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クウガ 改める

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 みなさん、お久し振りです。クウガです。
 全然久し振りでないのに、久し振りな感じがします。クウガです。

 昨日は本当に変な日だった。
 早朝はサヴェルナの問題発言から始まり、ギダンの意味不明な言葉に続き、午後の剣の演習中止からの、ステンが体調不良により村に行くことが中止になった。よってその日の夜はサッヴァから魔法を教わった。どうでもいい話かもしれないが、仕事が長引いたらしくサッヴァが帰ってくるのは遅かった。

 ステンのアナニーから逃げようと意気込んでいたから拍子抜けである。問題も先延ばしになってしまった。出来れば決意した日にステンに会って言いたかったんだけどな。そうじゃないと、またズルズルと流されそうだし。冗談抜きに犯したくなるんだよな。


~~~妄想中~~~


「クウガ、もう・・・・・・むりぃっ」
「どうしたんですか、ステンさん。ステンさんのちっちゃいおチンコを治しているだけでしょ?」
「そうじゃ、なく・・・・・・て」

 ステンがおそるおそる俺の息子に触れてくる。

「指じゃ足り、ないっ。あっ、これ、オレの、尻のなか、ほし・・・・・・ぃいいっ!!」

 ステンが言い切るよりも先に、俺のモノを中へと挿入した。
 グチュグチュ音がなると共に、ステンの喘ぎ声が聞こえる。

「あっ、あっ、これ、これぇえっ。クウガ、いいっ、いいっ」

 グジュグジュグジュグジュ

「あああああっ、も、もうダメ」

 ステンが甲高い声をあげ、俺はほくそ笑む。

「ダメ? それならやめますよ。抜きますね」
「ち、違っ。ダメじゃなくて、あっ、もっと、もっと。イキたいの、あああっ」
「へぇ、そこまで言うなら遠慮なくっ」

 ズドンと音が鳴りそうなほど強く、俺はステンの奥を突き刺した。


「あああ、あっ、あんっ、あっ、イク、イッちゃううううううううううう」


~~~妄想終了~~~

 ・・・・・・・・・・・・おい、誰だ。「童貞の妄想乙」って笑ったやつ。何か聞こえたぞ。幻聴じゃなかったぞ。悪かったな、童貞の妄想癖で。

 とにかく、妄想とは関係なくステンがエロいので、なんとかしたい今日この頃。
 体調不良としか聞かなかったから、心配ではあるがそこまで重い症状ではないと思いたい。だから回復次第また訓練することになるだろうし、ちゃんと朝の件は断れるように自分を諫めよう。




 一昨日ぐっすり休めたことと、昨日の剣の演習が午前のみだったことで、休憩時間を多くとりすぎた気もするが、その分昨日の魔法の訓練は普段以上に真剣に取り組めた。
 休憩のときもこの世界の地図とかで、魔物の住む土地の位置とか調べたしな。

 この世界はひとつの大陸で出来ている。
 大陸の中央に俺が今いるノンケ王国もといノンケルシィ王国がある。この国は王都以外にも町や村が広く、人間の国としての土地が1番広い。人間の国の中で魔物の住む土地と1番近く、だからなのか魔法が他の国よりも発展している。だがその分、魔物の被害も多い。
 次に広いのは王国の南にあるヘテロイアル帝国。海にも接している大きな国で、ノンケ王国とは過去に何度も戦争を起こした。今は魔物の脅威があるため、おとなしくしている。というよりノンケ王国が魔物によって滅亡したら、次に襲われるのはヘテロ帝国なので手を出さない。
 そしてノーマリル、ストレイティアの2つの国があるが、ノンケ王国とヘテロ帝国が壁となり魔物の土地から1番離れている。大国がある内は魔物に襲われることはない。だがその分魔法の力が弱い。
 大陸の北部分にはエルフの国とドワーフの国があるとされるが、人間がそっちの土地に踏み込むことは出来ないので詳細は不明である。

 つまりノンケ王国が1番魔物の住む土地に近い。特にステンたちの住む村がその土地に最も近いと思われる。ステンたちが狩りをするあの森だって元々は魔の森の一部と言われている。
 ゲームの世界だと1年以上かけて進む勇者の旅だが、この国だと馬を走らせて数ヶ月で魔物の土地の中枢へと入れてしまう。手軽に進めるかのようだが、途中の休憩ポイントがないのが辛い。出発するときは保存が利く食料を持って行かないと。ってか、馬とか貸してもらえるのか。そもそも俺、馬乗れないんだけど。





「お前、何考えてんだ?」

 ロッドから問われる。ただいま剣の演習で負った怪我の回復であり、俺とロッドは地面に座り込んでいる。怪我はいつものような重傷ではなく、右腕の骨を折られた程度だ。それでも大けがっちゃ大けがだろうけど。

「魔王の戦いに行くとき、徒歩で行けと言われないか不安になってきた」
「さすがにそれはないだろ。そんなんされたら魔王に行くまでに餓死するって」

 ですよねー。ロッドの答えにとりあえずホッとする。すると違う場所から頭に手を置かれた。見ればダグマルが俺を見下ろしている。

「ロッドの言う通りだ。クウガが気にすることじゃねぇよ。そういうのは大人に任せとけ」
「でも『はい、1年経ちました。出発してください』とか急に言われません?」
「絶対にない、とは言い切れないが。もしもなら俺が準備しといてやるよ」

 それはありがたや。やっぱりこういう頼りがいのある大人はいいね。
 こういうみんなの兄貴的な人とか、面倒見のいい頼りがいのある大人とか最高だよ。筋肉も含めてね。ああ、いつか触ってみたい。そのガッシリとした肉体を。揉んでみたい、筋肉を。

「それにな」

 ダグマルは不適に微笑みながらその場に腰を下ろすと、頭に置いていた手を俺の顎へと移動した。グイッと掴まれた顔がダグマルの顔に近づく。

「いつだって俺を頼ってもいいんだぜ」

 そう発した言葉の息が顔に触れる。
 俺は反応できずに固まった。近い。近い。近い。男の色気がビンビコビンだよ。え、何が起こってる。何が起こってるし。これ俺の妄想か。俺の妄想なのか。いつから~~~妄想中~~~が始まった。
 ダグマルの手が俺の顎を撫でる。ぞわっと来た。




「しっかりしろ勇者あー!!」

 幼げな声と共に、俺の頬にギダンのドロップキックが炸裂する。
 潰れた俺にギダンが慌てて俺の胸ぐらを掴む。

「だいじょうぶだったか、勇者あー!」
「お前のせいで大丈夫じゃねぇよ」

 修行の成果か打たれ強くなったため、起きあがるとギダンの頬を掴んで引っ張る。まだ右手が治りきっていないので左手でだ。子供に暴力はどうかとも思ったが、そもそも向こうからプロレス技を仕掛けてきたのだ。これぐらいは許されるだろう。
 痛みにギダンが必死に俺の手を叩いたので解放してやる。ギダンは痛む頬を涙目になってさすっている。

「うええええ、いってぇー」
「俺の方が痛いわ。全力でプロレス技仕掛けやがって」
「ぷろれす?」

 ギダンが首を傾げるが、わざわざ説明してやる気にはなれなかった。
 他の子供らもわちゃわちゃ集まり出す。毎度思うが、ここは子供の遊び場ではないはずだ。

「勇者、ギダンいじめんなよなー」
「先にいじめられたのは俺だろうが」

 理不尽だ。理不尽の極みだ。
 ちなみにダグマルもロッドも、ギダンがドロップキックを放つ寸前で俺から離れていた。くそう、俺だって呆然としていなければギダンの攻撃なんぞ避けられたのに。ダグマルがあんな至近距離まで顔を近づけるから、思考回路がシャットダウンしたわ。
 頬の痛みが治まったギダンは腰を手に当ててプンスカしていた。

「それにしても勇者。隊長さんにはきをつけろって、言ったじゃんかー」
「は?」
「おそわれたら、たいへんだって」
「はぁ・・・・・・」

 そんな気のない返事になってしまう。
 俺としてはダグマルが襲ってくれるんなら、是非にと土下座したい勢いなんだが。
 そもそも顔近づけただけで、襲われるとかやっぱり子供だよな。ゲイの俺が顔近づけたら問題だろうけど、ノンケが顔近づけるとか無自覚のノンケって怖いぐらいしか思わないわ。
 それにしても男からあんな風に近づくことなんて経験なかったから、もっと堪能しておけば良かった。頭フリーズしたからあんまり記憶に残ってないわ。

「勇者のドンカン!!」

 そしたらそんな答えが返ってきた。解せぬ。
 すると子供たちを退けて、ロッドが近づく。まだ右腕が治りきっていないからだ。回復魔法を再開しながら、俺を心配するような目つきで見つめる。

「お前、子供の言うことだと思ってるがマジで気をつけろよ。隊長、お前のこと可愛い可愛いずっと言ってるんだから」

 ロッドの言葉に、俺はきょとんとする。
 そしてダグマルを見た。ダグマルは俺を見てほくそ笑んでいる。

 ・・・・・・・・・・・・ああ、これ楽しんでるな。
 俺の反応が見たいとか、無表情を崩したいとかそんなやつだ。俺とのことは遊びだったのね。

「可愛いですか、俺?」
「あぁ。可愛いと思ってるぞ」

 俺、ゲイだけど女に見られたいわけではないんだがな。男が好きだけど、自分が女になりたいタイプのゲイじゃないし。むしろ、いい男をアンアン言わせたい系男子なんだが。

「えっと、ありがとうございます?」
「違うだろ、その返事はよ! 嫌がれよ!」
「ダグマルさんから見たら俺なんて、細いし小さいからそう思われてもしょうがないかなって」
「マジで危機管理能力持てよ! ダグマル隊長無節操になってきてるんだから!!」

 ロッドがツッコミを入れた。
 無節操って言ったって相手はノンケだからな。期待したら痛い目見るってわかってるし。この前まで同性愛という存在すら知らなかった人なんだぞ。誰も彼もで俺に行くか? はっはっはっはっは、むしろ来てくれるなら大歓迎じゃい。

「はいはい。お気遣いありがとうございますー」
「お前のことだからな!?」

 俺の気のない言葉にロッドが怒鳴る。右腕も完治したと同時に叩かれた。痛いわ。
 そんなに怒らなくたって、どう見てもモテるノンケがをそういう目で見るわけないだろ。良くって子供扱い。むしろペット扱い。


 ・・・・・・ペット扱い?



~~~妄想中~~~

 グチュ、グヂュ

「は、ぁ。クウガ、いい子だ」

 快楽に染まるダグマルが俺の頭を撫でる。
 俺はと言うと、ダグマルのチンコを舐めていた。

 ジュッ、レロォ、ふぅ

「ストップ。ストップだクウガ」

 ダグマルの制止の声に口を離す。すると俺の股間にダグマルの足が伸びてくる。その足先で俺のモノに触れる。

「うっ、く」
「よく我慢できたなクウガ。じゃあご褒美あげないとな」

 ダグマルはそう言って片膝裏に手を持って行き、グイッと持ち上げる。
 するとクパァと尻穴が俺の視界に映る。俺は唾を飲み込んだ。
 そんな俺の様子にダグマルは不敵に笑う。

「ほら、よく味わえよ」


~~~妄想終了~~~


 アリだね!! 何か変な扉開きそう!!
 あくまで俺が攻めるんだけど、こうジラされる感じね。

 ま、所詮妄想だけどな!


「わかったよ。気をつけるって」
「おいおい、本人の前で不審者扱いすんじゃねぇよ」

 ダグマルはそう言って、俺の顔を見る。先ほどとは違い一般的な距離感だ。

「に、してもやっぱり表情変わらないもんだな」
「やっぱりからかってたんですね。別に気にしませんけど」
「おいおい、俺は本気で」




「ダグマル隊長!!」

 ダグマルの言葉に被さって、別の騎士が大声で叫んでやってくる。
 それにダグマルとロッドが真剣な顔でその方を向く。俺もそばにある剣をとり体勢を整える。

「何があった」
「いや、それがですね。隊長に客人が来て」
「客人? それはわかったが、何でそんな焦った顔してるんだ?」
「客人の中に賢者がいるんですよ。そして他にも男と女。そして子供が1人」

 サッヴァが? 何かあったのか?
 そして男と女と子供って言ってたけど、もしかして。


「クウガ兄ちゃーーーん。ギダーン」

 遠くから俺を呼ぶ声が聞こえた。駆け寄ってくるのは見覚えのある子供。

「ティム!」

 ギダンがその友人の名前を呼んだ。ティムが街に来ることはたまにあるが、そばに保護者の姿が見えない。
 ティムが俺に駆け寄ると抱きついた。

「ティム、どうした。何でここに」
「うけつけの騎士さんに、ごしんようのナイフはわたしたよ。クウガ兄ちゃんのそばにいるだけならいいって」
「そうじゃなくて。何があった?」
「母ちゃんが、ぼくはクウガ兄ちゃんのそばにいろって。隊長さんと賢者さんに話があるんだって。ステン兄ちゃんもいるよ」

 ティムの言葉にダグマルは訝しげに顔を歪める。
 そしてロッドに俺と子供たちのことを頼むと、やってきた騎士と共に去っていった。


「何があったんだ? お前何か知ってるか?」
「さぁ? でもダグマルさんにサッヴァさん。それに男女っておそらくステンさんとスイムさんのことだと思うから、俺が関係してる話だろうけど」

 ロッドから聞かれるも、ピンと来るものがない。
 それよりステンは体調不良と聞いていたが、こっちに来て大丈夫なんだろうか。もしかしてマズい病気とかで、俺に指導をつけられなくなったとか。

「ティム。ステンさんはどうした?」
「じつはステン兄ちゃん。きのう、狩りにでてないみたいなんだよ。げんきないし。ずっとうつむいてて。母ちゃんもあせってて。兄ちゃんになにかあったら、どうしよう」

 ウルウルとするティムの頬に手を当てる。

「だから泣くな、っての」

 俺がそう言ってやれば、ティムは唇を噛んで涙を引っ込めた。この世界の子供って生意気なやつ多いけど、強く言えばちゃんと言うこと聞くのな。「帰れ」って言葉には従ったことないけど。

「待ってろって言われたのなら、ここで待つしかないだろ。大丈夫だって。ステンさんは強いってティムの方が知ってるだろ」

 ティムは俺の言葉にうなずいて俺から離れた。くそう、服に鼻水つけやがって。




「お前って子供に好かれるのな」

 急にロッドが話しかけてきた。俺はそれに首を横に振った。

「違うだろ。俺をからかってるだけだって」
「前の勇者は怖がられてたからな」

 ロッドの言葉に、子供の何人かがビクッと肩を揺らした。やはり前の勇者に対して恐怖心が拭えきれないのだろう。

「お前、魔王倒したらどうするんだ?」
「え、そんな簡単に魔王倒せないでしょ」
「もしもの話だよ。魔王倒した後、お前はどうするんだ?」
「人目に付かない場所で、誰とも会わずにひっそりと暮らすけど」

 出来れば奴隷買ってハーレムしたいけどな。
 そんなことを考える俺と違って、周囲は驚いた顔をしていた。

「えー、勇者とあえなくなんの!?」

 まずギダンが不満げに口にする。

「クウガ兄ちゃん、いなくなるの? やだよ、そんなの」
「いやいやいや、いなくても問題ないだろ」
「やだよー」

 ティムも悲しそうにそう言った。他の子らも次々に似たようなことを言い出す。
 ・・・・・・ロッドの言う通り、好かれてるのかもしれない。

「せっかく勇者が魔王たおしたら、子分にしてやろうとおもったのによー」
「な。しんいりだから、1ばんシタッパだぜ」
「勇者につきまとってんの、めちゃくちゃたのしいしさー」

 ギダンを始めとする子供らの言葉に、さっき思ったことを撤回した。
 このガキ共、俺のこと都合のいい遊び道具だと思ってやがる。

 ロッドは渋い顔で俺を見ていた。

「やりたいこととかねぇのか? それに元の世界に帰りたいとか」
「元の世界に帰るのは諦めてる。都合良く俺がいなくなった時期に帰れるのならともかく、全然関係ない時間軸に飛ばされる方が辛い。戻ったら俺の生きていた100年後の世界だったとかだったら、それこそ生きていくことの方が大変だし。かと言ってこの世界でやりたいこととかないしさ」

 やるべきことをやる。しかし言い換えれば、それ以外のことに情熱がない。
 あえて言うなら童貞は卒業したいけどな。ハーレムは夢だけど。

「そもそも俺ってこの世界の人に嫌われてるし。俺がいなくてもいいんだから放っておいて欲しいかな。向こうが関わりたくないなら、こっちも関わりたくないし。そもそも魔王倒すために呼ばれたから、それが終わったら俺はお払い箱のどうでもいい存在だろ。やるべきことがあれば頑張れるけど、それが済んだことを考えてもなあ」

 周りには子供たちと、俺とほぼ同年代のロッドしかいないからか、思わずそんな言葉が口からこぼれる。大人がいたら、こんなやさぐれたこと言えないもんな。
 昔から、やりたいこととかなかったからな。早めにゲイって気づいてしまったから、それを悟らせないように必死だったってのもあるし。
 そんなこと思っていたら、ロッドが俺から子供たちを離していく。



「歯ァ、食いしばれ」



 ロッドの言葉と同時に、その拳が俺の頬を掠める。俺は当たる直前に体を引き、拳を避けた。今までの演習の賜物だ。
 文句を言おうとする前に、ロッドに胸ぐらを掴まれた。

「お前、ふざけんなよ」
「はあ? それはこっちの台詞」
「蔑ろにしてんなよ。どうでもいいとか言うなよ。いなくてもいいとか、そんなこと口にすんなよ!」

 胸ぐらを掴まれる手に力が込められる。ロッドのほうが身長が高いから無理矢理引っ張られる。

「自分のこと、そんな風に言うんじゃねぇよ。努力して頑張ってるやつが、そういうこと言うんじゃねぇよ。お前を見て支えてやろうって思った人に、お前を見て守ってやろうって思った人に、お前を見て頑張ろうって、負けてたまるかって思ったやつに、失礼だと思わねぇのかよ。騎士になった俺が『命を大事に』なんて言わねぇよ。でもな、お前のこと心配するやつだっているんじゃねぇのかよ。自分を必要以上に軽んじるのは、そういう人を見下してんのと同じだろうが」

 ロッドの言葉に目を見開いた。
 言葉が出なかった。考えたこともなかった。だって俺は俺で、他人は他人だろ。
 でもそれを口には出来なかった。

「いいかげんにしろーいっ!!」

 その場を収束させたのは、幼い声だった。
 ギダンがロッドのすねを、勢いよく蹴り飛ばした。
 痛みにロッドが脚を押さえてうずくまる。

「こんなとこ、だれかにみられたら、どっちもいいことないだろ。ったく、ガキじゃねーんだからさ」

 ガキのお前に言われたくないわ。
 俺はロッドに手を差し伸べた。

「忠告ありがと。拳避けて悪かったな」

 ロッドはふんとそっぽ向くと、1人で立ち上がった。行き場のなくなった手をおとなしく下げる。

「もし魔王倒して、お前が勇者じゃなくなったら」

 ロッドがそっぽ向いたまま話し出す。

「俺の知ってるパン屋紹介する。俺の親友とその母親がやってて、親父さんは死んじまったけど、凄ぇ美味いパンなんだ。もしお前が勇者じゃなくなったら、親友と一緒に紹介するよ」

 そして続く言葉に俺はポカンとする。これは、つまり。

「もしかして遠回しに友達になろうって言われてる? 親友も紹介するってことだし」

 そう尋ねたら、ロッドの蹴りが俺の尻へと当たった。痛いけど、痛くないわ。

「お前が魔王倒して勇者じゃなくなったらの話だよ! 俺は、勇者なんて大嫌いだ!」

 悔しそうに歯ぎしりするロッド。
 性的欲求のまったく湧かない男だが、こういうのも悪くない。自分で言っといてあれだが、友達って言葉がなんかくすぐったい。
 魔王倒した後の、楽しみがひとつ増えた。


 ギダンが俺の顔を見て「あっ」と驚いていた。



「勇者、わらってる」



+++


 あの後、ダグマルが帰って来ないためロッドと訓練やトレーニングをしていた。あれはあれで、勉強になったと思う。
 帰ってきたダグマルは疲れ切った顔をしており、俺を見るなり頭をグシャグシャに撫でられた。やっぱりペット的な可愛いだと思うんだ。

 そしてステンの村には数日後に向かうこととなった。体調が戻らないらしいので、1週間は様子を見るらしい。ステンに会うことはできなかったが、スイムさんとは顔を合わせることができた。また村に来てちょうだいね、と言われたが、そもそもこちらがお願いしている立場なんだけどな。



 そしてサッヴァの家に戻ると、客間が開いていることに気づく。中を覗くと疲れ切ったサッヴァがソファに身を預けていた。

「帰ってきたか、クウガ」
「はい、ただ今戻りました」

 そして俺が入ってもサッヴァは何も言わない。ちょっと調子に乗ってサッヴァの隣に座った。隣から香ってくる男の臭い。たまんねぇわ。
 すると突然、サッヴァが俺の方にもたれ掛かった。

 え、あ、あの、え、おっ、俺の体にサッヴァの体がくっついているんだけど。え、これどうしたの。サッヴァ、どれだけ疲れてんの。俺のいない間に何があった。

「今日の仕事が、全部明日に回った。明日は何時に帰れるかわからん」
「・・・・・・お疲れさまです」
「本当だ。余計な手間を取らせおって」

 サッヴァの怒りのオーラが伝わってくる。仕事、抜けざるを得なくなったんだな。そうだよな。普段この時間仕事だもんな。時間潰されたんだろうな。社会人、お疲れさまです。

 それにしても服越しに感じるサッヴァの体にドキドキする。どうすればいいのかわからず、適当に手を動かしていたら、サッヴァ側にある手がサッヴァの手に触れて固まった。
 ヤバい、思わず動きを止めてしまった。そのまま動けばくっついても変じゃなかったのに、触れて止まって、それから動いたら変に思われる。

「クウガ」
「はいっ?」

 急に声をかけられ変な声が出る。だがサッヴァは気にしなかった。

「お前は不思議なやつだな。良くも悪くも周りが変わる」
「す、すいません」
「謝ることではない。ーーーーお前が来て、良かったと思っている」

 サッヴァが俺の手を握ったので、心臓が強く跳ねた。寄りかかっているサッヴァに、心臓の鼓動が聞かれないか心配だった。

「正直始めは前の勇者のこともあり、お前には怒りしか湧かなかった。邪なことを仕出かすのなら、精神を壊して体だけを残すつもりでいた」

 サッヴァの告白に冷や汗が流れた。すいません。邪なことばっか考えてました。そして、あっぶねえええ。ステンとの行為も最後までやらないで良かったあああ。

「だが、お前の目を見て信じてみようと思った。そして弱音を吐かないお前に、信じて良かったと思わされた。誰かのために怪我するお前を見て、辛くなった」
「サ、サッヴァさん。それ前の勇者が悪すぎて、俺が良く見えてるだけだと思います。俺、普通の人間で」
「ああ、普通の人間だ。だから周りが変わった」

 サッヴァの手が、俺の手を握る。俺の体が固くなる。
 マズい。ダメだ。マズい。ダメだ。
 そもそも普通の人間は、男を好きにならないし。男の体に欲情しないのに。

「クウガ、お前は普通の人間だ。努力を怠らない、ただの人間だ」

 ーーーー泣きそうになった。もうわけがわからない。嬉しいのか、恥ずかしいのか、照れてるのか、泣きたいのか。頭の中、ごちゃごちゃしてきた。



「サッヴァさん」

 肺が苦しかったけど、なんとか言葉に出来た。

「俺は、いてもいい存在ですか」

 その問いにサッヴァは俺の手を強く握った。



「当然だ」




 今まで以上に、やるべきことをやろうと思った。
 そして初めて、絶対に死んでやるかと誓った。
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