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予定日よりも、ひと月近く早くに出されてしまった小さな命。
産まれた赤ん坊は数週間保育器の中に入れられていたが、御幸が三日ぶりに病院に訪れると普通の新生児用のベッドに寝かされていた。
御幸は東京と京都の行き来をずっと続けていたが、明日、恵太と舞花がここに来る事が決まった。
この子を迎えに。
すやすやと眠る寝顔を御幸が眺めていると、気付いた看護師が声を掛けた。
「抱いてみませんか?」
え、と多少の困惑を示す表情を見せた御幸に看護師は言う。
「あの子は、お母様はあのような状態ですし、まだご家族の誰にも抱っこして貰ってないんですよ。ぜひ抱っこしてあげて下さい」
看護師は新生児室に行き直ぐに赤ん坊を抱いて来た。
御幸は慌てて着ていたスーツのジャケットを脱ぎ近くのベンチに置き、ワイシャツの腕を捲る。看護師は御幸の腕にそっと、小さく温かく柔らかな赤ん坊を抱かせた。
壊れてしまいそうなくらい儚い命。でも柔らかで温かく、御幸は腕の中で眠る小さな赤ん坊をじっと見つめた。
そっと豆粒のような手に人差し指で触れてみると、弱々しくも、しっかりと握り返した。その感触に、熱いものが込み上げる。
姫扇……!
皮肉な運命に潰されてしまいそうになる心の痛みも、眠る子の寝顔が微かに優しく払拭してくれる。御幸は赤ん坊に柔らかく静かに語り掛けた。
「まだ名前を付けてあげてなかったね」
僕が付けてあげてもいいかな、姫扇。
指を握る小さな手を見ながら御幸は思案する。
幸せになって欲しい。いや、沢山愛されればそれで良いのかもしれない。
愛情に満たされ、幸せに満ちる。
時が満ちれば真実を教えてあげよう。
思い巡らす御幸の中に、一つの名前が浮かんだ。
みちる――。
「君は、今日からみちるだよ」
Fin.
産まれた赤ん坊は数週間保育器の中に入れられていたが、御幸が三日ぶりに病院に訪れると普通の新生児用のベッドに寝かされていた。
御幸は東京と京都の行き来をずっと続けていたが、明日、恵太と舞花がここに来る事が決まった。
この子を迎えに。
すやすやと眠る寝顔を御幸が眺めていると、気付いた看護師が声を掛けた。
「抱いてみませんか?」
え、と多少の困惑を示す表情を見せた御幸に看護師は言う。
「あの子は、お母様はあのような状態ですし、まだご家族の誰にも抱っこして貰ってないんですよ。ぜひ抱っこしてあげて下さい」
看護師は新生児室に行き直ぐに赤ん坊を抱いて来た。
御幸は慌てて着ていたスーツのジャケットを脱ぎ近くのベンチに置き、ワイシャツの腕を捲る。看護師は御幸の腕にそっと、小さく温かく柔らかな赤ん坊を抱かせた。
壊れてしまいそうなくらい儚い命。でも柔らかで温かく、御幸は腕の中で眠る小さな赤ん坊をじっと見つめた。
そっと豆粒のような手に人差し指で触れてみると、弱々しくも、しっかりと握り返した。その感触に、熱いものが込み上げる。
姫扇……!
皮肉な運命に潰されてしまいそうになる心の痛みも、眠る子の寝顔が微かに優しく払拭してくれる。御幸は赤ん坊に柔らかく静かに語り掛けた。
「まだ名前を付けてあげてなかったね」
僕が付けてあげてもいいかな、姫扇。
指を握る小さな手を見ながら御幸は思案する。
幸せになって欲しい。いや、沢山愛されればそれで良いのかもしれない。
愛情に満たされ、幸せに満ちる。
時が満ちれば真実を教えてあげよう。
思い巡らす御幸の中に、一つの名前が浮かんだ。
みちる――。
「君は、今日からみちるだよ」
Fin.
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御幸右京さんって、本当に真の紳士ですね✨
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でも、切ないなぁ~😰
なんであんなヤツの😫‼️って思うけど、思い通りにならないのが恋心なんでしょうね😞
また違う背景を知って、『後編』が益々楽しみです🎵
ありがとうございました😆
うさぎさんの感想、いつも嬉しく読んでます💕
御幸はちょっと気に入っているのでたくさん書いてしまいました☺️
なんだかこの物語の恋心、すれ違いばかりになってしまってます💦
色々と切ないばかりになってますが、最後まで見守っていただけたら嬉しいです❣️
いつもありがとうございます☺️💕