
 待て、待て待て。ここに来てバレるのか?

 俺の様子がおかしかったのか、ギュレットは慌てて両手を振る。

「お、男のひとだから。お姉ちゃんみたいに美人さんでもないし」

 悪かったな、美人でなくて。同一人物だよ。
 思わず口に出してしまいそうになるのを必死に堪えた。

 ギュレットは「でも」と拳を握る。

「かっこよかった。いつもはそうじゃないのに、よわいのに、ぼくたちにいわれっぱなしだけど。ときどきひっしに、がんばってるすがたが、すっごくかっこよかったんだ」

 ギュレットの真摯な瞳が俺を射抜く。

「ぼく魔力がつよいから、パパママにめいわくかけるし。ギダンんちにご飯もらってる。なさけなくて、こわくって、よわむしだけど、勇者ががんばってるのみてたら、がんばろうっておもったんだ」

「勇者みたく、なさけなくってもかっこよくなろうって、そうおもったんだ」

 ギュレットはそこまで言うと、ハッと顔を青ざめた。
 きっと勇者と口に出したことに気づいたのだろう。俺に背を向けて慌てて走り去ってしまう。

 でも、俺は声をかけることはしなかった。できなかった。


 動かない俺に気づいたシャンケが、不思議そうに近づいてくる。
 でもそれにすら反応できなかった。

「顔が、熱い」

 予想外だった。あんなに真っ直ぐな目で褒められるとは思わなかった。
 嘘なんてついていない純度100%の目で、あんな風に褒められたら、恥ずかしくて仕方ないじゃんか。

 シャンケがジーッと俺を見つめる。

「オメー。その顔で男に言い寄ったら、少なくともノンケルシィ王国とヘテロイヤル帝国の男は一発でオチるっぺな。ノーマリルとストレイティアは、華奢な女性が多いっぺから別として」
「どんな顔だよ」
「頬を染めて潤んだ瞳で上目遣い。さらに恥ずかしそうなその表情」

 うるっせーよ、バーカ、バーカ。
 こんな姿で男にモテても嬉しかねぇわ、バーカ。


+++


「これで、注文は全部か?」
「そうっぺな。だからさっさと帰るっぺ」

 街での買い物を終えた俺たちは両腕に大荷物を抱えて歩く。
 大荷物といっても、男2人だからそう重いわけではない。
 だがシャンケは下を向きながら、何かに耐えているようだった。

「おい、シャンケ。重いのか? なんなら俺がそっちの荷物も持とうか?」
「ありがたい言葉だけど遠慮するっぺ」

 かつての修行と筋トレ効果のせいか、疲れにくくはなっている。
 もう少し持っても問題ないのだが、シャンケからは断られた。
 そしてジト目で俺を見る。

 なんだよ。俺サボってねぇだろ。

「オメーのその格好のせいで、オラが女子に重い荷物を持たせてる最低な男に見られてるっぺよ」

 ・・・・・・言われてみれば、周りの視線が痛い。
 勇者で嫌われてたから嫌悪の視線に慣れて気づかなかった。

 嫌悪の視線はシャンケに向いている。


「おいおい。あんな華奢な子に、荷物持たせてるよ」
「最低な男だな。大荷物だからって、女の手を煩わせるなんて」
「あれは彼氏か? おーい、嬢ちゃん。悪いことは言わねぇから、そんな男とは別れちまえ」

 街の人々の声が聞こえてくる。
 ツッコミ所が多すぎるが、これだけは言わせてほしい。

「彼氏だとしても、シャンケはイヤだ」
「よりによって言うべきところ、そこっぺか!?」

 シャンケが俺に向かって叫ぶが、知らぬ振りをした。
 ふと街の人々が違う話題に入ったのに気づく。


「それにしても、平和になったよな」
「勇者がいなくなったからだろ」
「違いねぇな。何も怯えることがねぇ」
「そもそも、勇者なんざ最初からいらなかったんだよ」

 ハハハと笑う男の声が聞こえる。
 別に聞き慣れた内容だし今更だ。無視だ無視。

「そもそも、あの野郎。男のくせに男が好きなんだとよ」

 しかしその言葉に一瞬だけ体が固まった。

「意味わかんねぇな。女でもないのに男が好きとか」
「気持ち悪いったらねぇや」

 まぁ、そういう反応だよな。
 わかってたことだろ。そう言われるって。だから今まで隠してたんだし。
 バレたら、そう思われるのが普通なんだ。

 気持ち悪いなんて、普通じゃないって、俺が1番わかってるんだ。






「ねぇ、おじちゃんたち」

 突然、少女の声が聞こえた。

「おにいちゃんが助けてくれたのに、何でおにいちゃんの悪口言うの?」

 嫌みでもなく、ただ不思議そうに少女が首を傾げていた。
 少女の言葉に、街の人々だけでなく、俺も目を丸くしてそっちを向いた。

「勇者のおにいちゃんがいなかったら、みんな死んでたんだよ。ミンユのおにいちゃんも、おとうさんも、おかあさんも死んでたんだよ。なのに何で勇者のおにいちゃんのこと、悪く言うの?」

 少女の言葉に、罵倒していた人たちが口ごもった。
 少女は背後を振り返って、兄を呼ぶ。すると少女の兄と思われる青年が少女に笑いかけた。

「おにいちゃんも、不思議に思うよね?」
「そうだね。前の勇者は乱暴者だったけど、今の勇者はミンユたちのこと助けてくれたしな」
「そーだよね」

 兄の賛同に、少女が嬉しそうに体を跳ねさせる。
 そんな兄妹の様子に、罵倒していた人たちは困ったように頭をかいた。

「その子たちの言う通りじゃよ」

 すると別方向から、老婆が口を開く。

「仕事の手も止めて、よくもまあペチャクチャと言えるねぇ。あたしにとっちゃ今の勇者が悪事に手を染めることがなけりゃ、それで構わんよ。実害があったら別だけどね。男が好きだっちゅうんも、あたしには関係ないからね」
「ば、婆さんが関係なくても俺たちには関係が」
「いくら男が好きっていっても、あんたらみたいな口だけの不細工、あたしがもし男で男が好きだとしても遠慮したいね」

 老婆の発言に周囲にいた人たちの半数以上が首を縦に振った。

「ま、惚れられなきゃいい話だからな。男相手ってのは無理があるけどな」
「今までだって子供たちにからかわれてたんだし。悪いことする度胸なんてないんじゃないかしら」
「あの子が真っ先に動いたから、自分がどうすべきか理解できたしね」
「ただ、男なのに男が好きって意味がわかんねぇな」

 街の人たちが賑やかに話している。
 相変わらず、俺の悪口を言っている人もいる。でもその悪口もからかい半分のものが増えてきた。

 少女が元気いっぱいに口を開く。

「あのおにいちゃんに会ったらミンユね、『助けてくれてありがとう』って言うんだあ」




 もう、ダメだ。
 シャンケの背後に回って、その背中に額を叩きつける。ヅラがとれない程度の強さでだ。

「何してるっぺか」
「帰ろう。すぐに帰ろう。さっさと帰ろう。とにかく帰ろう」

 ぐああああああああ、無性に恥ずかしい。
 貶されるのに慣れてるから、今の状況が恥ずかしすぎる。

 もう、帰る!!




「ちょっと、聞いていいっぺか?」

 シャンケが突然問うた。
 無言で先を促せば、シャンケは周囲を見回した。

「オメー、何で最近まで勇者やってたっぺか? 誰も期待なんかしてなかったんに」

 そうか。俺としては恥ずかしいこの状況。むしろ悪口が当然だった。
 でもシャンケは王都にいたから知らなかったんだ。

「わからないっぺ。オラだったら、あんなこと言われ続けてたら精神がおかしくなるっぺよ。何で、オメーは平気っぺか。勇者とかよりも、男が好きだってことよりも、オラにとっては理解不能っぺ」

 そりゃ、言われても仕方ないって思ってたし。
 俺が召還された状況的にも、俺の本質的にも、好かれる要素なんてなかったんだから。

「オメーのその能力があれば、あんな連中も黙らせられっぺ。さっきの門番みたいに、自分の思いのままに扱うこともできそうっぺ。リーダーに着いて行かなくたって、なんとかなったと思わねぇっぺか? 実験中にオラやリーダーを操ろうとか思わなかったっぺか?」


 俺の能力はさっきも思ったが洗脳に近い。
 どこまで可能かはわからないが、人を操るという力がある。
 シャンケの言う通り、相手を思いのままにできてしまう。

 憧れはあるよね。
 催眠術や洗脳でノンケの男たちを犯すとかよくあるし。
 エロとして、ロマンはある。

 でも、さ。


「思わない」

 それだけははっきりと言える。

「今にも殺されるのならともかく。そうじゃないなら、俺は俺のやるべきことをやるだけだから。アトランさんのとこに行ったのは最初は逃げだったけど、この能力を自分自身が理解するためには必要だって今なら思える」

 俺は弱い。それだけははっきり言える。
 対して怪人ミナゴロシは最強だと言っていい。

 だけど、怪人ミナゴロシに着いていこうとは思わなかった。

「できること、やるべきこと、やれること、やりたいこと。そのどれも自分勝手に生きていこうって選択肢なんてない」

 自分勝手に人生送れられたら誰も苦労しねぇわ!!

「できること、やるべきこと、やれること、やりたいこと」

 シャンケは俺の言葉を繰り返して口にした。
 そして一度うなずくと、シャンケは黙ったまま歩くスピードを速める。

 どうしたのか。それは俺にもわからない。
 ただシャンケが何か真剣に考え込んでいるというのは理解できた。
 だから俺は何も言わずに後をついていく。





「ちょっと、待て! そこの男女2人組!」

 背後から声をかけられて、俺とシャンケは足を止めた。
 シャンケは振り返るが、俺は固まったまま動けなかった。

 聞いたことある声だったから。



「さっきギュレットっていう子から聞いた。ティムが王都に入ったってのは本当か?」



 うん、ヤバい。振り返れない。

 見なくてもわかる。
 この声、ステンだわ。
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