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侵入者編
クウガ 普通とは何ぞや
しおりを挟む蔓に体を締め付けられ、俺は苦しさに呻いた。
そんな俺をエルフは忌々しげに睨み上げる。
「お黙りナサイ。あまり騒がしいと怒りで首をへし折ってしまいそうデス」
その瞳はいっさいの罪悪感などない。本気であると理解できる。
だがそんな俺の背後から風を感じたかと思いきや、俺の足下をザクリと何かが削るような音が耳に届く。植物の根本が抉るように切られていた。蔓が緩みながら倒れ込む俺の体を、剣を抜いていたロッドが肩に抱え、剣をエルフに向けて振り払う。エルフはすぐさま地面からの大量のツタでそれを受け止める。さらにその蔓がロッドの剣を絡みつこうと蠢いたかと思えば、ロッドは剣から炎を出してその蔓を燃やし尽くす。エルフはその間に距離をとった。
ロッドが俺を下ろし、俺は未だ残っている蔓を剥ぎ捨てる。根本を切られ緩くなっていたため難なく外すことはできた。
エルフは地面に両手を地面につけると、地面の至るところから蔓が生える。だがそれが完全に伸びきる前にすべてが炎によって包まれる。気づくとサヴェルナが右手の平を前に突き出していた。さらに2本のツタが急成長して生え、サヴェルナを襲う。だがそれもサヴェルナが右手を払った瞬間に灰となり散った。
エルフは舌打ちをするが、ロッドがエルフに向かっているのに気づく。すると今度はエルフ自身の足下にツタを生やして空へと上っていく。ロッドは蔓に気づき飛ぶようにして後退した。そしてエルフは家の屋根の上まで移動すると逃げていく。ロッドがそれを見て「くそっ」と悪態をついた。
先ほどロッドと共にしていた騎士がロッドのそばに寄る。そしてそれぞれ違う方向から先ほどのエルフが向かいそうな場所を追うことになったようだ。
「おい、サヴェルナ! お前も手伝え! 相手は植物を使うんだから、お前なら炎や風魔法でなんとかなるだろうが!」
「はああああ? 何よ、その言い方。人に物を頼むのなら相応の態度に示しなさいよ!」
「今はそういう状況じゃねぇだろうが! おいクウガ、悪いがお前も動いてくれ。人手が足りないんだ」
「何でクウガさん相手には、私よりも物を頼む態度を示してるのよ!」
サヴェルナは納得いかないようで「腹立つ」とプンスカしていたが、状況もただ事ではないということですぐさま行動に移った。サヴェルナが風魔法を使い屋根に上るも、既にエルフの姿はなくなっているとのこと。俺はサヴェルナから身体強化の魔法をかけてもらい追いかけるロッドと並行して走る。サヴェルナ自身も身体強化をかけているのだろう。屋根の上を駆けながら周囲を見渡していた。
俺は走りながらロッドに状況を尋ねる。始めは語るのに渋っていたロッドだったが、いずれ俺も知るだろうということと、俺が噂を広めるほど交友関係が大して広くないということで話してくれた。確かにこの世界における俺の交友関係を考えると何か問題があった際に俺が何か言わなくても情報を知り得るメンツだもんな、ロッドの言い方はあれだが。
何でも国王の前に魔王が現れて「魔の森で魔物が暴走している。このまま被害が広がる前に王国に魔物を送るから準備してろ」と急に説明し、その宣言通り王国に魔物が送り込まれることになったという。幸い前もって連絡があったため騎士と魔導師側の準備が整い、対応することができたという(その際、魔導師は良い実験材料が手に入ったと喜んでいたらしい)。
だがここでアクシデントが起きた。街の騎士団に送られた魔物に混じってエルフが送られたのだ。人外な美しさに騎士が驚いている隙にエルフが外へと逃げ出したのだ。
「何色仕掛けに落ちてるんだよ、がんばれよ騎士」
「お前だって初見で驚いてたじゃねぇか! お前、男が好きなのに何見惚れてんだよ!」
「見惚れてねぇよ。あ、こういう美って実在するのかっていう驚きだよ。男が好きでも美的感覚が必ずしも狂ってるわけじゃないからな」
綺麗なものは綺麗だと思うぞ。可愛いってのもわかるぞ。だがそれが性的欲求になるかと言われれば別だ。俺は年上のおっさんがいい。
「街で何をするかわからないから、騎士の中でも魔法が多少使えるやつが外に出されてんだよ。それ以外は騎士団で魔物相手にやり合ってる」
「んん? つまりダイチは今魔物と戦ってるのか? 大丈夫かよ。あいつ魔法効かないから死にかけても治せないだろ」
「むしろあのクソガキ、『体鈍ってたからちょうどいいぜ!』って嬉々として魔物に殴りかかってたよ。基本魔物に素手は効果ないはずなんだが、凶暴化した魔物が逃げ出すほどに複数体を殴り続けてたよ。腹立つ話だが、戦闘力に関してだけなら何も心配もねぇわ」
わお、なんつー肉体弾丸。というか魔物って素手で倒せないのか。素手でやり合う気なんて一切なかったからするつもりもなかったが。
それよりダイチのことで心配してたけど大丈夫そうだな。むしろ初めて俺と会ったときの方が憎悪がひどかったし。まぁ、ロッドに限らず嫌われてたしな初期の俺。
「それにしてもよかったよ。ダイチのやつがお前に変なことしてなくて。ぶっちゃけとっくに掘られてるとか思ってたけど。上手くやれてるんならいいか」
ホッとしながら走っていると、それまで話していたロッドが黙り込む。心なしか顔色が悪い。おい、待て。待てよ。
「え、掘られた!?」
「ちょっ、待て! 何だ、掘られるって!? 俺でも意味わかるように言え!!」
「え・・・・・・ケツにチンコ入れられた?」
「街中で何言ってんだあああああああああ!」
「お前が言えって言ったんだろうがあああああああああ!」
お互いに叫んだ。そういや男同士のやり方ってロッド知らなかったか。ロッドに対して性的に感じたことなかったから、そういう話したことなかったしな。ダグマルのことで話したことはあったが、そういう深い話はしなかったな。
ロッドはさっきよりも顔色を悪くした。掘られるってことがわかってなかったから、おそらくそういうことはしてないんだろうけど。
「え、マジでどうした」
思わずそう尋ねると、ロッドは言いづらそうに小さくつぶやいた。
「・・・・・・クソガキに500発殴られる間に、1発でも殴れたら何でも言うことをひとつ聞く。逆に500発殴られたらクソガキの言うことをひとつ聞くことになってる」
それに俺はしばらく無言になり
「バッカじゃねぇの?」
そう言ってしまった。
「うるっせぇええええええ!! そういうことされるとか気持ち悪ぃこと考えるわけねぇだろうが!!」
「そうじゃなくともキスはされてんだから、多少は危機感持てよ。何賭けとかしてんだよ。ったくこれだからノンケはよ!」
「はあ!? おい、言うにことかいてこの王国の名前を貶してんじゃねぇぞ!」
「違う。そういう意味じゃない。ノンケルシィ王国のこと言ってんじゃない。ああああああ、異世界のめんどくささ久々に感じたわ!」
web小説あるあるとはまったく違うタイプのめんどくささな。
「ってかちなみに今何発目だよ」
「・・・・・・450」
「もう秒読みじゃんか」
「いや、1発殴れれば何も問題ない」
いや、それもうフラグ立っちゃってるから。
そう言いたかったが、ロッドがかわいそうになってやめた。
「クウガさん、ロッド。真面目にやってるんですか!? 今は無駄話してるときじゃないですよね!」
上からサヴェルナの叱責が飛んでくる。正論です。
ロッドもそれがわかっているのだろう。諦めたように息を吐いた。
「いいんだよ。これは俺とあのクソガキの問題だ。それにお前に」
「俺に?」
「ーーいや、何でもねぇよ」
ロッドはそれっきり黙り込んでしまった。
気になりはするが、今はそういう状況じゃない。後でゆっくり聞くか。あとダイチにもそれとなく話してみようかな。
俺はそう心中で完結させてエルフ探しに集中した。
しばらくすると別の騎士から声がかかり、巨大な蔓が人を襲っているという知らせが入った。だが手がつけられないから救援を頼むということでそっちへと向かう。人々が逃げ去っている路地裏を曲がったところで、巨大な蔓の束が道の真ん中にそびえ立っているのが目に飛び込んでくる。束になった蔓はまるで大木のようだ。そしてその巨大な蔓から伸ばされた数本の蔓に街の人々が絡みつけられていた。
すぐさまロッドが飛び出す。尋常じゃないスピードだったからおそらく身体強化をかけてるんだろう。絡みついている蔓を剣で切っていく。切られて緩くなり蔓に捕らわれていた人たちは慌てて脱出した。飛んでくる蔓は剣や魔法を使って凌いでいる。
俺は下手に近づくとさっきの二の舞だ。せめてエルフの姿があれば話は違うが、その姿も見つからない。だが蔓の動きを見ている限り、自動運転ではなく操っているのはわかるからそんなに離れていないはず。
屋根の上にはサヴェルナが周囲を見渡している。つまり屋根の上にはいないということ。あれだけ目立つ容姿をしていれば誰かに紛れるということもできないはずだ。つまりどこかに隠れている可能性が高い。じゃあどこに?
サヴェルナが空から炎を落としていき蔓を燃やしていくが、燃え広がる前に蔓は再生していく。風魔法でも切っているようだが、植物の再生能力が速すぎる。中央の束になっている蔓はどんどん成長していき、細い蔓も数を増やしながら太くなっていく。
その1本の蔓が、俺の方に意識を向けたのを本能が察知する。予想通り俺の方に蔓が向かっていく。
だがそれは俺に触れることはなかった。
スパン、と鋭利な刃で蔓が切られる音がした。そして俺の瞳にある人の姿が映った。
「ステンさん」
魔力封じのナイフを手にするステンがそこにいた。
「何でオレが街に行くと問題ばかりが起こるんだ。クウガ、怪我はないな?」
俺はステンの問いに肯定する。そしてあることに気づいた。
襲ってきた蔓がナイフで切られた先から燃えた灰のように黒ずんで朽ちていった。
「なるほどな。よくわからない草だと思ったが、それでもただの魔法か」
ステンはそう言って駆けだした。襲う蔓に対して魔力封じのナイフを振れば、蔓の再生ができなくなる。そしてそれはどんなに太い蔓であろうと、少し傷をつけてしまえばすぐ朽ちる。蔓もステンの存在がヤバいと思ったのだろう。だがステンにかかりきりになれば他の騎士が蔓に切りかかる。上からはサヴェルナの援護射撃もある。急に蔓の劣勢になった。
それまで中央の束から蔓を伸ばしていたが、突如ステンの足下から蔦が伸びた。だがステンはそれを華麗に避けると、一回転してナイフを投げつける。だがその方向は蔓の束ではなく、家の屋根の方向(サヴェルナのいる屋根の向かい)へと飛んでいく。
まさかあのステンが外したのか。方向違いのナイフに蔓も注意することなく放ったまま。
「了解だよ。ステン兄ちゃん」
だが屋根から飛び出した小さな影が、そのナイフの柄を掴む。
小さな影ーーティムは一回転して落下しながら細い蔦を切り落とす。そして着地したのは蔦の束のすぐそば。今まで一切気配を感じなかったティムに対して動くことはできず、ティムはその束を勢いよく傷をつけた。ティムに気づいた蔓がティムを襲うも、ティムはナイフ片手にするすると逃げていく。
そして切られた蔦の束は朽ちていき、そして崩れた中からエルフの姿が見えた。
隠れているのは考えていたが、まさか蔦の束の中にいるとは思わなかった。
エルフが俺をにらみつける。この中で俺が戦力外だということを見抜いているのだろう。だがそれは、俺にとって好都合だった。
「眠れ!!!」
エルフと視線を合わせて叫ぶ。エルフは一瞬だけ目を丸くしたが、すぐに目を閉じそのまま前に倒れ込んだ。それを騎士たちが取り押さえる。なんとか一件落着したようだ。
・・・・・・・・・・・・俺、めちゃくちゃいいとこ取りしちゃったけどね!! ごめんよ!
+++
エルフを捕らえて解散・・・・・・というわけにはならず、報告するということで俺たちも騎士団へと向かうことになった。
「えへへぇ~。クウガ兄ちゃん、みたよね? ぼくすごかったよね?」
ティムが俺の服を引っ張ってフフンと笑っていた。
確かにナイフの動きもそうだが、ティムが飛び出すまでまったく気配がわからなかった。サヴェルナも屋根にいたのだが気配を感じなかったらしい。ティムの言い分を聞くと、常に気配を読むような人じゃなければ目の前にいない限りわからないらしい。そばで聞くステンも疲れたような顔で説明してくれる。
「ティムは気配の消し方だけは一級品だよ。オレの家系は一芸に秀でる人が現れるが、最近は森で隠れられたら見つからないほどにな。気を抜くと背後から驚かされる」
「えへへぇ~。ステン兄ちゃんよりも、すごいんだよ」
「その能力を姉さんから逃げるために全力で使うのはどうかと思うがな。怒られるときは素直に怒られろ。オレの方にまでとばっちりがくるんだが」
ステンがジロリと見下ろし、ティムは口笛を吹きながら必死に目をそらした。
相変わらず仲良いな、と思うと同時に俺はあることをステンに聞く。
「ティムにナイフを渡したんですね」
「ーーもう狩りにも参加させてるからな。子供扱いはできないんだよ」
俺がステンたちと出会ったときはティムはステンにとって保護対象だったはずだ。少なくとも今回みたいに危険な場所に近づけるということはしなかったはずだ。それも相手の懐に入り込むなんて。
「後は弓をもう少し練習しろよ」
「えぇー、ぼくだってもうそれなりだよ。ステン兄ちゃんの弓捌きとかふつうじゃないんだから。比べないでほしいよ、まったく」
ティムが不満そうに口にした言葉に、俺は魔王戦でのステンを思い出した。
あのときステンは魔王によって右腕を切断されていた。サッヴァの回復魔法でなんとか治せたが、無事弓が使えると聞いてホッとする。
「右腕は大丈夫なんですね?」
「ああ。むしろ切られる前より調子が良いくらいだ。原因を考えるとあまり嬉しくはないけどな。ーー今更だが、クウガにはカッコ悪いところばっかり見せちまってるよな」
「いえ、先ほどはかっこよかったです。助かりました」
「そ、そうか。まぁ、それならいいんだ」
賞賛を送るもステンはそっぽ向いてしまう。まぁ、耳が赤いから照れているのはよくわかるが。うーん、かっこいいのに可愛いな、この人。はああ、アナニー教えてるとき犯しておくべきだったか。いや、それはダメだろ。めちゃくちゃ後悔してるけどしなくて正解だったろ、俺。
そう脳内でアホなことを考えていると、サヴェルナが「クウガさん!」と大きな声で話しかけてきた。なんだか少し焦っているようにも見えるが、何を焦ることがあるんだ。
「えっと、あの、あのですね・・・・・・、エルフって本当にいたんですね!」
無理矢理話題を作った感が凄いが、とりあえず話を続けるためにステンからサヴェルナの方に視線を変える。ティムが「サヴェルナ姉ちゃん、必死すぎるよ・・・・・・」とつぶやいた気がしたが、気のせいということにしておこう。
「私エルフって初めて見ましたけど、凄い綺麗な顔しているんですね。なんていうか怖いほど美人という感じがしました」
「ああ、わかる。なんか人間じゃないってぐらいに綺麗だよね」
「うーん・・・・・・」
サヴェルナと俺の会話にティムが不満そうな、納得いかないような声を出していた。
ティムはそう思わないのか、と尋ねてみると顔をしかめながら首を横に振る。
「キレイだとはおもうよ。でも、なんかイヤな臭いがするんだよね。できるだけ近づきたくないっていうか。ステン兄ちゃんもそうおもわない?」
「そうだな。狩人だから異種族の臭いに敏感なのかもしれないな。オレもあまりエルフには近づきたくない」
狩人2人はそう言いながら鼻を押さえた。
俺はサヴェルナと顔を見合わせ互いに尋ねるが、やはり俺もサヴェルナもそういう臭いを感じ取ることはなかった。エルフを運ぶ騎士たちも普通だったから、おそらく狩人特有の五感なんだろう。確かにどんなに見た目が良くても、臭いが受け付けなければダメだよな。俺も女物の香水とかダメだし。バラのやつとか。
っていうか男の臭いで興奮できる俺としては、もう少し間近で嗅ぎたいんだけどね。脇とか余裕で舐められる自信があるよ。クソほどいらない自信だけどな。
そんなバカなことを考えながら横を向くと、チラリと視界に映ったものに顔を歪めた。変なものじゃないけど、イヤなもの見てしまった。道の隅っこで横たわる野鳥の死骸だ。猫に食べられたのか、馬などに轢かれたのか。あまり見て良い気はしないので、すぐに視線をそらすのだった。
+++
騎士団本部に訪れた俺は、目の前の光景に言葉が出なかった。
「カハハハハハハハ!! ほらほらほらああああ、もっと来いやああああ!!!」
そう叫ぶ声と吹っ飛ぶ魔物たち。ロッドの言っていた通り、凶暴化しているはずの魔物が怯えていた。その魔物が囲んでいる中心にいるのは、当然のごとくダイチであった。ちなみに他の騎士はそれに助成するつもりはないらしい。後から聞いたら下手に手を出した方が巻き込まれるからだという。
なんだろう、見てると魔物の方に同情してしまう。しかも素手じゃ殺せないというから、むしろスパッと倒した方が魔物にとっても嬉しいんじゃないかとか考えてしまう。
ロッドもそれを見て、表情を無にしていた。
「あと50発の間に、どうやって1発入れりゃあいいんだ」
そうつぶやいていたが、俺はその方法がまったく思い浮かばない。悪いロッド。
しかしそうやってただ魔物をいたぶるだけでは収集がつかないため、ダイチの不満を余所に他の騎士たちが魔物を倒していくのだった。
「くそっ、せめて1匹くらいは残しておけっての」
騎士への報告が終わり、久々にダイチと対面した。相変わらず兄ちゃんそっくりな顔をしている。ダイチを初めて見たティムなんかは目を丸くしてダイチを見上げていた。
俺はそんなダイチの手をとってコソリと話しかける。話そうとする内容が内容だから隅っこの方でこっそりとだ。
「あのさ、ロッドのことなんだが」
「んだよ、説教なら聞く気ねぇからな」
出鼻を挫かれたが、それでも俺は話を続ける。
「ロッドと変な賭けしてんだって?」
「ーーへぇ、おじさんには言ったのか。無駄にプライド高いやつだと思ってたけど、おじさんには正直に話すんだな」
「いや、そこはどうでもよくて。500発殴ったら言うこと聞けってやつ、お前何させるつもりだよ」
「んなもん、ナニ以外ねぇだろうが。今日はそれなりに暴れられたが、碌に外にも出れねぇんだぞ。騎士って言ったって強いやつはいねぇ。女も男も抱いてねぇ。俺としてはやつらの言うことなんか聞く気はねぇ。誰の言いなりになるつもりもねぇ。アイツは俺との賭けに乗ったんだ。賭けに勝ったら文句は言えねぇはずだ」
俺は息を飲んだ。兄ちゃんと同じ顔だから気づこうとしなかったのかもしれない。
こいつは自分中心で動くやつだ。今まで俺が関わりを持たなかったタイプだ。むしろ今までおとなしく王国に留まっていたのが不思議なくらいだった。
「ってか、俺おじさんと今まで接点なかったはずだぜ。保護者ぶってんじゃねぇよ」
「別に保護者ぶってなんてなんか」
「じゃあ、下手に関わろうとすんじゃねぇっての。おじさんの話はアイツからいろいろ聞いたぜ。俺からしたらおじさんのがおかしいって思うけどな」
俺がおかしい? お前が俺をおかしいって言うの?
ゲイって意味でおかしいって言うなら、男も抱けるダイチが言うのはおかしいだろ。
だがダイチは俺を見ながら鼻で笑った。
「勝手に連れて来られて、勝手に命令されて、力もないのに戦わされて。自由もなく魔王を倒しに向かった。その間に問題行動を起こしたわけでもなく、真面目に平和に、優等生してたってな」
「優等生って・・・・・・。そりゃダイチみたいな強さがあれば違ったかもしれないが、俺は弱くて下手に逆らった方が怖いって思うだろ」
WEB小説の異世界転生や転移だって、チートはあれど常識外れな行動はとらないはずだ。下手に飛び出せば打たれるんだから。
だがダイチは「そうじゃねぇよ」と返す。
「おじさんて親父の弟なんだろ。じゃあ別に元の世界が敵だらけってわけじゃねぇじゃん。あの親父、基本的に人を嫌うってことしねぇし」
「それはそうだけど」
「なら元の世界に戻れなくなった時点で絶望するはずだ。『普通』だってなら尚更だ。ーーなぁ、おじさん。本当に自分が普通だって思えるのか。自分本位に生きる俺や前の魔王ってのみたいのが本来の普通なんじゃねぇの? 平凡で普通の人間ってのが、違う世界に連れてこられてマトモな神経でいられるのか? 狂っておかしくなるのが普通ってやつなんじゃねぇの?」
その答えに俺は目を見張る。
言われて気づく。俺はこの世界を普通に受け入れていたと。しょうがないって諦めてはいたが、本来それはおかしいことだったのか? 俺は普通じゃないのか? 確かに家族に申し訳なさがないわけじゃない。でもそれでも仕方ないと、やるべきことをやるんだと思って行動していた。
いや、でも・・・・・・うーん。
「絶望する暇なんてなかった。狂わないのが普通であっても、俺は狂わなかったって話じゃないのか」
つーか特別なら、もうちょっと恩恵くれよ。この目の能力も結構縛りが大きいんだよ。せめて前魔王みたいに発動方法がチートだったら良かったのに。視線合わせて命令口調って結構難しいんだぞ。
だが俺の答えにダイチは納得していないようだった。だが俺につっかかる前に俺たちのそばに近づく者に視線を変える。
「おい、クウガに何やってんだ。クソガキ」
「ッハッ、おじさん相手には簡単に賭けのこと話すんだな。他の奴らにはメンツがどうこう言ってたくせによ」
ロッドだった。ロッドの喧嘩腰の言葉に、ダイチも似たように返しゲスい顔で笑う。
「それより賭けのこと忘れんなよ。今更ピーピー泣いて無しとかねぇからな」
「上等だ。それよりもクウガに変なことしようとすんなよ。クソガキの思考が移って性悪になったら大変だからな」
ロッドの言い返しに、ダイチは楽しそうにその胸ぐらを掴んだ。双方のにらみ合いが続く。
「なぁ、2人になったときに俺が話した言葉忘れてねぇよな? アンタが俺に怯えたり弱さを見せるようなことがあったら、俺は無理矢理にでもこの国を出て行くって。アンタのその生意気な目が続くまでは、面白いからいてやるけどな」
「誰がテメェみたいなクソガキに怯えるかよ。一生この国に留まってろ、力だけしかない頭の悪いガキが」
バチバチと火花が散る2人。片方はゲス笑顔。もう片方は憤怒の表情。
こ、こえええええええええええええ。俺はその2人の様子に何歩か後ずさったけど、俺絶対悪くない。
うん、俺やっぱり普通だと思うんだ!!
俺どこにでもいる(元)高校生だと思うんだ! ゲイなだけで!!!
そう思わない!? ねぇ! 誰に聞くわけでもないけどさ!!
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