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僕の普通が行方不明になりました。誰か知りませんか?

01-04 不気味な奴なのか良い奴なのか

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「さっきはすまなかったな。うちの隊員に手荒に扱われなかったか?」

そう言ってにこやかにコーヒーを淹れて手渡してくれたのは、ここまで僕らを案内してくれた小隊を指揮している米軍のダグラス曹長。
いや手荒でしたよ。殺されるかと思いました。なんて素直な感想は僕には言えない……。
武蔵君なら言えるんじゃない? と思って彼を見ても貰ったカップに息を吹きかけてこっちに気付いてくれなかったよ、ちくしょう。
でもまぁ、口を塞がれ、拘束されたのは少しの間だけで、連れ込まれた茂みの奥で解放されて事情などを説明してくれた。ただ、事情が事情だからと念のために再度拘束(普通の)されたのも僕らが口を出す問題でもなさそう、というか、出しようがないというか。

「あ、どうも。助けて頂き感謝しています」

それでも口をついて出てくるのは感謝の言葉。悲しいかな事なかれ主義日本人の性です。
日本語が堪能な彼は、と言うか隊員のほとんどは程度の差はあれどある程度の日本語がわかるのは、普段沖縄の駐屯地にいるからなんだととか、僕らがこの簡易基地? テント? で解放されてから軽く事情を聴かされた。

「とはいえ、我々もただ善意だけで助けたわけじゃなくてな」

そこからの説明はなんともめんどくさい話だった。
台湾は独立自治をしているけど“まだ”独立した国家じゃないから、他国が介入しようとした場合は中国にお伺いを立てなくちゃいけない。
当然米軍だろうと日本の自衛隊だろうとそれ以外の軍だろうと頑として受け入れようとしない。

「中国当局はテロはすぐに鎮圧できると発表し軍を強制介入させていて、その為現場ではかなりの混乱が生じているとの情報も入っている。だが我々ステイツとしてはただ待ってるだけというわけにもいかず、かと言って堂々と軍を派遣もできず……、結果こうしてバレないようコッソリと偵察任務に励んでいるわけだ」

あー、うん。すっごい聞きたくなかった内容が含まれてるんですけども。武蔵君も美作さんも困った顔で固まってるし。

「そんなことまで言っちゃって良かったんですか?」
「キミ達日本人は、誠意には誠意で応えるんだろう?」

なんでこう欧米人ってウィンクが似合うんだろうね。
そりゃ僕は助けて貰った恩はきちんと返す方だし、そんな風に聞かれたらYESというタイプだし。

「はい、それはもう。こうして手厚く保護していただいた分、私たちに出来る限りのご協力はさせて頂きたいと思います。二人とも、いいよね?」
「はい、問題ないです」
「私も。先輩にお任せします」
「おぉ! 話が早くて助かるよ。では早速なんだが……」

ダグラス曹長が隊員に声をかけて地図を受け取って広げた。

「我々もまだ到着して間もなくてな。対策はしているとはいえ、情報はいくらでも欲しいんだ。キミ達が覚えている限りでいい。通ったルートや見えたテロリストの位置や人数などを教えて貰いたいんだが、いいかな? 」
「はい。必死だったのでちょっとあやふやな部分もあるかもしれませんが」

二人とも協力してお互いに記憶を補い合いながらなんとか書き込めた。もっとも地図を確認しながら逃げてきたわけじゃないから、どうしても思い出せない部分は出てきたんだけど、そこは通信先にいる彼女が補足してくれたから抜けのない物になって個人的には満足してたんだけどダグラス曹長はなんだか困惑顔だ。
ていうか、これだけ助けてもらってるのに名前も知らないっていうのはどうなんだろうか。
曹長との話が終わったら聞く。忘れないようにしないと。

「キミ達を疑うつもりじゃないんだが……」

と言い淀みながらこちらを見てきた。
何も間違った記入箇所はないと思う。確認の意味も込めて武蔵君、美作さんを見てみても大丈夫と頷かれた。僕だけの記憶だったら違ってても不思議はなかったけど。
口を開こうとしたら、その前にダグラス曹長の中で結論が出たみたいだった。

「いや、悪かった。協力に感謝する。おい、これを頼む」
「Yes,sir!」

曹長の指示で近くで作業していた隊員がキビキビとした動きで地図を受け取ってどこかへと消えていった。

「――さて、これからのことなんだが」
「これから、ですか?」
「あぁ。”まずい”コーヒーのおかわりでも飲んでもらいながら寛いでもらいたいところではあるが、ここはまだ安全な場所ではない。そして我々は極秘任務中というわけだ。そこでキミ達を麓まで案内させてもらいたいんだが、どうだろう」
「あ、いえ、そこまでしてもらうのは……」

申し訳なさそうに言われると逆に申し訳なく感じる。
僕らは除外としても、あまり人目につかない為にも麓までというのも申し訳なく思う要因の一つなんだろうと思う。
何よりここで一度恐縮してしまうのは日本人のお家芸みたいなもんなんです、すみません。

「そうもいかない。安全が確保されてない場所で民間人を放り出したとあっては我々のプライドにも関わるからな。こちらの都合ばかり押し付けて申し訳ないが、付けられる護衛は少数ではあるものの優秀だから身の安全は保障する」

彼の合図で二人の隊員が僕らの前に整列した。
たぶん予めそう決まってたんだろうな。ただまぁ、断れる雰囲気でも立場でもない。
それを抜きにしてもここまで良くしてもらったし、冗談を交えたトークですっかり落ち着いて気が抜けたってのもあるし、僕はともかく二人のこと考えるとこの流れは非常にありがたい。

「すみません。それではお言葉に甘えさせていただきます」
「いかんな。こういうときの日本人の気質は時に好ましいこともあるのだが、我々は感謝してもらったほうが素直に喜べる」

言われて確かに、日本人って何かしてもらうときに感謝より謝罪のが先にくるよなぁ。
たまに気が付いていたとはいえ、今後気を付けたほうがいいかな?

「あ、そうですね。ありがとうございました。これまでとこれからのご厚意に感謝します」
「あぁ、それでいい! 責任を持って私が行けたらいいんだが、それもできない身でな。それでもキミ達に付ける随員の二人は若くても実力のある二人だ。お前ら頼むぞ」
「「Yes,sir!」」

曹長の気遣いで不思議とリラックスできてた。確かにここはまだ危険地帯なんだと思うけど、この人らがいれば問題なくっていう安心感が上回ってきた。
気は抜けたけど、ここまで行き着いたんだし、あと少し? だと思うし、頑張らないと。

「麓まで、よろしくお願いします。えーっと……」

そういえば名前の紹介されてないし、麓までとはいえどう対応したらいいんだろうか?
いやまぁ悩むのもおかしいし、必要あったら聞こう。うん。

「改めてよろしくお願いします。それから、ダグラス曹長! コーヒーおいしかったです。また飲ませて下さい!」
「ああそうだな! 次会うことがあったら、こんなまずいのでなくおいしいコーヒーで持て成そう!」

その会話を最後に隊員に促されて森へと足を運んでいく。
それにしてもほんと気持ちいい人だ。最後にハグして別れたけど、軍装備のせいもあったけど、色々大きくて硬かった! もちろん「キュン」とかは一切ない。それは置いといて。接してるだけでこんなに安心感を与えてくれるなんて、これが上に立つ人なんだなぁって思った。さっきまで生きるか死ぬかの世界だったのに急に現実に戻れた感じもするし。それも所々に入った自虐とか皮肉めいた言葉なんだろうな。日本人が言ったら嫌味にしかならないやつ。違いはなんだろうな……。

そんな風に考えながらも僕らが安全に動けるようにと隊員の方々は足元だけじゃなく枝葉とかも注意深く払ってくれて、ほんと有能なんだなこの人達。
もう方角がわからないくらいの鬱蒼と茂った森の中だっていうのにスイスイ進んでるもの。

〈……私の心配しすぎならいいのですが。なんだか方向がおかしいです。注意してください〉
〈その方角にしか僕らを届けられないとかかもしれないですし。でも、一応注意しておきます〉

そこまで言うくらいだから、怪しいんかね? いや、軍人さんにも助けてもらったけど、信頼度でいえば彼女の方が上だし、自分の楽観意見はおいといて、もっと気を入れて注意しよう。
二人にも静かに伝えないと。

「二人とも、何かあるかもしれないから、注意しておいてね」

僕からの急な注意喚起にハテナ顔になったけど、一応受け入れてくれた。

〈あ、そうだ!〉
〈どうしたんですか?〉
〈ほんと今更で申し訳ないんですが、あなたの名前を……〉

なんていうか改めて名前を聞くとかすっごい恥ずかしいのってなんでなんだろ?

〈私に名前なんてありませんよ?〉
〈え? ない?〉

勇気出して聞いたのに、ないって……これはあれか、意中の相手に電話番号聞いたら、携帯持ってないんですーとかで逃げられるアレ? いやいや、さすがに名前で逃げるのはおかしいよなぁ。

〈この施設には私しかいませんし。生まれも普通ではないので、名前を付けてもらうこともなければ、呼んでくれる相手もいなくて。……ごめんなさい〉
〈一人……、あ、いや、そういうことなら仕方ないですよね……〉

内容が衝撃すぎる。こんなことってある? まぁあるから言ってるんだろうけどさ。それにしても僕はどうして気の利いた言葉の一つも言えないんだろうか。こういうところがすごい嫌になるわ……。

〈うん、そういうことなら。今まで通りってことで〉
〈そう……なりますね〉

なんか空気が悪い。明らかに僕のせいだけど。こういうときどうしたらいいんだ!
彼女がなんとか愛想笑い感を出してくれてるけど、そのやさしさすら辛いわ。
こっちは今それどころじゃないっていうのに、状況の変化が一番空気を読んでくれなかった。

『敵! 防御陣形!』

名前の知らない隊員Aさんが急に英語で叫んだ。単語ぐらいなら聞けたからなんとか言わんとすることが理解できてよかった。
隊員Aさんの号令でAさんとBさんが僕らを挟んで陣形を組んでくれた。

「な、なになに……」

展開の速さに追いつけなくて武蔵君が思わず呟いたけど、それは僕も知りたい。
AさんとBさんは外側に銃を向けていて、応えてくれそうにないし。ほんとどうすれば?
そう思ったらAさんが急にBさんに銃を向けて3回発砲した。

「え?」
「うお!?」
「ひゃぁっ!」

あまりの自然で早い動きに何もできなかった。
でもこんなとこで仲間割れするなんて、なんで??

「え? なんで……撃って……?」

僕の質問は無視されなかったものの煩わしそうにため息をついて、僅かにでも息がまだあったらしいBさんをてきぱきと拘束していき、動けなくしてからBさんの銃を奪って動作チェックを始めた。
この間は突然の事態に対する驚きと行動の意味不明さにただ見てるしかなかった。
もう悪い予感しかしない。さっき彼女に注意されたけど、注意されたくらいでどうにもならないレベルで。

AさんにとってこれからすることにBさんが邪魔だったんだろう。それで敵襲なんて嘘をついて警戒先を外して殺した。んで残るのは僕らを殺す……この予想はきっとそう大きく外れてはいないと思う。正解発表なんてないからわからないままだけど。
こんなに直接的に殺意向けられると逃げなきゃと思っていても体がガクガクしてうまく動けない。声も「あ」とか「う」とか言葉になっていないし。いや、僕はそこまでじゃないんだけど、それでも二人に掴まれた状態だから震えが伝わってくるから。

〈や、やばい……どうしよう?〉
〈すぐにどうこうは……なので話を長引かせてください。その間になんとかしましょう。お願いしたいこともありますし〉
〈あ、う、ん……頑張ってみるよ……〉

「ね、ねぇ何でこんなことを?」
「An……日本語めんどうくさいデスネ……とりあえず」

と言葉を区切るとBさんの銃で僕たち三人の足元をオートで連射してきた。
幸いにも誰にも当たっていない。つまりは脅し? 逃げるなよとか、そういう意味ととればいいのかな。
それからこの人の言葉はダグラス曹長ほど日本語堪能とはいってないが、聞き取れないってほどでもない。
ただ高圧的な態度なのに随所に入る敬語がより不気味さをアップさせていた。

「逃げるの、Shootシマス。Next、ツギのことですが……大人しく、ミーにも情報……渡すデス」
「……情報って何の?」
「隊長に渡すしてイタ。それ、ミーも貰う。逆らえバ、分かる?」
「わかった、話す! 話すから銃を下ろしてくれ!」

後輩二人は普通の人間だから、万が一の時には僕が盾になりやすいよう、背後にかばうように位置取りをしていく。
僕なら当たっても大丈夫。さっきの脅しのとき、実は一発だけ靴に当たったみたいなんだけど、全然痛くなかったから。図らずも実証できてしまったのは果たして良い事なのかどうなのか疑問は残るけど。
そんな画策をしながらダグラス曹長に話した内容をもう一度話していく。
地図がないから、伝わるかどうかわからないけど、それはそっちの落ち度だし僕らには関係ないよね。

「hm……他には?」
「え? これで全部ですけど……」
「言わない。なら……」

下げられた銃がいつの間にか僕の方に向けられてたけど、動作が自然すぎて反応できなかった。

「これで、話す気持ちなるデスカ?」

僕には効かないからって気を抜いてたのか、弾丸は僕の脇を通り抜けて武蔵くんの左足に当たった。

「うぐっ……」
「まーくん!」
「ちょっ、なんで!? とりあえず止血を!」

〈まだなんとかならないんですか? ひとまず二人を転送するとか!〉
〈”今”はできません。私には制約がかけられています。”外界の人間と自発的に関わらないこと”……前に教えたことがありますよね?〉

いくつかの制約については聞いたばかりだから覚えてる。
あ、そういえばその制約の中で保有技術で傷付けたらどうのってあったような?

〈そうでしたね……。あと確認なんですけど、保有技術ってこのスタンロッドも含まれるんですよね?〉
〈含まれますが……、急にどうしたんですか?〉
〈これで二人を気絶させたら……転送できますか?〉
〈え? ちょっと待ってください! こっちの準備はもうすぐなので! あなたに責任を負わせてしまうことになってしまいますが、管理権限を渡せば全て解決しますから!〉
〈二人を助けられるんなら責任なんてなんでも負いますよ。でも、血が止まらないんです……どうしてもすぐに助けたい!〉

腰に付けたままのスタンロッドを強く握りしめた。

「二人とも、僕を信じて。気が付いたら全部終わってると思うから」

突然と言えば突然な発言に二人とも最初はまたもや頭にハテナを浮かべてたけど、僕の覚悟とか空気を察して頷いてくれた。

「……ごめんね」

二人にスタンロッドをそれぞれ添えてスイッチを押すと、パリッと乾いた音と共に二人の意識が飛んだのか、その場に倒れた。

〈二人をお願いします……〉

あっちでもすぐに転送できるよう準備してたのか、お願いの声をかけてすぐ転送してくれた。

〈まったく、こんな無茶なことをする人だとは思いませんでした……。こんなのはこれっきりですからね〉
〈はい、すみません……〉
〈でも、あと少しだけ頑張ってください!〉
〈……はい!〉

「What!? Why!?」

突然人が跡形もなく消えたんだから、そりゃ驚くよね。
あとは時間を稼ぐだけ。彼女が何の準備してるのかはわからないけど、いや、管理権限がどうこう言ってたっけ? どのみち詳細がわからないことに変わりはないけど。
何にしてもこれで後顧の憂いはなくなった。

「で、何が知りたかったわけ? もう情報は無いって言ってるよね」
「何をした、デスカ?」
「これは元々知りたかった情報じゃないでしょ?」
「それも話して、貰う、マスヨ」

と言いながら僕の足に撃ちやがったよ、こいつ。
効かないとわかってても、やっぱりちょっと怖い。怖いっていうかビクッてなる。感覚的には輪ゴム銃みたいな感じ?

『は? お前一体何をした!? 何で銃が効かないんだ?』
「そういわれても……原理は僕にもわからないよ」
『? お前……英語がわかるのか?』

おっと、しまった。いや、別にいいのか、これくらい。

『原理ということは、何かタネがあるんだな? こんな技術をテロリスト側が保有しているのは脅威だ。絶対連れ帰って説明してもらおう!』
「はぁ!?」

いや、テロリストて……なんでテロリストの仲間扱い? 一体何がどういうこと?
僕の困惑を察したんだろうけど、構えた銃は降ろしてくれなさそうだ。
とりあえずテロリストって言ってたから、テロリストとは敵対してるってことだよね。じゃぁなんで仲間割れしたんだ? それから、米軍は一旦は僕らを保護したものの、もしかしたらテロリストかもって疑ってたってことかね? てことは、仲間割れじゃなくて、撃たれた隊員さんはテロリストと通じてたって線が一番無難かな。

『……とにかく、このまま大人しくベースまで着いてきてもらおう』
「僕は一般人! 旅行者! テロに巻き込まれただけ!」
『銃が効かない一般人がいるわけないだろう! 大人しく着いてこないなら、無理やりでも連れて行く!』

一理ある。確かに銃が効かない一般人なんて存在は聞いたこともなかったから。

「って、おい! 待って!」

まじで撃ち始めやがった。
たぶん効かないんだろうけど、咄嗟に顔を腕でかばってしまった。意味があるかわからないけど、無防備でもいたくないし。
にしても、銃弾は全然痛くない、痛みがないだけで、なんて言うか忘れたんだけど慣性の法則? 運動ベクトル? があってるかわからないけど、勢いで体がズルズルと押されてく。
しっかり踏ん張ってはいるんだけど、ぶっちゃけあと何をすれば……あぁ、時間稼ぎだっけ? ならこのまま我慢してればそのうち……。

〈お待たせしました〉
〈!? 待ってました!〉
〈本当なら別のタイミングで、きちんと説明を交えてお話したかったのですが、仕方ありません。結論から言いますと、この施設の管理権限をマサトさんに付与したいと考えてます〉
〈? ……はぁ〉
〈あなたが管理者となれば今の状況を打破する程度のことならば容易に行えるようになります〉
〈な、なるほど……(?)〉
〈それだけに、それ相応の責任というものが発生しますが。責任を負う覚悟はありますか?〉

ん? えーと……あ、そうか。なんでか細かい事情とかは分からないけど、彼女は外界に手が出せない状況にある。で、その権限を僕が預かって、僕が行使することで状況を打破できるようになるってことかな?
なるほど。こちとら惨劇に巻き込まれた上に身内が傷つけられてるんだ。責任がどれほどなのかわからないけど、そういうことならば、まぁやってみようじゃないか。

〈わかりました。責任を負います!〉
〈……信じます! それでは時間がないので簡易形式にて実行します! 【識別シリアルコード口頭省略、私は八崎真人を管理者とし、私は副管としての運用形態を承システムへ承認要求……受諾を確認。続いて管理者に保有されるMACYの制限を撤廃要求……受諾を確認】 ……管理権限の付与は完了しました〉

見た目に何も変化はない。こう、体がパーっと光ったりするのかな? とか少しだけ期待しちゃったけど、そういったのも一切何もなかった。アニメや漫画に毒されすぎたのかな。
結果僕から僕になっただけみたいな。自分でも何言ってるかわかんない。
ま、とりあえずなんとも簡単というか、拍子抜けではあるが、今ので管理者になったってことだろうな。
見た目の変化はなかったけど、僕の見てる景色は一変した。
恐らく従来の肉眼では見えなかった物も見えるようになったってことだと思う。
今まで見てた世界ってなんだったんだろう? ってくらい。
夜の森の中で雨が降ってるし、周囲の明かりといえば隊員の銃についてるライトくらいなのに、ライトを直視しても眩しくはないし、ライトがあたってない場所もよく見える。
さっきよりも力があふれてる感じがするだけじゃなくて、銃弾が当たっても押されることもなくなった。

『くっ! 急に一体なんなんだ!』
「今度はこっちの番だ」

踏み込めば踏み込むほどに前へと進めるようになった。最初から効かない銃弾ではあるけど、それでも鬱陶しいことに変わりはないから、まずはあの銃をどうにかしようか。

「とりあえずこれはもう邪魔だから」
『くそ!』

思いっきり踏み込んでみれば、あっという間に距離を詰められた。未だに銃弾が出続けてるのに構うことなく銃口を掴んで無理やり射線をずらした。
あっちもさすがに本職だけあって、銃が使えなくなったと判断するやいなや、すぐさまナイフを取り出して銃のストラップを切りそのままの勢いでナイフを切りつけてきた。
残念ながらまったく無傷ですが。
何も通用しないからか、隊員Aさんの脂汗がすごいことになってる。

『お前……一体なんなんだよ!』

まだ人間のつもりだけど……。まぁ僕も僕みたいなやつが相手だったら同じこと言うと思う。
取り上げた銃を構えようとしたら、息つく暇もないくらいに攻撃再開してきて、気づいたら銃を落とされた。

「おぉ……すごい……」
『バカにしやがって!』

いや、そんなつもりはなかったですが……。

『まぁいい。なんとなくわかってきた。お前の動きは素人だ』
「だから一般人だと何度言えば……」
『いくら攻撃が通用しなくとも、捕まえれば終わりだ!』
「いや、話聞いてよ……おわっ!」

フェイントを織り交ぜながら切りつけ、蹴り、拳と様々な攻撃を繰り出してきてるけど、一応全部見えるし反応もできる。というよりも何も効かないから不安はないんだけど、つい全部を防ごうとしてしまう。
頭を軽く叩かれそうになると、痛くないのはわかっていても、つい手でかばうし首を引っ込めてしまうことあるじゃない? そんな感じで。
すると、何がどうしてかわからないけど、いつの間にか背後をとられて腕の関節も取られ、そのまま地面に倒された。

「ぐっ……ぅ……」
『ふん。これで終わりだ。観念しろ』
「終わって……たまるか!」
『!? なんて力……ちっ』
「くおらあぁ!」

決められた関節は力入れづらかったけど、まだ自由な部分も総動員して、とにかくがむしゃらに無理やり拘束をほどいて、そのまま無防備な腹に裏拳を叩き込んだ。

『ぐほっ……くそったれ……ゴホッゴホッ……』
「はぁ……はぁ……」

ああ、たぶんやばかった。銃が効かないからって、こんな方法があるとは。さすが戦闘のプロだ。恐れ入った。
とはいえ、また向かってこられては厄介だから、動けない今のうちに拘束させてもらおう。
Aさんの懐探るのは怖いから、拘束されて倒れたままのBさんから拘束具を拝借して、念のため銃を構えながらAさんの方へと向かった。

『ゴホッ……そんな身構えんなよ、俺の負けだ。好きにしろ』

そういうとまだ痛むだろう腹をかばいながら後ろを向いて、手を拘束しやすいよう後で交差してくれた。
まぁそこまでされても僕はおっかなびっくりしながらゆっくり拘束してったけど。

「で、なんでこんなことしたの?」
『お前、英語わかるのに喋れないのか?』
「……質問してるの僕なんだけど」
『いいじゃないか、これぐらい。で、どうしてなんだ?』

どうしてって聞かれてもな……今僕の状況は限りなく複雑だから、一言で説明しづらいな。

「耳の翻訳アプリが入ってるようなもんかな。だから喋れない」
『はっ。ケチだな。素直に喋る気はないってことか……』

動けないっていうのに肩すくめるジェスチャー込みで呆れてるけど、喋ったじゃないか。まぁ、普通は信じられないだろうけど。

「こっちは教えたんだ。なんでこんなことしたんだ?」
『……黙秘する』
「はぁ? 自由にしろって言ったろうに」
『自由にしろとは言った。だが、自由にできるとは言っていない』

と、こちらを振り向きながらニヒルな笑顔と共にウィンクも一つ。
くそが。こいつムカつく。

「とはいえ、どうしたものか……」
『……俺に教える権限はない。どうしても知りたいというならベースにいる隊長に聞いてみたらどうだ?』

なるほどね。まぁ知りたいっちゃ知りたいけど、ぶっちゃけ面倒な気の方が大きいんだよな。

〈どう思います?〉
〈それ、私に聞きますか?〉
〈サポートしてくれるって言ったじゃないですか〉
〈まぁ、言いましたけど……とりあえず隊員二人をそこで放置するわけにもいかないでしょうし、ここで解放するのも嫌ですよね?〉
〈まぁ、ここまで大人しいと解放してもいいような気もしますけどね……やっぱ引き渡すのが一番ですかね〉
〈そう思います。それから、お二人の治療は完了しています。無事ですよ〉
〈それは良かった。あなたに預ければ大丈夫だとは思ってましたが、でも、ありがとうございます〉

そっか、良かった。無事だったか。でもこっちは、気が重い……。

『どうするか決まったのか?』
「二人を軍に引き渡すよ。まさかとは思うけど、僕処罰されたりしないよね?」
『……さて、どう思う?』

くそ。このニヤケ面殴りたい。
雰囲気から察するにたぶん大丈夫っぽいけど。
っていうかこいつ、下手な日本語が不気味なだけで、結構とっつきやすい感じがする。
まぁいいや。そんなことよりも、さっさと片付けるか。
Bさんは……僕が担ぐしかないか。あとは念のためにAさんに銃突きつけ……まではしなくてもいいかな。

「とりあえず行こうか」
『オーケー、ボス』

誰がボスだ。
なんかこいつ余裕ありすぎてやっぱムカつくわ。

「お前さ、日本語下手すぎるからもうちょい勉強したら?」
『……日本語が難しすぎるんだよ』

一本までは取れなかっただろうけど、多少悔しそうな顔が見れたからこれでよしとするか。











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