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侵入者編

*** 似すぎる少年

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「くそっ。よりによって何で今日なんだ」

 ダグマルは王都の街並みを走り回っていた。
 原因不明の魔力の放出。それにより至る場所で魔法が暴走し、被害を出していた。魔導師や神官もその被害は強いが、貴族も高い魔力を持つ者がほとんどである。
 騎士は魔法を使える者もいるが、魔法が苦手であったり魔力がそれほど高くない者が多い。ちなみにダグマルは魔力の放出を感じた瞬間にそれを身体強化に回したため、地面に大きなクレーターが出来る程度で収まった。
 そして人や建物に被害が現れた今、それの対処に追われている。

 補佐官となったダグマルであるが、貴族と騎士との橋渡しが主な仕事となった。そういう役目を担った騎士も過去にはいたが、公爵という立場はダグマルが初めてである。さらに前団長が辞めさせられた(公には前王を守れなかった責任をとり辞職という形である)ため、その後始末にもダグマルは駆り出されていた。

 ダグマルに向かって騎士が走り寄る。

「ダグマル補佐官。いくつかの貴族からあなたに要請が来ています」
「ーー俺は公爵に呼び出されて動きがとれない伝えてくれ。その際には数人の騎士も連れて救助に当たるように」

 ダグマルは使いたくない頭をフルに回転させていた。
 自分が呼び出されていて、何も行動しないのはマズい。ダグマルの体は1つ。すべての貴族の救助には当たれない。下手にダグマルが動くと、それだけで後々確執や身分などで面倒が起こることになる。
 実際兄のところには向かうつもりであった。間違ってはいない。だがそれよりも先に行動すべきことがあると判断した。

「魔導師は・・・・・・問題ねぇか。むしろ何が起きたのか原因究明に躍起になってんだろ。となると、大変なのは神官の方か」

 ダグマルは急いで神殿の方へ向かう。
 この事態。どうしても神官の回復魔法は必要である。ダグマルが軽く街を見ただけでも怪我した者を多数確認している。それを回復すべきである神官に問題があるのはマズい。特に神官は魔導師と違い、回復魔法に能力を注いでいて他は適当であることが多い。サッヴァのようにすべての魔法に特化しているというのは稀なのである。

「せっかく半日だけ休みをとったっていうのに! 何でよりによって今日なんだよ!」

 ダグマルは悔しげに歯を食いしばった。
 前の魔王を倒してからダグマルに休みはなかった。それこそ目を覚ましたクウガに会いに行く暇すらないほどに。そしてやっとのこと休みをとったのが今日だったのだ。

 ダグマルは公爵家の次男であり、本来は騎士に所属する身分ではない。
 しかし彼の母親が腹違いの兄を毒殺しようとしたことで、彼の将来は変わったのである。公爵としての地位は変わらなかったが、貴族としての立場をなくした彼は騎士という職につくことで貴族から距離をとったのである。そして本来ならば一生貴族と関わらないよう過ごすはずであった。
 それが今ではその貴族からも一目置かれている存在となっている。

 それもこれもダグマルが異世界から召還された2人目の勇者、クウガによって始まった。彼の指導役についたことでダグマルの人生は大きく変わったのである。変わったのはダグマルの立場だけではない。クウガに対して好意を抱くようになったのである。
 ダグマルは母親の所業により、女性に対して苦手意識を抱いていた。性欲発散で抱くのはいいが、それ以上踏み込むことは出来なかった。さらにダグマルに子が出来れば公爵の跡目争いに巻き込まれる可能性を考慮し子を作ることをしなかったのだ。
 そんなダグマルがクウガを意識し始めたのは、クウガの世界に同性愛という言葉を教えられたときであった。ダグマルはそれに関して嫌悪よりも、成るほどと思ったのだ。男同士ならば子供は出来ない。それはダグマルにとって何よりも有り難いことであった。そしてそれがきっかけとなり、クウガに対して意識を持つようになった。
 今となってはクウガが可愛くて可愛くて仕方ないのである。

 しかしやっととれた半休もこれで潰れる。
 ダグマルは苛立ちも込めて、走る足に力を込めた。



 神殿が見え始めたところで、ダグマルは違和感を覚えた。
 悲鳴と、何かが叩り打つ音が聞こえた気がしたからだ。
 神殿のそばには騎士たちが集まっている。その1人に声をかけた。

「何があった」
「それが」

 その騎士がすべてを言い終える前に、何かが殴り飛ばされる音と、生意気そうな声が響く。

「カハハッ。おいおい、大層な剣を持ってるってのにその程度か? ガッカリさせんじゃねぇぜ。次、来いよ。次ィ!!」

 不審に思ったダグマルだが、騎士の隙間からその声の持ち主を確認すると唖然とする。

「クウガ!?」

 そこで見たのは、今日会いにいくはずであったクウガとそっくりな少年だった。
 その言葉にダグマルに声をかけられていた騎士が「やはり」と、その少年をにらみつける。

「やはりそうなのですね。今までおとなしくしていたようでしたが、国が混乱になる今を狙って本性を出すとは。何て男だ」
「待て待て待て待て」

 ダグマルが慌ててその騎士の肩を掴んだ。
 そして再度少年を観察する。

「確かに顔はよく似てる。だが別人だ。クウガとあの少年じゃ体つきがまったく違う」

 ダグマルの目に映る少年。その顔つきはクウガとそっくりだった。
 だが体つきがまったく違う。クウガも少年もダグマルからすれば小柄である(異世界基準であり、クウガも日本では平均身長である)が、目の前の少年はクウガよりも背が高いように見えた。何より体つきがまったく違うとダグマルは確信できた。
 クウガはダグマルのもとで鍛えはしていたが、どうしても元々鍛えているわけではなかったためどうしても即席の体つきになってしまっていた。だが目の前の少年は細身ではありながらも、その服の中で絞り上げた肉体がわかる。あれは幼少の頃から鍛え上げないと作れない体だ。

「武器は持ってないようだが、あれは相当手強いぞ」
「確かに武器は持っていません。しかしーー」

 騎士の顔が曇る。その理由をダグマルはすぐに理解した。
 少年の背後に騎士が斬りかかったからだ。本来なら丸腰の相手に剣を向けるのは、あまり褒められることではない。

 だが少年は振り向きざまにその刃先をスレスレで避ける。
 それだけでなく右手で下から、剣の柄ごと騎士の手を掴んだ。騎士が両手で剣を振り落としているというのに、少年の右手はその力と拮抗していた。

「おいおいおいおい!! 不意打ち狙うなら、もっと上手くやれよ、なっ!!」

 少年は拮抗していた手を、逆に地面に引っ張った。
 突然力の反発がなくなり、騎士の剣が地面に刺さる。体勢の崩れた騎士の横っ面に少年の左拳がめり込んだ。そして騎士の体が吹っ飛び地面に転がっていく。



 それを見て眉間にしわを寄せるダグマル。そのダグマルに、そばにいる騎士が言う。

「ーーあのように、手出しが出来ないのです」
「武器なしであれほどの手練れか。それともまさか、武器を必要としないのか」

 この世界では戦いにおいて武器を使うのは当然のことである。
 素手での戦いというのは、飲み屋の喧嘩など小さな戦いでしか行われない。殺傷能力のない素手よりも剣などの武器が重要で、だから騎士は剣を学ぶのである。
 しかしここで憶測をしても仕方ないとダグマルは考える。
 それよりも何故魔法を使って動きを封じようとしないのか。その疑問が浮かんだ。

 そしてその疑問もしばらくしてから、答えが出た。

 少年に向かって巨大な炎が放たれる。
 それは少年に当たり、その体を燃やし尽くす。普通ならばだ。しかしそうはならなかった。
 のだ。少年に当たる前に。


 ダグマルはその光景に声も出せず固まった。理解が出来なかったからだ。
 そして騎士は渋い顔をして、ダグマルに説明する。

「何度か魔法で攻撃しているのです。しかしそのどれもが、彼には当たらない。魔法を避けているわけではなく、魔法そのものが消えてしまうのです」

 信じられないことではあるが、事実ダグマルもその目で見たのだ。この場では見たことを信じるしかないのだ。

「つまり魔法は通じず、捕まえようにも力の差でどうにもならねぇってことか」

 ダグマルはそう口にすると、前に進んでいく。
 そして騎士たちを押しのけ少年の前に立った。少年はダグマルを見るなり、ニタリと笑う。クウガなら一切しないであろう表情に、ダグマルは少年に顔を向けたまま、近くにいる騎士に手を差し出す。

「剣を貸せ」

 言われた騎士はすぐさま剣を渡し、ダグマルは鞘だけを返した。仕事着ではない今は自身の剣は所持していないのだ。
 剣を構えるダグマルに向かって少年は歯を見せて笑う。

「へぇ、いるんじゃん。やれそうなやつがよ。手加減すんなよ。こっちもするつもりねぇから」

 少年はそう言ってから構える。生意気そうな顔は真剣なものに変わり、呼吸を整える。しばし膠着状態が続いたが、先に少年の足が動いた。ダグマルは剣を振るうも少年は難なくそれを左手で横に払った。そしてさらに距離を詰めると、ダグマルの腹めがけ掌を突き出した。ダグマルの体が後ろに吹き飛ぶが、すぐさま両足をついて踏ん張った。

「へぇ。おっさんやるじゃん。あのスピードで後ろに飛べるとか、反射神経パねぇな」
「このガキ・・・・・・。直撃避けてもこの威力かよ」

 面白そうに笑う少年に対し、ダグマルは腹を押さえて冷や汗をかいた。少年の掌はダグマルの腹部に当たってはいない。だというのに衝撃と痛みがそこに残っている。直撃していればダグマルでも危うかっただろう。普段着なら尚更である。

「違うとわかってるが、やっぱりクウガとは違うな」

 クウガはここまで戦えない。それでも真面目に努力してきた。ダグマルはそれをそばで見ていたのだ。目の前の少年がどれだけクウガに似ていても一致することはない。
 しかし少年はダグマルの言葉に、不満そうな表情へと変わる。

「んだよ。おっさんもさっきのジジイと同じかよ。人の名前、地味に間違えてんじゃねぇっての。変に訛ってんだよ」
「どういう意味だ?」

 ダグマルは不審に思い尋ねるも、少年は答えるつもりなどないようだった。ダグマルの言葉に興を削がれたようで、さっき見せた戦意的なものを一切なくしている。

「チッ。やめだ、やめ」

 少年はそう言うや、他の騎士たちの方へ突っ込んでいく。
 騎士たちが構えるよりも先に少年は高く跳ぶと、騎士の頭を踏んづけていった。1人、2人と数人の頭を踏んで進んでいき、建物の壁までたどり着くと、壁の凹みを利用してするすると上っていった。呆然とする騎士たちを尻目に、屋上までたどり着いた少年は騎士たちに向けて片手を上げる。

「あばよ、おっさんたち。止められるもんなら止めてみろよ。カハハハハハハッ」

 そして高笑いをあげながらさっさと去っていく。騎士たちが慌てて少年を追いかける中、ダグマルは頭を抱えていた。

「あのガキ。顔だけはクウガに似てるから、尚更腹が立つ」

 その口元はひくついていた。もちろん笑いではなく怒りでだ。

+++



 ステンは忙しなく動き回る。

「おい、大丈夫か?」

 そして困っている者に手を差し伸べた。


 突然街の至るところで魔法が暴発した。そのため街では火事や、風魔法や身体強化での破壊行動による建物の損傷が起こっていた。魔力の放出時、ステンも急な脱力感を覚えたが魔法の使い方を一切知らなかったため魔力の放出だけで済んでいた。そしてそのときちょうど久しぶりの街へと訪れていたため手助けをしているのだった。
 といってもステンがやれることといったら、崩れた物の下敷きになった人を救出したり応急処置くらいだ。魔力封じの石のナイフを持ってはいるが、火魔法には効いてもそれによって燃え広がった火は消せないのだ。しかし街にも魔法を使える者はそれなりにいるため、消火活動は滞りなく行われていた。

「あれ。ステンか?」

 止血のために布で傷口を塞ごうとすると名を呼ばれた。ステンがそちらを振り向くと見覚えのある男がいた。

「・・・・・・ロッド、だったか?」

 ロッドとは直接的な関わりがなかったステンは、ぎこちなく聞き返す。ロッドは首を縦に振りながらステンに近づいた。

「悪いな。一般人に手伝ってもらっちまって」
「いや、今の状況で一般人とか言ってられないだろ」

 ステンの言い分にロッドは納得しながら近づくと、ステンが手当てをしようとしていた者に近づいた。そして手をかざすとその傷がみるみると癒えていく。ステンがそれに感心していると、ロッドは手当てした者に避難するよう声をかける。その者はお礼を言って去っていった。それを見送ったロッドがステンに話しかける。

「ちょうどいいや。実は騎士の方でゴタゴタしてることがあるんだが」

 それを言われたステンは、辺りで騎士が慌ただしく動き回っているのが見える。この災害が理由だと思ったが、どうやらその他にもあるのだと気づいた。

「クウガの偽物が出てる」
「・・・・・・は?」

 ロッドの言葉にステンは思考が一瞬だけ停止する。

 ステンはクウガに会うため久々に街にやって来たのである。前の魔王が倒れた後、クウガ以外のメンバーが英雄扱いになってしまい、特に村人であるステンにとっては無駄に目立ってしまっていたため中々街に来れなかったのだ。
 前の魔王により義兄を殺されたステンは、初めの頃はクウガを憎んでいた。しかしそれは時と共に消え、それに至るまでの経緯は省くが、クウガに対して特別な好意を持つことになった。そして今日こそはと街に来たというのに、この状態では行けそうにもない。
 そんなクウガの名が出てきたことの意味がステンにはわからなかった。

 ロッドもステンの反応に共感している。

「俺も始め聞いたときは、わけわかんねぇって思ったさ。けど実際そういう話が出てる。王都側で発見されたんだが、どうやら今は街で逃げ回ってるらしいぞ。信じられねぇがあの高い門を登ってから降りたらしい」
「それは、暗殺者じゃないのか? わざとクウガの顔に似せてるとか」
「それが意味がわからねぇんだが、丸腰の状態で騎士に喧嘩を売りながら走り回ってるって。暗殺者ならそんなバカなことしねぇだろ」

 それを聞いたステンは納得すると同時に、さらに意味がわからなくなった。
 だが多分自分が聞いても理解できないだろうというのはわかり、深く追求することはなかった。クウガの偽物が出るというのだけわかれば良かった。

「ロッドさん!」

 すると1人の騎士がロッドに近づく。

「どうした、エルド」
「いえ。ロッドさんが急に見えなくなり、既に時遅しと思ったのですが。無事で何よりです」

 それを聞き「それ俺をバカにしてんじゃねぇか」と顔を歪めるロッドだったが、すぐさま状況を尋ねる。エルドという騎士はステンをチラ見する。すぐにロッドがステンのことを説明すれば、納得した顔で口を開いた。

「目撃情報と負傷した騎士の数はどんどん増えていますよ。対して捕獲や処分したという報告はありません」
「・・・・・・捕獲とか処分とかもっと言い方あるだろ。にしてもまだ騎士じゃないお前たちも参加することになるとか人手が足らなすぎだろ」
「いいんじゃないですか? これで根をあげるなら、そいつを失格にすれば」
「だからそういうのはお前が勝手に決めるなってーーーー」

 ロッドがエルドに突っかかろうとしたとき、近くに悲鳴が聞こえた。
 瞬時に動いたのはステンで、次いでロッド、そしてエルドが後を追う。





 道の真ん中で2人が向かい合っている。

「んだよ。剣持ってるから闘えるやつかと思ったのに。始まる前から戦意喪失とか、つまんねぇ野郎だな」
「な、ななな、なんだと。ぼ、僕の父親を誰だと思っている。ジャックリン伯爵だぞ。こんなことして、た、ただで済むと思っているのかっ」
「ああ? しゃっくりだかハクションだか知らねぇが、んなの興味ねぇよ。ちょっとはテメェが男ってのを見せろや。腰にかかっている剣は飾り物かよ」

 クウガに似た少年は、騎士の少年をからかった。しかしからかわれた方はガタガタと震えており立つのが精一杯だった。正式の騎士じゃないのに、という言葉も出てこない。こんなことしなければ良かったと後悔しかけたとき。

「シーエンス!」

 ロッドがその名を叫んで近くまでやって来た。既に先に着いていたステンは、あまりにもクウガとそっくりの少年に立ち止まって目を丸くしている。ロッドも同様に驚いていたが、それよりも指導している見習い騎士の身の安全のが優先だった。

「シーエンス。後は俺たちがやる。お前は他の騎士に伝達を」

 ロッドがそう言って逃がそうとしたが、シーエンスの視界にエルドが映ったことで先ほどまでの恐怖が消えた。エルドとシーエンスは見習い騎士の同期であり、ことあるごとにシーエンスはエルドに突っかかっていたからだ。

「うるさい! 僕は、僕は伯爵だ! 気楽な立場のお前とは違う!」

 そう叫んで剣を抜き少年に斬りかかる。
 少年はニィと笑うと、片足を上げる。そしてその足でシーエンスの手を蹴り飛ばした。痛みと衝撃にシーエンスの手から剣が吹っ飛んだ。目を見開くシーエンスに向かって拳を繰り出した。

 その拳はシーエンスに当たる前に止まった。
 既に走り込んでいたステンがの手が、その手首を掴んだからだ。
 少年は一瞬だけ驚いた表情を見せ、そしてすぐにまた笑う。

 ステンは心中で「嘘だろ」と叫ぶ。手首を掴まれたまま少年の腕が動いたからだ。ステンの力ですら止められない腕の振り。シーエンスは今度こそ当たると思った。しかしロッドがシーエンスの襟を掴んで引っ張った。さらに拳とシーエンスの間に自身の体をねじ込んだ。
 拳はロッドの背中を強打し、ロッドはシーエンスと共に吹っ飛び地面に転がった。

 ステンがそれを見て声をかけようとするが、少年の意識がこちらへ向いたのに気づいた。ステンが手を離したと同時に、少年が勢いよく蹴ってきた。それをスレスレで避けて少年の顔に殴りかかるも、その手は掴まれる。動きを封じられたステンに、少年がさらに攻撃をしかけようしてーーーー止めた。
 ステンの手を離して素早く後退する。先ほど少年がいた場所のそばに、既に体勢を整えていたロッドが剣に手をかけていた。

「おっかしいな。あれだけ綺麗に殴られて、そんなすぐに動けるはずねぇんだけど」
「死ぬほど痛かったっての。どんな鍛え方すりゃ、そんな馬鹿げた力出せるんだよ」
「ーーへぇ。俺の拳を食らって、まだそんな目をできるってのかよ」

 不思議そうな顔をする少年に、ロッドは苦々しく返した。だがそれに対して少年はさっき以上に楽しそうに笑うのだった。
 殴られた瞬間、ロッドは自身に回復魔法をかけていた。さらに身体強化で脚力を上げていた。通常魔法は痛みがある状態では上手くいかないことが多いのだが、ロッドは鍛えてそれを克服している。

「ロッド」

 ステンが声をかける。その顔に汗が流れた。

「近距離であいつに勝てる気がしない」

 そして続く言葉にロッドが息を飲んだ。だがすぐに覚悟を決めたようだ。

「エルド。シーエンスと共に騎士たちへ救援を頼む」
「しかし僕も」

 エルドの言葉はロッドがにらみ、制された。

「上司の言葉が聞けないのか?」

 そしてそうキツく言われ、エルドは不満そうにするも了承の返事をし去っていく。シーエンスも慌ててその後を追った。増援をあの2人に託し、ロッドとステンは再度少年に向かい合う。

 一触即発の空気。それは意外なところから破られた。
 馬の蹄が耳に入る。ロッドもさすがにこんな早くに増援が来るとは思っていなかったため驚いていると、砂埃をあげて馬が止まる。
 その乗り手を見るなり、ロッドはギョッとした。

「団長!?」
「元だがね」

 そこに乗っていたのは、騎士団の前団長であるルレイドであった。
 ステンも驚いていた。だが初対面であるルレイドにではない。その後ろに乗っている者の姿を見てだ。

「クウガっ」

 慣れない馬に疲れうつむいていたクウガだったが、その声に顔をあげる。
 久しぶりに見るクウガの顔に、ステンは自身の頬が緩むのを自覚した。
 クウガはステンの顔を見て何か言おうと口を開く。だがその前に自身とそっくりな少年の姿にクウガは口を開けたまま呆然としている。



「兄ちゃん!!?」



 そして叫ばれた言葉に、ステンとロッドが同時に「はあっ!?」と叫ぶのだった。



~~~~~~~~~~

 新章始まりました。ドワーフは未登場なのに、別の人出しちゃいました。
 ちなみに書いてて楽しかったのは、ロッドがタメ口でステンと話すところです。書き始めはロッドに敬語を使わせてましたが、この2人が絡んだことがなく(多分)、ステンが未だ20代で上司でない一介の村人だと気づき、タメ口で書き直しました。積極的には絡まなそうな2人だと思います。

 次からはクウガの視点に戻りますよ。
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