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Chapter 8 枢機卿と、……俺で?
scene 32
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いつの間にか、結構歩いていたらしい。大介は体中が汗ばんでいるのを自覚した。もちろん、その原因は高温によるもの、だけではなかったであろうが。
「……もうちょっとしっかり着いてこいよ。足遅いな、お前」
ようやく両者間の隔たりに気づき、指摘する副島。だが、大介はそれに答えるどころではなかった。
副島京一が、ゴーチェと通じている?
じゃあ内通者って……こいつじゃねえか!
「もうすぐイフリットなんだ。頑張って歩け」
そこで『嫌です』と言えないのが悲しい性か。大介は丁寧にスミマセンと謝ると、結局駆けよって京一との距離を詰めた。
副島は、のんきに足と話を進める。
「もちろん最初は、あいつの言うことも信じられなかった。……と言うか、話の荒唐無稽さで言えば、アレが一番ひどかったよ。何しろ『あなたの管理能力を使って魔族を治めてください』だったからな。なんだよ魔族って。俺はそういうのが一番嫌いなんだよ、分かるだろ?」
「はい……まあ」
「しかし、引き換えに広美を呼び寄せると言ってくれたからな。あからさまな金銭のトラブルにならない限りは、この爺さんの与太話につき合うのもいいだろう、て思ったのさ。もっとも、それくらい広美の手掛かりが無いっていう焦りもあったがな」
「……」
「だが……まあ、驚いたな。爺さんがくれたワインか何かの酒を飲んだ瞬間に、俺は不自然な眠気に襲われて、それで起きたらもう俺はこっちの世界に来ていたんだ」
……あれ?
どこかで聞いた話だぞ?
「俺は爺さんの話を信じるしかなくなったよ、さすがにな。爺さんは言ったよ。こっちの世界には、霊の依り代として優秀な『大幻獣』という存在があるってね。だから、俺が出世して大幻獣の眠るツール・アマーシャで働けるようになれば、いつか祈りが通じて、大幻獣に広美の霊を憑依させられる……」
「……」
「そうすれば、広美が今幸せかどうか本人に聞けるだろ? もちろん、あんな死に方すりゃあ、幸せもクソもあったもんじゃないんだろうが……それでも、あいつの痛みや辛さを直接慰めるくらいは出来る」
「……」
「俺はラテカに隣接するエイタムで修道士として働き始めた。魔族の管理に関しては、俺が直接指示が出来ないから、ゴーチェの爺さんが仲介役になった。魔界は頭脳派のゴーチェと武闘派のイジドールが二大巨頭になっているらしかったから、俺はあえてイジドールに優位な施策を多用した。俺とゴーチェが密である以上、不公平感を払拭する必要があったからな」
「……」
「ゴーチェは俺の意図を理解し、イジドールをよく立てた。効果は抜群だったよ。魔族どもは結束を高め、俺は彼らから魔王と崇められるようになった」
目眩に似た絶望が、大介を襲う。枢機卿は、同時に魔王であったのだ。それは、ウイドキア側の勝機を根こそぎ奪うような現実だった。
「時は経ち、俺は枢機卿まで登り詰めた。さすがに出来すぎだとは思ったが、事態が進展することは当然望ましい話ではある。俺は枢機卿として、最も計画を早められる一手を打った」
大きな曲がり角に差し掛かった。奥から、赤々とした光が届く。
副島は一旦足を止め、大介に向き直る。真剣な表情だ。
「俺の言うことをよく聞き、しかしながらあまり優秀ではない人材を……『神の使者』としてこちらの世界に呼び込む……これがどういうことか、いくら頭が悪いお前でも分かるよな?」
……。
……。
つまり、
偶然ではなかったのだ。
俺がいきなり異世界へ吹っ飛ばされたのも、
そこで神の使者と崇められたのも、
そして、
そこに俺の世界一苦手な副島京一がいたことも。
すべてが、
仕組まれたものだったのだ。
副島は言う。
「本来ならお前にポカをしてもらい、ゴーチェあたりに捕まえさせ、しかる後にこちらの計画を伝え……お前に、協力をしてもらおうと思っていたのだが……」
「……」
「何をどう間違えたのか、お前は八面六臂の大活躍! ……八面六臂は分かるか?」
「ええ……まあ」
「だから、褒めてる時くらい嬉しそうにしろよ。本当に分かってんのか?」
「あ……すみません」
あくまでも煮え切らない大介の態度に、副島の顔に不機嫌が灯る。
「本当なら、ちょっとばかし説教でもしたいところだが……今は時間が無い。とにかく、想定外な展開に俺は戸惑った。でも、悪い気はしなかったよ。どうせ手駒になるのなら、優秀な方がいいに決まってる。しかもそれがかつてのダメ社員だとなれば……これほど望ましいことはない」
「……」
「そしてそこへ、広美が来た。彼女はイフリットの中に……今、いる」
「……」
「俺にとってはどうでもいいが、一応、広美とコンタクトが取れた後は、その大幻獣を魔族どもに引き渡すことになっている。俺はひそかにラテカを出て、ゴーチェにこの旨を伝えた……これに関しちゃ、あの爺さんが特にお熱でな。大幻獣の覚醒は悲願とまで言っていたよ」
「……」
「爺さんには、特別世話になった。せめて義理は果たしたい」
「……だから、協力しろと」
魂の奥から絞り出した大介の問いに、副島は不敵に笑って見せた。
「気が乗らんか。気持ちは分からんでもないが……まあ、せっかくなんだ。お前も見ていけ。眠れる大幻獣、イフリットの美しい姿をな」
「……もうちょっとしっかり着いてこいよ。足遅いな、お前」
ようやく両者間の隔たりに気づき、指摘する副島。だが、大介はそれに答えるどころではなかった。
副島京一が、ゴーチェと通じている?
じゃあ内通者って……こいつじゃねえか!
「もうすぐイフリットなんだ。頑張って歩け」
そこで『嫌です』と言えないのが悲しい性か。大介は丁寧にスミマセンと謝ると、結局駆けよって京一との距離を詰めた。
副島は、のんきに足と話を進める。
「もちろん最初は、あいつの言うことも信じられなかった。……と言うか、話の荒唐無稽さで言えば、アレが一番ひどかったよ。何しろ『あなたの管理能力を使って魔族を治めてください』だったからな。なんだよ魔族って。俺はそういうのが一番嫌いなんだよ、分かるだろ?」
「はい……まあ」
「しかし、引き換えに広美を呼び寄せると言ってくれたからな。あからさまな金銭のトラブルにならない限りは、この爺さんの与太話につき合うのもいいだろう、て思ったのさ。もっとも、それくらい広美の手掛かりが無いっていう焦りもあったがな」
「……」
「だが……まあ、驚いたな。爺さんがくれたワインか何かの酒を飲んだ瞬間に、俺は不自然な眠気に襲われて、それで起きたらもう俺はこっちの世界に来ていたんだ」
……あれ?
どこかで聞いた話だぞ?
「俺は爺さんの話を信じるしかなくなったよ、さすがにな。爺さんは言ったよ。こっちの世界には、霊の依り代として優秀な『大幻獣』という存在があるってね。だから、俺が出世して大幻獣の眠るツール・アマーシャで働けるようになれば、いつか祈りが通じて、大幻獣に広美の霊を憑依させられる……」
「……」
「そうすれば、広美が今幸せかどうか本人に聞けるだろ? もちろん、あんな死に方すりゃあ、幸せもクソもあったもんじゃないんだろうが……それでも、あいつの痛みや辛さを直接慰めるくらいは出来る」
「……」
「俺はラテカに隣接するエイタムで修道士として働き始めた。魔族の管理に関しては、俺が直接指示が出来ないから、ゴーチェの爺さんが仲介役になった。魔界は頭脳派のゴーチェと武闘派のイジドールが二大巨頭になっているらしかったから、俺はあえてイジドールに優位な施策を多用した。俺とゴーチェが密である以上、不公平感を払拭する必要があったからな」
「……」
「ゴーチェは俺の意図を理解し、イジドールをよく立てた。効果は抜群だったよ。魔族どもは結束を高め、俺は彼らから魔王と崇められるようになった」
目眩に似た絶望が、大介を襲う。枢機卿は、同時に魔王であったのだ。それは、ウイドキア側の勝機を根こそぎ奪うような現実だった。
「時は経ち、俺は枢機卿まで登り詰めた。さすがに出来すぎだとは思ったが、事態が進展することは当然望ましい話ではある。俺は枢機卿として、最も計画を早められる一手を打った」
大きな曲がり角に差し掛かった。奥から、赤々とした光が届く。
副島は一旦足を止め、大介に向き直る。真剣な表情だ。
「俺の言うことをよく聞き、しかしながらあまり優秀ではない人材を……『神の使者』としてこちらの世界に呼び込む……これがどういうことか、いくら頭が悪いお前でも分かるよな?」
……。
……。
つまり、
偶然ではなかったのだ。
俺がいきなり異世界へ吹っ飛ばされたのも、
そこで神の使者と崇められたのも、
そして、
そこに俺の世界一苦手な副島京一がいたことも。
すべてが、
仕組まれたものだったのだ。
副島は言う。
「本来ならお前にポカをしてもらい、ゴーチェあたりに捕まえさせ、しかる後にこちらの計画を伝え……お前に、協力をしてもらおうと思っていたのだが……」
「……」
「何をどう間違えたのか、お前は八面六臂の大活躍! ……八面六臂は分かるか?」
「ええ……まあ」
「だから、褒めてる時くらい嬉しそうにしろよ。本当に分かってんのか?」
「あ……すみません」
あくまでも煮え切らない大介の態度に、副島の顔に不機嫌が灯る。
「本当なら、ちょっとばかし説教でもしたいところだが……今は時間が無い。とにかく、想定外な展開に俺は戸惑った。でも、悪い気はしなかったよ。どうせ手駒になるのなら、優秀な方がいいに決まってる。しかもそれがかつてのダメ社員だとなれば……これほど望ましいことはない」
「……」
「そしてそこへ、広美が来た。彼女はイフリットの中に……今、いる」
「……」
「俺にとってはどうでもいいが、一応、広美とコンタクトが取れた後は、その大幻獣を魔族どもに引き渡すことになっている。俺はひそかにラテカを出て、ゴーチェにこの旨を伝えた……これに関しちゃ、あの爺さんが特にお熱でな。大幻獣の覚醒は悲願とまで言っていたよ」
「……」
「爺さんには、特別世話になった。せめて義理は果たしたい」
「……だから、協力しろと」
魂の奥から絞り出した大介の問いに、副島は不敵に笑って見せた。
「気が乗らんか。気持ちは分からんでもないが……まあ、せっかくなんだ。お前も見ていけ。眠れる大幻獣、イフリットの美しい姿をな」
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